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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
五章 星霜の思いと眠りの魔導姫
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5-10+EX4 執念によって絞られた道は、彼らをゆっくりと近づけていく

 僕とレイギスは入れ替わり、改めて僕は表へと出てくる。

 自分の体なのに、勝手に他の人が動かしているのは不思議な気分だったけど、何と言うか一人称のゲームでも見ているような気分だった。

 僕は無事に話が付いたはいいが、色々と自分をさらけ出す羽目になり少し恥ずかし気にするセフィリアさんに問いかける。


「それで、セフィリアさんは昇華しちゃうんだよね」

「そうね。私は今の世界に興味があるわけじゃないし」

「レイギス一筋だもんね」

「五月蠅いわね! いちいち恥ずかしいこと言わないでよ!」

「ごめんごめん。それで、どうやって昇華はするの? さっき装置があるとか言っていたけど」


 将来的にはレイギスも昇華するだろうし、どんな方法なのかは知っておいてもいいと思った。


「まあ、見せたほうが早いわね」


 セフィリアさんは自身が眠っていたカプセルへと近づき、外装のカバーを取り外す。

 もともと収納スペースのようになっているのか、そこから遺跡でよく目にしたキューブを取り出す。


「これが昇華用の魔法が込められたキューブよ。これを発動させると、キューブが転移門になって魂を肉体から門の先、昇華された空間へと送るの」

「それで送る魂の判定はどうやって決めてるの?」

「魔法を発動させた人が対象――ああ、そういえばそうね。何も対策せずに月兎君がこれを使うと、レイギスだけがこっちの世界に残されて月兎が転移することになるわ」

「やっぱりか!」

(ま、そのあたりは俺の方で月兎の魂にプロテクト掛けるか、俺が月兎の魂だと偽れるように偽の情報をキューブへと送るさ。そのあたりは何とでもなる)

「っていう話だけど、大丈夫かな?」


 レイギスの言葉をそのまま伝えると、セフィリアさんも当然とばかりにうなずいた。


「大丈夫だと思うわよ。レイギスはずいぶん魂に関しての研究を進めていたみたいだし、こっちの世界でも色々仮説は立てているみたいだしね」


 その結果があの人格入れ替えの腕輪なのだろう。

 あれが成功している以上、そこまで心配する必要はないとのこと。


「そっか。良かった」

「レイギスがこっちの世界にほれ込んで、月兎君を犠牲にしてでも残る! なんて思わない限りは大丈夫だから安心しなさい」

「微妙に不安になったんだけど」


 レイギス、娼館に行きたいからこっちの世界に残るとか言い出さないよね?


「じゃあ私はそろそろ昇華させてもらうわ。向こうの様子も気になるしね。レイギス、あなたもちゃんと約束は守りなさいよ」

(分かってるって)


 セフィリアさんは持っていたキューブに魔力を込め、魔法を発動させた。

 彼女の周囲に幾重にも魔法陣が浮かび上がり、スキャンするように上下する。

 そして魔法陣が両端へと移動し、ゆっくりと中央に向かって動き出した。それに合わせて、魔法陣を超えた部分から肉体が消滅を始める。


「昇華ってこんな感じなのね。結構気持ちいいわ。枷から外されるみたいな感じ」


 ギリギリまで実況のように話していたセフィリアさんの口が消え、言葉が消える。

 足も消滅し、まるで魔法陣の間に胴体だけが固定されているようだ。そしてその体も魔法陣の中へと飲み込まれた。

 手に持っていたキューブだけがその場に残され、地面を転がる。


(ふむ、枷を外す感覚か。となると、物質世界の感情論にも信ぴょう性が出るな。ま、そのあたりは向こうでもう証明されているか)

「なんというか、宗教的なものまで科学されている感じだね」

(そうだな。突き詰めれば自然とそうなるもんだ)


 科学も突き詰めていくと、生命とは何か、死とは何かへと行きつくらしい。

 そこには必ず宗教的な極楽や地獄がすでに存在しており、熱心な信者とはぶつかることになるのだとか。

 まあ、それすら超えたのがグロリダリア時代なのだけど。


(んじゃ、俺たちも帰ろうぜ。目指すは隣国ヌワラーエだ。あ、キューブの回収は忘れるな。それ再利用できるから)

「あ、そうなんだ」


 僕は落ちていたキューブをカバンの中へとしまい、部屋を後にする。

 部屋へと続いていた隠し通路を出ると、再び遺跡が振動を開始する。扉が閉まり、その奥からガラガラと崩れ落ちる音が聞こえてきた。

 今の時代に何かを残すつもりはないらしい。


(ま、あいつらしいな。無償とかスゲー嫌ってたし)


 遺跡を出ると、すでに日が傾き草原を赤く染めている。

 まあ、日が暮れるころには町に戻れるだろう。港町への定期馬車にうまく乗れればいいけど。

 そのあたりも明日探してみないと。


「じゃあ帰ろうか」

(おう)


 眩しい夕日に照らされながら、僕たちはシェンブルの町へと戻るのだった。


   ◇


「なんで! この町に! 来ないのよぉぉおおお!」


 町中で叫ぶ私に、周囲の人間は不審者を見るような目でこちらを一瞥し通り過ぎていく。

 すぐそばにいた兵士たちは、困惑したように頭を掻いていた。


「ずっと南下してたじゃない! なんでここでいきなり東に動くの! ヌワラーエを目指してたんじゃないの!?」

「と、言われましても、ヌワラーエへの定期馬車にその少年が乗ったことは間違いないかと。今早馬を送っていますが、情報が入るのは明後日になると思います。それとも我々もシェンブルに向かいますか?」

「むぅ――いいえ、ここで情報を集めるわ」


 これまでずっと少年の足跡を追ってきたけど、王都でようやく彼に追い付くことができた。

 後は確保というところで、国という強力なバックアップを手に入れることもできた。

 けど、王都では人が多すぎる。その上、祈祷祭の終了と共に一斉に王都から人が離れるから、その中から少年一人を見つけるのは砂漠の中から宝石を見つけるのに等しい。

 であれば、少年の進路を予想して先回りするのが定石。

 と、思ってこれまでの足跡から南へと下っていると判断した私は港町であるメロウへと一足先にやってきたわけだけど、いくら待っても少年が来ることはなかった。

 それどころか、シェンブルやメロウと王都を結んでいる定期馬車の御者がそれらしい少年の姿を見たという。当然行き先はここではなくシェンブル。唐突な進路の変更に頭を抱えたわけだ。

 けど今から追ってシェンブルに行ったところでこれまでとやっていることは同じになってしまう。

 幸い、シェンブルから行ける町というのは限られているし、その中でもメロウは港町になるだけあって大きな町だ。

 物資の補給や探索者としての仕事を探すのであれば、ここ意外だと考えにくい。

 だから私は待つことにした。


「少年がシェンブルに向かった理由は知りたいけど、とりあえず早馬の情報待ちね。こっちは町と港、両方の入り口を見張って少年を確実に見つけます。けど、強引に確保とかはしないように。少年は犯罪者ではないわ。重要な情報を知っているかもしれないというだけなのだから気を付けてね」

「了解しました。部下には指示を徹底します」

「お願いね。私はこの周辺で少年の目を引きそうなものはないか調べます」

「ハッ!」


 部隊を解散させ、私は酒場へと向かう。

 と言っても酒を飲みに行くわけではない。先ほども言った通り少年のおめがねにかかりそうな情報を先に仕入れるためだ。

 どこにでもある探索者酒場に入り、カウンターで適当に注文を取りつつ周囲の会話を盗み聞けば、この町の周辺の情報は大抵わかるというもの。


「越境船の値段が――」「国境を越えたいが――」「飲みに宿に武装に――」「近くにめぼしいもんは――」「上流へ移動――」「セイオンの船が駄目に――」


 なんとなく漏れ聞こえてくる話には不景気なものが多い。多くの冒険者が、国を渡りたくても金が足りずに渡れなくなっているようだ。

 越境船の値段が上がっていることはすでに知っていたが、そこまで値上がりしているとは思っていなかった。これは少し調べたほうがいいかもしれない。

 少年が値上がりを知って上流へと移動することも考えられたが、彼は貴族から潤沢な謝礼金を貰っている。値上がりしていても謝礼金の中身からすればそこまで大した問題ではないだろう。

 なら彼の目を引きそうなものは何か。

 周辺の遺跡はめぼしいものはないとのこと。秘密通路を知っている可能性もあるが、そこまで考え始めるときりがない。

 搾るなら情報の出ている魔道具か。

 そこで気になったのが、セイオンの船という話題。

 セイオンという人物が営む越境船の船が何者かによって破壊されてしまったらしい。しかもその船は魔道具であり、最近の大型船の大量輸送の流れに逆らって小型艇での個人経営だったようだ。それを嫉んだ誰かの仕業だろうと噂されているが、真相は定かではない。

 壊れた魔道具とそれ故に困っている人の存在。

 この二つを聞けば、今まで色々なところで人助けをしてきた少年が放っておけるわけがない。


「よし、これに絞って見ましょうか」


 狙いを定めた私は、グラスのお酒を一気に煽り、酒場を後にするのだった。

 

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