6-3 何気ない会話の中から探る、相手のひ・み・つ
祖父の説得へと向かったミレイナさんといったん別れ、僕たちは港から町へと移動する。
そして宿近くにある喫茶店へと入った。
店員さんに頼んで店の奥の影になっている席を頼む。基本的に人気のない席らしいが、色々と話すには都合がいい。
「さて、まずは謝罪をしないといけないわね」
「謝罪ですか?」
「気づいていたんじゃないかしら? この町に入ってからの尾行や監視」
「ああ、あれってステラさん所の部隊だったんですか」
「不愉快な思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」
ステラさんに合わせて、ペレオーレさんも深々と頭を下げる。
「頭を上げてください。特に実害があったわけでもありませんし、僕としてもむしろ当たり前のことぐらいに思っていましたから」
なにせ王城に乗り込んでるし、王子様蹴ってるし。それで何のお咎めもなくはいさようならとなったせいで、むしろ不気味だったぐらいだ。
あれ――でもステラさんたちはそのことで追いかけてきたわけではないみたいだし、そうすると本当にはいさようならとなっているような。
「あ、あの。つかぬ事を伺いますが、プアル王国でも僕の存在ってどうなっているんですか? 色々とやらかしちゃったんですけど」
「特に何もありませんね。確かに色々と危険な橋を渡られたようですが、それを表沙汰にすると国としても知られたくないことが多いので」
「なるほど……」
危ないことに突っ込みすぎて、逆に表沙汰にできないと。
「王家の方々も、特に深くは気になされていないようです。むしろ、あの魔導具の正しい使い方を教えてくれたことを感謝していましたよ。今は同じような過ちが起きないように、遺跡を徹底的に調査し学術的に資料を残そうとしておられます」
「そうですか。安心しました」
(王国とのあれこれは完全に解決したと思っていいみたいだな。心配は杞憂だったみたいだ)
(うん。まあ、ちょっと別の形で継続しているともいえるけど)
主に知的好奇心を爆発させている目の前の少女とか。
そしてステラさんの説明を引き継ぐように、ペレオーレさんが口を開く。
「すでに監視や尾行をしていた兵士たちは引かせています。もともと、どこかのタイミングで声を掛けるために張り込んでもらっていただけなので」
「分かりました。では結局ステラさんは本当に僕に会うためだけに?」
「ええ、マスダ村からずっと探していました。月兎さんは私が知る誰よりも古代の遺跡や魔道具について詳しく知っています。私はその秘密が知りたかった」
さて、どうしたものか。
考え込むふりをしながら、脳内のレイギスに問いかける。
(レイギスの存在、ステラさんには劇薬だよね)
(古代人の存在を嗅ぎ付けてはいたからな)
それが僕かそれとも別の人間がいるのかということまでは分からなかったようだが、知識量からグロリダリア人の存在を感じていた。
そして彼女の行動力はセフィリアさんのようなグロリダリア人の科学者にも引けを取らない。
そんな存在にレイギスの存在を明かせばどうなるか。
まず間違いなくストーキングは悪化する。
そもそも辺境からここまで、ほぼ国を横断する形で見たこともない人物の影をひたすら追ってきたのだ。目の前のそれが想像を超えるレベルの存在だったとすれば――ちょっと行動が読めないですね。
だからレイギスの存在は伏せたほうがいいだろう。あくまでも僕の知識として、それをどこまで話すか。
(ある程度教えないと納得はしないだろうな)
(けど一から全部説明するのはさすがに面倒だよ)
(適当にヒント出しつつ、後は自分で研究しろって煽ればいいさ。セフィリアみたいに引きこもって調べ始めるはずだ)
(研究者の気質をよくご存じで)
簡単に方針を決めたところで、口を開く。
「全てを教えることはできません。僕も探索者ですから仕事もありますし。けど、何が知りたいのかを言っていただければ、それに繋がるヒントぐらいはお話しできるかもしれません。まあ、あくまでも僕が知っている範囲内の話ですが」
「それで十分よ! 私だって研究成果を全部くれなんて言われたらぶん殴っているもの。ヒント。そう! 私はそれが欲しいの!」
そう言うとステラさんは、なにやら自分のカバンをガサゴソとあさりはじめる。
そして取り出したのは羊皮紙の束。
「とりあえず、これまでに疑問に思ったことはここに纏めてあるわ! この中からヒントになりそうなものがあれば教えて欲しいの!」
その束、辞書ぐらいの厚みがある気がするのは気のせいですかね?
いくら羊皮紙が分厚くてごわごわしているとはいえ、厚切りを自称するとんかつ屋すら超えそうな分厚さの紙束に目元が引き攣る。
「どうせ時間あるわ。あの子がおじいさんを説得しないと魔導具は直せないしね。あ、そっちはそっちで興味があるのよ。魔道具の直し方なんてなかなかみられるものじゃないし、そっちも見せてもらっていいわよね?」
「ええ、まあ」
「ありがとう! あなたにあえて本当に良かったわ! じゃあ私は一度部隊の人たちと打ち合わせして、陛下への連絡とか今後の行動とか決めないといけないから、この辺で失礼するわね。あ、ここの食事代は私たちが出すから、好きなだけ飲み食いしていいわよ。じゃあまたね」
兵士の人が一礼し、テーブルの上に分厚い紙束を残して彼女たちは去って行った。
(ふぅ、ある意味厄介な人に絡まれたね)
パラパラと紙をめくってみると、文字に文化に歴史に技術、ありとあらゆる質問がびっしりと書き込まれていた。
どれもグロリダリア人であることを前提とした質問のようなので、僕に答えられるものはそれほどないだろうが、いちいち全部確認するのが面倒だな。
(とりあえず一番高いもん注文しようぜ。奢ってくれるっつうなら遠慮することはねぇ)
(そうだね)
この後の苦労を考えれば安いものだ。
僕はメニューの中から一番高い旬の野菜と牛フィレの包み焼を注文するのだった。
◇
今の私の心情を表すとすれば「最高の気分である!」この一言に尽きる。
これまで疑問だった多くのことを解決できる目途が出来た。
彼は自分の仕事の情報だから答えは教えずにヒントを出すと言った。
聞く人によっては上から目線の嫌な奴に思えるような言葉だ。
だけどその裏に隠されているのは、ヒントとして情報を小出しにできるほどそのことについて熟知しているという事実。
答えだけを知っている人間にヒントは出せない。過程を知るからこそ、答えに至る情報を教えることができるのだ。
誰かに物事を教えるには、その三倍の理解が必要などともいうがそれと同じだ。
彼は自分が古代人であることを否定したが、私の中ではまだ三割ほど古代人である可能性を考えている。
きっと私の渡した質問の中から、彼は古代の歴史などの情報は綺麗に抜いてくるだろう。
けど技術と歴史は常に繋がっている。
ヒントの中に私は彼が古代人であるかどうかの答えが紛れ込むだろうと確信していた。
気分よく町を歩いていると、後を追ってきたペレオーレさんが声を掛けてくる。
「ステラ様、部隊を招集しますか?」
「行動方針とかはペレオーレさんがいれば大丈夫ですよね? 一応ピスミス隊長にも声を掛けたほうがいいかしら?」
「そうですね。決めるのは私になるでしょうが、知っておいてもらったほうがいいかと」
「じゃあピスミス隊長とペレオーレさんは後で私の部屋に着てちょうだい」
「分かりました。半刻ほどで伺います」
「お願いね」
そして私たちは自分たちが泊まっている宿へと戻ってくる。
数日間過ごした私の部屋はすでに私物でぐちゃぐちゃだった。資料や服が散乱し、なぜか下着がドアノブに引っかかっている。
昨日の私は一体何をしていたんだろうかと首を傾げたくなるような惨状だ。ピスミス隊長は女性だから気にしないけど、さすがにこの部屋に男性のペレオーレさんを呼ぶのは憚られるわね。
話し合いの場所を変更してもらおうかしら?
いえ、この機会にちゃんと整理しましょう。もしかしたら、月兎さんの泊っている宿に移動するかもしれないしね。
私は腕まくりをすると、よしと気合を入れて荷物の整理に挑むのだった。




