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エピローグ-1 旅の終着点

 早朝、日が東の空に見え始めたころ乗合馬車の停留所へと赴いた僕は、そこでステラさんたちと挨拶を交わし、目的の遺跡へと向けて出発した。

 ステラさんたちとの別れは案外あっさりとしたものだった。

 お互い目標のために頑張ろうと握手を交わし、ピスミスさんにステラさんを頼みますと言った時点で馬車が容赦なく出発してしまったのだ。

 なんとも締まらない別れだったが、ゆっくりと距離が離れている僕もステラさんも苦笑していた。


(なんというか、別れに慣れ過ぎた気がするよね)


 ごとごとと揺れる馬車の中、合計三人しかいない幌の中で僕はレイギスとさっきのことを思い直す。

 これまで結構な人数と出会いと別れを繰り返してきているおかげか、離れるということに多少の寂しさはあるものの、あまり悲しいという気持ちにならない。

 まあ、あくまでも旅行の途中の一期一会の出会いだったからということがあるかもしれないけど、それにしても今回の別れ方はあまりにも雑じゃなかっただろうか。

 御者さんももう少し考えてくれてもいいのではないかとは思ってしまう。


(ま、あくまでも旅行先の出会いだしな。別れるの前提なら、慣れるのも早いんじゃないか?)

(かもしれないね)


 けどそう考えると僕にとっては旅行だけど、向こうからすれば貴重な出会いだったかもしれない。

 この時代じゃ、商人以外はほとんど生まれた町や村から出ることはない。僕が出会った人たちは探索者や研究者が多いからその限りではないかもしれないけど、やっぱり地球よりも出会いと別れは確実に少ないはずだ。


(もう一度ぐらい会ってからでも良かったかな?)

(今更寂しくなっちまったか?)

(どうだろう。寂しいって感覚はあんまりないかな。けど心残りはあるかも)

(可愛い子ばっかだったしな!)

(そういうことじゃないんだけどなぁ)


 まあ確かにかわいい子ばっかりだった気がするけど。


(つっても今から戻るわけにもいかないだろ)

(そうなんだよね。だから割り切るさ。けっこうたくさん人助け出来たと思うしね)

(最低でも十万人は助けてるからな)

(地球なら絶対に無理そうな数字だ。けど助けた人数で何かを判断するつもりはないよ。大切なのは助けたいと思うことだと思うし。それが一人だろうと、子猫の一匹だろうと、重さは同じさ)

(いいこというねぇ。じゃあそんな重さを感じてみようか)

(ん?)

(盗賊だぜ)


 荒野を進む馬車。その後方から馬に乗った一団が現れた。

 武器や投げ縄を手に、こちらへと全速力で近づいてくる。


「盗賊!」


 僕が声を上げると、御者さんと乗合の人たちが一斉に後ろを振り返り、馬車が速度を上げる。

 けど幌馬車と単騎じゃ絶対に追い付かれる。

 僕が席を立とうとすると、正面に座っていた二人組が待ったをかけた。


「あんたは客だろ。こういうのはちゃんと仕事を受けた連中がやるもんだ」


 そう言って二人は立ち上がり、幌の中から御者へと指示を出す。

 ずっと同じお客さんだと思ってたけど、どうやら護衛の傭兵だったようだ。って言うことは、この馬車の客って僕だけ? そんなのに二人も護衛を着けて利益が出るのだろうか?


(日数契約とかなんだろ)

(ああ、馬車護衛の専属ってことか)


 大抵は移動の途中で護衛をして小銭を稼ぐものだけど、盗賊が多いこの地域では専属の契約をしていることもあり得る。

 特に乗合馬車なんて一日で何往復もしないといけないから、専属を日割り計算で雇ったほうが安く済むのか。

 一人が弓を取り出し、盗賊たちに射かける。一射目は命中、二射目は躱された。けど、盗賊たちの速度が目に見えて遅くなった。


「このまま逃げるのもいいが、どこかで諦めさせたいな」

「馬の調子はどうだい?」

「ちっと疲れてます! あんまり長くは持ちませんよ。次の町もまだ遠い!」

「なら片付けるか」


 二人とも凄い余裕だ。

 これが傭兵として生計を立てられる人の強さと盗賊に落ちた人たちの違いなのかもしれない。

 そう考える間にも、三射目四射目が放たれ、速度の落ちた盗賊たちを丁寧に撃ち抜いていく。

 その上残った片方が袋の中から何かを取り出し道へと撒いた。すると、そこを踏んだ馬たちがとたんに速度を落とす。


「今のは?」

「これか? これは土針だ」


 僕が思わず口にすると、男の人がそれを見せてくれた。

 見た目はまきびしのようにとげとげとした土塊だ。だがその硬さは鉄のように思える。


「コイツを踏めば馬だって驚く。人なら靴を貫いて足を刺すな。追ってくる奴らには最適の武器さ」

「道にばら撒いて大丈夫なんですか?」


 やはりまきびしのようなものらしいが、そんなものを街道にばら撒けば後から来る馬車や旅人にも被害が出ないのだろうか?


「ああ。こいつが硬いのは十分ぐらいだ。後は地面や空気中から水を吸ってすぐにボロボロになる。扱いは難しいが、あると便利なんだ」

「そんなものがあるんですね」


 興味深げにもらったまきびしをいじっているとポロッと針の先端が欠けてしまった。どうやら手の汗を吸って脆くなってしまったようだ。


「面白いですね」

「この国は盗賊が多いからな。いやでもこういう対策グッズは増えるわけさ。おかげで俺たちも楽に仕事させてもらってるよ」


 盗賊たちはまきびしによって距離を離され、その間にも矢に一人ずつ倒れていく。そして七人ほどの被害が出たところで諦めたのか、荒野の中へと逃げて行ってしまった。


「もう大丈夫だぞ。馬車の速度を落としてくれ」

「そうか。あんたらが護衛でほんと助かってるよ」


 御者が手綱を絞って速度を緩める。

 のんびりとした速度に戻った馬車の中、僕は護衛の二人から色々な対策グッズの話を聞きつつ、時間をつぶすのだった。


   ◇


 五日後、僕はヌワラーエ王国で最果ての町と呼ばれるエンディアに到着した。

 あの後、計三度盗賊に襲われたが、護衛二人が慌てることなく完璧に対処し、初日の盗賊と変わらない感じで撃退してしまった。

 ある意味安心感のある旅だったけど、安全な旅だったかといわれると首を傾げたくなる。やっぱり盗賊はいない方がいいよね。


(この町からは徒歩で行かないといけないんだよね)

(馬を遺跡に放置でもいいならそれでもいいぞ)

(徒歩で確定だね)


 そんな酷いことできるわけないでしょうが。

 ここからその遺跡まではおおよそ二日。探し回ることを考えても、四日分の食料があれば大丈夫だろう。

 今日一日で食料を買い込み、明日の朝出発することにする。

 町で一件しかない宿を取り、その部屋の硬いベッドへと倒れ込む。とりあえず今は休憩だ。お尻がいたい。

 最果ての町は最果てというだけあってここから南には町どころか道もない。ここがヌワラーエの終着点だ。

 町というよりも村に等しい大きさで、人の数も少ない。だが、開拓できる可能性が残っている場所でもあるということで、フロンティアを目指すものや、新たな鉱山を探す者たちが来ているようだ。この宿も七割ぐらいは常に部屋が埋まっていると言っていた。

 ただ宿に来るまでに軽く食料品を見た感じ、けっこう高い。周囲は荒地であり食料の大半は他の町から運ばれてくるせいだ。唯一安いのはこの近くでも栽培されているジャガイモぐらいだろう。

 ヌワラーエの特産がジャガイモと鉱石になるのもうなずけるというものだ。


(買い物行かないのか?)

(うーん、もうちょっと休憩。お尻の痺れが無くなる程度には)

(娼婦にでも撫でてもらえば一発じゃね? ここにはそういう店も多いみたいだぜ)


 どことなくワクワクしている声にうんざりする。また行く気だ。僕が寝ている間に。

 いっそのこと徹夜してやろうかとも思ったけど、さすがに明日から歩き詰めになるのだ、それはできない。

 ならいっそのこと――


「よし、行こうか」

(お、買い出しだな。とりあえず食糧と水だよな。残った金はパッと使っちまおうぜ)

「そうだね、派手に行こうか」


 決意を固めた僕は、金目の物だけを持って宿を出た。


   ◇


 ふぅ、お姉さんは凄かった。レイギスがはまっちゃうのも分かる気がする。


(裏切者ぉ!)

(パッと使おうって言ったのはレイギスでしょ)


 場所は色街。といっても通路一本程度だが、なかなかに沢山のお店が並び、店の前に立つ女性たちが道行く男たちに声を掛けている。

 そんな中、僕は一番大きな高級店でパッと散財させてもらった。もちろん旅支度のお金はちゃんと残したけど。

 いつまでもレイギスに僕の体で楽しまれたくないしね。旅の恥は掻き捨て。勇気をもって飛び込んでみたら、とってもいい夢を見させてもらいました。

 途中レイギスが交代しろとか五月蠅かったから、腕輪を外して諦めさせた。

 レイギスはただ見ていることしかできなかったのだ。


(フハハ、羨ましかろう)

(強制的にAV見させられてる気分だったぜ……)

(ささやかな復讐だよ。これで今日の夜行く必要はなくなったね!)

(ぐぬぬ……)


 さ、食料を買って宿に戻ろう。明日からは荒野探索だ。


   ◇


 翌朝、僕たちは荒野に向け出発した。

 人も動物もほぼいない荒野は、どこか死地を思わせる。そんな荒野を二日ほど歩き続け、目的の遺跡があるであろう山のを一日かけて探し回った。

 遺跡を見つけたのは、今日はもう無理だと思い始めた夕方だった。

 山の中腹にぽっかりと空いた横穴。その最奥に遺跡への入り口があった。

 階段が下へと延びており、魔導具の灯りが通路を照らしている。一般的な遺跡の仕組みと同じものだ。

 階段を降りていくと扉。それを開けると、床一面に描かれた巨大な模様がある。


「これは――パズル?」

(みたいだな)


 絵の模様はぐちゃぐちゃであり、四角形のタイルごとに動かせそうな隙間がある。


「これ何の模様だろう?」

(あー、これはあれだな。グロリダリアの国章だ)

「国章?」

(そ。要は国旗みたいなもんだ。統一世界だったからな。国旗と呼べるのはこれだけだった。ま、模様の完成形は俺が知ってる。それに合わせて移動させるだけだな)

「じゃあ指示をお願い。力は僕の方があるからね」


 石のタイルを持ち上げ、レイギスの指示に合わせて四隅からは目直していく。

 完成形が分かっているだけあって指示が早い。十分ほどで最後のパネルをはめることができた。

 すると石板の国章に魔力が流れ、嵌めていたパネルの床が両側に開いていく。


「この先だね」

(おう、行こうぜ)


 ずっと地下へ潜っていくのは、まるでレイギスと出会った地下の遺跡へ戻っていくようにも思える。

 コツコツと石の階段を下り、終着点に到着した。

 巨大な魔法陣が床面に描かれ、その中央には水晶玉のような球体が置いてあった。

 あの球体にも見覚えがある。僕の右手を貫いた奴だ。

 つまりこの遺跡は認証があることが前提なのだろう。


「触るよ」

(おう)


 球体に触れる。右手の紋章が輝き、スクリーンが展開された。

 ログインし、メニューを確認する。転移に転移システムの起動ボタンと座標の設定ボタンが浮いている。僕が座標のボタンを押すと、スクリーンには真っ黒な映像が映し出されていた。

 それはよく見ると小さな光がいくつも存在している。

 これはまさか――


(宇宙だな。後はお前が行きたいと思う星を思い浮かべろ。それをシステムが読み取って座標を固定する)


 僕は地球の日本、僕の生まれ育った町を思い浮かべる。

 すると宇宙の映像は切り替わり、僕の思い浮かべていた故郷の町が表示された。そこには見慣れたスーツ姿の人たちが歩き、学生が制服を着て、子供たちがランドセルを背負っている。

 その姿に鼻の奥がツンとなるのを感じた。やっぱり寂しかったんだ。突然この世界に呼ばれて、帰れるとは分かっていても一年近く旅をしてきた。

 帰れると分かっていても、やっぱり不安はあったから。


(月兎)

「なに?」

(これでお前が転移ボタンを押せば、その町にお前は転移できる。つまりこの世界から帰ることができる。ここでお別れだな)

「――――そっか。そうだよね」


 レイギスはこの世界の人間で、セフィリアさんと約束もしている。

 レイギスは昇華して彼女の元に行かなくてはいけないんだ。


(昇華用のキューブを頼む)

「うん」


 セフィリアさんに渡された、昇華用のキューブをカバンから取り出す。

 これを起動させれば、レイギスはグロリダリアの人たちが向かった次元へと向かう。僕とは永遠にお別れだ。


(月兎、ありがとな。お前のおかげで、俺はグロリダリアの先の世界を見ることができた。それにセフィリアの気持ちを知ることもできた)

「レイギスがそんなこと言うなんてらしくないね」

(かもしれねぇな。けどこれが最後だ。だから言わせてもらう。こんなことに巻き込んじまってすまん。それと俺のわがままを聞いてくれてありがとう)


 気づけば涙がこぼれていた。


「僕も、なんだかんだ楽しかった。それに、人助けの意味や難しさを知ることができたと思う。地球にいたままだったら、きっと僕は人助けという意味も、その難しさもわからずに、ただ無駄に時間を過ごしてしまっていたかもしれない。そう思うと、この旅も悪いことじゃなかったよ」

(そう言ってもらえると助かる。んじゃ、辛気臭い別れは俺たちには似合わねぇ。さっさと昇華させてもらうぜ。腕輪で人格の交換を頼む)

「分かった」


 スイッチを入れ、人格を交換する。

 レイギスは右手に持っていたキューブを躊躇いなく作動させた。

 輝くキューブの光が僕の体へと走り、肉体と魂の解析を行う。そしてセフィリアさんの時と同じように、光があふれ始めた。

 だが僕の体が消えることはない。


「じゃあな、月兎」


 そんな呟きと共に光が空へと昇り、僕の人格が表へと戻ってきた。

 僕が表へと出てきた。それが結果を表している。


「レイギス……」


 返答はない。僕の中にもうレイギスはいない。

 どこか心の中にぽっかりと穴が開いてしまったような気がする。なぜか肌寒く感じた。

 レイギスは戻るべき場所に戻ったのだろう。

 だから僕も――

 遺跡のキューブへと手を触れ、スクリーンの転移ボタンを押した。

 そして僕の視界は暗転する。

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