地獄の調教と八百屋のバイト
片手に190kgという中途半端な重さのダンベルを強制的に持たされている。
持たされているが、持ててはいない。
それも当たり前だ。ベンチプレスとかだったら相当鍛えている人なら持てるかもしれない。
いや多分中々いないと思うけど…
そもそもまともに運動していない俺が、こんな重たい物を持てる訳がない。
俺は、開始数十秒で諦め息を切らしながら叫んだ。
「あぁークソォ! こんなの持てる訳ねぇだろ!⚫ね!」
そういえば、なんでこんな事をしているのだろうか。
数分前に遡り…
―次元を超えた男達の練習を眺めていた俺は、ある男に声をかけられた。
そしてそいつは教官らしい。俺はそんな事も知らずに追い払おうとした。
そして殴られ、一瞬気絶した。
その後、その教官とかいうクソ野郎は「まず基本メニューから」とか訳のわからんことほざいてどっか行った。
その基本メニューとやらを諦め、今に至る。
もうやめたいと思った。
でもあのクソ野郎に何かしてやらんと気が済まない。てか、むしろあの男共にもだ。
金がたくさん手に入るっていうから来てみたが、どうやら期待外れだったらしい。
俺はひとまずその場を離れた。
扉を開けたとき、あのクソ野郎の怒声が聞こえたような気がするが気にしない。
ぶっちゃけめちゃくちゃ怖いけど。
とりあえず腹が減ったので飯にしたいところだったが、金が無いので、我慢することにした。
街の中をブラブラ歩いていると商店街に着いた。
あ、なんか手伝えば金貰えるんじゃね?
この国はそこまでルールが厳しそうじゃなかったのでもしかしたらと思った。
金じゃなくても野菜とか貰えたらいいなと少し期待して、近くにあった八百屋の店員に話しかけた。
「おっちゃん、今手伝ってほしいことあるか?」
いつもより丁寧な口調で問いかけると、店主は
「掃除とか、雑用してくれるなら喜んでお願いするよぉ」
「夕食一食分くらいでいいから駄賃くれ」
店主は、
「まぁきっちり働いたらな」
と腕組みしながら言った。
とりあえず許可を貰えてよかった。
金ほど人を動かせる者はない。ましてや、一銭もないこの状況で。
俺は久々に真面目に働いた。主に会計や掃除、客引きなどをした。品物の補充も欠かさずやった。
客は夕方になるにつれてどんどん増えていき、大変だったがまあよく頑張ったと思う。
―ふと、空を見るともうすぐ日が沈みそうだった。
「今日は助かったよ。ありがとな!また来てくれよ、買い物にも手伝いにもな。ハッハッハッハッハ!」
と腕を組み、上を見ながら甲高く笑っていた。
「じゃあ金はくれんだな?」
一応確認すると、店主は「おう」と返事をし、金をくれた。
「3000ポスだ!」
一応札のようだ。まぁなんとか夕食は食えそうだと一安心した。
「どこか飯が安い店知らねぇか?」
この街の事にはとても疎いため、店主に質問をした。
「あー、それならこの道を真っ直ぐ行って商店街を抜けるとでっかい飯屋があってな。安い料理もあるぞ。味も良かったな、俺が食べた限りでは」
「すまねぇ、じゃ行くわ」
と言い、店を後にした。
久々に疲れたため、肩が痛い。
痛くなった肩を揉みながら、道を歩いた。
客もすっかりいなくなり、殆どの店が閉まっていた。
「―着いた…」
確かにデカかった。三階建くらいで、結構目立つ。
あの八百屋を離れて10分ほど経つが、5分くらい歩いた頃にはもう見えていた。
店に入ると、そこは宴会場と化していた。
うるさいし飯くらい静かに食えやと思ったが、その思いは唾液と共に飲み込んだ。
「いらっしゃいませ!何名様ですか?」
入るなりすぐ店員が人数確認しに来た。
見ればわかるだろ、俺一人やん。何?喧嘩売ってんの?あーぼっちですみませんねーと思ったが、それも唾液と共に飲み込む。
手で1人とサインすると、店員は2階のカウンターの席に案内した。
どうやら宴会場は1階だけらしい…。
ま、どうでもいいけど。
カウンター席に腰を下ろし、メニューを見る。
文字は日本語じゃないが、理解できた。これも神様の仕業だろう。
とりあえず、ハンバーグとキャベツのサラダを注文した。
2つで、800ポスだった。
メニューをずっと見ていて気付かなかったが、隣に人がいたみたいだった。
俺より少し年上に見える。髪は金色で、肩くらいまで伸びていた。まだ、注文した物が届いていないみたいだった。
異世界ではじめて間近で女性を見た。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
無意識にお冷を飲もうとし、グラスに口を付け少しずつ飲んでいると、
「…あのー、それ私のなんですけど…」
隣の女性が話しかけてきた。
そんなはずはと思ったが、自分のグラスはテーブルの上に置いてあった。
「あー、すまん。口付けたけど飲む?」
と自分のグラスを差し出そうとしたが、
勿論ジョークだよ?
「あ、いえ結構です。それよりあなた、見習い勇者なんですか?」
あー、そんなのあったなー。
「そうだけど」
「実は私もなんですよ!」
「へー」
「もうちょっと、反応してくれてもいいんじゃないかな〜?」
「うん」
「…」
返事が非常に面倒くさかったので、テキトーに返していると、彼女は
「もしよろしければ、一緒に行きませんか?」
「うん」
話を聞かずに返事をしていたら、どうやら面倒くさい事になっていたらしい。
もう辞めようとしてたのに…クソ!
断ろうとし、もういちど話そうとした。
「あーやっぱご」
「―いつにします?何のクエストに行こうかなー」
あ、断れないんですね。
もうしょうがないな。こうなったらこの状況を逆手に取ろう。
「一緒に行くのは構わないんだけどさ、家に泊めてくれない?」
住む場所が無いので、彼女に頼ってみよう。
「い、いや…私は、その、そういう事をしたいのではなく…」
誤解されてますね。
「いやそうじゃなくて…。家が無いから泊めて欲しいだけ。何もしないし、物置とかでいいからさ。お願い。クエストの事とかも聞きたいしさ」
なんかイケないことしてる気分だわ。
「そ、そうなんですね!よかった〜。 私の家1つ空き部屋があるのでいいですよ」
―その後飯を食って、彼女の家に行った。
異性の家での初めてのお泊り、ひとまず寝るとこ確保して良かった。




