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07 ニャンコの過去は真面目に

 その日はケットシーがご飯を食べた後、眠そうにしてたのでお開き。

 自室に戻って、キャンプ用の簡易ハンモッグに横になってこ〇亀を1巻から読み始める。

 帰って来た時間が寝るには中途半端だし、神だから寝る必要も無いしね。

 ハンゾウはケットシーと一緒に寝るようだ。


 ケットシーが起きる度にハンゾウが抱きかかえて居間に。

 そこで包帯を変え、自然治癒力を高めるように回復魔法をかける。

 一気に治す事も出来るが、それは怪我人の体力が有っての事である。

 体力が無い相手に手術が出来ないのと同じである。


 治療をしてる間に俺はご飯を作る。

 無論消化の良い物を……


 ケットシーは起きる度に包帯を変え、治療し、食事も出て来る状況にビックリしていた。

 何出しても美味い美味いと言って食べてくれる相手が居るのは作り甲斐もあっていいもんだ。




「美味かったにゃー」


 数日経った、ある日の食後。

 大分体力も戻り包帯の数も減ったケットシー

 そんなケットシーと少し話をしてみようと思う。


「今までゆっくりと話が出来なかったから今更だけど自己紹介ね。 俺はハチマン。契約で繋がってるから魂レベルで分かるとは思うが、異世界の神。ま、親から追い出されたボンクラ神さ」


「某はハンゾウ。 主ハチマン様の眷属1号であり、そこのボンクラ神の保護者でござる」


「辛辣すぎじゃね!?」


「ハチマン様、ハンゾウ様……」


「様はいらんでござる。 ハンちゃんとかハっちゃんでいいでござるよ」


 うむそれは賛成だ。堅苦しいのはイヤだ。


「にゃ! そんなの無理にゃ! んー、ハチマン様は…… あるじニャ! ハンゾウ様は決めてるにゃ。 兄ちゃんにゃ!」


 とたん、会心のガッツポーズを決めるハンゾウ。

 反対にショックの余り、涙が止まらない俺…


「ずりーぞハンゾウ!」


「クックック。 人徳でござろう?」


 ふふん。と俺を見下ろすハンゾウ…… いつか泣かす……!

 気を取り直して本題へ。


「んで、君の名前は何て言うんだい?」


 一緒に住む上で、一歩踏み込んだ避けては通れない質問。

 とたん、ケットシーの笑顔は陰り、俯いてしまう。

 此処で慌てて問いかけてはいけない。

 まだまだ子猫と呼べるような小さな子が瀕死の重症を負い、死にかけたのだ。

 辛い事があったのだろう。名前1つで俯くほどに……


 俺とハンゾウは静かに待った。


「…… オイラ…… 名前…… ウイクラ…… にゃ……」


 ウイクラ。 彼の名前。


「でも……」


 ポツリと言った後、勢いよく顔を上げたケットシー。


「でも! おいらはこの名前嫌いにゃ! だって! だって…… この名前…… 弱虫って意味にゃ……」


 なんだと…… 親がそんな名前付けるのか……?


「親が付けた名前じゃないのか?」


 俺が聞くと首を横に振る。


「この名前は群れのヤツ等が付けた名前にゃ…… 母ちゃんは産んですぐに…… 父ちゃんは名前付ける間もなくドラゴンにやられたにゃ……」


 予想はしていたが大分ヘビーだ。

 元々ケットシーの群れはフラン王国の南にある森で村を築いて生活してたらしい。

 其処に黒いドラゴンが現れて住処を追われたのだそうな。

 草原は野犬や狼達が多く、安住出来ない為、決死の覚悟で北の森まで逃げた。

 だが北の森は聖地近く、其処を守る聖龍の配下ドラゴン達の支配する地域だった。

 ケットシー達は北の森に入って最初に出会った赤いドラゴンに必死に頼み込み、土地を借りる事が出来た。

 正し条件として毎年冬至の日に食料を貢物として捧げよ。と

 決して多くは無い貢物の量ではあるが、流浪の旅をして来たケットシーには厳しいものだった。

 群れが必死になって開拓し開墾し安住の地の為に頑張った。

 それから5年。 一向に良くならない生活。 念1回の貢物。 不満が燻っていた。

 その燻りが群れの誰からかこんな言葉になって表れた。


「赤いドラゴンを倒せば貢物は無くなり、此処は我らの地に」


 そんな時、ウイクラは生まれた。

 母親は産後の肥立ちが悪く、ウイクラを生んで2日後に亡くなったそうだ。

 そしてケットシーの戦士だった父親はその5日後の冬至の日にドラゴンにやられ、亡くなった。

 その後ウイクラは近くに住んでた婆さんに引き取られた。 名前はその時に群れの長老から付けられたらしい。


「でも違うにゃ! お婆ちゃんが亡くなる時、ホントの事教えてくれたにゃ!」


 亡くなったお婆ちゃんの話はこうだ。

 ウイクラを生んで亡くなった母親の墓の前で、ウイクラを抱いて茫然とする父親。

 其処に近づく群れの長老。


「そんな幼子、群れの協力無くして育てるのは無理であろう」


「群れの協力が欲しくば、ドラゴンと戦え」


 要するにウイグルを人質に取られたのである。

 群れを離れ子供を抱え生きて行ける程周りの環境は甘くはない。

 だがドラゴンに勝てるはずもない。

 苦悩する父親は、仲良かったお婆ちゃんにウイクラを託し、ドラゴンと戦う事を決めた。

 決戦の冬至の日。 相対するドラゴンと父親。

 だが結果は見えていた。なんとかドラゴンに一太刀入れるのが精一杯だった。

 倒れる父親。だがドラゴンは命まで取らなかった。


『その者を連れ帰り治療せよ。 そして反抗した罰として来年からは2倍の貢物を用意せよ。 出来ねば此処から出るがいい』


 そう言って去るドラゴン。 群れの者はその姿を茫然と見送った。

 そして我に返った群れは…… 倒れてる父親を猛然と罵った。

 無様に負けたと。 貢物が増えてしまったと。 役立たずと。 自分達は遠くから見てただけの癖に……

 ありとあらゆる罵詈雑言を浴びせ、父親を放置したまま帰る群れ。

 皆が居なくなった後、お婆ちゃんが父親を背負い家に連れ帰ったそうだ。

 だが家に着いた時には父親は既に亡くなっていたそうだ。

 その表情は、涙を流し、唇を噛みしめていたらしい……

 お婆ちゃんは母親の隣に父親を埋葬した。 せめて天国では仲良く穏やかに…… と。


 これが真実…… 俺もハンゾウも絶句した……


「くやしかったにゃ…… でも群れをはなれて生きるには小さすぎたにゃ……」


 お婆ちゃんが亡くなった後、両親の墓の隣に1人で穴を掘り、埋葬したウイクラ。

 その後は群れの中で手伝いや、下働きをしてクズ肉やクズ野菜を貰い、生きながらえていた。

 時に笑われ、揶揄われ、蔭口を言われ、侮蔑の目を向けられても、一切反抗しなかった…

 全ては早く大きくなって、この群れから出ていく為に……


 そんなある日。手伝いに出かけようと家を出た時。群れの悪ガキ3人組に掴まった。

 何やっても反応しない事にムカついたそうな……

 草原まで連れ出して殴る蹴るの暴行を加える悪ガキ達。

 だが、そこに運悪く、野犬の群れが現れた。

 脱兎のごとく逃げる悪ガキ共。ウイクラも逃げようとするも暴行直後で身体が巧く動かない。

 ヨタヨタと覚束ない足取りで逃げるウイクラ。

 だが無常にもウイクラの上に影が差す。

 瞬間、野犬の前足に飛ばされる身体。

 それを見た他の野犬達は玩具と戯れるかのようにウイクラの身体を、叩き飛ばし、体当たりし、放り投げた。

 どれほどの時間が経ったのだろうか……

 ウイクラは街道近くの草むらの中で生きも絶え絶えに、身体は動かず激痛が全身を駆け巡った。

 野犬は本当に戯れに、只の遊びだったのだろう。飽きるとウイクラを放置して去って行った。


「ムカっとはしなかったにゃ…… 只母ちゃんが命がけで生んで…… 父ちゃんが命がけで生かしてくれて…… お婆ちゃんがいっしょうけんめい育ててくれた…… なのにここで死ぬのかと思うと悲しかったにゃ……  オイラが弱いのがくやしかったにゃ……」


 草むらの中でゆっくり訪れる、死を待つ状態だった…

 其処に、不意に影が差す。


「おい、こんな所に猫が倒れてんぞ」


「お、野犬にでもやられたか?まだ子猫なのに。 かわいそーに」


 男の声が聞こえた。

 意識が朦朧としてたから…… 身体の激痛で注意散漫だったから……

 とある国では獣人、妖精などは迫害対象なのを……

 ケットシーは見た目から奴隷として高値で売れるという事を……


「た…… すけ……」


 喋ってしまった……


「おい! コイツケットシーだぞ! アジトに運び込むぞ!」


「ああー? すぐ死んじまいそーじゃねーかコイツ」


「死んだら棄てりゃいいだろ? 生きてりゃいい儲けになりそうだ」


「そうか、んじゃ檻にでも放り込んでおくか」


 そう言った男に摘み上げられ、無造作に馬車の中の檻に入れられた。

 そこから先の記憶は無い……

 只暗闇の中で「死ぬな! 生きるでござる!」って声が聞こえたらしい……


(もう…… もう楽になっちゃ駄目なのかにゃ!)


 心の中で叫んだ。

 その時、暗闇に3つの光が浮かんだ。

 その光が何なのかすぐ分かった。

 顔も知らない父ちゃん母ちゃん…… オイラを愛し育ててくれたお婆ちゃん……

「「「生きなさい。 これからは楽しい事が待ってます。 アナタは私達の希望…」」」

 3つの光が大きな光に飲み込まれる。

 その温かい光はオイラ中にどんどん入り込んで、身体の中から、外から温かく包んでくれた。

 その温かさに、気持ちの良さに身を委ね、意識が無くなったそうな。




「気が付いたらここに居たにゃ……」



お読みいただきありがとうございました。



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