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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
三章 貴族の少女と魔道具のペット
34/83

3-6 二日連続で別れって珍しくない? まあ僕が逃げてるから仕方がないんですが

 宿に送ってもらった後、僕はそのままの足で酒場を訪れた。


「月兎、水臭いじゃない! 私に黙って依頼なんて受けちゃうなんて!」

「…………」

「え、どうしたの?」

「レオラ、記憶が……」


 レイギスの話によれば、依頼を受けさせたのはレオラなんだけど……

 まあ、かなり酔っていたみたいだし、仕方がないのかもしれないということにしておこう。けど、マスターにはレオラの飲む量に注意してもらうようにしよう。

 酔った勢いで秘密の暴露は探索者としてマズいでしょ。


「説明してあげるから座ってどうぞ」


 僕は定番となったカウンター席の隅で、レオラに隣を進める。

 レオラは首を傾げながらも、素直に従った。

 そして僕は、レイギスに確認を取りつつ、依頼を受けるに至った経緯を説明した。それはもう懇切丁寧に。

 結果――


「ご、ごめん」

「もういいよ。おかげでバイトしなくてもいいほど稼げたし」

「そんなに?」

「これ」


 僕は小切手をレオラに見せる。

 レオラの目がゼロを追い、明らかに動揺していた。そしてなぜか手が小切手へと延びている。

 それをスッと回収して、ポケットにしまった。


「あっ」

「あっ、じゃないし。これは僕の依頼で得た僕の報酬」

「ねぇ、今夜は美味しいご飯沢山作ってあげるわ。いっぱい食べて行ってね!」

「いつものおすすめ一つでいいよ」


 態度変わり過ぎでしょうが。ああもう! すり寄って来ない!

 グッとレオラの肩を押し返し、僕は話を切り出す。


「それでなんだけど、やっぱり貴族相手だと僕の特殊性がバレちゃうみたい。だから急いで町を出る必要がある」


 町を出ると聞いて、レオラは驚いたように目を見開いた。

 そしてすぐに納得したように頷く。


「レイギスのことよね」

「それもあるけど、色々とレイギスのおまけで付いてきたものもあるから。知識とかこの手の紋章とか」

「そっか。じゃあもう町を出ちゃうんだ」

「明日の朝にはね」


 ミリアルさんが少しだけ引き延ばしてくれるみたいだけど、やっぱり急ぐに越したことはない。

 彼女はあくまでも使用人。もし主人から説明しろと命令されれば、それには従うしかないだろうし。


「どこか当てはあるの?」

「なにも」


 本当に当てが何もない。というか、この周辺の町すら把握していない。

 遺跡を巡りたいから、色々な遺跡のある場所に行きたいよね。

 今の人たちじゃ分からなかったものでも、レイギスなら分かるだろうし、もしかしたらそんな探索後放置されている遺跡の中に転移の魔道具もあるかもしれない。


「どこか遺跡が多く有りそうな場所って知ってる?」

「それだとやっぱり王都かしら。あそこは地下に巨大な遺跡があるの」

「王都の地下遺跡」

(そりゃ面白そうだ。わざわざそこを王都に選んだってことは、遺跡の中に何かがあったってことだろ。でかい代物なら移動させるのも大変だしな)

(つまり、それだけの規模の物ってこだね。その中に転移装置も含まれているかもしれないと)

(そういうこった)


 レイギスと簡単に相談して、僕たちは次の行き先を決定する。


「じゃあ王都に行くことにするよ。場所はどこなのかな?」

「ここから南に下っていけばあるわ。この町からも王都まで行く定期便があるわよ。何個か町を経由して、一週間かけて王都まで行くの」

「そんな便利なものもあるんだ」


 ならそれに乗っていけばいいか。


「次の出発はいつか分かる?」

「月兎ってやけにタイミングいいわよね。明日の朝出発の予定よ。探索者もたまに使うから、家にも運航予定の表があるわ」

「そっか。朝その場に行けばいいのかな?」

「ええ。そこでお金を払って乗せてもらうの。毎日近くの町に泊まるけど、そこでの食事や宿は全部自分で払わないといけないから気を付けてね」


 あくまでも足だけ。他は全て自分でってことか。となると、お昼も買って持ち込まないといけないんだね。


「分かった。ここってお弁当用意してもらうことできる?」

「いいわよ。特別に朝、停留場に持っていってあげるわ」

「ありがとう、助かるよ」

「色々お世話になったしね」


 その後客足が増え少し忙しくなってきた酒場で、僕はおすすめの一品をいただき、デザートまで注文して紅茶と共にゆっくりする。

 何と言うか酒場で食べている感はゼロだけど、美味しいから良しとしよう。

 そうしているうちに、コップを持ったレオラが戻ってきた。


「はぁ。疲れた」

「お疲れ様」


 レオラはコップの水を飲み干して、プハッと息を吐く。


「まあこれも次の探索のためだしね。仕事手伝う代わりにおこづかい増やしてもらってるの」

「今度はどこに行くとか決めてあるの?」

「ううん。私もまだ決めてない。そもそも、狙えるような都合のいい遺跡なんて近場にはほとんど無いしね」


 お父さんが近場の遺跡はほとんど探索してしまっているらしい。

 それじゃあ、技術や解読表を受け取っているレオラが行っても同じ道を見つけるだけだ。

 だから、レオラのお父さんが引退してから発見された遺跡や、少し遠くのまだ探索していない遺跡を狙っているようだ。

 旅費を稼ぐためにも、酒場の手伝いは結構な頻度でやっているらしい。


「そっか。そうなると王都方面に来る予定はなさそうだね」

「そうねぇ。あっちはお父さんの元テリトリーだったから。そうじゃなければ、私も月兎についていったんだけど」

「それお金目当てだよね?」

「ふふ」


 笑って誤魔化さない。


「まあ、月兎と探索できたら楽しいなってのもあったわよ。月兎とレイギスなら色々私の知らないことを教えてくれそうだし」

「僕もほとんど知らないんだけどね。知っているのはレイギスからの又聞きばっかりだよ」

「一度でも聞いてれば本人の知識でいいのよ」

(本で読もうが人から聞こうが、脳に入れば全部自分の経験だ。レオラいいこと言うねぇ!)


 うん、あまり気にせず、それぐらいの気持ちでいたほうがいいのかもしれない。


「あんまり遠慮していると、卑屈に見えるもの。どうせ分からないことなら、堂々と自分の力だって言ってやればいいのよ。その方が相手もスッキリすると思うし」

「そっか。これから気を付けるよ」

「そうよ。月兎はただでさえ敬語なんだから、他の探索者に舐められるわ」


 ああ、それはあるかもしれない。僕の容姿自体少し子供っぽいというか女の子っぽいところがあるうえに、敬語がデフォルトだからどうしてもこの世界のガタイのいい人たちからすれば、年下のガキに見えるだろうしなぁ。肉体は強化されているから、そこらへんの男の人にも簡単には負けないだろうけど。


「レイギスぐらい不遜でやればいいのよ」

(俺の真似してみるか? 高笑いしながら相手を見下せばいいだけだぞ? 簡単だろ!)

「それはちょっと……」


 僕の性格か、初手から相手を下に見るのは抵抗があるんだよね。


「ま、月兎がレイギスみたいなしゃべり方してても違和感バリバリあるけどね」

「なら言わないでよ……」


 ちょっとだけ。本当にちょっとだけ真似してみようとか思っちゃったじゃないか。


「ごめんごめん。ま、そう言うことだから、少しは自信持ちなさい。月兎は私を助けるために体張って頑張ってくれたんだから。私はそれに感謝しているの」

「ありがとう。頑張ってみるよ」

「じゃあ私は明日の仕込みの手伝いしてくるわね。そろそろ閉店だから、月兎も帰りなさいよ」


 席を立ったレオラの顔は若干赤くなっているような気がした。

 もしかしてもう終わりだからってお酒でも飲んでたのかな? だとしたら、また巻き込まれないようにさっさと撤収しよう。


(はぁ……このにぶちんが)

(ん? どういうこと?)

(何でもねぇよ。帰るんだろ? さっさと会計済ませちまおうぜ)

(あ、うん)


 そして僕はレジ前に立っていたマスターにお金を渡し、宿へと戻るのだった。


   ◇


 朝、荷物を纏めてチェックアウトを行い、停留場へと向かう。

 そこは門の近くで、多くの馬車が出発の準備を進めていた。その中に、王都行きの看板もある。

 看板を持った男に話しかければ、席はまだ空いているとのこと。その席を購入し、荷物などの中でも大きなものを荷物用の別の馬車へと乗せた。

 手荷物だけを持って、乗客用の馬車へと戻ってくると、包みを持ったレオラが待っていた。


「レオラ、おはよう」

「おはよう月兎。これ、約束のお弁当よ」

「ありがとう」


 包みを受け取れば、まだ暖かい。


(月兎、レオラの指見てみろよ)


 指? 言われるままにレオラの指先を見てみると、沢山の包帯が巻き付けてある。

 昨日はあんなの付けていなかったはずだ。


(ありゃ絆創膏の代わりみたいなもんだな。つまりどういうことか分かるな?)

(えっと……あ! 包丁で切った!)

(正解だ。良かったな手作りだぞ)

「レオラ、これもしかしてレオラが?」

「ま、まあお父さんも忙しいからね! 私が作ってあげたのよ。感謝して食べなさいよ」

「うん、大切に食べさせてもらうね。感想とか手紙で送ろうか?」

「余計なことはしなくていいの!」


 ちょっとふざけただけなのに、チョップをくらってしまった。


「ほら、そろそろ出発みたいよ。乗らないと」

「うん。レオラ、またどこかの遺跡であったら、一緒に探索しようね」

「もちろんよ。その時には、新しいお宝の発見者の協力者として片隅に名前を出してあげるわ」

「共同発見にはしてくれないの!?」

「冗談よ。その時は一緒に名前を載せましょ」

「うん。じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 握手を交わし、僕は幌馬車へと乗り込む。

 大型の幌馬車には中央に簡単な長椅子が設置され、四列で座ることができるようになっていた。僕はその端っこ、空いていた四列目の手前に座る。

 僕が最後の乗客だったのだろう。僕が座ると、御者が鞭を討つ。

 そしてレオラが手を振る中、僕の乗る馬車は王都へ向かって走り出すのだった。

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