魔法学園の嫌われ者、退学して冒険者となる~嫉妬で追い出されましたが、自由になれたのでむしろ大歓迎です~
あとがきに、お知らせ……<(_ _)>
「アイン・クレイオス――今日をもってキミを、退学処分とする」
「…………ありがとうございます」
世界各地のエリートが集まる、王都の魔法学園からの退学処分。
それを言い渡されてもボク――アイン・クレイオスは、至って冷静だった。目の前でニヤリと口角を歪める教員たちの顔を見なくて済む。
それだけで、ボクにとっては嬉しいことだったのだから。
だから、自然と感謝の言葉が出た。
嫌みだと取られるなら、それもそれでいいだろう。
ここにいる人たちの心象など、ボクにとってはもうどうでもよかったから。
「キミのような嫌われ者、どこも受け入れてくれないんだろうがな? ――あぁ、そうだ。卑しい冒険者にでも成り下れば、生きていけるのではないか?」
一人の教員が言うと、他の者も揃って腹を抱えて笑った。
ボクはもはや感情の消えた瞳で、彼らのことを見つめる。
「それでは、失礼します」
そして、そう言って部屋を出た。
誰もいない廊下を進み、今までの居場所を捨てる。
こうしてボクは、忌々しい学園から解き放たれ自由となったのだった。
◆
王都――ガリアには、いくつか生活様式が異なる層がある。
いわゆる貧困層から富裕層まで、幅広く、様々な人種がそこで生活をしているのだった。ボクはそのどちらでもない、中間層と呼ばれる人の中を歩く。
「はぁ、田舎から出てきて酷い目に遭ったなぁ……」
そして、おもむろに立ち止まり。
空を見上げつつ、そう呟いた。
ボクは王都から遠く離れた、地方領主の息子である。
そこで魔法や剣術の才を認められて、魔法学園に入学したのだが、どういうわけか教員たちからイジメの標的とされてしまったのだった。
「帰ろうにも路銀もない。ひとまずはどこかで金を稼いで生活しないと……」
そして、最終的には理由のよく分からない退学処分。
それは良いとして、心配なのは当面の生活についてだった。故郷に帰ろうにもお金もない。そうなると、この街のどこかで稼がなければならない。
「んー……、だとしたら冒険者になるか……」
そう考えた時に、ボクの頭に一番に浮かんだのは教員の言葉だった。
彼らは卑しい職業と言ったが、ボクのいた地方では重宝されている冒険者たち。彼らのように、一度自由に振舞ってみるのも良いかもしれない。
「よし、それなら善は急げ!」
ボクはすぐに、冒険者ギルドの門を叩いた。
貧困層と中間層のちょうど間にあるようなそこは、足を踏み入れるとどこか酒臭く、雑然としている。でも、どこか懐かしい。
そう思えるのは、ボクの生まれ育った地方を思い出すから、だろうか。
「ギルドカードも発行できたし、あとはダンジョンに潜るだけだ」
というわけで、簡単な手続きを経て。
ボクは正式に冒険者となった。そして、その足でダンジョンへと向かった。
◆
「【エクスプロード】……!」
――ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!
無詠唱で上級魔法を放つと、ドラゴンの頭が消し飛んだ。
これくらいの魔物であればきっと、学園を退学になったボク程度の魔法でも問題なく倒せるらしい。魔素の欠片を拾いながら、ボクは一息つく。
これを換金すれば、多少の路銀にはなる。
それでもまだまだ足りない。ボクは、気持ちを引き締めた。
「今日はあと、二十体は狩りたいかな? 色々試しながら、頑張ろう」
そんなわけで、ボクは新たな魔物を探して歩きまわる。
そして、大きな影を見つけた時だった。
「ん、悲鳴――!?」
そちらの方向から、女の子の悲鳴が聞こえたのは。
ボクは即座に駆け出して、声のした方へ。
すると、そこには――。
「だ、誰か助けてくださいっ……!」
緑色の髪をした、一人の女の子が倒れていた。
継ぎ接ぎだらけの汚れた衣服を身にまとっている彼女は、必死にドラゴンから逃げる。そして、今にも喰らいつかれそうになった。しかし――。
「え……?」
「大丈夫、だったかな?」
ボクが、それを許さなかった。
間に割って入り、牽制するように魔法を放つ。するとドラゴンは驚き、数歩後退した。その隙に女の子をちらりと確認する。
セミロングの緑の髪に、赤の瞳。
端正な顔立ちをしているが、どこか煤けている。衣服のこともあったが、おそらくは貧困層出身の女の子、なのかもしれない。
小柄なその身を小さくして、少女はボクを見上げていた。
「あの、あなたは……?」
「ごめんね、今はそれよりも――!」
不思議そうな表情を浮かべた女の子にそう言って、ボクはドラゴンを見る。
こんな女の子を餌食にしようとするなんて許せなかった。
だから、先ほどのドラゴンよりも徹底的に――。
「燃えてなくなれ――【エンシェントフレイム】!!」
ボクは、炎系最上級の魔法を放った。
ドラゴンの周囲には魔法陣が展開され、直後に爆炎が巻き起こる。そして、それが収まった時にはもう、魔物の巨躯は綺麗に消え去っていた。
「す、すごい……」
後方で、女の子の呟く声が聞こえた。
ボクはその言葉よりも、彼女にケガがないかが気になり振り返る。
「……あ、膝を擦りむいてる!」
「え、あの……!」
そして、治癒魔法を施した。
それ以外に目立った傷は見当たらなかったから、これでいいかな?
「あ、ありがとうございます!」
そう思って一息つくと、少女は立ち上がって頭を下げて言う。
ボクは少し気恥ずかしくて頬を掻くしかできなかった。
そうしていると、彼女はこう名乗った。
「あ、あの! あたしベネット、って言います!」
そして、その次にこう口にするのだ。
「もし良ければ、あたしとパーティーを組んで下さいませんか!?」――と。
それが、ボクとベネットの出会いだった。
◆
「あ、あの……。こんな豪華な食事、良いのでしょうか?」
「ん、パーティー結成祝いだから、良いと思うよ?」
少女――ベネットと共に、ボクはギルドに併設されている酒場にやってきていた。今日の戦果であるドラゴン二体。その魔素の欠片を売却し、そのお金でお祝いをすることにしたのだ。
しかしベネットは、どこか困惑したように視線を泳がせる。
「あ、あたし、こんな食事初めてなので……」
そして、そうポツリ。
ボクは納得して、こう少女に言った。
「遠慮しなくていいよ。ボクたち、もう友達なんだから」
「友、達……?」
「そ、友達」
こちらの言葉に、小首を傾げるベネット。
だがすぐに、どこか嬉しそうに瞳を輝かせてこう返事をした。
「あ、ありがとうございます!」
年相応に明るい表情で。
フォークとナイフを手に取って、大きな口で食事を頬張る。
「どう、おいしい?」
「は、はい!」
そんな彼女を見て、ボクは自然と微笑んでしまう。
まるで故郷の妹を見ているようで、懐かしい気持ちになったのだ。今ごろどうしているのだろう、と考えていると、ベネットが不意にこう訊いてきた。
「あの、アインさんはどうして冒険者に?」
「ん、えーっと……」
純真無垢な表情で。
ボクは思わず言葉を詰まらせて、しかし素直に白状した。
◆
「そんな、ヒドイです!」
ボクが学園で受けた仕打ちを聞いて、ベネットは憤慨した。
テーブルを叩きながら立ち上がる。そんな彼女の様子を見て、ボクは思わず苦笑いをしながら答えるのだった。
「いや、きっとボクにも落ち度があったんだよ。そうでないと――」
「そんなはずないです! だって、アインさん良い人ですから!!」
「――あ、ありがとう?」
しかし、それを遮るようにして。
少女は力強くそう言った。思わず苦笑い。
とりあえず座るように促すと、彼女は頬を膨らせ、こう口にした。
「きっと、アインさんの才能に嫉妬したんですね」――と。
ボクはそれを聞いて、首を左右に振った。
「それはないよ。だって――」
そして、否定の理由を告げる。
「ボク、魔法学園の成績――最下位だったから」
◆
「それじゃ、また明日!」
「今日はありがとうございました!」
アインとそう言葉を交わして別れ、ベネットは夜の街を歩き始めた。
そして夜空を見上げながら思い浮かべるのは、ダンジョンでの出来事。圧倒的な力で、強力な魔物であるドラゴンを倒したアイン。
彼の後姿を思い出し、少しだけ頬を赤らめた。
「かっこよかった、なぁ……」
そして同時に、彼への憧れを漏らす。
自分も駆け出しながら冒険者だ。しかし、あのような実力を持った人物を、ベネットは知らなかった。だから、改めて首を傾げる。
どうして――。
「アインさんの力は、認められなかったのかな」――と。
少女は考え込む。
しかし、その答えはちっとも出てこなかった。
◆
「それで――アイン・クレイオスは、自主退学となったのか」
「その通りでございます。エルイステル学長」
「ふむ……」
アインがいなくなったその日の夜。
魔法学園では、学長へとアインの退学が伝えられていた。もっとも、退学は退学でも、自主退学であるといったように、事実を歪曲してであるが。
教員の代表――フリーラスは、恭しく頭を垂れながら口角を歪めていた。なぜなら、これで教員の誇りを傷つける生徒が消えたのだから。
アインは、地方の貧乏領主の息子でありながら魔法の才に溢れていた。
その他にも剣技や、治癒術、さらには古代語学へも精通している。それこそ王都立魔法学園に通う必要などない。存在そのものが、プライドの高いエリートであるフリーラスのような教員にとって、邪魔で仕方がなかったのだ。
――すべては、これで上手くいく。
自分たちの権威は保たれ、今後の昇進の邪魔もなくなった。
あとは学長への報告を淡々と済ませれば――。
「――私のもとへと、連れてこい」
「…………はい?」
すべてが終わる、はずだった。
そう思っていたにもかかわらず、フリーラスの思考は凍り付く。
「な、何故です……?」
「知らぬのか。アイン・クレイオスは、国王陛下の肝いりの学生だぞ」
「こ、国王陛下、ですって……!?」
フリーラスの顔が青ざめる。
「うむ、そうだ。辺境にて魔法の才に惚れ込んだ国王陛下が、彼の父に頼み込んで預かり受けたのが――アイン・クレイオスだ」
「そ、そんな話……!」
「ふむ。あえて話すことはなかったが、な」
――事情が知り渡れば、他の学生との間に壁が生まれるだろう。
そう言って、学長は蓄えた髭をゆっくりと撫でた。
「まだ、帰郷はしておらぬだろう。すぐに呼び戻すのだ」
「は、はい……!」
そして、重い口調でフリーラスに告げる。
儚くも思惑が潰えた教員代表は、冷や汗を流すしかなかった。
まず、慣れない短編投稿で申し訳ございませんでした。
<(_ _)>
作者も想定外の伸びをして、どうしたものか、と考えて連載をすることにしました。
序盤は少し文面をいじった?くらいなので差異はないですが……。
ストックなしで、必死に頑張りますので応援よろしくです!
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