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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
五章 星霜の思いと眠りの魔導姫
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5-4 苦しめばいいのですわ! その後に待っているのは赤ちゃんプレイですもの!

 大通りへと出てくると、中央は規制線が張られパレード用の通路が出来ていた。

 その両側にはすでに見物客が待機しており、かなりの人であふれている。


「凄い人の量ですわね」

「まあ、祈祷祭のメインイベントでもあるしね」


 王族からすれば、地下の儀式がメインイベントかもしれないが、市民からすればこのパレードが祈祷祭のメインイベントだ。

 パレードでは、大商会や貴族たちがお金を出して自らの力を誇示しようと豪華な山車を用意しているらしい。そこに兵士や騎士たちの行進や王族の顔見世もあるのだから、注目が集まるのも仕方がない。

 ちなみに、行進は中央大通りを東西に抜けておしまいになるが、山車の巡回はあらかじめ予定された通りを巡回することになる。商会の宣伝も兼ねているためかそちらは結構な頻度で見られるようだが、王族や騎士団を見られるのはこの中央大通りだけ。となれば、ここに人が集中するのも当然だろう。


「王族なんてそんな大層なものではありませんことよ」

「そりゃ、ティアにとっては身内だしね。けど、ここの人たちからすれば、雲の上の人。神様にも近い感覚だろうし、見られただけでも感動するんじゃない」

「おかしなものですわね。誰かから生まれてくるだけで、そんなに違いが生まれるなんて」

(人生で最初のギャンブルだからな!)


 レイギスがおかしなことを言っているが、僕はそれを無視する。

 そしてしばらくすると遠くから歓声が聞こえてきた。それに合わせて、管楽器の音も聞こえてくる。どうやらパレードが始まったようだ。

 歓声が近づいてくるにつれて、僕や周りにいる人たちも次第にソワソワし始める。まだかまだかと首を伸ばしつま先立ちになり少しでも先を見ようとする。

 そんな焦燥感にも似た空気の中で、突然歓声がはじけた。


「見えましたわ!」

「まずは兵士の行進みたいだね」


 先頭に現れたのは、馬に乗った兵士。その後ろに歩兵がずらっと並び、足並みをそろえて大通りを進んでくる。

 一歩進むごとに、ザッザッと全員の足音が見事にシンクロし、歓声に負けないほどの音を出していた。

 兵士のすぐ後ろには楽器を持った人たち。彼らも兵士と同じ服を着ている。特別に編制された音楽隊だろう。

 遠くから聞こえてきた管楽器の音はこの人たちのものらしい。

 兵士たちが通り過ぎると、今度は巨大な山車が現れた。

 山車は紙吹雪やビスケットなどのお菓子をばら撒きながら大通りを進んでくる。

 観客たちは山車の上から投げられたお菓子をキャッチしようと我先にと手を伸ばす。そんな姿が、はた目から見ればその山車に対して歓声を送っているようにも見える。

 やっぱり商売人は上手いなぁ。大歓声を送られる商会の山車。さぞよそから見ればいい店に見えるだろう。

 山車の行列は大小様々であり、先頭の山車をはじめとして色々な工夫を凝らしていた。

 全体が盾に覆われた武器屋の山車、花に飾られた宝石店の山車、山車の上でパフォーマンスを繰り広げているのはパン屋の山車のようだ。よく見れば、ジャグリングの玉がパンになっている。

 彼らの山車は、まさにパレードを盛り上げるのにはうってつけの存在だった。ただ、パン屋であるティアには不評だったようだが。


「パンをおもちゃにするなんてナンセンスですわ!」

「まあ、これ用に作ったやつならいいんじゃない? 食べる目的でないなら、質の悪い小麦とか廃棄の材料とかを使ってるかもしれないし」


 言っておいてなんだけど、大商会がわざわざそんなことをするとは思えないけどね。きっと、店売りの中から適当に持ってきているはず。


「むぅ、なら許しましょう」


 けどティアがしぶしぶながら納得してくれた様子なので黙っておく。

 商会の山車が一通り過ぎた後、現れたのは豪華な装飾に彩られた山車だった。

 こっちは貴族がお金を出して作らさせた自慢の一品というやつのようだ。

 商会の山車が宣伝車なら、こっちはお祭りのお神輿だな。

 自分はこんな凄いものを作れる職人を雇っている。こんな豪華な宝石を付けられるほど金を持っている。そんなアピールは一見意地汚いようにも見えるが、それをするためには実際にお金を使っているってことだし、それは職人たちの手に渡る。


(ただ溜め込んでるタイプの金持ちよりよっぽど建設的だな)

(使わせる意味で貴族にも山車を出させているのかもしれないね)


 参勤交代的な要素ももしかしたらあるのかもしれない。

 貴族がお金を溜め込むと、下に回らなくなって結果経済が悪くなったりするしね。


(この国はなんだかんだ上手くやってるからな。儀式こそ不幸な勘違いだったが、それ以外は割と好感度は高い)

(あの魔導具のおかげもあるんだろうけどね)


 常に豊作になり、食べる物に困らなくなる。それは余剰が増えて人の心にゆとりを持たせることになる。

 ゆとりがあると、人は優しくなれるし。


(この国を出るのはちょっと惜しいかな)

(ま、仕方ねぇさ。それにせっかくの旅だ。いろんな文化に触れないとな)


 僕を戻す遺跡は隣国ヌワラーエ王国にある。だから、近いうちにプアル王国を出ないといけない。

 色々な出会いがあったけど、今のところはいい出会いに恵まれている。ヌワラーエでもそうだといいけど。

 そんなことを考えていると、貴族の山車が終わり、歓声が黄色いものへと変わる。

 現れたのは、白銀の鎧を身に纏った騎士団だった。

 騎士たちは兵士たちとは違い、思い思いの歩幅で歩いている。その上、観客から名前を呼ばれると笑顔で手を振り返していた。

 随分とフランクだが、それが人気の理由でもあるのだろう。そんな風に思っていると、となりからぼそりと聞こえてくる。


「顔と金。騎士団というよりも興行一座と言ったほうが合っているのではなくて?」

「裏を知りたくないので、あまり詳しく話さないで頂けると助かります」

「是非とも教えたくなりますわね」


 そんな満面の笑みを向けられても……

 というか「顔と金」このフレーズで騎士団がどういうところか何となく理解できてしまったよ。


(まあ、戦争のない国ならそんなもんだろ。騎士団なんて、わざわざ作るのは相応の理由がある。エリートによる実働的な遊撃部隊か、それとも民衆に対するアピールか。戦争してないなら、後者一択だな)

(なんというかがっかりだよ。けど、あの人は強そうじゃない?)


 騎士団の中盤、そこで騎乗している男性は、歴戦の勇士という雰囲気を醸し出していた。

 その上、女性からの呼びかけも多いように感じる。他の騎士がにこやかに振り替えているのに対して、彼だけは軽く手を上げるだけだ。それだけで黄色い悲鳴が上がるんだけど


「彼は?」

「騎士団長とフォッグ様ですわね。その実力と仕事ぶりは素晴らしいものだと聞いたことがありますわ」

「騎士団にも真面目な人がいたんだね」

「妻が二十人ほどいますけどね」

「……人には欠点も必要だと思うな」


 それが僕にできる精一杯のフォローだった。


(英雄色を好む。月兎もそれぐらい大胆だったら困らなかったんだがなぁ)

(僕は英雄なんて玉じゃありません)


 モブでいいんだよ、モブで。主人公が世界を救っている横で、一人を助ける。それが出来れば、僕は十分さ。


(謙虚なこって)


 そして騎士団が通り過ぎた後、このパレードの主役が現れた。

 屋根を取り払った特殊な馬車に乗り、市民に向けて手を振っている男性。それは、二週間前に遺跡内で話した国王陛下その人だ。

 隣には皇太子の姿もあり、優雅に手を振っている。かなり強く蹴ってしまったけど、問題はなかったようだ。

 その後ろに続く馬車には、他の王族の方々。正妃や第二王子、王女様たちも豪華な衣装を纏ってにこやかに手を振っている。

 ふと視線を横に向ける。そこにはどこか遠い目をして王族の方々を見ているティアの姿。

 ティアの血は、あそこにいる誰よりも濃い。本来ならば、あそこで豪華なドレスを身に纏い、手を振っていてもいい存在だ。

 隠され続けていたティアも、あの場に立ちたかったのかな?

 けど僕の考えていたことは、完全に杞憂だった。


「あの手を振る動作、凄い疲れますのよね」

「そうなの?」

鐘四分(三十分)もすれば二の腕がパンパンになりますわ。パレードは大体鐘半分(一時間)明日は皆さん、腕が上がらなくなっていますわね」

「そんな大変なんだ」

「パン捏ねで鍛えた私の腕でも鐘半分は持ちませんもの。明日はきっとスプーンも持てませんわよ」


 クククッと邪悪な笑みを浮かべるティア。彼らと昔、何かがあったのかもしれない。


「まあ、そんなことはどうでもいいですわ。そろそろ行きましょう」

「まだパレードは終わってないみたいだけどいいの?」

「ええ。最後まで見ると、身動きが取れなくなりそうですもの。お母さまをずっと一人にするのも悪いですわ。何か美味しいものを買って帰ります」

「そっか。荷物持ちぐらいなら手伝うよ」

「ありがとうございますわ」


 僕たちはひっそりとパレードを抜け出し、今日食べたものの中から美味しかったものを思い出して買いに行くのだった。


   ◇


 ティアを送り届け宿に戻ってきた月兎は、そのままベッドに倒れ込むと寝ちまった。

 そこで俺の出番なわけだ。体力の疲労はでかいが、魔法で回復させておく。これで起きても疲労が残ってるって心配はなくなった。


「んじゃ、行くか!」


 部屋を出てフロアへと降りる。いつも入る受付の嬢ちゃんが今日はいなかった。

 そのまま素通りして宿を出ると、俺は花道へと向かう。

 そう、王都を出る前に、ネルちゃんの状況の確認をしに行くのだ。ま、問題はないと思うが、一応な。

 慣れた足取りで娼館へたどり着き、中へと入る。

 耳障りの良い声と共に入店待ちの子たちが俺を席へと案内してくれるが、それを遮って問いかける。


「なあ、ネルって子今空いてる?」

「ネルですか? 確認しますね」


 女の子は不思議そうにしながらも、頷いて奥へと消えた。そして少しすると、ネルちゃんが駆け足で出てきた。その顔にはこれまでのような不安そうな影は見られない。


「お客様! お待たせしました」

「その様子だと大丈夫みたいだな」

「はい。あれ以来おかしなことが無くなって、普通にお仕事できるようになったんです」

「そりゃよかった。んじゃ、部屋案内してもらえる?」

「はい!」


 ん? 確認だけして帰ると思った? 無理無理、こんなかわいい子目の前にしてそのまま帰るとかできるわけないし。

 つうわけで、そのまま二階へと移動。部屋に入って酒とつまみを頼む。

 それを持ってきたのは、小間使いではなく娼婦のまとめ役スズネだった。


「お客様、お久しぶりです。その節は大変お世話になりました」

「いいってことよ」

「つきましては、預かっていたものをお返ししようと思いまして、お伺いさせていただきました」


 そう言ってスズネは、谷間から皺くちゃになったチケットを取り出す。

 それは、俺がスズネの胸元に突っ込んだこの店のプレミアムチケットだった。


「ああ、それか。確かに返してもらったぜ」


 チケットを受け取り皺を伸ばす。

 さて、んじゃ早速このチケット使っちゃおうかな。プレミアムサービス、特別ルームの使用だ!


「ネルちゃん、準備頼むぜ」

「はい、喜んで」


 こっからは大人の世界。詳しく話すのはタブーだ。

 けどまあ言えることがあるとすれば、スッキリしたってことぐらいだな!

 朝日を浴びながら、俺は軽い足取りで宿へと戻るのだった。

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