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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-11 技術の裏に血は流れ

「イリベラルフーガ・アンスザクト」


 飛翔魔法を発動させ、低空飛行で一気にゴーレムへと接近する。

 開幕のファイアーボールはゴーレムの表面を軽く焦がした程度だ。あいつなら何ともないだろうが、確実にこちらを標的にするはずだ。

 ステラは階段のところから動くなと言ってある。階段はゴーレムの対象範囲外なのはさっきのことで分かったしな。

 後は万が一の流れ弾を発生させないよう立ち回りを気を付けるだけ。

 正直に言って、それさえ気を付ければこいつは俺の敵ではない。

 足元へと入り込み上昇。頭部の前まで跳ね上がり、手の平に溜めていた魔法を放つ。


「アンス・レリーズ!」


 ハスタムイーシェ。氷の槍がゴーレムの顔面に放たれ、激しい音を立てながらその一つ目を貫いた。

 警備ゴーレムの弱点は一つ目のカメラと各部関節。装甲部分は耐熱、耐寒、耐電仕様のなかなかに優秀なものだが、それを関節にまで使うとコストが爆上がりするからな。

 大量生産のコイツには向かない仕様だ。それを逆手にとって立ち回る。

 衝撃にふら付いていたゴーレムが、体勢を立て直しこちらに向けて拳を振るう。

 こちらは素早く上昇して拳から逃れると、天井に手を付き勢いを殺す。さらに新たな魔法を足の裏へと準備した。


「ソゥリクルムラ・オクトレム・イリキスインペリウム。ピンポイントに狙うなら、やっぱまずは拘束しないとな」


 そして思いっきり天井を突き飛ばし、その反動で地面へと着地した。同時に足裏に待機させていた魔法が発動する。

 八本の土の柱がゴーレムの回りを囲むように現れ、その動きを拘束する。

 全力で硬くした柱だ。警備ロボ程度じゃ簡単には破壊できない。ましてや、腕が柱の間に挟まって力の入らない今の状態じゃな。


「んじゃトドメと行くか」


 柱の上に乗り、動けなくなったゴーレムを見下ろす。

 やっぱ警備ロボは雑魚だな。こんな程度の能力で何を守ろうとしてたんだか。

 まあ、グロリダリアじゃ犯罪は事前に防止するもので、鎮圧はあまり考えられていなかったからこのレベルでも良かったのかもしれないが。

 あの時代には何かするには必ずAIを使って社会システムにコネクトしないとまともに買い物もできなかったからな。逆に言えば、犯罪をするような商品を購入すれば一発でバレるということだ。俺やセフィリアレベルの科学者ならハッキングもできたが、俺たちレベルになるとそんな低レベルなことに興味はなかったし。


「ハスタムイーシェ・アンスレム・イリキスインペリウム!」


 生み出された巨大な氷の槍。最大限の威力に設定したそれは、鉄すら容易に打ち抜くだけの硬度を持っている。

 それをこちらを見上げるゴーレムの首元目掛けて放った。

 ぐしゃりと金属のねじ曲がる音がして破片が辺りへと飛び散る。

 膝から崩れ落ちたゴーレムのカメラからゆっくりと光が消え、完全に沈黙した。それを確認して、柱の魔法も解除する。


「ステラ、終わったぜ」

「凄いですね……魔法がここまでのものとは」

「ま、ここまで使いこなせるのは少ないけどな」


 強制的に魔力を増やしていたとはいえ、それを十全に使いこなすには相応のトレーニングが必要だった。だが、日常生活をするうえで、そこまで魔法を極めようとするものはすくない。便利な道具があるのだからそれを使えばいいじゃないかと。ライター持ってんのに、わざわざ火打石で火を起こす奴はそれがよっぽど好きな奴だけだ。


「今の時代の人ではそこまでの魔法は使えないということでしょうか?」

「まあ自然に生まれてくる連中には難しいだろうな」

「月兎君は違うのですか?」

「コイツの出自はちょっと特殊だからな。この世界の一般とは比べられねぇよ。それより俺はもう戻るぞ。後は月兎と探してみな」

「あ、はい。ありがとうございました」


 俺が腕輪を押して人格を入れ替える。

 そして僕が表へと戻ってきた。


「じゃあレイギスの言う通り、奥に行きましょうか」

「はい。何があるのか楽しみです」


 残骸を避けて奥の通路へと入る。そこからはさらに階段になっていた。

 随分と地下深くに設置してあるようで、長い階段をひたすらに降りていく。

 そしてようやく到着したそこで、僕は大きく息を吐いた。


「はぁ――凄い」

「これは……世界中の映像でしょうか?」


 ステラさんもその部屋に浮かぶ数多のモニターに何が映されているのか、すぐに気づいたようだ。知っている街並みでも映っていたのだろう。

 そこはまるで、監視カメラの制御室のような部屋だった。

 階段状になっている講義室のような部屋は大きく、百人以上は入ることができるだろう。

 そんな部屋の奥には数えきれないほど大量のモニターが空中に浮かび、数多くの地域の光景を今も映し続けている。

 どこかの村人が畑を耕す光景、商人の馬車、町の買い物、貴族の屋敷、国の会議室、辺境の荒野、盗賊たちのねぐら

 法則性など一つもなく、ただひたすらに映像を映し続けるモニターだけがあるこの部屋が何のために作られたのか、少しだけ想像出来た。

 僕はそれを確認するため、あえて声に出して尋ねてみる。


「レイギス、ここは情報収集のための部屋なの?」

(そうだ。俺たちが何らかの原因でこっちに戻ってきた場合、それまでの歴史や経済、技術なんかを確認するために設置された収集センターだな。空中に散布されたナノサイズの無数のカメラで映像を記録しているんだろう。後は最悪こっちに残ったナチュラリストが何等かの原因で必要とした場合に使うとかな)

「全ての情報を集めるための魔導具ってことだね」

「凄い。そんな技術があったなんて……グロリダリア、完全に私たちの常識を上回っています」

「これがステラさんに見せたかったもの?」

(まあな。ここならありとあらゆる情報が手に入る。それは俺たちが昇華する前の情報もだ)

「昇華する前の情報、もしかしてグロリダリアの歴史を?」

(そういうこった。そっちにコントロールキューブがあるだろ。アクセスできるはずだぜ)


 部屋の隅に設置されたコントロールキューブを見つけ、僕はそこへと手の平を乗せる。

 スクリーンが浮かび上がり、いつものログイン画面が現れた。

 そこに念じてパスワードを打ち込むと、操作パネルが表示される。


「ステラさん、レイギスが見せたいものを今から映しますね」

「お願いします」


 感動に打ち震えながら、必死になにやらメモを取っていたステラさんは、目を輝かせて頷く。

 僕はレイギスに言われた年を指定して映像の再生をスタートさせる。

 とたん、室内に爆発音が響き渡る。

 体の中から振るわせるような重低音は、どうやら映像と共に再生されているようだ。

 だがそんなことを知らないステラさんは、驚いたようにその場にしゃがみ込む。


「な、なにが!?」

「映像の中の音です。気にしないで大丈夫ですよ」

「音まで記録できるんですか!?」

「ええまあ。それよりも今は」

「あ、映像ですね!」


 二人で再生される映像を見る。

 それはどこかの戦場だった。地球のものとは違う飛行機が飛び交い、地上では魔法と共に爆発が起きる。

 人がまるで埃のように宙を舞い、人の形をとどめずに地面へと散らばっていく。それを戦車が踏みつぶして進み、敵側の戦車によって打ち抜かれ爆発を起こした。

 辺り一帯を火の海に変え、尚も人は殺し合う。

 それは平原でも、山岳部でも、荒野でも、そして町中でも同じであった。

 高層ビルが次々に倒壊し、一瞬前まで生きていた人がいつの間にか腕だけになっている。

 人を数で扱い、地上をボードゲームのように使う、凄惨を極めた光景がその場には広がっていた。


「こ、これは……」


 ステラさんは口元を押さえ、そんな非現実的な光景から目を離せなくなっていた。


(レイギス、この戦争はいつのもの?)

(丁度魔法技術が発展し始めたころのもんだな。飛翔魔法による航空戦力の強化や、それを利用した侵略戦争の映像だ)

「魔法の発展期の映像、つまりステラさんが伝えた場合に起こりうる光景ってことだね」


 レイギスがここを目指した理由が分かった。

 魔法、魔道具という技術の危険性をいまいち理解しきれないステラさんに、分かりやすく教えるためにここを目指したのだろう。

 歴史という何よりの証明を持って。

 今のステラさんには、それを再現するだけの情報と知識があるから。


「そんな……これが魔法の発展した世界だって言うんですか」

「発展する途中で起こりうる未来だね。必ずそうなるとは限らない。けど、人の欲望に晒された力がどんなふうに変質するか。それを分かりやすく表したものであることには間違いないよね」


 空を飛びたい。そんな思いが生んだ飛翔魔法が、航空戦力となって多くの人を殺す。

 純粋な願いによって生み出されても、それを知った人は想いなど無視して変質させてしまう。


「これはまだ甘い方だと思いますよ」

(だな。月兎の中の歴史を見ても、これはまだ個人が戦ってる。ま、後々同じようなもんは作られるけどな)

(やっぱり行きつくところは大量殺戮だよね)


 きっとグロリダリアにも核兵器と同等の物があったのだろう。

 実際に使われたかどうかは知らないけれど、ここを調べればそんな映像も出てくるかもしれない。


(けどこんな映像ばっかり見せるのもずるいよね。魔法を発展させたからこそ、出来た世界もあると思うんだけど)

(ああ。だいたい十年後の再生してみろ)


 僕が日付の設定を直して、再び映像を再開させる。

 そこには宇宙へと旅立つ笑顔の人々の姿があった。魔法義手によってなくなった腕を取り戻す人の顔があった。難病から魔法によって救われた赤ちゃんの姿があった。


「魔法を発展させればできるかもしれないこと。それがこれだね」

(まだまだ沢山あるけどな)


 道具は使い方。殺戮兵器は生活基盤を支えるエネルギーとなり、航空戦力や戦車は便利な移動手段となり、魔法は死にゆくはずの命を繋いでいた。


「これが先ほどと同じ世界で起きていた出来事だって言うんですか!?」

「ほんの十年での変化だよ。それだけ魔法は人を発展させる。ただその間に死ぬ人の量はこれまでの比ではないだろうけどね」

(あの時の戦争は人口の三割が死んだからな。それ以上死んでいたら、人としての組織すら危うくなってた。戦後三年はけっこうヤバかったらしいぞ)

「レイギスは、教えるにしても教えないにしても、ステラさんにはちゃんと知っていてほしかったんだと思う。この選択はきっとどっちを選んでもどこかで後悔することになると思うから」


 生と死、両方の可能性が混じったこの決断は、一人に課すには重すぎる問題だ。

 だからこそ、どちらを選んでも選んだ人は必ず後悔する。ならばせめて、どちらも正しく、どちらも間違っていたことを知ってもらい、その後悔をちゃんと受け止められるようになっていて欲しいと思ったんだと思う。


「こんなの……こんなのどうしようもないじゃないですか!」

「ステラさんの知識はそういうレベルの代物なんだよ。だからこそ真剣に考えて欲しい。まだ時間は沢山あるしね。それに旅を続ければ、おのずと見えてくるものがあるかもしれない。どうせまだ着いてくるんでしょ?」

「それは……はい」

(ハハハ、やっぱ今も昔も学者は学者だな! 自分の知識欲には抗えねぇ)


 まあそうだろうとは思ったよ。


(で、レイギスの見せたかったものってこれだけ? 他にもあるなら見せるけど)

(ステラに見せたかったもんはこれだけだな。後は個人的に調べたかったものだ)

(何を調べればいいのかな?)


 スクリーンには、年代以外にも情報を検索して映像を表示させる機能もある。

 レイギスの望む情報があれば、それを検索すればいい。


(ナチュラリストでグロリダリア後を頼むわ。俺たちの残した魔導具をいじった野郎を特定するぞ)

(それがあったね。分かった)


 そう言えば歪められた魔導具なんてものもあったね。確かにここならその犯人が調べられるかもしれない。まあ、もう死んじゃってるかもしれないけど、歪められた魔導具の情報も手に入るだろうし。

 僕はレイギスのあげた単語を検索ワードとして入力し、映像を検索するのだった。

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