3-4 メイドさんは負けず嫌い
「おれさーまがーがよなべーをしてー」
セレスティーヌの屋敷を訪れてから二日が経った。
俺は月兎が寝ている間にコツコツと魔法を使い、ホムンクルス用の交換パーツを作っていた。
歯車に筋繊維、関節緩衝材に人工内臓、どれもグロリダリア時代には当たり前に用意できたものだが、この時代じゃ魔法前提のこの技術は再現できないからな。
「よし、後はコアへの魔力補給だけだな」
ああ。久しぶりに細い作業して体が凝っちまった。
そろそろ夜明けも近いしさっさと寝るか。
あくび一つ。俺はベッドへと潜り込み、意識を沈めていくのだった。
◇
朝起きると新しいパーツがテーブルの上に並んでいるってなかなかオカルトな光景だよね。
それがレイギスのやったことだと分かっていても、やっぱり不思議な感じだ。
それらを袋の中へと丁寧にしまい、朝食を取りに食堂へと降りた。
朝食は簡単なパンとスープ。この世界ではたぶん一般的な朝食なのだろう。
それをちびちびと食べていると、食堂に新たな人物が入ってきた。貴族区への門を守っていたあの兵士だ。
兵士の人は僕を見つけると真っ直ぐにこちらへとやってくる。
「ここにいたか」
「お久しぶりです。どうかしましたか?」
「ヒュルッケン家より、準備が出来たとのことだ。そちらの準備がよければ今日屋敷まで来て欲しいとのことだ」
「分かりました。では朝食を食べたら向かいます。そのように伝えてもらうことは可能ですか?」
ヒュルッケン家ってたぶんセレスティーヌの家のことだよね。
「もちろんだ。そうお伝えしておこう。食事中に失礼したな」
「いえいえ、わざわざありがとうございます」
兵士さんは踵を返してさっさと食堂を後にしてしまった。
(さて、準備ができたって話だけど)
(安全な遺跡探索。面白いもんはなさそうだが、やり方を知ってるのは俺だけだからな。仕方ねぇから行ってやるか)
手早く朝食を食べ終え、部屋に戻ってレイギスの作ったパーツを手に僕たちは貴族区へと向かう。
門番にはさっきの人が立っていたのでそのまま通してもらい、セレスティーヌの家へとやってきた。
来るのは二度目だけどやっぱり大きい。というか、馬車じゃないからより大きく感じる。
屋敷の門番に声を掛けると、中に連絡が行き迎えが来た。
ミリアルさんだ。
「月兎様、ご無沙汰しております。迎えも寄こさず申し訳ございません」
「いえいえ、むしろ気楽で助かりました。準備ができたとのことだったので伺わせていただいたのですが」
「はい。護衛の兵士の準備ができましたので、出発はいつでも可能です。後は月兎様の準備が整えば」
「こっちも準備は出来ていますよ」
僕はパーツの入った袋をじゃらりと鳴らせて見せる。
「とりあえず部品の交換を先にしちゃいましょうか」
「承りました。どうぞこちらへ」
屋敷内へと案内され、あのメイドさんが眠る部屋へとやってくる。
「月兎様! ようこそわが家へ!」
駆け寄ってきたセレスティーヌ様に手を握られる。
「セレスティーヌ様、ご無沙汰しております」
「アテネを助ける準備ができましたの! 私、いつでも覚悟は出来ておりますわ!」
「では今日出発しましょう。まずは他の部分を交換しちゃいますが」
「よろしくお願いしますわ!」
一緒にメイドさんの元へと向かい、前回と同じようにミリアルさんに協力してもらい背中を開く。
そしてレイギスの指示に合わせて、体内のパーツを順番に取り出して布の上に広げていく。
どれも錆びが出来ていたり、罅が入っていたりとかなり老朽化している。けど、ちょっと不思議にも思った。
確かに十年と言えば長い時間だが、去年までは普通に動いていたのだ。そんな機械のパーツがなんでここまで古びているのだろうか?
(ま、そこは機械の心意気ってやつだな)
(なにか知ってるの?)
(ネタバラシは後の方が面白いだろ。起きたら直接聞いてみな)
(まあそうするよ)
レイギスが答えてくれそうにないので、この話題はいったん置いておく。
(そこ、二の腕の中にスイッチがあるから、それを押しながら関節を捻って見ろ)
言われた通りにすると、カチッと音がして関節部分から腕が外れた。
少女の体がどんどんと関節ごとに分かれていく。
何と言うか、普通に猟奇殺人やってるみたいでなんだか嫌だ。
(フィギュアの改造とかだと思え。ほら、美少女をロリ化するために手足をカットするみたいな)
(サラッと怖いこと言わないでよ)
各パーツを外し終え、今度は新しいパーツへと交換していく。
次々に組み上げていくと、バラバラ殺人だったメイドさんが元の綺麗な姿へと戻った。
うん、なんだかプラモデルやっている気分になったよ……
そして最後に翡翠色のコアを取り外し、それをセレスティーヌ様に手渡す。
「パーツの交換は完了です。後はこれに燃料を補給すればアテネさんは目覚めますよ」
「ありがとうございますわ! では早速参りましょう! ミリアル、出発するわよ!」
「ええ」「承知しました」
セレスティーヌ様の号令の下、僕たちは遺跡へと出発するのだった。
出発してから半日。僕たちは遺跡へと到着していた。
遺跡の周囲はしっかりと壁に囲われ、唯一の入り口は警備員に守られている。
かなりしっかりと保護されていた。
「遺跡は盗賊の住処にもなりやすいですので、ヒュルッケン家の管理する以上そのような輩の存在を許すわけにはいきませんから」
ミリアルさんの説明に納得する。
そりゃそうだよね。貴族の管理するところに盗賊がいるとか権威が馬鹿にされているようなものだし。
「ここまでしっかり警備されている上に、探索済みですか。その上周囲は護衛でガチガチに守られていると――探索者としては、安全な遺跡探索なんてある意味新鮮ですね」
中も一定間隔で明かりがともされており、埃っぽくもない。
なんというか、アトラクションの石の通路みたいだ。
「石の通路をただ歩くだけですもの。つまらないですわ」
「ではゲームでもしながら進みますか?」
僕は歩きながらでもできるゲームとしてしりとりを提案した。
「面白そうですわね。知識量が勝敗に直結するというのも貴族らしい戦いな気もしますわ。ミリアル、あなたも参加しなさい」
「承知しました」
「では僕から行きますね。しりとりのりで」
「次は私が。リンゴのごで」
「最後に私ですわね! ごまですわ!」
まほう、うえご、ごうかですわ! かみなり、りゃくご、またごですの!?
ミリアルさん、意外と容赦なかった。
初めてのゲームのはずなのに、最初から「ご」に統一してお嬢様に順番を回している。
そして数周もすれば「ご」から始まる言葉もほぼ無くなり、ぐぬぬと唸っていた。
「さあお嬢様、ゆりかごのごですよ」
「ミリアル! あなた容赦なさすぎじゃありませんこと!?」
「これもお嬢様を鍛えるためでございますので」
ふふっと笑みを浮かべながら、お嬢様に続きを要望する。
どことなくその笑顔が満面なのは気のせいだろうか?
そんな感じで意外と楽しく遺跡の中を進んでいくと、一時間ほどで最深部へと到着した。
そこは、まるで研究室のような部屋だった。
中央には空のカプセルが鎮座し、カプセルから伸びたチューブが部屋の各所へと延びている。
壁際には機材が並び、モニターが淡く発光していた。システムが生きている証拠だ。
「到着したようですね」
「護衛達は下がっていてちょうだい」
「「「ハッ」」」
お嬢様の号令一つで兵士たちが通路まで下がる。
三人だけ残った僕たちは、機材の元へと歩み寄った。
「ここにアテネが眠っていましたの。それを私が起こしたんですわ」
「懐かしゅうございますね」
「ええ」
二人は懐かしむようにカプセルのガラスを触っていた。
(僕はどうすればいいの?)
(あのカプセルは今回使わない。使うのは向こうの機材だ)
壁際に設置された機械の中に、ちょっとした物が入るカプセルがあった。
それにコアを入れて、チャージすることができるらしい。
(了解)
「お嬢様、こっちです。この機械を使えば燃料の補充が出来ますよ」
「そうなのね!」
お嬢様がこちらへと駆け寄り、カプセルの中を覗く。
なみなみと溶液に満たされたカプセルは、ちょうどコアが収まりそうなサイズである。
蓋を開き、そこにコアを入れてもらう。
「これでいいのかしら?」
(後はお嬢様と月兎が水晶に手を触れてお前が機材を動かせ。魔力はお嬢様のを読み取って、チャージが開始される)
「お嬢様、手をこの水晶に」
「これでいいのかしら?」
僕は水晶に乗せた手の平の上から僕の手を乗せる。
浮かび上がった右手の紋章。そしてスクリーン。この光景もちょっと懐かしい。
ログインを行い、システムから魔力チャージを選択。主人チェックをお嬢様の魔力で認証させる。
すると溶液が淡く光りだし、その光がゆっくりとコアへ吸い込まれ始めた。
スクリーンにはチャージ中の文字と、完了までの時間が表示されている。
「これで補充が開始されました。後一時間ほどで完了するみたいですね」
「良かったわ。アテネは目覚めるのね」
「はい」
まあ、今から一時間待ってさらに家まで帰らないといけないんだけどね。
「じゃあ補充完了までまたしりとりでもしますか」
「今度は順番を逆にしますわよ! 私からですわ!」
結果から言えば、僕がミリアルさんにボコボコにされたのは言うまでもないよね。




