06 マッタリとニャンコは最高
転移で拠点の島に帰って来た。
王国は夜中だったが、島の戻るともうすぐ夜明けで東の空が白み始めていた。
「んー! っと…… 俺働きすぎじゃね?」
伸びをしながら1人呟く。
ちなみにこの島。 ナディアさんから頂いた。
周囲10km、内白い砂浜が3kmほどの石灰岩で出来た平べったい小さな島。
この島を中心に半径10kmを球状の結界で覆い、この世界ナトーラと切り離し、手持ちの宝玉とリンクさせ拠点化。
要するに移動式住居の島バージョン。
そんなスノードームみたいなのを、大陸から離れた大海原に浮かべて生活している。
そんな島の中心に、この島には不釣り合いなこの木何の木みたいな大きな木がある。
その木の根元、光の漏れる高床式の平屋が俺達の城である。
木の柱に板を打ちつけただけの家。2LDKウッドデッキ付き風呂は別棟。
ログハウスとか何となくイメージは沸くけど組み方なんか知らんし…
ガラスはあるよ。 鍛冶するから知ってたしね。
ただ扉は全部引き戸。 蝶番とかドアノブとか、作るのが面倒だったから……
「帰ろ……」
玄関の引き戸を開ける。
「ただいまー」
「お帰りでござる」
人化したハンゾウが出迎えてくれる。
入り口でブーツを脱ぎ、スリッパ代わりのサンダルに履き替える。
「猫ちゃんはどーよ?」
「んー危険は脱したでござるよ。 まだ意識は戻らんでござるが」
そう言ってハンゾウはお茶の準備に台所へ向かう。
ふむ。後は本人次第ってトコロか…… あの怪我からして酷い目に遭ったのだろう。
身体は治せても心まではなぁ……
まぁ今考えても仕方ない。
着替える為に自室へ。
外套を脱ぎ、装備を外す。
装備と言っても小さなポーチ、サイリウムを6本挿したベルト、そして棒1本である。
俺の作った神級装備なので壊れる事はまず無いが、働いてくれた礼儀として1つ1つ綺麗に磨いてゆく。
そして終わる頃にはハンゾウがお茶の準備を終えていた。
居間のテーブルに向かい合っての茶。
今日、王城で有った事を面白おかしく話す。
ハンゾウは、ナディアさんから依頼を受けて以降の王等の思惑に最初から気づいてて、
「ざまぁみろでござる! 本来なら某が殺りたかったでござる!」
会心の笑顔で言い放った。
どうも俺の周りは俺よりキレやすいというか……
「主がのほほんと、ぼけーっとしてるからでござるよ」
なんだろう…… 軽くディスられてる…
でも実家の近所では不良言われてたんだが……
「不思議でござるな。 何もしてないのに悪餓鬼共の大将にされ、普通に歩いてるだけなのに町の方々は端に寄って道を開けるし、ずっと家に篭ってるのに事件があると必ず「当日その時間どちらに?」って聞かれてたでござるな…… うっ……」
ハンカチを取り出し目に当てるハンゾウ。
嘘泣き止めーや……
「ま、ご母堂様でござろうな。 最高神にして伝説の女番長でござるから……」
だろうなぁ…… あの親にしてこの子あり。 なんて思われてるんだろうな……
ムカついた。 こんな理由で消された異世界は数知れず……
生意気だ。 こんな理由で神気を奪われ神から落とされた人数知れず……
喧嘩上等。 こんな理由で関係ない他の人の喧嘩にまで乱入しボコボコにされた人数知れず……
腹減った。 こんな理由でラーメン屋で注文品が来た瞬間奪われる人数知れず……
思い出しただけで無茶苦茶だ…… 思わず顔を手で覆う。
「事実でござる…… 目を背けては駄目でござるよ……」
2人して静かに泣いた……
「カタッ……」
ハンゾウの部屋から小さな音が聞こえた。
悲しき事実に俯いていた顔を上げ、部屋の入り口を見る。
「見てくるでござる」
スっと席を立ち、自室に消えてゆくハンゾウ。
俺はボーっとしながら茶を飲んで待った。
そして、部屋から出てきたハンゾウ。 その手にはタオルに包まれた猫、ケットシーが居た。
灰色トラ柄の身体に包帯が巻かれ痛々しい…… だが目はしっかりと開かれていた。
そっとテーブルの上に置かれるタオルに包まれたケットシー。
その目はじっと俺に注がれる。
「身体は…… まだ完全では無いか。 記憶は大丈夫か? 何か混濁してるとか……?」
「…… ニャァ……」
弱弱しく泣くケットシー。
そうか警戒してるのか。
「俺達は君がケットシーなのを知っている。 盗賊のアジトに捕らわれていたのを助けたんだ」
ジッと見つめ俺の話を聞いているケットシー。
「今、君と俺に不思議な繋がりがあるのが分かるかな? 瀕死だった君を助ける為に強制眷属契約をしたんだ。 これによって俺の体力や魔力を強制的に君に譲渡する事が出来て、今君が生きている」
「だが君の意思を無視する方法だ。 申し訳ない」
そう言って頭を下げる。
「! あ、謝らないでほしいニャ!」
ケットシーが慌てたように声を発する。
「そうか、ありがとう。 でもこの契約は後で破棄もできるから身体が治ってからまた考えよう」
そう言ってから一口お茶を飲む。
「信じて貰えるかどーかは分からんが、俺達は君を虐げる事も、他の人に渡す事も無い。 君はこれからこのなんにも無い島で、身体を休め、心を癒し、これから何をしたいのか考えればいい」
「…… どうして…… そこまで…… してくれるニャ……?」
「それはな、俺の相棒で親友で、1番の眷属である其処に居るハンゾウがそう望んだからだよ」
聞いたケットシーはゆっくり首を動かし、隣に居る人物を見る。
其処に居たのは、優しい笑みを湛えるハンゾウであった。
ハンゾウの手が伸び、ケットシーの頭を優しく撫でる。
「某、元は小さな鳥でござった。 野犬に襲われて、助からない傷を負ったのでござる。 その時どこぞのお人好しのお馬鹿さんが母親の静止を振り払って強制眷属契約をしてくれて。 そのお人好しは後で母親から特大の拳骨を喰らっていたでござるが…… 助かった状況は其方と同じでござるな」
ケットシーを見つめ、目を細めるハンゾウ。
「後日そのお人好しのお馬鹿さんに何故助けたのか聞いたのでござる。 そしたら「助けたかったから助けた。つか助けるのって理由いるの?」そう言うでござるよ。 その時、頭殴られたような衝撃的な事ってのを初めて知ったでござるよ」
「だから某は君にこう言うでござる」
「某が助けたいと思ったから助けた。 文句あるか! ってね」
ケットシーはハンゾウを見つめながらボロボロと泣いている
ハンゾウはそれを見ながら優しく撫で続ける。
俺は何か食べるものを作ろうと席を立つ。
何か知ってるような話だったのでケツがムズムズして居心地悪かったし……
ご飯、牛乳、コンソメ、ウインナー、ほうれん草、塩、コショウ
サササっと簡単に出来たミルクリゾットもどき。
皿に乗せ、ケットシーの前にそっと置く。
俺とハンゾウの顔を見るケットシーに頷くハンゾウ。
「冷ましたけど、中がまだ熱いかもしれないから気をつけてな」
そう言うと同時にガツガツ食べ始めるケットシー。
顔を上げた時、泣きながら笑っていた。
「美味いニャ!」
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