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運命の鍵

空は赤黒くなり、蜘蛛の糸が辺り一面にびっしりと覆い被さっている。人々はそれに絡まり、意識を失っていた。

四人はそんな町の中を歩いていた。その時、見覚えのある影が見え、夏鈴は駆け出した。

「凛さん!」

それは、偶然通り掛かった凛だった。

「何か…、村が変じゃない?来たばかりの時はそうでもなかったのに…」

「それは…どうしてなんだろう…」

「私、お父さんが写した神社と、巡君の事が気になってここに来たんだけど…」

「あっ、そういえば巡さんは?」

夏鈴は辺りを見渡したが夏鈴達以外の人は誰も居なかった。

「このまま固まってもしょうがないからな…、分かれて行動しよう」

「凛さん、私と一緒に行きましょう!」

夏鈴と凛は神社の方へ、遊佐と桜弥は村に残り、真莉奈は怪の方へ向かった。



遊佐と桜弥は変わり果てた村を歩いていた。

「しっかし…中々酷いな」

「まるで、絵巻物の世界みたい…」

遊佐達は、学校の授業で絵巻物の事を学ぶ事があった。この村に災厄が起きた室町時代に描かれたもので、当時の状況がそのまま残されている。空は赤黒く、周囲には蜘蛛の糸が蔓延り、人々はそれに巻き付かれ苦しんでいた。

「怨霊っていうのは恐ろしい存在だが、それと同時に哀しい存在でもあるんだ。」

「そういえば…、里子も死産になった女の子の霊っていう話だったような気がします。」

「まぁ、こうして人々に手を出すのはいけない事だがな」

すると、二人の前に蜘蛛の糸が立ち塞がった。 

「『爆轟焔(ボンバー•ブレイズ)』!」

桜弥は爆発する炎を繰り出したが、糸はびくともしない。

「えぇっ?!桜弥さん魔法使えるんですか?!」

「魔法というか霊術だな、俺は一応陰陽師の端くれで、昔から霊の対抗手段として術を使ってたんだ。」

「でも、効いてないようですね…」 

「別の技を試してみるか…『雷轟波(ノイズ•サンダー)』!」

すると地面が割れるような音が響き渡り、強烈な電撃が放たれた。だが、それでも糸はびくともしない。

「何だよ、この糸は…『風』の塊だけど異常な程に頑丈だな」

「そんな…ここから先に行けないじゃないですか!」

その時だった。何かが猛烈な速さでで通り過ぎたと思うと、糸を始め、木や建物の一部などが斬れていた。

「あいつは…」

桜弥はそれが向かって行った先を睨んでいた。



夏鈴達が神社に向かおうとすると、赤い着物を着た里子が宙に浮いていた。

「私の邪魔をしないで!」

里子は赤黒い糸を伸ばして二人を阻み、火弾を飛ばして来る。

「そんな、私戦えないのに…」

その時、夏鈴の『斬縛の鍵』が光り、糸の間に光る錠前が現れた。

「あれは!」

夏鈴はそれに鍵を差し込んで開いた。すると、糸はあっという間に消し飛んだ。

「やった!」

「まさかあの能力が?!」

里子は巨大な蜘蛛を呼び出し、夏鈴達を止めようとする。

「『風毛』!」

夏鈴は鍵の力で次々と糸を断ち切り、それを再構成して出来た壁で攻撃を防いだ。

そして神社とは違う場所へ向かう。

「ねぇ、何処に行くの?!」

「思い出したんです、あれは、あの時の事は…」

二人は山道に入って行く、それにも構わず里子は追い掛けて来た。

「もう止めさせないから!」

里子は更に糸を繰り出していく。

「『風傷』!」

夏鈴は何度も糸を断ち切り、先へ進んで行った。



巡は自分の呪縛の糸に縛られ、苦しんでいた。

「ひょっとして、これは報いなのだろうか…」 

今まで自分の能力で人々の縁や運命を狂わせた報いが今来ていると巡は思っていた。

「いっその事、このまま死んでもいいか。これは結局全て自分のせいだから…」 

巡は目を閉じて抵抗せず、自分の糸で首を締めていた。

「『斬縛鎖』!」

その時、鎌のような刃物が現れ、巡の周囲の糸が斬られていった。

「えっ?」

そして巡を縛っていた糸も斬られていた。

「あっ、ありがとうございます…」

ところが巡の胸元に刃物が突きつけられ、目の前を見ると巨大な鼬の怪がそこに居た。 

「あっ…」

「俺の狙いは華玄の魂…、だが、その前にお前の魂を奪ってやろうか」

「あっ…、嫌だ…、死にたくない!」

巡はここまで来ても生の執着にしがみついていた。

「お前はただの人間だか、中々見込みがあるもんでな?」

巡はいっその事ここで死んだ方が楽かも知れないと思った。だが、身体の反射なのかそれを拒むのだ。

巡は何も考える事が出来なくなった。

「そんな…」

その時、一筋の斬撃が怪を貫いた。

「お前は…」

「ここまでよ、冥府神霊のフェムト!」 

そこには鎌を持った真莉奈が立っていた。

「死神か…、まぁ、お前も八つ裂きになる事だな!」

「『幻月斬』!」

「『狂風斬』!」

フェムトと真莉奈の刃がかち合う。だが、フェムトの反射で真莉奈の刃にヒビが入ってしまった。

「俺の刃で斬れぬものはない!」

「くっ、こうなったら…」

真莉奈はシャボン玉のようにふよふよした透明な玉を呼び寄せた。

「『無水晶』…、この力を解き放て、『神化』!」

すると無水晶は白く輝き、真莉奈は透明な羽衣を身に纏った。袖口は水色で後は透明だが、胴体の部分は見えず、幽霊のように先の景色が見えるようになっている。

「冥府仙女•真莉奈、ここに見参!」

「お前、まさか神力を……」

「冥府神鎌•『虚月』!」

真莉奈は透明な鎌を取り出し、フェムトに向かって振り上げた。

「こんな鎌、俺が壊して…『大月斬』!」

フェムトは刃で虚月を斬ろうとしたが、すり抜けてしまった。

「えっ?!」

「もともと無いものを斬れって言っても無駄なだけだよね?」

「あっ!」

「『裏月斬』!」

真莉奈の鎌はフェムトから刃物を外した。

「嘘だろ!」

「『双月の斬縛』!」

その一撃はフェムトの身体を貫いた。

「その力は…、まさか、皇女様……」

そしてフェムトは跡形もなく消え去っていった。

真莉奈は元の姿に戻り、巡に近づいた。

「大丈夫だった?」

「あっ…」

「人を助けるのもまた、死神の役目だからね!」

「何で僕なんかを…」

すると、二人の真上に巨大な蜘蛛が現れた。

「あっ…」

真莉奈は巡を置いて蜘蛛を追い掛けて行った。



夏鈴と凛は山奥の小さな石の祠に辿り着いた。

「ここは…」

夏鈴はそこを掘り出し、小さな木の箱を取り出した。

「私の予想が正しければ…、これは、里子の頭蓋骨なんですよ」

頭蓋骨は赤黒い糸でびっしり覆われていた。夏鈴が鍵を差し込むと錠前が現れ、糸は斬れた。

「これが、里子の生きた証なんだ…」

すると二人の真上に巨大な蜘蛛が現れた。

「もう私の邪魔をしないで!」

里子が宙に浮いた状態で現れる。

「待て!」

するとそこに桜弥達と真莉奈がやって来た。

「もうこれ以上勝手な真似はしないで!」

「うるさい!私はただ生きたかっただけなのに!」

蜘蛛と里子は糸と火弾を繰り出してくる。

「ユサ、ここは逃げて!それから…凛さん、あなたは巡さんの元に行って下さい!」

二人は頷き、行ってしまった。

「物分りが悪い怨霊め、『復讐の業火』!」

真莉奈の炎は一瞬にして周囲を焼き払った。

「誰も私の思いなんて分かってくれない!」

里子は更に紙風船型の爆弾や大量の日本人形を取り出し、そこから矢を放ってくる。

「ここでもう一度…、『風毛』!」

夏鈴は糸を結い直し、壁を造って攻撃を防いだ。

「あの力…、やっぱりあなたは!」

里子は突然何を思ったのか夏鈴の方に目を向けると、大量の糸で繭のように夏鈴を包み込んでしまった。



遊佐は冬馬、凛は巡の元に向かっていた。

「冬馬さん!」

冬馬は糸でがんじがらめの中、目を覚ました。

「あっ、遊佐…。この糸を解いて…っていける訳ないな」

「そんな…」

「また巡がやったんだな。あいつが里子…、入日神社の怨霊と関係があるのは分かってた。俺は何度もあいつを止めようとしたが、無駄だったよ…。」

「そうだったのですか…」

糸は、先端が分からない程に絡まっている。

「だけど……、いや、だからこそ、俺はあいつが心配なんだ。遊佐だってたまに無茶する夏鈴の事が心配だろう?それと一緒だよ」

すると冬馬は遠い目をした。

「あいつは…、巡とは小学校の時からずっと一緒だった。あいつはずっと一人だから、俺が見てやらないとなって思ってずっと見てた。巡は悪い方向に考えてしまう癖があってな。そんなある日、巡は本気で自殺をしようとしたんだ。恐らく自分なんかが生きててもしょうがないとおもったんだろう。俺はあいつを引き止めた。それから、何かあっても、たとえ迷惑がられても、俺は巡の面倒を見ようって思ってずっといるんだ。

またあいつ俺の事嫌ってるな。良いさ、それでも俺は巡の事が心配なんだからな。」

冬馬はこの状況に至っても笑っていた。


凛は巡の元へとやって来た。巡は糸で縛り上げられ、苦しんでいる。

「巡さん、大丈夫ですか?!」

巡は細い目で凛を見つめた。

「あなたは…?」

「私は久米田凛、はじめまして。ずっと見てたよ」

「僕は津久野巡…」

凛は糸が張られた赤黒い空を眺めていた。

「僕のせいだ…、僕がした事の報いが全て返って来てるんだ…」

くよくよして落ち込む巡を凛は慰めた。

「あなたなら、きっと大丈夫」

「そんな…、あなたはどうして生きてる価値も意味も無いような僕を慰めてくれるんだ?あいつだってそうだ、僕に時間を割いても意味ないって事、どうして分からないんだ。もう良いんだよ、僕生きる事に疲れたんだよ。だから、もう、いっその事、ここで何もかも消えてしまえば良いんだよ…」

「そんな事ないよ、あなたは苦しい中で少しでも立ち上がろうとした。意味もない人生に意味を持たせようとした、それだけで充分頑張ってるよ」

「あっ……、」

「私はあなたを、巡さんの事を信じてる」

「そんな…、僕なんかを…」

「目的を持って走るだけじゃない、走りながら目的を見つけるのも大事なんだよ」

凛は巡の側を離れなかった。



夏鈴は息苦しい中、鍵を握りしめていた。

「こんな運命なんて…私は嫌だ」

首やあらゆる関節が縛られる中、青い蝶が夏鈴の前に現れた。

「運命なんて、未来なんて…いくらでも変えられる!」

青い蝶はそんな夏鈴に向かって頷いているようだった。

「運命は…、自分の力で切り開いていくものだから!」

その時、『斬縛の鍵』が光を放ち、銅の錆びた鍵から、蝶の飾りが付いた銀色の鍵へと姿を変えた。

「これは、『胡蝶の鍵』!」

夏鈴は青い蝶が導いた鍵穴を開いた。

「『青蝶滅風』!」

すると繭は一気に解き放たれ、夏鈴は元の場所へ戻った。

「そんな、新たな力を創り出してしまうだなんて…」

「この運命も変えてやるから!」

「うるさいうるさい!誰もこの運命に抗えないの!」

里子と蜘蛛は更に糸を繰り出して来る。

「『風傷』!」

夏鈴は糸をどんどん斬っていく。

「『地這影(ランディック•シャドウ)』!」

すると桜弥の影が伸び、浮遊している里子を掴んで引き摺り下ろした。

「しまった!」

そして自らが出したはずの糸に縛り付けられ、胸を貫かれた。

夏鈴がそこに向かおうとすると、今まで見たものよりも大きく太い糸が目の前に現れる。

「もう一度…『青蝶滅風』!」

すると、その糸と同時に周囲の糸も斬れ、空に光が差し込み、雲は一気に消し飛んだ。巨大な蜘蛛の妖もその光とともに消滅していった。

それに取り残された里子はただただ呆然とする事しか出来なかった。

「そんな…どうして?私の力でも自分の運命は変えられなかったの?未練の力で成長して、力も充分あったのに…どうして?」

里子は自分の頭蓋骨を抱えて泣きじゃくった。

「これで分かったでしょ?怨霊め…、観念なさい!」

真莉奈が鎌を振り上げようとするのを夏鈴は止めた。

「どうして?私はただ、生きたかっただけなのに…」

すると夏鈴は里子に歩み寄った。

「あなたも、自分の運命を変えようとしてたんだね?」

「えっ…?」

「大丈夫だよ、まだやり直せる、幾らでもチャンスはある。だから…立ち上がって自分の運命に立ち向かっていこうよ」

「でも、もう私は…」

「もう一度生き直せば良いんだよ、あなただったらきっと…」

青い蝶が里子の頭に止まった。すると、里子の目の前に、里子と同じ赤い着物を着た女性が現れた。

「あっ…、お母さん!」

里子の母親らしき女性は成長した里子を見て驚いたが、すぐに見つめ、抱き締めた。

「お母さん…、私、ここまで生きたんだよ、頑張って生きたんだよ?」

母親は頷いていた。

「私…、次はお母さんと一緒にやり直せるのかな?」

「里子…、」

二人は光に包まれていった。昇天する直前に里子は夏鈴と青い蝶にこんな事を言った。

「私の我儘のせいでこんな事になって…、ごめんなさい。それから、あの子の事、巡の事をよろしく、あの子は誰かの支えが無いといきていけないから……」

そして二人は光の粒となって消えていった。



町はすっかり元通りになり、人々も束縛から解き放たれた。巡や冬馬、夏鈴達以外はこの事を覚えておらず、長い間眠っていたようだった。

「それじゃあね、私達は青波台に戻るとするよ」

「また何処かで会おうな」

桜弥と真莉奈、それから凛は入日村を離れようとした。

「あっ…、待って下さい!」 

巡は凛を呼び止める。

「また会おうね。今度は今日みたいじゃなくて笑顔で。絶対に探し出して見せるから、都会の雑踏の中でも、満員電車の中でも見つけてみせる。」

「あっ…」

巡は一瞬驚いた顔をする。

「本当にありがとうございました!」

「また会えたらいいですね!」

そして三人は行ってしまった。

巡はポツリとこんな事を呟いた。

「あの人達に会えた事、夏鈴ちゃん遊佐ちゃんや冬馬と一緒に居れる事も『運命』なのかな?」

「こうしてここに産まれた事も、今日みたいな事が起きたのも、私達はどうする事も出来なかった。だけど、問題はそこからどう私達が行動していくかなんだよ。」

「『運命』は従うだけじゃない、作り変える事も出来るって…、何か大事な事を学んだような気がするよ。」

巡は朽ち果てた神社を見つめた。

「お姉さま、これからも僕は生きていきますね…」



しばらく経ったある日、夏鈴は青い蝶を見つけ、追いかけていた。

「待って〜!」  

蝶は山道を抜け、一本の大樹がそびえる丘に行き着いた。

蝶はそこでしばらく回った後、夏鈴の目の前で静止し、一人の青い着物を着た女性に姿を変えた。

夏鈴はその人に見覚えがあったが、実際に見るのは初めてだった。

「お祖母ちゃん?!」

それは夏鈴の祖母である春子だった。春子は夏鈴を見つめると、そっと抱き締めた。

「ありがとう、夏鈴…」

「お祖母ちゃん、ずっと見守ってたの?」 

夏鈴はまさか春子に会えるとは到底思いもしなかった。

「この力、あなたが受け継いでくれたのね。私もその力で大切な人を救おうとした。」

「大切な人って…?」

「私の夫も、その糸に悩まされたの。そして断ち切った。私は死んでから里子の元に行くようになった。実はね、あなたの父親の前に、一人女の子が居たの。その子は生まれてすぐに亡くなった。それと里子を照らし合わせた私はどうしても心配になって、それで側に居たの。だけど…、それで出来た縁の糸はどんどん太くなって、私の力では斬れなくなった。私の力を持ってしても自分の糸は斬れなかったのね…。」

春子は『胡蝶の鍵』を見つめた。

「夏鈴、あなたのその鍵はあなたが創り出したものよ。元ある力を使うだけじゃない、自分でどんどん生み出していく。夏鈴…、その力を大切に使いなさい」

春子は蝶の姿に変わっていく。

「ありがとう、これで私も次の世界に旅立てる。夏鈴、元気でね」

「お祖母ちゃん…、ありがとう…。」

そして蝶は羽ばたき、とうとう夏鈴が見えないところまで行ってしまった。

「お祖母ちゃん……」

夏鈴の目から一粒の雫が溢れ、鍵に当たった。



巡は一人電車に揺られていた。

「あの人に、また会えると良いな」

実を言うと巡はあまり電車に乗る事が無かった。いつも母親が運転する車に乗るのでそもそも一人で出掛ける事が無かったのだ。

巡はスマホを取り出して今日のブログを確認する。

『終電

長い旅ももうすぐ終わる。日付は回り、疲れた客を乗せて電車は走る。この旅に終着点は無い。日が昇ればまた旅は始まる。

月明かりとともに今日も電車は走る。この電車が乗せてきたのは人や物だけじゃない。人の思いも乗せて走ってるのだ。』

終電間際の電車の写真とともにそう書かれてあった。

「元気にしているのかな?」

「『青波台〜、青波台〜、お出口は右側です』」

巡は電車を降りて、町を歩いた。だが、ブログに載っている場所は一通り探したが、見つからない。

休憩する場所を探して展望台で一休みしていると、見覚えのある影が横切った。

「あっ、あなたは…!」

「巡君、どうしてここに?!」

そこには凛と知佳が居た。

「あの時は…ありがとうございました!」

凛は戸惑っていた。

「そんな、いきなり…どうしたの?」

「凛、この人は一体?」

巡は一通りの事を説明した後、凛の小説について話した。

「へぇ…、そんなに読んでいたんだ。私、思ったより読んでなかった…」

「いや、ホントに凄いと思わない?」

それを聞いた巡は少し誇らしげな気分になった。

凛の首にはカメラが付いているが、巡と会ってから何も撮っていない。それを疑問に思った巡はこんな事を聞いてみた。

「あの、僕と一緒にいる時を撮らなくて良いんですか?」

凛はこう答えた。

「うん、そうだけど…、でも、本当に残したい事は写真よりも、自分の目に、頭に焼き付けた方が良いと思わない?」

「そう…、なんですか?」

「…でもね、一枚だけ撮ったんだよ」

凛がそう言って見せたのは巡の笑顔の写真だった。

「僕、そんな笑顔だったっけ?」

「うん、満面の笑みだったよ!届かないと思ってた人がすぐ側で笑ってる、それこそ良い事と思わない?私、巡君と出会って本当に良かったと思ってるんだ」

「…そっか」

巡はそう言って写真以上の笑みを見せた。



入日村、ここは間もなく滅びる。だが、人々はその中で懸命に生きている。残り少ないものを燃やし尽くすかのように、毎日生きている。その中には未来ある少年少女達も居た。

『運命』、それは人の力ではどうにもいかないものだ。だが、それに流されてはいけない。それに抗い、自分自身の未来を切り開く、そしてその強大な『運命』すらも味方に変える。それが、新しい道を開く鍵なのかも知れない。



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