04 勇者とか面倒
コンコンコン
静寂に包まれた部屋にノック音が響き渡る
確認しに扉にマーサさんが近づく。
「勇者様御一行のようです」
「うむ、入れ」
王の言葉と共に開けられる扉。
先頭は王の娘の聖女。
「お父様! こんな夜更けに呼び出すとか非常し…… き…… げ、ハチマン…… 様……」
げって何だよげって!
「んーシリルどうしたー? ってげ!ハチマン!?」
「「げぇ」」
よし!お前ら喧嘩売ってるんだな?
「控えよ! この無礼者が! ハチマン様に対して何たる言! しかも勇者カインよ! ハチマン様を呼び捨てとは何事か!」
先ほど俺に脅され、しょんぼりした気持ちを鼓舞するよう、烈火の如く怒りを露わにする王。
その怒りに慌てて片膝を付く勇者御一行様。
「大変失礼致しました国王様! そしてハチマン様!」
コイツワザとか? 俺が神と分かってるハズだが…… 謝罪が王より後とか……
大人3人は事態の不味さが分かっているようで頭を抱え。 マーサさんも首を振っている。
俺が王に目線を向け、聖剣に目をやる。
意味が通じたようで「オホン」と咳払いした後、聖剣を徐に掴んで、
「聖剣が戻ってきておる。 コレじゃ」
そう言って鞘に収まった聖剣を勇者に見せる。
「おお! 国王様有り難う御座います!」
戻って来た聖剣に我を忘れたのか、それとも素か、行き成り立ち上がりスタスタと王の元へ。
そして文字通り、王の手から奪い取った。
「「「「「な!」」」」」
これには俺もビックリ。 そして大人達もビックリ。
大人達の驚きに気が付かない勇者は鼻歌混じりで元の位置に戻る。
無論周りの勇者の雌共は、勇者しか見えていないので周囲の事など分からない。
「俺の聖剣! 俺の聖剣が帰って来た!」
「良かったです。カイン様」
「やったねカイン!」
「うむ。 やはりカインには聖剣が良く似合う」
馬鹿ばっかである……
そして腰に剣を付けた馬鹿勇者カイン。
あろう事か行き成り剣を抜刀した。
神の前で、王の前で、宰相、騎士団長も居る前で、誰に許可を得る事も無く…
もうマーサさんも真っ青で今にも倒れそう……
その馬鹿勇者は聖剣を天に掲げ、格好良くキメていた…… 馬鹿だ……
「カイン様…… 素敵です……」
「聖剣持ったカインはやっぱイカスわね!」
「うむ、雄々しき姿が似合うなカインは」
これもう駄目だろう…… 取り合えずナディアさんに念話で連絡入れとくか……
《ナディアさーん! 聞こえるー?》
《あら? ハチマン様ですか? どうしました?》
《お宅のトコの勇者(笑)、酷いってモンじゃ済まない気がするんですけどー?》
《え? 今同じ場所に居るんですか? ちょっと過去見てみます》
《………………》
《…………》
《……》
《ごめんなさいごめんなさいごめんなさい…… 何なのよあの子もぉぉぉぉぉぉぉ!》
《前回は俺を知らなかったとはいえ、斬りかかり、返り討ちにあう。 そして数々の暴言、そこに来て今回の暴挙…… 普通剥奪じゃね?》
《う…… うぅ…… ごべんばざい…… やる気ざえだじでぐれだら……》
うわぁ…… すげえ罪悪感……
「それじゃ聖剣も戻って来たんで、帰りますね。 国王様有り難う御座いましたー」
勇者は帰ろうと扉に向かう。 後を追う3匹の雌豚。
《ああ! 帰ろうとしてやがる!》
《ええ! 待って待って! 私も其処行きます! 今行きます!》
「待て!」
言葉と共に殺気も放つ。
固まる周囲。 壊れたブリキの玩具のようにギギギと音が鳴りそうな感じで振り向く勇者一行。
「とりあえずさっきまでの位置に戻れ。 そして正座」
「ど、どうしてですか?」
「そ、そうよ。 もう要件は済んだじゃない!」
気丈にも聖女と魔法使いが反論してきた。
「いいから座れ。 これは命令だ。 さっさとしろ」
「い、い、幾ら神とはいえ横暴だろう!」
「そ、そうだ!俺はゆ、勇者だから早く寝て英気を養わなくては!」
『いいから正座しなさい!』
そして高い天井から光が降り注ぎ、ナディア様降臨。
そしてら大人含めて全員が床に膝を付くんだよ。 俺来た時は皆椅子に座ってたじゃん……
やっぱこういう演出必要なのかな?俺恥ずかしくて…… もしくはナメられてるか…… か。
「何故勇者とその仲間は立膝なのですか? 正座と言ったはずです」
「な! ですが!」
「反論を許した覚えはありません。 早く正座なさい」
なんか渋々正座してるんですけど……
「さて、勇者達。 貴方方は何故正座させられてるか分かっ…… てないようですね。 顔に不満がありありと出ています……」
顔に出てるなんてモンじゃない。 ブツブツと文句まで言ってるぞアイツ等。
その姿を見て盛大な溜息を吐くナディアさん。 おつかれさまでーす。
「今回は、勇者一行の持つ、勇者・聖女・大魔道・剣聖の4つの称号を剥奪する為、此処に降臨しました」
「「「「「「「「な!」」」」」」」」
おー剥奪って断言したねナディアさん。
「何故で御座いますか?! 私達は何も罪を犯しておりません!」
「黙りなさい聖女! ならば何故聖剣を盗賊なぞに盗まれたのです!」
「っ……!?」
ナディアさんの余りの怒りに言葉に詰まる聖女。
「それに勇者! 聖剣は貴方の物ではありません! 神々の物であり、神々から借り受けてる物です! それを粗末に扱い、野外で不埒な行為に耽り、放置し、挙句盗賊に盗まれるなぞ…… 恥を知りなさい!」
言うなりナディアさんは勇者に手を翳す。
とたん、勇者の腰にあった聖剣は勇者から離れナディアさんの手に収まる。
「あ…… 俺の聖剣……」
「貴方のでは無いと言ってます。 貴女には過ぎたる物です」
勇者はガックリと項垂れる。
「私は聖剣の捜索を恐れながらハチマン様に依頼させて頂きました。 まぁ序に利用しようとか恐れを知らぬ馬鹿な大人も居るようですが…… それで、勇者一行はその間何をやってましたか?」
「……………………」
「食って飲んで打って寝て盛って…… 自分達で聖剣を探そうと思いませんでしたか? 少しでも強く、LVを上げようとは思いませんでしたか?」
「……………………」
「だんまりですか…… 王の手にある聖剣を許可も得ず近寄りそして奪い取り、あろう事か目上の物が揃っているこの場で無許可の抜刀。そして自分達の要件が済めばさっさと退出しようとする…… なんたる常識知らず!」
説明されて流石に拙い事に気が付いたか、勇者一行の顔色が悪くなっている。
「そして何より私が許せないのは……」
鋭い目つきで勇者達を睨みつけるナディアさん。
「無事聖剣を探し出し、お前等の尻ぬぐいをしてくれたハチマン様に…… ハチマン様に…… 一言でも礼を言ったのかコンニャロウ!」
ナディアさんの怒りと共に吹き荒れる暴風。
勇者達、大人3人は壁際まで勢いよく転がされ、マーサさんはソファの裏で蹲っていた。
「どうどう…… ナディアさん落ち着いて」
「フー!フー! ……取り乱しました…」
室内はぐっちゃぐちゃであるが、まあ全員生きている。
「ハチマン様。このままこの者達から称号剥奪という事でお許し戴けませんでしょうか?」
「んー。処罰云々はナディアさんが決めてくれていいんじゃー? 目糞が鼻糞になったくらいだし。でも…こんなのでも、真面目にやれば世界で役立つんでしょ?」
「ええ。一応は勇者の称号が付いたので。能力無い者には付きませんし…」
「それじゃあ……………………………………」
「ふふふふ………………………………………」
お読みいただきありがとうございました。