08 名前が変わりました
長い事話終わったケットシーは「ふう……」と1つ溜息をついた…… みたい……
何故みたいなのかと言うと……
溢れる涙で、前が見えないから~
「うをおおおおおおおおおおおおん! よくがんばったあああああ!」
「此れからは某がついてるでござるうううう! うわぁあああああああん!」
俺とハンゾウは同時に抱き着き、全力で撫でまわし、力の限り頬ずりした。
「にゃ! 止めるにゃ! 逆毛で撫でるにゃ! スリスリするにゃ! は、鼻水つけるにゃ! いーやーにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ホラ! さっさと拭くにゃ!」
俺は今、お湯に濡らしたタオルでケットシー様のカペカペになった所を丁寧に拭いております。
ハンゾウさんは俺が吹き終わった所を優しく乾拭きし、丁寧にブラッシングしております。
そんなお互いの顔には5本線の引っ?き傷があります。地味に痛いです……
「ホラ! 尻尾のトコロもカピカピにゃよ! 手を休めるにゃ!」
まだまだ終わりそうもありません……
「ふう…… えらい目にあったぜ」
「それはオイラのセリフにゃ!」
ウガーっとするケットシー。 中々良いツッコミ要員である。
思わず親指を立て、いいねポーズ。 カプっと噛まれた。解せぬ……
「取り合えず、チミの名前を考えねばならんな」
「にゃふ!? オイラ名前変えるにゃ?」
「何時までも君とかケットシーとか呼ぶのも可笑しいでござろう? それに主も某も、君が嫌がってる昔の名を呼ぶ気なんてサラサラ無いでござる」
「折角の新天地だ。 新しい名前で再出発しとけ」
「にゃ! じゃあオイラは、アレキサンダー・ボナパルト・ペンドラゴンがいいにゃ!」
「詰め込み過ぎだ…… どんな英雄パレードやねん……」
「ビックリするほど名前負けしてるでござる……」
「カッコイイにゃ」
「「却下」」
ずーん…… と暗い空気を纏い、項垂れるケットシー……
「んーそうだな。 ま、考えてはいたんだ」
暗い表情で俺を見つめるケットシー。
どんなけショックだったんだよ。 そんな名前付けたら大きくなった時絶対後悔するぞ。
「チミの名前は…… 【トラジロー】はい拍手!」
俺とハンゾウで拍手する。 トラジローはキョトンとしている。
「どういう意味にゃ?」
「虎って知ってるか?」
「知らないにゃ」
「この世界には居ないのか? 虎っていうのは黄色と黒の縞模様でネコ科最強の生き物だぞ」
「兄ちゃホントかにゃ?」
頷くハンゾウっておいぃぃ…… 信用してねぇのかよ!
フフン!と上から目線で俺を見るハンゾウ…… ぐぬぬぬぬ……
「オホン!ジローは次男って事だ。 この家の長男がハンゾウ、次男がトラジロー。 これでお前らは兄弟だぞ」
キラキラした目でハンゾウを見つめるトラジロー。
「やったにゃ! 兄ちゃ! オイラトラジローにゃ! 弟になったにゃ!」
「良かったでござるなぁ。 これからもよろしく頼むでござるよ。 弟よ」
トラジローの頭を撫でるハンゾウ。 その手にじゃれるトラジロー。 只見てるだけの俺……
別に…… 悲しくなんてない……
取り合えず決まったのは名前だけ。
特に急いで決める事も無いんだが、只此処に住むだけでは何か勿体ない。
「トラは何かしたい事ないのか? 物作りしたいとか。 勉強したいとか」
「オイラぶきっちょにゃ。 頭もよくにゃいにゃ。 後強くなりたいにゃ!」
強く、強くねぇ……
「それは前居た群れに思うトコロが有るからとか?」
「会えばギャフンとしてやりたいとは思うにゃ。 でもどうでもいいにゃ。 それよりもオイラ、ドラゴンと戦いたいにゃ!」
「敵討ちでござるか?」
「違うにゃ! 父ちゃんは戦士にゃ! せーせーどーどーと戦ったにゃ! だからドラゴンにうらみなんて無いにゃ!」
「ドラゴンはほこりたかいにゃ! 負けた父ちゃんに『治療せよ』とか、カッコイイにゃ!」
お前が治療してやれよってチョット思った。 だが言わない。 大人だから。
「だから知りたいにゃ。 父ちゃんがさいごに戦ったドラゴンがどんなけ強いのか…… おぼえてるなら、その時のことを聞きたいにゃ」
なるほど。子供らしい純粋な憧れか。
「ドラゴン相手じゃ修行いっぱいしないとな。 後勉強も」
「にゃふ…… 勉強きらいにゃ……」
「でも勉強出来ないと強くなれないでござるよ。 本当の強者は頭が良いでござる。 色んな事を予測したり、効率良くしたり、いっぱい考えているでござる」
「そうにゃのかぁ…… うんオイラがんばるにゃ!」
そう言って撫でるハンゾウの手にじゃれつくトラ。
もういいです。 兄弟仲良くやってください……
「そいや、勉強の教材ってどうしよう……」
「主が異界語録でも付与してあげて、漫画でもアニメでも見せればいいでござらぬか?」
「いやいやいや。 それ勉強しない子供が出来上がるパターンじゃね?」
「苦労しか知らない無垢な子でござるから、色々と興味を出させるのが良いのでは?」
「ふむ…… むずいな、教育って……」
「時間は一杯あるでござるから、気長にやるでござる」
「そういや…… ハンゾウも漫画アニメ漬けの駄目な子だったような……」
「今や立派でござろう?」
「………」
明くる日、居間でトラが、DVDのアニメをじっと見ていた。
ハンゾウが準備したようだ。
そして、画面から目を離さないトラさんが、
「あるじー。 オイラこんな風になりたいにゃ」
そこに映っていたのは、銀河よりも大きい超巨大ロボだった……
「それは無理ぽ……」
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