2-2 たき火であったまるとき、服は脱ぐ派?脱がない派?
僕たちは遺跡を目指す前に、服を乾かすべきではないかという話になった。
しかし、服を乾かそうにも、僕の荷物は上流にあり、レオラの荷物はびしょぬれで火が起こせるものがない。
仕方なく濡れた服をある程度搾って、僕の荷物を取りに行くこととなった。
川辺は道らしい道もなく、上流へと遡るには少し苦労した。
飛び出している枝を避け、ねっこを跨ぎ、獣道すらない茂みを強引に超える。
正直、強化されている僕の体でなければ無理だっただろう。けど、レオラがカバンに入れていた小型の鉈を使ってなんとか道を切り開き、僕たちは荷物の元までたどり着くことができた。
「良かった。残ってた」
(最悪、嬢ちゃんの言ってた連中に取られてたかもしれねぇからな)
川の反対側とはいえ、そこまで川幅があるわけでもないので回収する方法はいくらでもある。壊れた橋の支柱にロープを渡したり、投げ縄で荷物を引っ掛けたり。
だから最悪回収されてしまっているかもしれないと思っていたが、どうやらその探索者たちもここまでは追ってきていなかったようだ。
「くちゅん」
「待ってて。今火を起こしちゃうから」
水でだいぶ熱を奪われてしまったのか、レオラがくしゃみをする。
早めに温めないと風邪を引きかねないな。
「とりあえずこれ使って」
カバンからタオルを取り出しレオラに渡す。
「ありがと。手伝えることがあったら言ってね」
「大丈夫。薪用の枝も集めてもらったし」
僕は火起こし用のセットから藁と火打石を取り出し、カチカチと石を打ち合わせて火種を作る。
それを集めていた枝へと燃え移らせ、じょじょに火を大きくしていった。
本当ならちゃんと石かなんかで囲って、たき火を作るべきなんだろうけど、今は急ぎということで道の真ん中に枝だけをくみ上げる。
パチパチと枝がはじけ、火の勢いがいい感じになってきた。
「ああ、あったかい」
「火は文明の利器だねぇ。けどやっぱり服が濡れたままじゃ辛いや。月兎、悪いけど向こう向いててくれない?」
「え、どうするの?」
「もち脱ぐ」
「ここで!?」
「別に月兎以外いないし大丈夫だって」
そう言っているうちに、レオラは上着に手を掛ける。
僕は慌てて反対側へと体を向け、視界から強引にレオラを外した。
背後からは衣擦れ……の音は聞こえないが濡れた服に苦戦するレオラの吐息が聞こえてくる。
(なあ、ちょっと覗かね? あの嬢ちゃん、フレアよりも胸あったぜ)
ああ、脳内で悪魔の囁きが。
(張り付いた服もなかなかエロかったよなぁ。ショートパンツはしっかり尻のラインが出るし、ブラはしてないみたいが、包帯の痕がシャツの上からでも分かった。つまり、今お前の後ろにいるレオラは胸に包帯を巻いているだけってことだ。いや、もしかしたらそれすら解いて解放感に浸っているかもしれない)
(なんでそれを今実況するの!?)
(振り向かせたいからに決まってんだろ!)
(レイギスって意外とエロいよね!)
(エロくない男などいない! 月兎だって気になってんだろ? ソワソワしちゃって)
(こ、これは落ち着かないからで!)
(ユー正直になっちゃいなヨー)
(ダメだ! レオラは僕を信用して服を脱いでるんだから信用を失うようなことはできない!)
(チッ、無駄に意思の硬い奴め)
勝った! そう思っていたら、レオラから声を掛けられた。
「月兎は脱がなくて大丈夫か? その服もびしょびしょだろ?」
(おっと! レオラ選手から挑戦状か!?)
「え、ああ。僕は別に」
「それで風邪でも引かれたら私が気になっちゃうだろ。こっちは大丈夫だから月兎も着替えるといいよ」
(ほら! お誘い来てんぞ! ここは男らしく脱ぐべきだ! さっき会ったばかりの子の裸をまじまじと見るんだよ!)
言い方が凄く卑猥! ただたき火に当たってるだけだから!
ぐぬぬ……けどレオラにここまで言ってもらったの断るのも悪い。
「分かった。じゃあお言葉に甘えて」
(しゃあ!)
頭の中でガッツポーズしているところ悪いけど、別に僕は裸でたき火に当たるわけじゃないからね。普通に着替えもあるし。
というか、僕の着替えをレオラにも貸せばいいんじゃん。
何かあったかな?
カバンの中を漁りながら、レオラにも着られそうなものを探す。
そして大きめのシャツを引っ張り出した。
「レオラ、良かったらこれ着て」
「あ、ありがとう! さすがに裸はちょっと恥ずかしかったんだよね」
視線を向けず手に持ったシャツを差し出すと、レオラがそれを受け取った。
レオラがシャツを着ている間に、僕も濡れた服を脱いで新しいものに着替える。
「そっち向いても大丈夫かな?」
「うん、大丈夫だよ」
念のため確認を取ると、オーケーの合図が返ってきたので体の向きを直す。
そこには、シャツ一枚を羽織っただけのレオラがたき火の側に座っていた。
大きめのシャツを渡したおかげか、ミニのワンピースのようになっている。その裾から覗く素足が凄く綺麗に見えた。
(ぐふふ、なかなかの目の付け所ですな)
(う、うるさいな!)
「ほんと助かったよ。あ、シャツは荷物が回収できたら洗って返すからね」
「分かった」
別にそのまま返してもらっても良かったけど、レオラとしても使ったものをそのまま男に返すのは気になるだろうしね。ここは素直にうなずいておく。
そしてたき火に当たりながら、服が乾くまでの間僕はレオラが探索していた遺跡について尋ねていた。
「私が調査していた遺跡は、すでに国から探索が終了しているって判断された遺跡なの」
遺跡の規模としては小規模なもので、地下は三階まで。横道や分かれ道もなく、ほぼ一本の通路を進んだ先に神殿のようなものがあるらしい。
ただ、神殿には何かしらの物が設置されていた痕跡はあるものの、すでに物はなく第一発見者によって持ち去られた後だと結論付けられたそうだ。
「ならなんでそんな遺跡を調査してたの?」
「父さんの情報をもとに、私なりに遺跡の解析をしてみたんだ」
「お父さんの?」
レオラの父もレオラ同様探索者であり、これまで各国の遺跡を回ってきたいわゆるベテランらしい。
結婚を機に町へと定住し、遺跡で見つけたものを売った資金で酒場を始めたのだとか。
今では、他の探索者たちが情報交換の場に使うなど、けっこう繁盛している酒場らしい。
そんな環境で育ったレオラは当然探索者に憧れ、父の教えを受けて去年から探索者としてデビューしたそうだ。ちなみに今十六歳。この世界だと十五歳で成人だし、成人して独り立ちって感じなのだろう。
そんな父が娘に渡したのが、遺跡の暗号を解読するためのメモ。小規模な遺跡であっても、隠された暗号を解くことで隠し通路を発見できる可能性があるのだとか。レオラの父はそれで稼いでいたようだ。
(ま、そういうのは多いだろうな。見た目ただの遺跡だけど、隠し通路を入ったら景色一変して超未来チックとかかっこよくね?)
当のグロリダリア人がこう言っているのだし。皆同じように隠し通路とか作ってたんだろうなぁ……
(暗号っつうか、グロリダリア時代の言語か数式をパターン化したんだろうな。嬢ちゃんの親父さんはなかなか頭が切れるとみえる。探索者向けの酒場を作ったのも、情報交換の場所を作れば、自然と探索者が集まると考えたからだろうな)
(ギルドみたいな考え方だね)
(探索者はまだ個人がほとんどみたいだからな。それこそ、その酒場がギルド化してもおかしくはねぇな)
レオラのお父さんが探索者ギルドの創始者になるかもしれないんだね。
「それで、今回の遺跡にも隠し通路があるかもしれないと思って、父さんのメモと合わせながら色々調べてたんだよね。で、見つけたわけ」
「そんなところに例の探索者たちが来ちゃったわけか」
「そうなんだよね。まだ道は開けてないから見つかることはないと思うけど、このまま居座られるのも面倒だし」
半盗賊みたいな存在だと、遺跡をねぐらにしちゃう場合もあるそうだ。
そうなると、隠し通路へも行けないし確かに困るね。
「とりあえずその人たちがまだいるかの確認が必要だね」
「うん。じゃあそろそろ行こっか。服も乾いてきたみたいだし」
薄い布地のシャツもズボンも、たき火に当てているうちにだいぶ乾いてきた。
そろそろ着ても動きに支障は出ないだろう。
レオラが茂みの中で着替えている間に、僕はたき火の処理をしておく。
「後は川を渡る方法を考えないとね」
戻ってきたレオラと一緒に、壊れてしまったつり橋を見る。
つり橋は、両岸を結ぶ縄も切れており簡単に修繕できる状態でもない。
別の道があればいいんだけど、どこから行けばいいのかも分からないしなぁ。そもそもここが地図のどこなのかすら分かってない状態だし。
「それならいい考えがあるよ。私、投げ縄得意なんだ!」
サムズアップしたレオラが、僕のリュックに結び付けられていたロープを手に取った。
あー……それはもしかして、ロープ一本で渡るってこと?




