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デュアル・センシズ ~異世界を一つの体で二人旅~  作者: 凜乃 初
二章 探索者の少女と無価値の魔導具
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2-4 緊張を解すのにいい会話は、もしかしたら下ネタなのかもしれない

 一時間ほどで目的の毒草を集めることができた。

 レオラは興味深げに、僕が腕一杯に抱えた毒草を見ている。


「あんまり顔は近づけない方がいいよ。花粉が目や口に入っても影響が出るから」


 僕が注意するとレオラは慌てたように僕から距離を取る。


「そう言うことは早く行ってよ!」

「そんなに怖がるほど強いものじゃないよ。僕も最初は知らずにまじまじと見ちゃったしね。その後しばらく目が痒くなったけど」


 あれは蚊に刺されたみたいな痒さだったな。我慢はできるけど、ずっと我慢しているとイライラしてくる感じ。フレアに解毒用の薬を作ってもらってすぐに収まったけど、何もしなければ半日ぐらいは痒いままらしい。

 今のレオラぐらいなら、かゆみも出ないと思うけどね。


「これを燻らせて煙を出せば、眩暈と吐き気を催すようになる」

「けど、遺跡の中でやったら、私たちも毒に当てられるよね?」

「もちろん解毒用の薬を僕たちはあらかじめ使うさ。それも集めてあるからね」


 僕のポケットには、フレアが作ってくれた薬の材料と同じものが入っている。これを煎じて飲んでおけば毒の症状は出てこない。


「準備万端ってわけね。決行は夜だよね?」

「うん。それまではのんびり準備しようか」


 日の入りまでまだ二時間以上ありそうだし、薬の準備をする余裕はたっぷりある。

 遺跡から少し離れた場所で、僕は腰を落ち着けて調薬を始めた。

 水筒の水で薬草を洗い、布で水気を取る。

 水気を取った薬草をボールの中へ入れ、洗った石ですり潰していく。

 ある程度潰れたら水を少しずつ足していってペースト状に。ドロリとした粘液に変われば丁度の合図だ。ここに別の薬草を千切って入れて、さらに潰していく。

 色が濃い緑から白色へと変わってきたら完成の合図。


「よし、出来た」

「本当にこれで大丈夫なの?」


 木のボールの中にあるのは、白く濁った粘性の液体。


(やっぱ男の汁だよな!)

(余計なことは言わないで!)


 僕も考えそうになるのを必死にこらえているんだから!


「これを指で掬って舐めるぐらいの量で大丈夫」

「ねぇ。本当に薬よね? 今更だけど、私に白濁液を飲ませたいだけとかじゃないよね?」

「違うに決まってるでしょうが! まあ、飲みたくないならそれでもいいよ。気持ち悪くなるだけだし」

「う……それはそれでいや」

「ま、すぐに飲むわけじゃなし、ゆっくり覚悟を決めておけばいいよ」


 ボールに埃や土が入らないように蓋をかぶせておく。これを飲むのは、作戦の三十分前だ。

 一度飲めば二時間ほど効果があると聞いているけど、効き始めるのに二十分は掛かるって話だから。


「分かったわ。覚悟決めとく」

「じゃあ日没まで軽く休憩しようか」

「なんか呑気ね。この後あいつらと戦うって言うのに」

「別に直接剣を交えるわけじゃない無いからね」


 これが実際に対峙して戦うとなれば、僕も緊張していたかもしれないけど、やることは罠を仕掛けて相手をはめることだ。それなら村で手伝っていた狩りとさほど変わらない。

 あとryuと対峙した時の恐怖感に比べちゃうとね。


(月兎ちゃんったら逞しく育って)

(レイギスは僕のお母んかなんかかな?)

(あんたみたいな子を育てた覚えはありません!)

(僕も肉体のない母に育てられた覚えはないなぁ)


 こうやって軽口を叩ける相手がいるのも理由かもね。


「ふーん。意外と逞しいんだ。腕はこんなに細いのに」


 レオラが僕の腕を取って袖をまくる。

 そこにあるのは色白で細い僕の腕。とても逞しいとは言えない代物だ。

 それをさわさわと触ってくるものだから、凄くくすぐったい。


「突然なに?」

「月兎も探索者なんでしょ? 日焼けもないし、腕も足も細いから、実はちょっと疑ってたんだよね」

「そうだったの!?」


 全然気づかなかったんだけど。普通に信じてもらえてるものだと思ってた。


「お父さんの酒場で見てきた探索者って、みんな日焼けしてて差はあれどしっかり筋肉付いてるんだもん。そんなのばっかり見てきたから、月兎の腕が凄い珍しく思えるんだよね。まるで女の子みたいだ」

「人が気にしていることを」

「それで剣とか振れるの?」


 レオラの視線が僕の腰へと向かう。

 そこにあるのは、メイソンさんが鍛えバウアーさんが鞘を作ってくれた、僕のための剣だ。

 握りや重心なんかも僕に合わせて作ってくれたから、振りやすさはぴか一である。


「もちろん振れるよ。色々と訓練はしてきたしね」


 僕はレオラから少し離れて剣を抜く。

 手の平に吸い付くような柄はとても握りやすく、まだ一度も使ったことのない刀身はキラキラと輝いている。


「ハッ!」


 それを構えて勢いよく振りぬけば、藪がすっぱりと斬り落とされた。

 ガサガサと音を立てて枝が落ち、そこだけ不自然に直線の藪が出来てしまった。


「おお! 凄い切れ味!」

「そこは僕の腕を見てほしかったな!」

「あはは、ごめんごめん。ちゃんと見てたよ。凄い綺麗な振り抜きだった。上手い人に教えてもらってたんだね」

「うん。元探索者の人に教えてもらったんだ。凄く強くて、結局一度も勝てなかったや」


 いいところまで追いつめたこともあったんだけどね。隠し技にあっけなくやられてしまった。


「私はお父さんに色々教えてもらったけど、戦闘関連はあんまりやらなかったなぁ」

「女の子だし、荒事は避ける方向でやって欲しかったんじゃない?」


 顔に傷でも付いたら、将来結婚も絶望的になりそうだしね。

 まあ、その望みは叶うことなく、なかなかアグレッシブな子になっちゃったみたいだけど。


「探索者たるもの、時にはぶつからなきゃね。だってお宝は早い者勝ちなんだから。ちなみに私の剣技はこんな感じね」


 スッと腰の裏から抜かれたナイフが僕の喉元へと迫る。

 強化された動体視力はしっかりとそれを捉え、アルメイダさんに鍛えられた技はしっかりと僕の体を動かしていた。

 伸ばされた腕を掴み、関節を固めながら背後へと回り込む。そのまま木の幹へとレオラを押し付け、手首を捩じってナイフを離させる。


「わわわ、ギブギブギブ!」

「あ、ごめん」


 あまりに突然で、僕も完全に反射で動いてしまった。

 慌てて手を離すと、レオラは捩じられた手首をさすりつつ「あはは」と乾いた笑い声を上げた。


「かっこよく寸止めするつもりだったのに」

「ごめん、手首大丈夫だった?」

「うん、ちょっと捩じられただけだからね。それよりも、おっぱいが潰されるかと思ったよ」


 むっ! 思わず視線がレオラの胸へと向かってしまう。

 フレアよりもはるかに大きいレオラの胸は、その存在感を示すようにシャツとベストを張り上げている。

 確かに木に押し付けた時、なかなかの弾力が跳ね返ってきたような――


(月兎のえっちー)

(わざとじゃないし!)

「けどびっくりした。私も結構初速とかには自信あったんだけどなぁ」

「今回はたまたま上手くいっただけだよ」


 本来の僕の力では、きっとレオラの想像通り何も反応できずに首元にナイフを当てられていただろう。けど今は、魔力で僕の体が強化されてしまっている。

 この力を使うと、なんだかズルをしているような気がして、申し訳なく思ってしまうのだ。


(それはお前の魔力で行われているお前の魔法だ。気にする必要なんかねぇんだぞ)

(こっちの世界に来ただけで手に入れたことに違いはないよ)


 努力もなく手に入れてしまったのだ。簡単には受け入れられないよ。

 まあ、それでもうまく付き合っていくしかないんだろうけど。


「じゃあも一回だ!」


 不意にレオラが足を振りぬく。

 地面に落ちていたナイフが蹴り上げられ、僕に向かって飛んできた。けどその軌道は僕には当たらない。

 ナイフはフェイク。本命は今胸元に向かって伸びてきている左手。服を引いてバランスを崩させるつもりかな?

 僕はナイフを完全に無視して、レオラの腕を再び掴む。


「にゃに!?」


 一歩踏み込み相手の体を密着させ、片足をレオラの背中へと回す。そして空いている腕でレオラの体を押しながら、足を引っ掛けて地面へと倒した。

 本来ならば、そのまま地面へと頭を叩きつけるべくさらに腕を押しこむのだが、さすがにそれは悪いので今回は服を掴んで優しく地面へと下し体を乗せて拘束する。


「人に向かってナイフを蹴るのは危ないと思うな」

「完璧に見切ってたくせに! それにさりげなく私の胸触ってる!」

「あ」

(ふっふー。月兎ちゃんのラッキーすけべー。その手を思いっきり引けば、服がビリッと行きますぜ旦那)

(うるさい! そんなことするわけないでしょうが!)


 体を地面へと押し付けた時に、胸元で服を掴んでいた手がそのまま胸を押しつぶしていた。

 けど今離すとまたレオラが暴れだしそうなのでそのままにしておく。僕だって男だ。ちょっとぐらいはそんな気持ちもあったりなかったり。


「うわーん! 今日あったばかりの男に胸揉まれた! さっきは木に押し付けられたし、その前は裸にさせられた! もうお嫁にいけない!」

「自分で脱いで、自分から仕掛けて、追い打ち掛けただけでしょうが! 全部レオラが原因じゃん! むしろレオラがそういうの狙ってるんじゃないの!?」

「にゃにおう! 純情乙女の私をビッチというか!」

「そこまで言ってないし!」


 拘束していてもじたばたと暴れるので、アイアンクローをかましておく。


「ぎゃー!」

「あんまりうるさいと向こうの連中にバレるよ?」

「茂みで女の子黙らせてなにする気?」


 体を捩じ、口元を手で隠し、うるうるとした目で上目遣いに見上げてくるレオラ。

 さすがにイラっと来たので、その目元に毒草の花粉を塗っておいてあげた。



 そんな風にじゃれ合っているうちに、日没が近づいてきた。

 空は赤と宵が混じり、木陰はすでに暗くなっている。

 涙を流して必死に薬を求めるレオラに白濁液を飲ませ、僕も口へと含む。

 舌に苦みが広がり、眉をしかめた。


「白濁で苦いってこれ完全に――」

「レオラってやっぱりスケベだよね」

「ち、違うし! 純情乙女だし!」

「そろそろ行くよ。見張りがいるかもしれないから慎重にね」

「らじゃ」


 なんだかまた会話がリピートしそうだったので強引に打ち切り、僕たちは毒草を抱えて遺跡へと近づいていくのだった。

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