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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-16 空の攻防

 打ち鳴らされる警鐘は町中へと響き渡り、まだ眠っている人たちを夢の世界から叩き起こした。

 それは僕とステラさんも例外ではなく、慌てて寝巻のまま僕の部屋に飛び込んできたステラさんと共に窓から空を見上げた。

 そこには巨大な羽を羽ばたかせ、遥か高くを悠々と旋回する姿の巨鳥。映像で見た光景がまるでヌムルスの空に映されているかのように再現されていた。


(月兎、ポナムデイはあるか!?)

「ポナムデイは――見つからない。雲に隠れているのかも」


 ヌムルスの空は部厚い雲に覆われており、あの巨大な空飛ぶ島を見つけることはできなかった。

 だが、あの巨鳥が飛んできているということはもうすぐ側まで来ているということの証明だ。


(ならとりあえず鳥叩きに協力するぞ。やっぱ弓矢と大砲だけじゃ対応は厳しいみたいだ)


 ドンッと大砲が放たれる音はしているが、鳥が落ちてくる様子はない。

 そもそも、早朝とはいえヌムルスではすでに起きて働いている人も多い。上空を狙うのは、外れた矢や砲弾が落ちてくる危険性もあった。

 兵士たちができるのは、民間人を狙って降りてきた鳥を狙うことぐらいである。


「ステラさん、僕はあの鳥の対処に行きます。ステラさんは絶対に宿から出ないでください」

「は、はい。分かりました」

「あと着替えておいてくださいね。宿が壊されたら外に避難しないといけないかもしれないので」

「ひゃいっ!」


 ステラさんは自分が寝間着姿のままだったことに今更気づいたのか、慌てて部屋へと戻っていった。

 それを見送り、僕はレイギスと人格を入れ替える。


「んじゃ行くか」


 そして()は飛行の魔法を発動させ空へと飛び立つ。


   ◇


「トルポール・クウィエインペリウム・メドゥムサクト・イヴィレム」


 雷球の魔法を四つ、体の回りへと出現させて上空を旋回する巨鳥の元へと向かう。

 そして魔法を解放させれば、四つの球体から雷撃が放たれ巨鳥を貫く。

 魔物はこの程度の威力では死なない。だが飛べなくなるだけの痺れがあれば十分だ。下にはたっぷりと武装した兵士が構えているのだ。殺すのはそっちに任せる。

 こっちはポナムデイの対処もしなくちゃならねぇし、最初のうちから飛ばし過ぎないように注意しねぇと。

 一度に数匹の仲間が落とされたことで、巨鳥達の敵意がこちらへと集中する。


「こいこい! 全員叩き落してやるよ! グロリダリア時代に滅ぼされたことを思い出させてやる!」


 噛みつこうとする一匹を体を捻って躱し、その背中へと雷撃を放つ。続けざまに上下から挟み込むように襲い掛かってきた二匹を加速して引き離し、後ろに付かれたところでループ飛行のように空中で宙返りして二匹の後ろへと回り込む。

 巨鳥じゃこんな戦闘機動は取れないよな。

 驚く二匹を雷撃で仕留め、残りの巨鳥たちに目掛けて、俺は加速していった。


 十匹以上の鳥を仕留めたところで、増援が現れた。

 なんで落とされたことが分かったのか知らねぇが、どこかからモニターで見ていたのだろう。

 増援の数は五十を超える。五十年前の時はここまでいらなかったから出さなかったのか、それとも五十年の間に繁殖したのか。

 繁殖だとしたら面倒くせぇな。もう一度絶滅させるために、きっちり巣を潰さないといけない。


(レイギス、大丈夫?)

(数は問題じゃねぇな。どれだけいようと烏合の衆だ。いくらでも叩き落してやる。それよりもポナムデイだ。あれが町の真上に来るまでに制圧しないと、鳥をどれだけ落としても意味がねぇ)

(確かに。雲の上も調べてみる?)

(流石に雲の中じゃ戦いたくねぇんだが、仕方がねぇか)


 視界が悪い上にあの鳥は視界じゃなくて魔力でこちらを見ている。一方的に相手に有利な場所で戦うのはちと危険が伴うな。

 まあ仕方がない。やれるだけやるか。

 一気に高度を上げ雲の中へと突っ込む。増援の鳥たちは俺を明確な目標に定めているのか、同様に高度を上げ雲の中へと入ってきた。

 そして雲を抜ける直前、一瞬雲の中に影が見えた。

 慌てて体を捩じりつつ軌道を逸らすと、直前までとんでいた場所を鋭い嘴が挟み込んでいた。

 ガチンと重い音を立てて閉じられた口にはのこぎり状の細かい牙が無数に生えている。

 元の魔獣にそんな牙はなかった。もともとは人だろうが動物だろうが丸飲みにする魔物だ。牙は必要なかった。それが生えているってことは、人工的に遺伝子をいじられているのだろう。


「チッ」


 舌打ち一つ、雲を抜ける。そして俺を追って下から飛び出してきた鳥の嘴を蹴り飛ばした。

 体勢を崩して落下する鳥に後方の一匹が巻き込まれる。

 さらに雷撃を放ち四匹を落としたところで、それらを潜り抜けた鳥が目の前へと迫ってきていた。

 咄嗟に剣を抜いて口の中に差し込む。


(レイギス!)

(大丈夫だ。噛まれてはいない)


 剣は鳥の脳を貫いていた。

 危なかった。俺は月兎みたいに剣を使うことはできない。もしうまく刺さっていなかったら、月兎の腕が食いちぎられていたかもしれない。

 気を付けないとな。

 気合を入れなおして新たな魔法を詠唱する。


「ヴィントスプーダー・イリキスランジェ・アンスカクト!」


 相手を直接倒すだけが攻撃じゃない。

 吹き荒れる風が作為的に巨鳥へと襲い掛かり、その羽が与えるはずだった揚力を奪い去る。

 間接的な妨害も、空の上では致命傷となりえるのだ。

 最大範囲で放たれたその魔法は、周辺にいる半数以上の巨鳥から飛行能力を奪い去った。

 慌てたように羽ばたき、高度を維持しようとする巨鳥だが、その体は巨体の重さと重力に引かれて地面へと真っ逆さまに堕ちていく。

 範囲は地面から百メートルの位置まで届いている。もはや揚力が戻ったとしても、そこからの立て直しは間に合わないだろう。

 これで半数は一気に片付けた。残りは――

 後二十程度。そう思ったとき、本来ならば起こりえない現象が起きた。

 雲すら超え、遮るものが何もないはずの上空。そこで俺の体に影が差した。


(レイギス上!)

「んなっ!?」


 上を見れば、そこにはゆっくりと降りて来る巨大な山の姿。

 ポナムデイがゆっくりとその姿を町の上空へと現したのだ。


「大気圏外にいやがったのか!」


 道理で見つからないわけだ。情報センターが収集していた映像は、空気内に混入させたナノカメラの映像。それは空気の無い宇宙にまでは届かない。

 だから五十年間、一度も発見例が無かったのだ。


「このまま降りてくるつもりか」

(レイギス、急がないと)

「おう、鳥は後回しだ」


 空を蹴り、加速しながら降りてくるポナムデイへと近づく。

 土はなくなり、人工物のむき出しになった表面は、映像で見た山という印象よりも要塞に近い。

 その一つに窓らしきものを見つけ、そこへと飛び込む。


「コントロールキューブを探すぞ」

(あるとしたら中央か上かな?)

「だろうな」


 ポナムデイの下部には町一つを消滅させられるエネルギーキャノンが存在する。それだけのエネルギーを蓄えるのにもスペースは必要だし、動力源も近くにあるはずだ。

 となれば、安全性も考えてコントロールキューブの設置は中央かそれとも上層部の建物か。


「とりあえず上を目指すぞ」

「うん」


 走っている時間が惜しい。扉を破壊しながら俺は建物の中を飛翔していく。

 防衛用のタレットがいくつも設置してあり、それの弾丸を掻い潜りつつすれ違いざまに魔法で破壊していく。

 そして中央部付近まで上がってきた。

 通路の先に光が見え、そこへと飛び込む。


「ここは……動力炉か」


 そこにあったのは、巨大な円柱状の物体。中は赤く輝いており、巨大な魔石も見える。

 あれがポナムデイの動力になっているのだろう。


(破壊するの?)

「危険だ。ここで浮力を失えば、こいつが町に落下する」


 それだけでもかなりの被害が発生する。こいつを落とすならせめて町の外でなければならない。

 だが良いものを見つけた。

 動力源がここにあるのならば、こいつをコントロールするためのキューブへとつながるラインも存在するはずである。それを辿って行けば、最速でコントロールキューブへとたどり着くはずだ。

 動力源のラインは見たところ上層へと繋がっている。

 下層のエネルギーキャノンはこれとはまた別の動力を使用しているのだろう。

 ラインを追って上の通路へと飛び込む。

 そのまま進んでいくと、俺を挟み込むように隔壁が通路の上部から降りてきた。

 隔壁に雷撃の魔法を放つが、まるで魔法がかき消されたかのように消滅する。

 慌てて飛翔を止め着地するころには、障壁は完全に閉じてしまった。


「耐魔防壁か」


 希少金属を使った対魔法用の専用防壁。魔法で破壊するのは至難の業だろう。

 わざわざこんなものを用意している当たり、イーゲル・ルーゼットはグロリダリア人がコイツを破壊するために動くと考えていたようだ。


「どうするか」


 隔壁に耐魔防壁が使われている以上、周囲の壁も同じことだろう。

 つまりここは魔法使いを閉じ込めるための通路だったってことか。まんまと嵌っちまったな。


(レイギス、僕と交代して)

「あん、どうするつもりだ」

(斬る)


 そう言うことか。

 俺は即座に腕輪のスイッチを押し、月兎と人格を入れ替えた。

 表に出てきた()は、剣を柄へと手を掛ける。

 体に力が入ってくるのを感じる。人格が入れ替わったことで身体強化へと魔力が切り替わった証拠だ。

 それが十分に満ちたと感じた瞬間、僕は剣を振りぬいた。

 キンッと甲高い音と共に、退魔防壁に一筋の切り込みが入る。

 だがまだ斬れた訳ではない。

 

(ダメか!)

 

 この筋に合わせてもう一度――――


「ハァ!!」


 振り降ろされた剣は、寸分たがわず僕が着けた筋をなぞり、その傷をより深いものへと変化させる。

 これで半分。


(おいおい、マジかよ)

「これで終わりだよ!」


 三度目は下からの切り上げ。

 それは今度こそ退魔防壁を貫通し、一文字の切り口を開き、そこから防壁が崩れ落ちる。


「レイギス!」


 僕は即座にスイッチを押し、人格を入れ替える。

 ()は即座に飛翔魔法を掛けなおし、ラインを辿ってさらに上部を目指すのだった。

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