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飼い主を癒すのも楽じゃない!

作者: 青沼英吉

初めてのジャンルで投稿しました。面白い面白くない関係なく読んでもらえれば嬉しいです。

ふと目を覚ますと、クッションの上にいた。



とてもフカフカのクッションはまるで雲の上にいる様な心地良さである。思わず二度寝をしようとすると、若い男性の声がする。



「おはよう、もう起きたのかい」



身長は180㎝程でスラリとした体、整った顔に光を浴びて黄金に輝くサラサラとした長い髪がとても映えるこれが私の飼い主である。



シャワーを浴び、パリッとしたワイシャツに金色の刺繍が入った丈が足首まである上着を羽織る。



部屋のドアをノックする音が聞こえる。



「入れ」



ドアの開く音がして一人の若い男性が入ってくる。



「おはようございます魔王様、お迎えに参りました」



「分かったすぐ行く」



腰を下ろし俺の頭を撫でると部屋を出て行った。



彼が俺の飼い主でこの世界で魔王として君臨している。



ここ魔族達が住まう魔王城に来て早一年になる。



どうしてここにいるのか?あれはまだ俺が人間だった時、幼い時に両親を亡くし親戚の家をたらい回しにされ友人もろくに作れず、中卒で就職し安月給で働き続けてボロいアパートの一室で過労がたたり俺は死んだ。



気付くと周りが白くぼんやりした空間に浮いていた。



「ここが天国なのか? 」



「汚レナキ魂ヨ」



澄んだ声が空間に響き渡り、声のする方を向くと息を飲む様な美女が後光を放ちながら浮いていた。



「アナタハ辛イ運命ノ中懸命ニ生キヨウトシマシタ、ナノデ来世ハアナタノ望ム生キ方ガ出来ルヨウニシマショウ、アナタノ望ミハ?」



「俺の望む生き方…」



そんな事考えた事も無かった、今までは生きる為に目の前の事をひたすらこなす事だけで精一杯でそんな余裕なんて無かった。



「そうですね、なら働かずに一日中ゴロゴロしていても誰にも怒られずに立派な家に暮らして毎日美味しい物を食べて、そして…そして……一度でもいいから誰かに愛されたいです」



「分カリマシタ、望ミヲ叶エマショウ来世ヲ謳歌出来ルヨウ祈リマス」



次の瞬間目の前が真っ暗になり、意識が遠のくのを感じた。



次に目が覚めると俺は小さな穴の中にいた



温かい毛布に包まれている様な感覚がした。辺りを見渡すと猫の様な動物が横たわりお腹の所には4匹の子が乳を飲む為、群がっている。



その時俺は人間ではなくこの猫の様な動物に生まれ変わったんだと知った。



俺も乳を飲む為、押し退け合いをしている兄弟の中に入る。



スクスク育ち、穴の外に出ては、兄弟達とじゃれあっていた。



そんなある日、小型のネズミの様な動物を捕まえた俺は兄弟達に自慢しようと意気揚々と住処に戻ると、様子がいつもと違っていた。



穴の入り口の所に背の高い男と背の小さい男の二人組がいた。



背の高い音が腕まで丈のある皮の手袋をはめると穴に手を突っ込んでいた。



「どうだいそうか?」



もう一人の男が話しかける。



「ちょっと待ってくれ、おっいたぞ!」



穴から手を抜くと、兄弟の1匹が掴まれたていた。



「シャー!」



兄弟が毛を逆立てて爪を立てるが、厚手の手袋をしている背の高い男はへっちゃらな様子で背の低い男に向けると、小さい男は袋を広げる袋の中には既に捕まった兄弟達が入っていた。そこに今捕まった兄弟が無理やり詰め込まれる。



その様子を見ていた俺は咥えていた獲物を地面に落とすと、飛び出し小さな男に飛びかかった。



「痛てー!」



小さな男の顔に飛びついた俺は顔を思いっきり引っ掻いた。



小さな男は痛みのあまり、手に持っていた。袋を手離し顔を覆う。



地面に落ちた袋は口が開き中から兄弟達が出て森の中に逃げて行った。



「馬鹿野郎! 何してんだ!」



背の高い男が小さい男に近寄った瞬間、俺は背の高い男に襲い掛かるが手袋をした手に捕まってしまう。



必死に抵抗するが全く意味がない。



「クソっ! よくもやってくれたな!…うぅん?」



背の高い男は、俺の顔をまじまじと見てきたので引っ掻こうとしたがギリギリ届かない。



「おい、こいつ目の色が片っぽずつで違うぞ!」



「ほ、本当だ」



小さい男も顔を手で覆いながら俺の顔を見る。



「こいつ一匹でさっきの奴らと同等いやそれ以上の値が付くかもしれないぞ!」



「まじかよ! ヒャッホー!」



男達は興奮を隠しきれずに小躍りを踊っていた。



俺は檻に入れられて男達に運ばれていた。



脱出しようとしたが、鉄製の檻はビクともしなかった。



俺はふとあの時の事を思い出していた。



あの時望んだ事は何だったのか、叶えられないまままた虚しく死ぬのか。



そんな事を考えていると、大声が聞こえてくる。



「お前達、ここは立ち入り禁止区域だぞ何をしている!」



「やべぇ、逃げるぞ!」



「こいつはどうするんだよ」



「馬鹿野郎!こいつが見つかったら捕まるどころじゃ済まねえぞ!」



男達は檻に入った俺を捨てると走って逃げて行った。



すると、ロングコートにシルクハットを被った男性が現れる。



男性は檻に入った俺を見つけると近寄り檻を開けて俺を出した。



「酷い事をする者がいるな、君怪我をしているね」



背の高い男に捕まった時に傷ついていたらしい。



傷の所に触れようとした手を咄嗟に引っ掻いた。



「すまない、驚かせてしまったねお詫びに君の怪我を治させてくれないか?」



初めは疑っていたが、この男性の声には純真な気持ちが伝わってくる。



気付くと俺は体を許していた。



その時会ったのが魔王様で今に至る。



俺は体を舐めて清潔にすると、ドアの下に開けられた専用の開き戸をくぐり外に出ると廊下を歩きしばらくすると立派なドアが現れる。



このドアの下にも開き戸があるのでくぐると中はとても広く、高い天井には幾多ものシャンデリアが吊るされていて、ドアから真っ直ぐに真っ赤な絨毯が敷かれていて絨毯の先には、三段の段がありその先には金をあつらえた豪華な玉座がありそこに座る者の地位を表していた。



俺はその豪華な椅子に飛び乗ると横になり横になっていた。



しばらくすると足音が聞こえてきたので起き上がり入り口の所に向かうと扉が開くと、魔王である飼い主が入ってくる。


「ニャー!」



俺が鳴くと気付き、こちらを見ると顔を綻び俺を抱き上げる。



「ミーちゃん、パパを迎えに来てくれたの〜?パパ嬉しいな」



俺の頬に頬擦りしているのが、魔王ことサマエルのもう一つの顔である。





ある日、サマエルは玉座に座りながら苦悩の表情を浮かべていた。



「クッ忌々しい勇者どもめ」



魔王達のいる魔界は、数あるダンジョンを通じて人間界と繋がっている。大抵の者は、ダンジョンの途中までしか行けないが時々勇者と言われる者達がダンジョンを抜けて魔界まで来る事がある。



そうなると、魔王率いる幹部達で迎え討つがダンジョンを抜けて来ただけあり一筋縄ではいかないのだ。



「勇者も日々強くなりつつある、対策を考えねば」



悩んでいるサマエルの膝の上に俺は飛び乗り横になる。



「ミーちゃん!パパを励ましてくれるのかい!」



「ニャー」



「ありがとう、パパはミーちゃんがいてくれれば誰にだって負ける事はないからね、パパ頑張っちゃうからね」



ちなみに『ミーちゃん』と呼ばれているが正式な名前は『ミリアリア・アレキサンドライト』でアレキサンドライトは光の加減で青緑から赤紫に色が変わる宝石で俺の色違いの目と同じ色という事で付けたらしい。



名前の通り俺はオスでなくメスである。が人間と違ってオスメスであまり変わらないので自分が女だという感じがしない、だから人間だった時みたいに「俺」という一人称を使っているのである。



この魔界には魔獣という存在があり中には、魔法を使う種類があるようだが、俺の種類は魔法を使えず見た感じ猫の様なものだ、魔法への憧れがあったが致し方ない。



そんな事を考えている間ずっとサマエルは頬擦りをしたり背中やお腹をさすったりしていた。すると、扉がいきなり開き、部下が血相を変えて入ってくる。



「魔王様!大変でございます!」



「一体どうした!」



サマエルはさっき俺とじゃれていた時とは違い、真剣な顔で玉座に座り、俺は膝の上で横になる。



「はい、先程勇者達がダンジョンを出てこちらに向かっていると報告があり、しかも連合を組みその数は30近くとの事」



「何!30だと⁉︎」



思わず玉座から身を乗り出しそうになり体を戻す。



今までダンジョンを抜けてくる勇者達は3人〜5人程だが30人という大勢で来る事は前代にも例がない。



「幹部全員に招集をかけろ!動ける者は全て出ろ!これは人間との戦争だ!」



「はっ!直ちに!」



部下はサマエルにサッと礼をすると走り出し勢いよくドアを開けて出て行った。



「は〜、まさかこんな事が起こるとは」



溜め息をつき、項垂れながら頭を抱えている。



俺はサマエルの顔に自分から顔を擦り付ける。



「ミーちゃん!パパを応援してくれるのかい?」



俺は顔を擦り付けた後、サマエルの顔に腕を回しまるで抱きしめる形になる。



「うん、ありがとうミーちゃんパパ必ず勝つからね!」



サマエルは颯爽と部屋を出て行った。



もし負けて魔王城が無くなれば今の生活が送れなくなってしまうので人間の時テレビで飼い主が喜ぶ猫の行動をマネしてみたら、効果覿面だったようだ。



その後、サマエルは魔王として幹部や部下を導き知略、策略、謀略により見事勇者達の連合を退けたという。この戦いは魔界の歴史に深く刻まれたとの事。





勇者連合との戦いから月日が経ち、魔王城に平穏が戻ったが一人落ち着かない様子の人物がいた。



魔王サマエルである。魔王としての務めを果たしながらもソワソワしていた。



そんな中、魔王城の大広間に大勢の魔人達が集まっていた。大広間の端から端でありそうなくらい長いテーブルの上に背の高い椅子が均等に置かれている。そこに座るは、魔王サマエルに仕える幹部が四人その後ろにはそれぞれの補佐官が立ちながら待機している。



幹部達が座る席よりも奥にあり一際立派な椅子に腰掛けているのは、魔王サマエルその人である。



殺伐とした空気の中話し合いが行われていた。内容は前回の勇者連合に関する事だった。



「勇者達が力を付けてきている中、我々魔人も力を付ける必要がある」



「しかし、我らの力にも限界がある」



「魔道具により魔力を上げるのはどうだろうか?」



「魔道具は貴重故に数が少ない、全員分なんかないぞ作成するにしても時間がかかり過ぎる」



中々答えが出せない時にサマエルが口を開く。



「皆の話しを聞かせてもらった、要は力を付けた勇者達をどうにかすれば良い事」



「と申しますと?」



「ダンジョン内に『弱体化』の罠を設置する、更に『転移』の罠を使用し大勢の魔獣がいる所に転移させて一網打尽にするのだ」



サマエルの言葉に幹部達は感嘆としていた。



「流石は魔王様、我々とは考える事が違う!」



「ふっ、だがこの手は長くは続かないだろうなので罠の設置と並行して魔道具の作成を行え、必要な物があれば遠慮なく言うがいい」



「はっ、ありがとうございます必ずやご期待に添えてみせます」



「よしなら後の進行はお前達に任せる、私は先に失礼させてもらう」



サマエルは席を立つと颯爽と部屋を出て行った。



「魔王様はどうなされたのだ?」



「魔王様の事だきっと我々では考え付かない事を、常に先の事を考えているに違いない」



「流石わ我々を導くお方だ、必ずや成功させなければならないな」



部屋を後にしたサマエルは玉座の部屋に急いで向かいドアを開けると、俺ことミリアリア・アレキサンドライトが出迎えていた。



「ミーちゃん!いつもパパをお出迎えしてくれて偉いね!」



サマエルは俺を抱え上げると頭を撫でた。



俺を抱えたまま玉座の所まで歩き玉座に腰をかけるとサマエルは満面の笑みで俺に話しかける。



「ミーちゃん今日はね、ミーちゃんにプレゼントがあるんだよ!」



サマエルが指をパチンと鳴らすと目の前に机と白い箱が置いてある。サマエルは俺を抱えながら箱の近くに行く。



「いいかいミーちゃん、ジャーン!」



サマエルが箱を開けると中にはケーキが入っている。



真っ白のケーキにはフルーツが山盛りになっていて中央には、『ミーちゃん、2歳おめでとう!パパより』

と書かれたプレートが置いてある。



「どうかなミーちゃん、今日の為に考えて特別に作らせたミーちゃんの為のケーキだよ!」



最近ソワソワしていた原因はこれだったのか、俺は目の前のケーキを見ながら、人間の時の事を思い出していた。誕生日ケーキなんて幼い頃、まだ両親が生きていた時に食べて以来だった。



その時の両親もカエサルの様に俺の事を考えながら誕生日ケーキを用意してくれていたのだろうか?



「ミーちゃんどうしたの?もしかして嫌いな食べ物があった?」



とても不安な顔でアワアワして落ち着かない様子に勇者達を退けた偉大な魔王の威厳が微塵もない、幹部達に見られたら、幻滅される事だろう。



俺は目の前のケーキのクリームを舐めて乗っていた果物を食べる。



「おっ美味しいかい?」



気になってドキドキしている。サマエルに俺は「ニャー」と答えた。



すると満面の笑みを浮かべサマエルは俺を抱き上げた。



「そうかそうかおいしかったでちゅか、喜んでくれてパパ嬉しいな〜」



俺を抱えながらグルグルと回りだす。流石に目が回りそうだったので体をバタバタさせるとサマエルも気づいて慌てて下ろす。



「ごっごめんねミーちゃん、パパ嬉しくってつい」



再びアワアワしている様子を見て俺は思う。想像していたのとは違うが誰かに愛され必要とされる事がとても気持ちの良い事である事を俺は初めて知ったのだ、これからも愛される為に更に努力をしなければならない、何故なら俺の飼い主は魔王なのだから。



俺は再びケーキを食べ始める。



サマエルは、俺が食べる様子を満面の笑みで見ている。



「良かった、食べてくれて作らせた甲斐があるよ〜次はもっと立派なケーキを用意するからね、それまでパパ頑張るよ!」



やれやれほんと、飼い主を癒すのも楽じゃない。


この度は読んでいただきありがとうございます。長編小説の方でも投稿しているので興味がある人は是非見てみてください。

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