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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
六章 考古学者の少女とグロリダリアの魂
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6-2 本人はいたって真面目かもしれないけど、傍から見れば変質者なんてことはよくあること

 事務所へと入った僕たちは、対面するソファーの思い思いの位置に座る。

 僕の隣にはあの混沌とした場をとりなしてくれた兵士さん。正面には、まだ目をキラキラとさせている眼鏡の少女。眼鏡の少女の隣に褐色の少女とそのおじいさんが座っている。


「とりあえずお互いに自己紹介と立場の説明から始めましょう。ここに集まった時点で皆さん分かっているとは思いますが、念のためロンドルさんからお願いできますか?」

「む、そうか。おほん、ワシはロンドル。この港で代々舟渡を営んできた家系だ。知っていると思うが、不届き者に商売道具を壊され今は休業しておるところじゃ」


 不届き者というところで一瞬僕に視線が向いた。どうやら完全に誤解が解けたわけではないらしい。


「じゃあ次は私ね。私はミレイナ。おじいちゃんの孫で今年で十七歳だよ。お父さんたちは前の嵐の時に水難事故で死んじゃったから、私が四代目を継ぎたいと思ってるの。まあ、船が直せればの話だけどね」


 アハハと笑顔を見せているミレイナさんだが、その笑顔がどうも空々しい。何と言うか、無理して笑っている感じだ。

 船が直せることはあまり期待してない感じかな? 四代目を継ぎたいって言うのは間違いなさそうだけど。


(爺さん的にもあまり継いでほしくはないみたいだな。四代目の話が出た時点で目元が動いていたぞ)

(水難事故で息子さんたちを亡くしているなら仕方がないかもしれないけどね)


 とすると、もしかしたらおじいさんにとっては今回の事件は意外と都合がよかったのかもしれない。魔道具が直せなければ家業は廃業ということになる。ミレイナの若さならまだどこにでも就職は可能だろうし、そっちを望むかもしれない。

 となると、魔道具を直して運んで欲しい僕たちとは意見が分かれるかも。説得は――難しいかな?


「じゃあ次は私ですね。私はステラ。今年で二十一になります。先日まではとある貴族の方の食客として支援を受けながら古代文明の研究を行っていました。今は王家から支援を受け、とある人物の捜索を行っていました」


 その視線が思いっきり僕を見ている。

 というか、そのとある人物って間違いなく僕だよね。王家も絡んできているとなると、本格的にきな臭くなってきたんだけど。

 けど、兵士さんたちの動きが僕を捕らえようとしている感じではなかった。


(今の時代の科学者みたいなもんか。もしかしたら、お前からグロリダリアの情報を聞き出そうとしてるんじゃないか? さっきもそんな感じのこと言ってたろ)

(ああ、僕の秘密を知りたいとか言ってたもんね)


 となると、王家が僕の知識を求めた感じかな?

 確かに僕が――というか正確にはレイギスが有する知識は今の時代の人間からすれば喉から手が出るほど欲しいものだろう。

 追手を出すのも当然かもしれない。


「まあ、より正確に言うと王家から依頼される前から月兎さんのことは探していましたが」

「どういうこと?」

「白の厄災。この名前に聞き覚えは?」

「……ある」


 あるというか、え――そこから? 僕がこの世界にきて最初に係わった事件じゃん!

 そこからずっと追ってきていたの!? 執念強すぎない!?


「やはりあなただったんですね。その後に探索済みの遺跡で何かを見つけましたね! その後は貴族の所有するホムンクルスの修理に王家の事件。地下遺跡で新しい魔道具を発見した人の中にもあなたの名前があったわ! シェンブルに行ったのもきっとそこに古代の秘密が隠されていたからでしょ!」

「ステラ様、落ち着いてください。話が脱線しすぎています」

「あ、ごめんなさい。こほん。ともかく私はあなたをずっと探していたの。ここに来たのも、魔道具に興味があったのも本当だけど、ここならあなたが来る可能性が高いと踏んでいたからよ」


 何この子怖い。僕の行動ほぼ全部知られてる……


(スゲーな。ちょくちょく抜けてる部分はあるが、まあそこまで大きな事件でもなかったしな。しかも月兎が人助けしていることまで感づいてやがる。こう言うの、月兎の世界では何つうんだっけ? ――ああ、ストーカーか)

(言わないで。本気で怖いから)

「ではステラ様の関係者である自分が次を」


 次は僕の隣に座る兵士さん。


「自分はプアル王国第二特務隊所属、副隊長のペレオーレ・ミゲルドと申します。第二特務隊にステラ様のサポートの命が下り、護衛および雑用などをさせていただいております」


 普通にいい人そうだ。安心できる雰囲気もある。

 まとも過ぎてレイギスの苦手なタイプかもしれないけど。

 ペレオーレさんの自己紹介が終われば、おのずと最後は僕の番になる。

 集まる視線の中、僕は口を開いた。


「僕は探索者をしている月兎と申します。年齢は十六で、出身は日本という国です。魔導具の暴発でプアル王国に転移させられたようで、帰る方法を探して各地の遺跡を探索しながら情報を集めています。今日ここに来たのはちょっと打算的なので言うのが恥ずかしいですが、壊れている魔道具を直すことができれば、安く川を渡らせてもらえないかなと思ったからです」


 とりあえず今はしっかりとここに来た目的を白状しておく。

 おじいさんに変に疑われたままなのも困るし、さりげなくプアル王国に留まるつもりはないということのアピールをするためだ。

 出身のことも話したのも同様。帰るための魔導具を探していると言えば、止めることはできないだろう。強引に拘束しようとするならこっちも強引な手を使うだけだしね。


「なるほど、そう言うことじゃったか」

「ふふふ、月兎さんも人が悪いわね。素直に困っている人がいたからって言っちゃえばいいのに。月兎さんはね、各地で困っている人の魔導具を直したりしながら旅をしているのよ。私がここを嗅ぎ付けたのもそれが理由だもの」

「……」


 いつもは自分で人助けとか豪語しているけど、他人に言われると凄く恥ずかしい。

 頬が熱くなるのを感じて俯いていると、膝に置いていた僕の手を何者かが掴んだ。

 驚いて顔を上げれば、目の前にミレイナの顔がある。


「月兎君ならうちの船を直せるの!?」

「えっと、見てみないと分かりませんが、魔道具の故障なら大丈夫だと思います」

「その自信、それだけの知識と見たわ! 是非私も修理には参加させてほしいのだけど!」

「喜んでだよステラさん! みんなで船を直して家業を再開しよう!」

「ダメだ」


 盛り上がっているミレイナさんを止めたのは、ほかならぬおじいさんだった。


「もともとあの魔導具は古いものだ。何代にも渡って使ってきていたから痛みも酷い。直したところでいつ故障するかどうか分からないものでは船は出せん。ミレイナ、この機に他の仕事を探してみなさい」

「何でよ! これだけ魔導具に詳しい人たちがいるんだよ! 直してもらって、メンテナンスの方法も聞ければもっと長く使っていけるよ! おじいちゃんのおじいちゃんから継いできた家業をここで途絶えさせちゃっていいの!?」

「それでも駄目なものは駄目だ。船の持ち主である儂が修理は拒否する」


 そう言うとおじいさんは勢いよく立ち上がり事務所を出て行ってしまった。

 残されたのは気まずい雰囲気と落ち込む様子のミレイナさん。

 可哀そうだとは思うが、おじいさんの気持ちもわかるからなぁ。他人がどうこう口を挟んでいい問題じゃないかもしれない。


「まあ、気持ちは分かりますけどね。息子さん夫婦を水難事故で亡くしてるんでしょう?」


 どうやらステラさんも同じ気持ちのようだ。


「けどお父さんと約束したんです。お父さんが四代目になって、私が五代目になるって。けど、お父さんはもういないから、せめて私が四代目を継がないとって」

「それはおじいさんも知っていることなの?」

「はい、小さいころから何度も話していましたから」

「それでもやめて欲しいとおじいさんは思っているんでしょ? 不安なんだよ。孫にまで先立たれたらって」

「それは分かるよ。水の事故は死に直結するから。だけど、だからこそ私たちは、ちいさいころからずっと水の側で生きて水のことを勉強してきたの。この川と向き合って、この川と生きていきたいと思ったから」


 事務所の窓からも川の様子が良く分かる。

 時折立つ白波や変なうねりはどう考えても普通ではない。この川と共に生きるということは、死と隣り合わせに生きるということだ。


「それにあの船を壊れたままにはしたくないよ。あれはうちの家宝だもん。こんな倉庫の隅で埃を被った最後なんて嫌だよ」

「ですが所有者がロンドルさんである以上、自分たちが勝手に修理してしまえば犯罪になります」

「私が説得してみせるよ!少し時間は掛かっちゃうかもしれないけど、私の想い、必ずおじいちゃんに分かってもらうの!」

「じゃあ月兎さん! 私たちはその間にたっぷりお話ししましょ!」

「あ、う、うん……」


 なんだろう。目を輝かせるステラさんの姿に、普通に高い料金を払ってでも川を渡りたくなってしまった。

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