2-6 適度なスリルは娯楽になるけれど、危ないだけなのはただのストレスだと古代人は知っていた
二階層へとやってくると、気温が少しだけ下がった気がする。
「薬の効果はまだ時間があるけど、男たちがいつ戻ってくるか分からないし、パパッと進んでいこうか」
「秘密通路は三階層だよ。二階層は一階層と同じつくりだから、そのまま降りちゃうね」
「了解」
全く同じつくりの二階層を超え、僕たちは三階層へと到着する。
階段を降りた先には、同じような広間。だけど、周囲に小部屋はなくその奥に通路があるだけだ。
まるでボス部屋のような作りだな。ゴーレムがいてもおかしくない雰囲気がある。
(ボス部屋を作ったはいいが、残留物安全協定で引っかかったパターンだろうな)
(残留物安全協定? なにそれ)
(ようは強すぎるモンスターの配置は止めましょうってルールだ。グロリダリア人は、遺伝子レベルで調整を受けて魔力量を増やしたり頑丈な肉体にしてたが、一度文明を捨てればそれがリセットされることも分かってたからな。人間の基礎能力では勝てない敵の配置を制限したんだ)
(けっこう色々と決めてたんだね)
換気システムだとか、安全協定とか、ただ趣味で遺跡を残したって言う割には、色々と細かい配慮が行き届いている気がする。
(そりゃ、クリアできないゲームとかクソゲー過ぎんだろ。アスレチックが楽しいと思えるのは、安全が確保されているからだ。だからこそ人は冒険できる)
(危険すぎるせいで、遺跡の調査を限られた人に限定したくなかったわけか)
強力なモンスターがいたり、有毒ガスが蔓延するような遺跡があれば、とりあえず全ての遺跡を立ち入り禁止にして管理しようという動きが出来てしまうかもしれない。
国が主導するなりして調査するにしても、そこで手に入れたものは全て国のものになってしまう。それを嫌がったのだろう。
なにせ、個人的な趣味を反映させたものばかりを残しているみたいだし。
(ま、そういうことだな)
そのままボス部屋を越えて奥の部屋へと入る。
そこは祭壇だった。中央に石の台座があり、左右に柱が立っている。
魔光の光が柱から溢れており、他の部屋よりも明るく照らされていた。
台座にはなにやら文字らしきものが刻まれている。
「ここがその部屋?」
「そう。柱に暗号が隠されていて、それを解くと隠し通路が出現するの」
「へー」
まさにカラクリ屋敷だ。暗号はどんなのなんだろう。
興味を持って柱へと近づく。そこに彫り込まれているのは、グロリダリア語だった。
僕はレイギスからの知識のフィードバックがあるため、それを難なく読むことができる。
(台座の裏側にある石をスライドさせ、柱の紋様を回転させて合わせる。光が台座へと繋がり、知識あるものを財宝へと導くであろう。それっぽいこと書いてあるけど、やることは簡単だね)
(まあ、グロリダリア語を知ってればな。知らなければあんな風になる)
レオラはカバンの中からボロボロになっている羊皮紙の束を取り出し、柱と羊皮紙に書かれた内容を見比べている。
あの羊皮紙が、レオラのお父さんが発見した暗号の解読法、いわゆるグロリダリア語の翻訳辞書と言ったところのものなのだろう。
「ふんふん、台座裏――柱――――光の道――――財宝――」
(だいぶ翻訳辞書としては曖昧な部分が多そうだけど、とりあえず重要なワードはとらえているってところかな)
(みたいだな。あれだけ分かれば時間さえかければ問題なく解けるだろ。けど今回は時間があんまねぇぞ)
(そうなんだよね。どうしようか)
できることなら、レオラ自身に隠し通路を発見してもらいたいけど、男たちが戻ってきても問題だ。帰り道を塞がれてしまうと、戦うしかなくなってしまう。毒草ももうないしね。
(とりあえずアイディアを出す感じでヒントを与えてみろよ)
(そうしてみる)
「レオラ、何か分かった?」
「とりあえず、隠し通路があるのは確定かな。財宝って言葉が見えるし、期待はできそう。道は今調べてるところだけど、台座の裏と柱に何かしかけがありそう」
うん。全部知ってる。
思わず優しい笑みを浮かべてしまうが、すぐに隠して台座の裏へと回る。
台座の裏は、土台がむき出しになっており、レンガのような四角い石が綺麗に組まれている。
一見きっちり埋まっていて、ただの土台のようにも見えるが、よく見れば最下段の一つだけ右側に小さくスペースがある。組む際に間の素材が流れてしまっただけのようにも見えるが、答えを知っている僕としてはこれがスイッチなのだとすぐに分かった。
「どう? 何かあるかしら?」
「うーん、パッと見た感じはそれらしいものはないね」
とりあえず見つけられなかった風を装い、レオラと場所を交代する。
レオラは土台のレンガ石を一つずつ丁寧に調べていた。これならば、最後まで調べた時点で気づけるだろう。けど、レオラは上から調べちゃってるから、最下段のスイッチに気付くまでには時間がかかりそうだ。
(これは謎が解けたってことでいいと思う?)
(マキでいこうぜ)
(了解)
「あ」
「月兎、なにか見つけたの?」
「一番下のブロック、なんか変じゃない。隙間がある」
「ほんとね」
僕が正解のブロックを指摘すると、レオラはそのブロックを真剣に調べ始めた。そして、触っているうちにそのブロックが横にずれることに気付く。
「これ、わざと動かせるようになってるわね。動かしてみるわよ」
「うん」
レオラがブロックを一番右まで移動させると、カチッと明らかに人工物の、鍵を外した時のような音が響いた。
「なにかが動いたわね。じゃあここはこれで大丈夫なのかしら?」
「次の謎は柱だったっけ?」
「ええ、柱に光の道って言葉があったわ。光はたぶん柱から溢れている奴よね。これを道状にしろってこと? 反射させて何かに当てたりするのかしら?」
光の道を鏡で反射させるようなものだと考えたようだ。けど外れ。光の道は柱に刻まれた紋様に光を出すということ。紋様の部分を解読できれば答えに繋がったかもしれなかっただけに惜しいね。
(ヒントを出さないと時間がかかりそうだな)
「でも反射させられるものがないよ。僕も色々な遺跡を見てきたけど、持ち込み前提の遺跡って見たことが無いし」
「そうなんだ。じゃあ反射じゃないかもしれないわね。となるとなにか別の道があるはず」
レオラは注意深く柱を観察する。そして、その柱に臼のように回転する部分が三か所あることに気付いた。
「これ、回るのね」
「へぇ」
僕は初めて気づいたかのようにふるまいながら柱を回転させて一番上の紋様を合わせる。すると、一番上の魔光が紋様に沿うようにして光を放った。
「これは!? そうか! 紋様を合わせて下までの道を作るのね!」
「なるほど!」
同調して、道ができるように柱を回していく。
柱の紋様がすべてそろい、光が道となって下までつながった。すると、地面に描かれていた紋様が同様に光りだし、片側に幾何学な半分の魔法陣を浮かび上がらせた。
「もう片方もやりましょう。完成させれば何かが起きるはず」
「そうだね」
興奮した様子でレオラはもう片方の柱へと突撃し、早速紋様合わせに取り組んでいる。
僕もそれを手伝い、五分ほどで全ての紋様を合わせることができた。
先ほどと同様に光が地面を走り、残り半分の魔法陣を浮かび上がらせる。
すると、台座に置かれていた皿に炎が灯り、ガタガタと重い音を立てながら後方へとスライドしていく。
台座の移動した後には、四階層へと続く階段が現れていた。
「ついに見つけたわ」
拳を握りしめ、やったとぴょんぴょん跳ねながら喜びを表すレオラ。僕は拍手しながら、やったねとレオラを褒める。
「早速行ってみようよ」
「もちろんよ。私が先頭で行くわ」
「レオラが見つけた通路だ。レオラが決めていいよ」
危険を考えて後ろを行くか、それとも第一発見者となるために先頭を行くか。この辺りは探索者によって違うだろうが、レオラは先頭を行きたいタイプのようだ。
レオラが慎重に階段を降りていき、僕はその後ろから続く。
四階層へと続く階段は、他と違い魔光がなかった。レオラが松明で先を照らしながら降りていくと、やがて扉を見つけた。
鉄のような質感の扉だ。おそらく持っていかれてしまった他の扉もこんな感じだったのだろう。
色々と幾何学な紋様が刻まれたそれは、確かに宝物庫や蔵にはもってこいの装飾かもしれない。
「開けるわよ」
「何時でもどうぞ」
緊張した面持ちでレオラがノブに手を掛け、ゆっくりと扉を開けていく。
中は明るい空間だった。
遺跡のような中途半端な暗さではなく、現代の室内のようなしっかりと照らされた部屋。
壁面もしっかりと真っ白な壁が作られており、明らかにこれまでの様相と違う。
(ここがゴールっぽいね)
(だな。ってことはあれが財宝か。なるほどな)
レイギスが何度か頷くのを感じる。
部屋の奥にあるのは、透明なケースの中に安置された銀のプレート。
まるで美術品の展示みたいだ。
「あれが財宝ってことか。レオラ、やったね」
「そんな……」
「レオラ?」
財宝を見つけたはずなのに、レオラはなぜかガックリと肩を落としていた。
そしてトボトボと展示ケースへ近づき、蓋を開けてそのプレートを取り出す。
「こんなに苦労したのに、手に入れたのは無価値の魔導具なんて……」
「無価値の魔導具?」
「知らないの? 用途不明の銀のプレート。世界中でいくつも発見されているんだけど、その使い道は全く分かっていないのよ」
「そんなものもあるんだ」
外れ枠ってことかな? 確かにそれはゲーム的にもありそうな気がするけど、ちょっとどうなのさ。
(レイギス。グロリダリア人っていじわる過ぎない?)
(んなわけあるか。あのプレートだってちゃんと役目がある)
(そうなの?)
(とりあえず受け取って見な)
見れば分かるというので、僕はレオラにそのプレートを見せて欲しいと頼んだ。
さっきまでのテンションはどこへやら、レオラははいはいとせっかく手に入れた銀のプレートを投げるように渡してくる。
それをキャッチし、表面を見てみる。
(表面はただのプレートだね。あ、これ開くんだ)
サイドにスライド式のロックがかけられており、僕はそれを開けて中を開く。
そこにあったのは、真っ黒に塗りつぶされた見開きのページだけだった。
「これは……」
思わず声が出てしまう。何か書いてあるのかと思えば、真っ黒って。さすがにこれじゃ外れ扱いされても文句は言えないよ。
「ショックよ。せっかくの新発見だったのに、そのゴールが外れだったなんて……帰ったらお父さんに笑われるわ。酒場で笑いのネタにされるわ!」
うがーっと乙女が出すようなものではない声を上げて天を仰ぐ。
苦笑しながらレイギスに答えを求めた。
(なにか秘密があるの?)
(おうよ。それは複写シートだ)
(ああ、確かにそれっぽい)
言われて気付く。真っ黒な部分は確かに複写シートのように見える。けど、それだけじゃ意味ないでしょ。あれは上から何かを描いてそれを写すものだ。
(別のそのものじゃねぇよ。分かりやすく例えただけだ)
(あ、じゃあ別の使い方ってこと?)
(やって見たほうが早えな。その間に羊皮紙を挟んで閉じてみろ)
言われるままに、僕はリュックから羊皮紙を取り出しプレートの間に挟んでロックを戻す。
僕が何かをやり始めたことで、ふてくされていたレオラが近づいてきた。
「なにしてるの?」
「ちょっとした実験」
結果は僕にも分からないけど。
(閉じたら上部にあるつまみをスライドさせてみな)
(ん、これ?)
プレートの上辺には、横にあるロックと似たようなつまみがついていた。それを掴んで横へとスライドさせると、左端から右端まで一気に動いていく。
(五往復させて、ページを開いてみろよ)
言われるままに五回つまみを往復させ、元の位置にもどしてからロックを開く。
「え、うそ!?」
「なるほど。こういう仕組みだったのか」
ページを開くとそこには、何も書かれていなかったはずの羊皮紙にびっしりと絵と文字が書き込まれていた。




