6-14 深夜に女性の寝室へ。口を押えて拘束する月兎
「約束のない者は、たとえ他国の要人であろうとも館へ入れるわけにはいかない。直ちに立ち去れ」
当然と言うか、まあ入れては貰えずこの様子だと手紙を届けてもらうこともできないだろう。
(ま、当然だわな)
「面会の約束はどのように取り付ければいいでしょうか?」
「役所へ行け。そこで用紙に記入し順番を待て」
「分かりました。親切にありがとうございます」
文字通り門前払いを受けた僕たちは、館を離れ役所へと向かう。
けどすぐに面会って言うのは難しいだろうなぁ。あの感じだと何人も約束があるようだし、ただの順番待ちじゃあ今日明日に会うってことは出来なさそうだ。
僅かな期待を込めて役所へやってきたが、やはり受付の人が言うには最低でも一週間はかかるとのこと。
結局、面会の依頼書は出さずにそのまま宿へと戻ってくることになった。
「ど、どうしましょう。やはり強引に押し入るしかないんでしょうか」
「そうですね。領主様に話を聞いてもらえない以上、強引な手段に出るしかないと思います。あの鳥の量を考えれば、僕一人で対処するのは不可能ですし」
(俺一人でもさすがに無理だな。俺が三人いれば何とかなるかもしれないけど)
レイギスが三人もいたら、鳥以上の混乱が世の中にもたらされる気がするから絶対に嫌だ。
最初にけん制に来る鳥たちの対処は、どうしても数が必要になる。兵士の集められなければ、もし魔導具を止められたとしてもかなりの被害が出ることになってしまう。
強引に兵士たちを誘い出す手もあるにはあるが、やはり領主様から直々に指示を出してもらっていたほうが鳥に対する対処は楽になるはずだ。
「今日の夜忍び込みましょう。領主様の寝室に直接行って、強引にでも映像を見てもらいましょう」
「それしかありませんね。大丈夫です、私も覚悟は決めています!」
(手伝えるところは手伝うぞ。今回は俺も全力で止めたい事例だからな)
レイギスの協力が全面的に得られるなら心強い。この世界で現状、武力面でレイギスに勝てる人はいないだろうしね。
宿の人に早めの夕食を貰い、僕たちは早々に眠りにつく。そして深夜、人々が寝静まったころにひっそりと宿を出た。
領主の館から少し離れた場所にある路地に入り、そこから警備の様子を確認する。
流石この国の一番大きな都市の長の館だけあって、警備はかなしっかりしている。一定ごとに警備の兵が立ち、それ以外にも巡回兵もいるようだ。全員が魔導具のライトを所持しており、暗闇に隠れて潜り込むのは難しいかもしれない。
こんな時に隠密潜入ゲームをやっていてよかったと思う。何種類も潜入方法がスラスラと思い浮かんでくるのだから。
「ステラさん、下水道から入り込むか、巡回の兵を強襲して変装するか、それとも明日の朝運び込まれるだろう食料品なんかに紛れ込むか、どれがいいと思いますか?」
「なんでそんなに犯罪行為がスラスラと出てくるんですか……?」
「え、あはは。なんででしょうね」
ちょっとステラさんからは怪しまれてしまったが、決して犯罪はしていないですよ。ゲームだけです。
「下水からは難しいと思います。おそらくそこも見張りは立っているでしょうし、そもそも私たちが下水の道を知りません。明日の朝まで待つのもリスクが高いと思います。やはり変装するのが一番かと」
「分かりました。では少し待っていてください。装備を奪ってきます」
「はい。お気を付けて」
ステラさんと別れ、僕は建物の屋根を移動しながら巡回兵の後を追う。
巡回兵は二人一組で移動しており、気付かれずに倒すのは無理だ。なら、一撃で二人を潰さないと。
(レイギス、魔法で行ける?)
(あいよ。任せな)
意識を入れ替え、レイギスは近くの路地に魔法を放って音を立てた。
それに気づいた二人が確認のために寄ってきたところで上空から奇襲をかけ、雷撃の魔法で一瞬の内に気絶させてしまう。
(いっちょ上がり)
(ありがと。じゃあ服を剥ぎ取ってステラさんのところに戻ろう)
兵士たちの服は、兵士用の制服と魔導ライト、そしてヘルメットだ。それを全て回収して、ステラさんの隠れてる路地へと戻る。
「ステラさん」
「月兎さん、ご無事で」
「装備を回収して来ました。これを来て忍び込みましょう」
「はい」
ステラさんに服一式を渡し、路地の影で着替えてもらう。
僕もその間にさっさと着替えてしまい、ベルトの位置を調整しているとステラさんが戻ってきた。
「……ぶかぶかですね」
「月兎さんも同じ感じですよ」
まあ気づいてはいたよ。比較的体格の小さいチームを狙ったけど、僕たちからすればそれでも十分に大きなガタイだ。サイズで言えば二つぐらい違う。おかげでズボンはぶかぶか、裾はあまりまくりで肩も落ちてきそうになっている。使えるのはヘルメットぐらいかな?
「とりあえず裾をまくって何とかしましょう」
ベルトに新しい穴を開けて強引に締める。裾は内側に折り込んで折っているのをバレないようにする。肩はどうしようもないので、落ちてこないように頑張って張ることにした。
「じゃあ行きましょう」
「はい」
着てきた服を路地の隅に隠し、巡回している姿を装って屋敷へと近づく。
緊張した面持ちで兵士の前を通り過ぎるが、暗いおかげで顔が見えないのかそのまま通り過ぎることができた。
ぐるりと一周して入り込めそうな場所を探す。
正面はまず無理だ。魔導ライトで明るく照らされており、三人も兵士がいる。あそこでは確実に僕たちの顔が見られてしまい、変装がばれる。
周辺の壁も警備が厳しく、常に二人以上の視界が重なる様な配置になっていた。
けどそれは人の目。人為的なミスは必ずどこかで発生する。例えばこんな静かな夜中、突っ立っているだけでは眠くなるのは仕方がない。
巡回しているときに見つけた一人が、眠気でふらふらとしていたのだ。
僕たちはその兵士へと声を掛ける。
「おいおい、大丈夫か」
「んあ、ああ。だいじょうぶ」
「呂律が回ってないぞ。少し見ていてやるから顔洗ってこい」
「ん、すまん……」
視界の悪さと眠気、それを受けて僕たちの変装に気付かなかった男は持ち場を離れた。
これで視界の一つが奪われた。
そして隣にいた異変に気付いて兵士が近づいてくる。
「どうした。あいつどこ行ったんだ? ん、お前どこの部隊の――」
不思議そうな顔で近づいてきた男の鳩尾に拳を叩きこむ。
カハッと空気を吐き出し、声も出せずに蹲る男の首に腕を回し絞め堕とす。
「よし、これで目はなくなりましたね」
だが顔を洗いに行った男が戻ってきたら、すぐに侵入が発覚するだろう。ここからは時間との勝負だ。
僕は塀の上へと飛び乗り、ステラさんを引っ張り上げ庭へと侵入する。
物陰から当たりの様子を確かめると、犬が何匹も放たれていた。
すでに何かを感じているのか、しきりに周囲の音を拾おうと耳を動かしている。
(レイギス、あの犬どうにかできる?)
(任せろ)
入れ替わると、レイギスは即座に魔法を唱え地面に手を触れる。
すると僕たちとは反対側の地面が盛り上がり、木々を揺らした。犬たちは警戒したように飛び上がり、そちらへと駆けていく。
(どうよ)
(流石)
犬たちの注意を引き付けている間に、僕たちは屋敷へとたどり着いた。施錠されているガラスを割って鍵を開け、中へと侵入する。
犬の騒ぎに警備の兵士たちもそちらへ向かっているおかげで、侵入は容易だった。そして三階まで登り天井裏へと忍び込む。
それとほぼ同時に警笛が鳴り響いた。どうやらあの男が戻ってきたのだろう。
屋敷の灯りが点けられ、兵士たちが慌ただしく走り回る。
その様子を屋根裏からじっくりと観察し、僕たちは目当ての部屋を見つけた。
「失礼します!」
そう言って兵士たちが部屋の扉を丁寧に閉め廊下を駆けていく。あそこがおそらく領主の部屋だろう。
部屋の上へと進み、そこの板を少しだけ外して中を確認した。そこには寝間着姿でソファーに座る女性の姿。
「あの人が領主様? 女性だったんだ」
「知らなかったんですか? ヌワラーエ国王の姉君で、敏腕の政治家と有名ですよ」
「そうだったんだ」
王様のお姉さんなら、女性が領主でもおかしくないのかな?
まあ、そんなことを考えるのは後だ。
「じゃあステラさん、行くよ」
「はい」
僕たちは一度大きく深呼吸をして、天井裏から飛び降りる。
領主様は驚いたようにソファーから立ち上がり声を上げようとする。僕は手で領主様の口を押さえ、即座に拘束させてもらった。ちょっと手荒いけど仕方がない。
「お静かに。危害を加えるつもりはありません」
「私たちはこの町の危機を伝えに来ました。五百万人の命にかかわる問題です。どうか話を聞いてください」
領主様が一つ頷いたので、慎重に口から手を退ける。
「あなたたちは何者ですか」
「探索者と考古学者です。偶然遺跡で知ってしまった情報を伝えに来ました。時間が無かったため、手荒な方法になってしまったことは謝罪します」
「どこにも所属はしていないと?」
「僕はそうですね。彼女はパトロンとしてプアル王国の支援を受けていますが、今回のことに王国は関与していません」
「それを信じろと?」
「素直に話しているので」
これで信じてもらえなければ、再び拘束して目をこじ開け、強引に映像を見てもらうしかない。
「……いいでしょう。話を聞きましょう」
「ありがとうございます。ただ話をするよりも遺跡で得た映像を見てもらう方が早いかと」
「今出します」
ステラさんが腕輪を操作してスクリーンを展開させる。そして再生をスタートした。
流されるのは、五十年前の映像。消滅した都市でなにが起きたのかという事実。その後にはその魔導具の現在地と進路予想を地図を表示して伝えた。
途中、報告の兵士がやってきて慌てたが、映像を見ていた領主様が報告は朝聞くと言って兵士を部屋に入れないでいてくれた。
「いかがでしょうか? この町の危機を信じていただけるでしょうか?」
「俄かには信じがたい映像ですね。ですがその技術、遺跡の魔導具でしょう。どこで手に入れたのですか?」
「ヒュウエイの鉱山地帯にある新発見の遺跡です」
「なるほど。そしてその脅威がもう明後日に迫っていると?」
「この都市の人口が正確に五百万を超えていればそうなります」
「五百万を超えているのは間違いないわ。戸籍を用意して余裕をもって発表しましたからね。となれば、来るのでしょうね。あなたたちはそれを伝えてどうしたいの? 避難は間に合わないわ。兵士でもこの魔導具を破壊することは不可能でしょうね。要人だけなら逃がせるかもしれないけど、私はこの町を捨てるつもりはありませんよ」
「魔導具は僕が何とかします。領主様には兵士に指示を出し鳥の対処をお願いしたいのです」
「なんとかできるのですか?」
そうしなければ五百二万とステラさんが死んでしまうのだ。
ちょっと規模が大きくなってしまったけど、これは人助けであることは間違いない。
僕ができる全力を尽くして、この魔導具と戦う。
その決意を込め、僕は断言した。
「必ず破壊します」
「――いいでしょう。兵士には明日から上空警備を厳にするよう伝えます。後はあなたたちに任せます」
「ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
僕とステラさんは深々と頭を下げる。
「では帰りなさい。兵士に出口まで案内させます」
領主様はそう言うと、僕たちが止める間も無く兵士を呼ぶ。
扉を開けた兵士が、僕たちの姿を見て驚き剣を抜こうとするが、それを領主様が止め出口まで丁重に案内するように命令した。
兵士は納得いかないながらも、僕たちを出口まで案内してくれる。
「お前たちが何をしたのか知らんが、次はないぞ」
「はい。お世話になりました」
正面門で僕たちは兵士の人たちに一礼し、監視の隠密たちを引き連れて静かな町中を歩く。
「緊張したね」
「もうこんなのはこりごりですよ」
「僕も。盗賊に追われてた時の方が楽だったよ」
「ふふ、確かにそうですね。けど一番の問題は片付きました」
「うん。後は僕が頑張るだけだ」
空を見上げる。明後日にはここに魔導具がやってくるのだ。それを何とかできなければ、今日の行動も無意味になってしまう。
(レイギス、頼むよ)
(おうよ。全力で魔道具は破壊してやる。大船に乗ったつもりでドンと構えてな)
(頼もしいね)
これまでも困ったときはレイギスがいつも解決してくれた。
だから今回もきっと。そう思うと、少しだけ気持ちが楽になる様な気がしたのだった。




