5-8 感情は複雑に絡み合い、放たれた思いは心を貫く
すみません、遅くなりました
(レイギス、昇華しないって本気なの?)
用意されたジャンクパーツの山を漁りながら、改めて尋ねる。
セフィリアさんは着替えてくると言ってさらに奥の部屋へと入っていってしまった。
(ああ。向うでやりたいこともないしな。お、そいつは使える、確保だ)
(これは確保。こっちはいらないと――けど本当にいいの? セフィリアさんは昇華してほしそうだったけど)
(あいつなら別に大丈夫だろ。向うにいても一人ってわけじゃねぇんだし。そもそも俺の家の隣に来たのも、ほとぼりが冷めるのを待ってただけだしな)
(本当にそれだけかな?)
いや、それだけでわざわざレイギスの家の隣には引っ越さないでしょ。
(ま、プログラムの勝負を継続したいってのはあるだろうけどな。今のところ俺の勝ち越しだし)
(それはあるかもね)
セフィリアさんとのエピソードを聞く限り、かなり負けず嫌いみたいだし。
今回いきなり勝負なんて言い出したのも、レイギスに勝ちたい一心だろう。
(って、流されるところだった。そうじゃなくて、セフィリアさん、レイギスのことが好きなんじゃないの?)
(なんでそうなる。ひたすら実験台にされた挙句、犯罪者の汚名着せられて、職場を首になった原因を作った相手だぞ。お前、それ聞いて相手を好きになれるか?)
(無理)
いや、無理だけど! 普通に考えれば、レイギスのしたことって最低だし、どうしようもないし、かなり意地悪なんだけど!
それでも、好きじゃなきゃずっと付きまとうなんてことできないんじゃない?
(仮にあいつが俺のことを好きだっていうんなら、感性疑うぞ。つかそれかなりのマゾヒストだろ)
(否定はできない)
結構色々な魔法の実験台にされているみたいだし……
やっぱり僕の勘違い? でもなぁ――
(ほれ、さっさとパーツ探しちまうぞ。もう作るもんは決めてあるんだ。後はそのパーツを探すだけなんだからよ)
(あ、うん)
レイギスに言われるまま、僕はジャンクの山の中から多くの部品を回収していくのだった。
◇
着替え終えたセフィリアさんが戻ってきたのは、それからすぐ後のこと。
スーツの上から白衣という何とも分かりやすい科学者スタイルだった。
「随分と部品を取り出したみたいね。もう作るものは決めてあるってところかしら?」
「レイギスが言うにはそうみたいです」
「ならお互いの結果発表は今日の夜にでもできそうね。私も作る魔導具は決めてあるし」
「分かりました。ただ、一つ問題が」
「どうしたの?」
魔道具を作るって言うことは、製作過程に魔法が絡むということだ。だけど僕は魔法を使えないし、そもそもレイギスが何を作ろうとしているのかも理解できない。
だから、レイギスが出てきて直接作ってもらうしかないんだけど、こんなところで眠れるわけないよねって言う話で。
それを伝えると、セフィリアさんはちょうどいいものがあると言って、カプセルのあった部屋の引き出しから何かを取り出しこちらに投げ渡す。
キャッチして手の中を見ると、錠剤の入ったケースが収まっていた。
「この薬は?」
「即効性の睡眠導入剤よ。飲めば十分程度で抗えない眠気に襲われるわ」
「なんでそんなものを」
誰かに飲ませたとか……
ちょっと怖いことを想像してしまったが、セフィリアさんの答えですぐにそんな妄想は消滅する。
「あのカプセルに入るときに使ったのよ。長期睡眠に入るって言っても、最初は自然に眠らないといけないしね。けど、やっぱり緊張とか興奮で眠れなくなっちゃうから、それを使うの」
「ああ、なるほど」
「効果が切れるのも早いんだけど、その時にはカプセル側の魔法で長期睡眠状態だからね」
「どれぐらい効果があるんですか?」
「二時間ぐらいね。レイギス、それで大丈夫かしら?」
(どう?)
問いかけると、レイギスらしい自信満々の答えが返ってきた。
(問題ねぇな。道具は揃ってるんだ。一時間もありゃ完成する)
「一時間もあれば大丈夫だそうです」
「相変わらずの自信ね。それを裏付けるだけの実力があるのが憎たらしいわ」
(誉め言葉だな!)
「じゃあ私も準備を始めないとね」
その言葉を最後に、僕たちの会話は途切れた。
後はひたすらジャンクの山から部品を漁り、使えるものを掘り出す音だけが室内に響いていた。
それぞれが必要なパーツを集め終え、別々の部屋へと入る。
(じゃあレイギス、後は任せるね)
(おうよ。あいつを絶望の淵に叩き落す最高の魔導具を作ってやろう)
(ほどほどにね)
いつものように豪語しているけど、今日はいつも以上に気合いが入っているような気がした。
懐かしい友との遊びに気合いが入るのかもしれない。
前からいじめていたって話だし、楽しみの一つになっているんだろうなぁ。
けどセフィリアさんだって勝つために色々と準備をしているはずだ。きっとアッと驚くような魔道具を出してくるはず。
レイギスは何を作るつもりなんだろう?
(ほれ、あんま時間がねぇ。さっさと寝てくれ)
(あ、うん。そうだね)
考えるのは後でいいや。どうせ目が覚めた時には答えが出ているだろうし。
僕はセフィリアさんから受け取った錠剤を水で流し込み、部屋の隅に設置してあったベッドへと横になる。
グロリダリア時代のベッドは、ふかふかでこの時代のものとは別物だ。地球のものよりも寝心地がいいかもしれない。
これ、持っていけないかな。そんなことを考えていながら目を閉じると、すぐに襲ってきた眠気によって、僕は意識を落とすのだった。
◇
表へと出てきた俺は、早速作業に取り掛かる。
部品をくみ上げながら魔法を使い、その中にプログラムを書き込んでいく。
魔導具のシステムは、大まかに二種類の方法で組まれている。一つは核となる部分に魔法を入れ、それを補助する形で外装として機材を入れるタイプ。そしてもう一つは各部品に少しずつ魔法を入れ、組み合わせた時点でパズルのごとく一つの魔法となる様に設計されたタイプだ。
後者の方が製作難易度は高いが、その分魔法を入れる容量も多くなるため、難しい魔法を魔道具として製作することができるようになるわけだ。
たぶんセフィリアもこのタイプで魔道具を作ってくる。というか、俺たちのレベルではすでに前者の方法で作れる範囲を超えてしまっているのだ。
圧倒的に容量が足りず、仮に前者の方法で作るのであればサッカーボールサイズの魔導具が出来上がるだろう。そんな持ち運びに不便な物、作品としては最低である。
だから、ある程度の技術力を持つ科学者はみんな後者で作る。
立体パズルを組み上げるように魔道具を製作しながら、俺は自分の感情が高ぶっているのに驚いていた。
思っていた以上に、あいつとの魔法や魔道具の開発勝負は俺の刺激になっていたのだろう。
出会った当初のあいつの技術力はお世辞にも高いとは言えなかったが、何年も勝負を重ねるうちに一門のレベルまで到達していた。
今のあいつならば、古巣の大学院の教授だって歯牙にもかけない。統一政府の魔導具研究機関からだってスカウトが来てもおかしくないレベルだ。
それでも、俺には届かないけどな。
「さて、後はこいつを組み込んで」
最後のパーツに魔法を組み込み、ほぼ完成形となった魔道具にはめ込む。
これで俺の魔導具は完成した。
完成したのは、無骨な腕輪。サイズは月兎の手首にピッタリのサイズとなっている。俺はそれを右手首に装着し、ボタンの位置などの確認を行い、問題がないことをチェックした。
「色々と制約が面倒だったからな。これで少しは臨機応変に動けるようになるだろう」
立ち上がり部屋から出る。そこにはすでに魔道具を完成させたセフィリアの姿があった。
セフィリアは俺を一度睨みつけると、プイッとそっぽを向いてしまう。これはあいつの最大限の怒り方だ。
俺が永眠すると言ったことは、それほどまでに気に食わなかったらしい。
「そっちの魔導具は完成してるんだな」
「愚問ね。そっちこそ、ちゃんと動く魔道具を作ったんでしょうね」
「俺を誰だと思ってやがる。グロリダリア一の天才科学者だぜ」
「ふん、その肩書も今日で最後よ。今日からは、グロリダリアで二番目の科学者にしてあげるわ」
お互いにいつも通りの挑発をして、テーブルの上にそれぞれの魔導具を置く。
「勝負はいつも通り、お互いに魔道具の効果を実践してみせる。ジャッジは――月兎君にでも頼んでみる?」
「バカ言え。あいつは魔道具に関してなんも知らねぇ。価値を理解できねぇやつに、勝負の行方なんか任せられるか」
「あの子に何も教えてないの?」
「そもそも魔法に関する一切が扱えないからな」
異世界から来た月兎の肉体、その特性について俺はセフィリアに簡単に説明する。
あいつも一端の科学者だ。魔力を一切持たない生命の存在は、かなり興味を引かれたのか、メモを取りながら俺の話を聞き言っていた。
そして、ボソッと呟く。
「解剖してみたいわね」
「流石にやらせねぇぞ?」
今は俺が借りてるわけでもあるわけだし。
「そんなことわかってるわよ。って、それより勝負よ勝負。もう二時間近く話しちゃってるじゃない」
「ヤベッ、月兎が起きちまう。いや、そっちの方が都合がいいな」
軽い眠気が襲ってきていることに気づいて、俺は月兎の起床が近いことを知った。
そしてちょうどいいと俺は月兎と交代する。
「あれ、ここは?」
突然起きた月兎は、状況を飲み込めず周囲を見て驚いていた。
そんな月兎に声を掛ける。
(おはよう月兎君。ちょうどいいところに目覚めてくれた。今からお互いの魔導具を試すわけだが、君にはその実験台になってもらうぞ!)
「実験台!?」
にゃはは。いい驚きだ。
(安心したまえ。俺の魔導具は完璧だ)
(昨日の話を聞いてて、安心できる要素はどこにもないんだけど!?)
(まあ、そこは大丈夫だ。今回は月兎にも恩恵のある魔道具を用意してみた)
(えっと、これだよね)
机の上。目の前にある腕輪を見る。
(そうそう。そいつを右手首に装着してボタンを押し込んでみろ)
(あ、うん)
月兎は勢いに弱いな。流されるように腕輪を装着すると、そのボタンを押し込んだ。
直後、ピリッと体に静電気のような痛みが走り、紋章が光る。
「実験成功だな」
そして俺と月兎の人格は入れ替わった。
(え!?)
「月兎、聞こえてるか?」
(う、うん。けどこれって!?)
「俺とお前の人格を入れ替える魔道具だ。どうだ、いつも見てる俺の視界は。なかなか面白いもんだろ」
俺の作った魔導具は効果の通り、肉体の主導権を入れ替えるものだ。
いつも月兎がピンチになって気絶してからじゃないと出てこれなかったからな。さすがにそれじゃ、頑丈な体を持っていても後遺症が出る可能性がある。
んで、そんな心配を無くすために俺が作った魔道具がこれってわけだ。
ボタンを押せば、紋章の魔力と共鳴して俺を表に引っ張り出す。月兎は代わりに俺の椅子に座るわけだが、いままで俺が出ている間はずっと眠っていた月兎からすると、この光景はなかなか面白いもんだろ。
(なんか不思議な感じ。映像を見ているような、ロボットに乗り込んだような)
(自分の操作から離れてるからな)
「ま、そういう訳で、俺が作った魔道具は主導権変更の魔導具だ。もちろん、もう一度ボタンを押せば元に戻る」
(それを聞いて、一番安心してるよ)
その後、何度か交互にボタンを押して、人格を入れ替えて遊んでみたりもしたが、魔道具に異常なし。その安全性も証明された。
「どうだ、俺の魔導具は」
「なかなかやるわね。なら次は私の魔導具よ」
さて、セフィリアはどんな魔道具を作ってきた。
机の上にあるのは、単発式の拳銃。魔力や魔法を放つ銃なんてものはグロリダリア時代にはいくらでもあったし、そんなつまらねぇもんじゃねぇだろ。
俺が観察していると、セフィリアは銃を手に取り、その銃口をこちらへと向ける。
「殺傷武器じゃないから安心して。もっと心に響くものよ。鈍感なレイギスにはちょうどいいね」
そう言ってセフィリアが引き金を引く。
あいつの右手に浮かんでいた紋章が一瞬光り、放たれた魔法は月兎の肉体ではなく俺の魂を貫いた。
心に響くって、そう言うことかよ!
「しばらくお休み。いい夢をね」
遠のく意識の中で、月兎が慌てる様子だけが俺の目には映っていた。




