03 お偉いさんて面倒
詠唱する声も無く
眩い光で染まる訳でも無く
浮遊感に包まれる訳でも無く
移動した感覚は一切無く
それでも転移は終了した……
そこは白を基調とし、魔道具の照明により明るく照らされた部屋。
壁には豪華な調度品が並べ、飾られ、床にはフカフカの絨毯が敷かれている。
そしてその部屋の隅には1名のメイドが頭を下げて控えていた。
「お帰りなさいませ」
「ああ、只今。 後は何時ものように頼むよ」
「畏まりました。 入って来なさい」
メイドから声で開く重厚な扉。
其処から入って来る10名ほどのメイド軍団。
俺とメイドの会話、多くの人の気配により、状況が分からず不安がる女達。
「では、皆様方。 目隠しをお取りください」
女達が恐る恐る目隠しを外す。
白い豪華な部屋を見て目を輝かす者。
状況が呑み込めず混乱する者。 様々である。
俺はもう関わりたく無いし、関わる事も無いので背を向け部屋の端にて聖剣の確認をする。
「まず、貴女達は湯汲をし、身綺麗にしてから此方で用意した服に着替えてもらい、食事をして頂きます」
「では、皆さん着いて来て下さい」
この部屋から出るよう、誘導される女達。
「あ…… あの!」
この声はあの赤髪だろう。
多分俺に話しかけてるんだろう。
だが、コイツだけはホント関わり合いたく無いんで、聖剣いじる振りして無視する!
「ほら、行きますよ」
俺の無反応が分かったのか、メイドに促されトボトボと部屋を出て行く赤髪。
そして重厚な扉が静かに閉まった。
「もう少し、優しくされても良いのでは無いですか? ハチマン様」
「いやぁ、つり橋効果って馬鹿に出来ないのよ? マーサさん。絆されて一緒に居たいとか有り得るからね」
「でもハチマン様なら女性の1人や2人。 万人も余裕でございましょう?」
「いやいや、ペットじゃ無いんだから。 てか鬱陶しい。 さっきのあの赤髪がキャンキャンとうるせーし」
はぁっと溜息をつくマーサさん。そして俺。
マーサさんのは分からんが、俺のは面倒事が終わった安堵の溜息だ。
「それで、王の所に行かれますか?」
「んだね。全員居るんでしょ?」
「はい。宰相様、騎士団長様共に」
「んじゃ行こうか。あー例の万年発情期のヤツ等も呼び出しといて」
「畏まりました」
アジトから持ってきた財宝を床にぶち撒けてから、マーサさんと共に、この白い部屋を後にした。
マーサさんの後ろを着いて歩く。
人払いされてるのかすれ違う人も居ない。
だからと言って会話するでもなく、只黙々と歩く。
100m程歩いただろうか、オーク調の渋い感じの扉の前でマーサさんが止まる。
ノックを3回。
「入れ」
短い言葉を確認し、マーサさんが扉を開ける。
入室するとそこには3人のむさ苦しいオッサンが……
白を基調とした服、癖のある金髪に王冠を乗せた髭のオッサン。 この国の王 シュナイデル・フランフラン
紺の服に眼鏡。 白髪混じりの青髪に眼鏡。 痩せて鶴みたいな眼鏡。 この国の眼鏡宰相 ヴェント・フィール
銀の厳つい鎧に身を包んだカイゼル髭ゴリラ。 濃い茶髪で眼帯をしたカイゼル髭。 騎士団長 ピエール・ドラン
3人の視線が俺に集まる。
「つかさ、思うんだけど。 何故俺が足を運ばなければならん? 逆じゃね?普通」
「はは…… わ、私達にも体面と言うのがありまして……」
「人払いして体面も何も無いだろーが。 誰も見ちゃいねーよ」
「あ、あはは…… さ、ささ、先ずはお席へ」
進められるがまま着席する。
座ると同時に差し出される紅茶。
一口飲むと、芳醇な香りが口一杯に広がる。 流石マーサさん。 良い仕事である。
「無事のご帰還。 お喜び申し上げます」
王の言葉の後、マーサさん含む4人が一斉に頭を下げる。
「そんな社交辞令いらん。 ほれ受け取れ」
王に向かって聖剣を放り投げる。
「なっ…… ちょ、大事な物ですから丁寧に扱ってくだされ」
「知らん。 俺から見たらガラクタと変わらん」
色々確認してるが、勇者じゃないので当然鞘から抜けず。
「どうやら本物のようだが…… 勇者が来てから確認するとしよう」
そう言って横に置かれる聖剣。
「ほっほっほ。 今回も捕らわれた子女をお救いいただき、しかもバノール伯爵令嬢の窮地もお救い頂いたとか、誠に御礼申し上げます」
頭を下げる宰相。
お嬢さん救った情報、入るのが早えな…… 通信の魔道具か?
ま、行商人のハチって名乗ったから遅かれ早かれなんだが。
「名のある盗賊共も壊滅して、治安も上がってる。 誠素晴らしい活躍! がっはっは!」
おい、騎士団長。 高笑いしてるが本来お前の仕事だろ?
「ほっほっほ。 今回も財宝は御座いましたかな?」
「ああ、転移用の部屋にブチ撒けて来た。 好きに使え」
「ほっほっほ それでは有難く……」
コイツ等…… 今回の件で味を占めやがったな。
ぶっとい釘でも刺しておくか。
「お前らに言っておく」
王、宰相、騎士団長の順に顔を見る。
「今回は此処の主神ナディアさんに頼まれて聖剣って言うガラクタ探しの依頼を受けた」
「盗賊も、財宝も、子女救出もその序でしかない。 単なる俺の気まぐれにすぎん」
「要するに、今後もお前らの依頼を受ける気など一切無い」
此処で1度、皆の顔を見回す。
総じて顔色が良くない。
「盗賊に聖剣が盗またのを良い事に、どうせカチコミするんだから情報操作して幾つかの有名所の盗賊を潰してもらおうとか」
ビクっとし、目を見開き驚く騎士団長。
「初めて会った時の会話で、俺が金に執着しない事を知っていて、財宝を持って来させたら全て手に入るのを確信しているのも」
宰相の身体がブルブルと震えている。
「捕まった女に絆されて、くっ付けて、あわよくば国に取り込んで」
王の顔色は土気色だ……
「まぁ、女の件以外は上手く踊ってやったが……」
1度区切って全員の顔を見回す。
「分を弁えろ。どんな存在を相手してるのか考えろ。 お前ら程度が俺を利用できると思ってか? 余り舐めた真似してると、この世界、まるごと消えるぞ」
俺の身体から僅かに湧き上がる殺気。
そして震えあがる3人。 とマーサさん。
あらマーサさんごめんなさい。 でも俺の事知ってる9人の中の1人だし仕方ないよね。
しかし、すげーよな人間て。 神すら利用して、あわよくば支配しようとか……
「俺は優しかろう? 他の神なら即、国ごと消滅案件だ」
お読みいただきありがとうございます。