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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-15 前日の静けさなどなく、やはり絡まれるときは絡まれる

遅くなりました。

 翌日、僕は日が頂点へと昇るころにのそりと起き上がる。昨日までの強行軍は想像以上に体を疲れさせていた。その疲労をしっかりと取り除くためにも、今日はゆっくりしようとステラさんと相談していた。隣の部屋の彼女が今何をしているかは知らないが、きっと同じように遅くまで惰眠を貪っているんじゃないかな? ステラさんの方が疲れていただろうし。

 ベッド横にある窓からは外壁の様子が見える。昨日よりも兵士の数が増え、どことなく空を眺めている様子が多いようだ。領主様はしっかりと約束を守ってくれたということだろう。


(のんびりするとは言ったけど、ずっと部屋に籠ってるのもつまらないよね)

(どこか出かけるか?)

(近所の散策ぐらいかな)


 あまり遠くに行くとそれはそれで疲れそうだし、気が向いたらすぐに戻って来れるぐらいの場所がいい。


(ステラも誘うのか?)

(ステラさんの疲れ具合次第かな。何だったら、美味しいもの買ってきてもいいし)

(じゃあ行ってみるか)


 何事も聞いてみないと分からない。

 僕は部屋を出ると、隣の部屋の扉をノックしステラさんと声を掛ける。


「月兎さん、おはようございます」

「おはようございます。といってももう昼になっちゃいましたけどね」


 部屋から顔を覗かせたステラさんは、僕と同じように先ほどまで寝ていたのだろう。少し寝癖が残っている。


「近所を散策してみようかと思ってるんですけど、ステラさんはどうします? 良ければ適当にごはんも買ってきますけど」


 宿で出る食事は朝と夜だけだ。朝を逃してしまった以上、どこかで食べないと夜までは持たないだろうし。


「あ、じゃあ私も行きます。少し待っていていただけますか? 準備ができたら月兎さんの部屋に伺いますから」

「分かりました。じゃあお待ちしてますね」


 部屋で少し待つと、身だしなみを整えたステラさんがやってきた。

 いつもの探索用の服ではなく、町娘のようなおしゃれなカーディガンとスカートだ。

 ステラさんのスカート姿は初めてだったので、新鮮に思える。


「お待たせしました。どうでしょう? 久しぶりにカバンの底から引っ張り出してきたんですけども」

「とてもに合ってますよ。そういう服を持っていたことに少し驚きましたけど」

「んなっ! 月兎さんは私を何だと思ってるんですか!?」

「考古学バカ――ですかね」

「これまでの行動で一切否定できないのが悲しいですね。けどこういう服を着た以上今は普通の女の子です。しっかりエスコートしてくださいね」


 頬を膨らませてそう言った直後、くぅーっと可愛らしい音が響く。

 そして膨らんだままの頬がそのまま赤く染まっていった。


「じゃあごはんに行きましょうか。大盛のお店がいいかな?」

「もう! 月兎さん!」

「ははは、冗談ですよ」


 背中をぽかぽかと叩かれつつ、宿を出てどこか良さそうなお店を探す。

 昼頃ということもあり、どこのお店もなかなかの繁盛を見せていた。大きな町だけあって、店の数もこれまでと桁違いであり、どこに入ればいいのか悩んでしまう。


「せっかくだしこの町の特産とか食べたいですよね」

「ヌムルスは町が大きすぎてこれといった特産が逆に生まれづらいんですよね。むしろ、どこの町の料理も食べられることが特徴といった感じでしょうか? あ、でも名物はあるみたいですよ」


 ステラさんの指さす先にはヌムルス名物と書かれたのぼりが立っており、その店には数人が並んでいる様子だ。

 少し覗いてみると、どうやら芋料理らしい。


「行ってみますか」

「そうですね」


 少しだけ並んだあと、僕たちは席へと案内される。

 メニューは壁に黒板で書かれており、ランチは他よりも少しだけお得になっているようだ。


「あ、フライドポテトがある」

「芋煮に蒸かし芋、焼きポテトに揚げポテト、本当にお芋ばっかりですね。お酒にはどれも合いそうですが、ランチとしてはどうなんでしょう?」

「ランチメニューだと少し芋っけが押さえられたものもあるみたいですよ、ほら」


 そこにはシチューやオムレツなど普通の料理も並んでいる。まあ、中に芋が入っているのは容易に想像できるけど。


「じゃあ私は黒シチューにします」

「僕は白かな」


 料理を決めて店員さんにオーダーを頼む。

 しばらくして僕たちの前に並んだのは、角切りの芋に掛けられたシチューという、想像を超えてきた料理だった。

 セットはサラダとスープが付くがパンは付かない。その理由がこれだったようだ。


「凄いですね」

「まあ、これも文化なのかな?」


 名物ってうたってたし、パンよりも芋が主食の文化なのだろう。


(ヌワラーエって鉱石輸出が有名な国なんだろ? だったら肥沃な土地は少ないだろうし、芋が主食になるのも頷ける話だ。プアル辺りから穀物は輸入して初めてパンとかも作られ始めたんだろうよ)

(なるほど)

「あ、美味しい」


 芋にたっぷりとシチューを絡めて頬張る。確かに美味しい。

 何と言うか、シチューも美味しいが芋自体も美味しいのだ。普通の芋と何か違うのかもしれない。

 となると、フライドポテトも気になってしまう。地球と同じ感じなのか、それとも違うのか。


「どうしました?」


 僕がメニューを見ながら悩んでいると、ステラさんが首を傾げる。

 気になるメニューがあることを伝えたら、半分ずつ食べようとなかなか素晴らしい妥協点を提示してくれた。なので遠慮なくフライドポテトを注文する。

 ランチ時は常に揚げているのか、数分も待たずにたっぷりのフライドポテトが僕たちの前にデンと鎮座する。


「おお! フライドポテト!」


 それは細く斬られたポテトが挙げられた、僕に馴染みのある形だった。

 一本を手に取り齧れば、揚げたてのさっくりとした触感と僅かな塩気が伝わってくる。懐かしい。凄く懐かしい味だ。


「これも美味しいですね」

「ええ、頼んで正解でした」


 むしゃむしゃと山森ポテトを消費していくと、徐々に客の数が減って来た。

 そんなところにその一団はやってくる。


「お、ここ空いてんじゃん」

「なら飯はここだな。おい、エールを人数分だ!」

「つまみも持ってこい! 美味いもんをな!」


 なんとも粗暴な連中だ。五人組で店へと入ってくると、店員の案内も待たずに店の中央にある大テーブルへと座り注文を飛ばす。

 店員たちは慌てたように注文を受けていた。

 男たちは周りの迷惑も顧みずに大声で話す。嫌でも内容が耳に入ってきてしまった。


「しばらくは豪遊だ!」

「馬鹿どもには感謝しないとな! 落ちぶれた盗賊連中が俺たちに勝てるわけねぇってのに」

「お前らしっかり遊んでおけよ。金を使いきったらまた盗賊狩りだ」


 どうやら彼らは傭兵のようだ。

 この国の傭兵の主な仕事は盗賊狩りである。鉱山夫から落ちている盗賊たちは相応に力があり危険な存在だ。そんな彼らを戦う力のない落ちこぼれ、鉱山ですらまともに働けない屑だと言って狩るのが彼らの仕事である。

 聞いていてもあまりいい気分ではない。しかも傭兵の上下関係は完全な実力主義。そのせいか腕っぷしだけはいい荒くれものばかりがのし上がってしまい、こんなことになっているらしい。

 男たちはエールのジョッキを打ち鳴らし乾杯をすると、同じタイミングで出されたフライドポテトを貪っている。

 そんな彼らはポテトを摘みながらメニューをして声を上げる。


「おい、この店は芋しかねぇのか!」

「芋の専門店ですので」


 店員がそう返すと、男の一人が空になっていたジョッキを投げつける。

 重いジョッキが店員の額に当たり、店員は頭を押さえてその場に蹲ってしまった。


「なにが芋の専門店だ! 肉ぐらいあるだろ! さっさと持ってこい!」

「なにしてんだ! うずくまってねぇでさっさと注文を伝えて来い!」


 店員は慌てて厨房へと逃げるように駆けていく。そんな姿を見て男たちは笑い声を上げていた。

 あれはどう考えてもやり過ぎだ。だが周りの客が立ち上がる様子はない。まあ、傭兵相手に一人二人で立ち上がっても殴られて終わりだ。彼らの行動は正しいだろう。けど、店の外の人たちは兵士に連絡ぐらいはしてくれてもいいと思うんだけど、完全に見て見ぬふり。この国の傭兵というのがどれだけ厄介な存在かというのが嫌というほど理解できる。


「月兎さん」

「うん、絡まれる前に店を出よう」

(え、ボコらねぇの? 今の月兎なら楽なもんだろ)

(お店で暴力騒ぎは迷惑だよ)


 できるかもしれないけど、そんなことしたら今食べている人とかお店に迷惑が掛かるでしょ。絡まれないならそれに越したことはないよ。周りの様子的にもここではこれが当たり前みたいだし。

 幸い僕たちはほとんど食べ終わっている。静かに席を立ち、レジへと向かう。

 だがやはりというかなんというか、僕たちは傭兵たちに目を付けられてしまった。


「そこの女ども! こっちこい!」

(相変わらずの女カウントだな)


 ステラさんの体がビクリと反応するが、僕はその背中を押してそのままレジへと向かう。

 呼ばれたのは女どもだ。僕たちは男女の二人。勘違いです。


「無視してんじゃねぇぞ!」

「店員さん、お会計をお願いします」

「え、でも……」


 レジにいた店員さんも困惑の表情でこちらと傭兵たちの様子を見比べている。

 店内は静まり返り、食事の雰囲気ではなくなってしまった。

 僕はため息を吐きつつ、料金をトレーに置く。少しおつりがあるけど、もらっているよりも逃げたほうが楽そうだ。


「ステラさん、行きましょう」

「あ、はい」

「舐めやがって!」

(逃げられそうにないな)

(せめてお店の外にしたかったんだけどね)


 振り向きざま、投げられたジョッキを受け止める。ガラスのジョッキはかなりの重さで、さっきの人が頭から血を流すのも当たり前だ。


「危ないですね。人にものを投げてはいけませんよ。ステラさんは先に外へ」

「は、はい」


 ステラさんをまずは外へと逃がし、ジョッキをレジへと置く。

 こっちの態度に苛立ったのか、傭兵たちは全員が立ちあがりこちらへと歩み寄ってきた。そのまま先頭の男が胸倉に手を伸ばしてきたので一歩下がってそれを躱す。

 男は躱されると思っていなかったのか、たたらを踏んで止まった。


「一杯で酔っちゃったんですか? 傭兵っていうのはお酒に弱いんですね」

「てめぇ。ぶっ殺されてぇみたいだな」

「殺しは犯罪ですよ」

「傭兵は殺してなんぼの職業だからな。町に忍び込んだ盗賊一人殺したところで問題ねぇ訳だ」


 そう言って腰に下げていた鉈のような刃物を抜いた。店内から悲鳴が上がる。

 どうやら僕を盗賊認定したらしい。なかなか強引な手段だけど、周りの反応を見るにそれがまかり通っちゃってるんだろうな。なんでそんな連中を放置しておくのかね?


(軍備、金、職、色々と理由はありそうだけどな)

(世知辛いね。農業が盛んならもう少し何とかなりそうな気もするけど)

(それがない国だとどうしてもな)


 職がないから盗賊が現れ、食料がないから兵士の数が少なく、金を求めて傭兵が盗賊を退治する。仕方がないこととはいえ、傭兵が横暴になる土壌が出来上がってしまっているわけだ。なら彼らにもぜひ魔獣退治を手伝ってもらいたいね。どうせ無理だろうけど。


「刃物を抜かれればこちらも対処しないといけませんね」


 先に抜いたのは向こうだ。こっちはあくまでも防衛である。

 軽く踏み込んで男の懐へ。そのまま掌底を男の下顎へと叩き込む。

 刃物を抜いた男はそれだけでその場に崩れ落ちた。


「やっちまえ!」

「ぶっ殺せ!」

「頭ねじ切ってオブジェにしてやる!」


 一人がやられたことで他の男たちも動き出すが、先に動いているのはこっちだ。

 ちょっとお昼ごはんに来ただけだから刃物は持ってきてないけど、なら相手のを使えばいい。

 殺すつもりはないけど、横柄な人たちには少しは痛い思いをしてもらわないと。

 最初に倒した男から刃物を奪い取り、男の剣を受け止める。足払いで男を転倒させ、その脇腹に刃物を振り下ろす。

 傷は浅いから内臓には届かない。ただしばらく激しい動きはできない程度の怪我だ。


(手加減が上手くなってきたな)

(嫌な慣れだよ)


 さらに残りの三人もパパッと転倒させ、それぞれに足や肩などを切りつけてしばらくは仕事のできない体にしておく。

 流石に殺傷沙汰になると見て見ぬふりは出来なくなったのだろう。遠くから走ってくる兵士の音を聞いて僕はご馳走様と店員に言葉を残し、刃物を男たちに返して店から逃げるのだった。


 外でステラさんと合流した僕たちは宿へと戻ってくる。

 受け付けで紅茶を貰い、僕の部屋で食後と運動後の一杯を嗜んでいた。


「なんだか息抜きにはなりませんでしたね」

「やっぱり息抜きは部屋でするべきだね。ゆっくりとベッドで本を読むのが一番の息抜きになる気がする」

「それだとごはんに行けませんね」

「強面のボディーガードでも雇ってみる? とりあえずピスミスさんと合流すればこんなことはなくなると思うけど」

「とりあえずこの町が無事だったら考えましょうか」

「それもそうだね」


 この町が消滅したらボディーガードの意味もないし。

 その後はステラさんからのグロリダリア時代の質問などに答えながらのんびりと午後を過ごした。

 そして町に到着してから三日目の朝。

 日の出と共に町の警鐘が激しく鳴り響き、町に奴らが現れた。

 

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