76.あぁ、最後にもう一度モフモフしたかったなぁ……
「あれ?ショーマくんだけ?」
ネイラが女神の匂いがした神殿の中に入って行くと、そこにはショーマしかいなかった。
「おかしいなぁ、確かに女神の匂いがしたんだけど…」
そこまで呟いて、ネイラはある事に気がついた。
「ショーマくん、”そこ”に居るんだね?」
ネイラは、細くしなやかな指でショーマを指し示した。
「さあ、どうなんだろうね」
ショーマはとぼけているが、ネイラはほぼ確信していた。
さっき見た時より、ショーマから女神の匂いが強く感じられる。目に見えなくとも、ショーマの内側に女神が居ることは明白だった。
「女神と融合するなんて、ショーマくんは本当にとびきりのご馳走だね」
ネイラは、どんどん強くなっていくショーマを見て、高揚していた。
対してショーマは、別の感情で動悸が起こっているのを感じていた。
ネイラが来るほんの少し前、クローディアが突然襲って来て「すわ、逆レイプか」と戦慄した。
急のことで反応できなかったショーマの胸元に、クローディアが飛び込むと、クローディアはそのままショーマの体内に溶け込んで行った。
ショーマとクローディアは出会って数分で合体したのだ。アダルトコンテンツ的な比喩ではなく。
(ショーマくん。女神は世界に干渉する時に依り代を使ったりすることがあるから、憑依するのは得意なんだよ)
(え、俺いま取り憑かれてる状態ってこと?)
エロ女神に取り憑かれるとは、エロ同人みたいで嫌だなぁ。
なんてことを思っていると、(エロ女神ちゃうわ!)とクローディアからツッコミが入る。
そうだった、クローディアにはショーマの心の声が聞こえるんだった。
(で、合体したはいいけど、これだけで勝てそうなの?)
(多分ね!)
多分かい。
「ねえショーマくん、もういいかな?」
ネイラが、物欲しげな表情でショーマを見ている。
一刻も早くショーマを味わいたい、そんな様子だ。
「…いいよ。俺ももう我慢の限界だ」
ヴァネッサを傷つけたネイラを、ショーマはこのまま許すわけにはいかない。
「ふふっ、いただきまーすっ」
ネイラの魔力が膨れ上がり、ショーマの腕の太さ程の光が放たれる。
(弾き飛ばしちゃえショーマくん!)
「おりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
ショーマは、高速で迫る光にガルの刃先を合わせる。
衝撃音、の後、
「うぇゲホッ!!」
神殿の外まで吹き飛ばされて横たわるショーマの姿がそこにはあった。
「エホッ…ゲホッ……どういうことだエロ女神。全然強くなってないじゃないか…!」
(あれー?おかしいなぁ)
クローディアの呑気な声に、ショーマはイラッとしながら痛みに喘ぐ。
(もっと魔力練るのに集中してよ!私の力がほとんどショーマくんに伝わってないじゃん!)
「いや、そんな事言われても……」
「女神と融合したことで急激に強くなった力を、ショーマが扱い切れておらんのであるな。これなら合体しなかった方がまだマシだったの」
「えぇ……」
ガルの冷静な分析に、ショーマは情けない声を漏らすことしか出来なかった。
ショーマは何とか立ち上がって、神殿から少し距離を取る。
そのすぐ後に、ネイラの追撃が、ショーマが倒れていた場所に着弾する。危ないところだった。
そこからさらに無数の光がショーマに襲いかかってくる。
ショーマはとにかく、クローディアの力抜きでそれをいなすが、1発ごとに少なくないダメージを受けてしまう。
「どわぁぁぁっ!これじゃ前回と同じだよ!」
「こんなことなら、もっとショーマに魔力循環を練習させておくのであったのぉ………ん?いや待て」
(何さ、ジオ・ガルディン)
ガルが何かを思いついたのと同時に、ショーマの頭のすぐ横を、光が通り過ぎる。あれが当たっていたらショーマは首なし芳一になっていたに違いない。
「ショーマよ、お主には最も魔力循環の練度が上がる瞬間が有るではないか!」
「えっ?」
「狐娘を撫で回しておる時である!!」
ガルの思いつきに、クローディアは、「は?何それ」と訝しげであるが、確かにそれはそうだ。
ショーマがヴァネッサをモフモフしている時は、本人の記憶が無くなるほどの集中力を発揮していたはずだ。
それはそう、なんだけど、しかし、
「この状況でどうやってモフれって言うんだよっ!?」
ショーマの元には、これでもかという程の攻撃が殺到している。こんな状況の中にヴァネッサを連れてきたら、仲良くお空の星になってしまう。
いや、ヴァネッサを連れてくるまでもなく、ショーマが先に倒れる。間違いなく。
幾多の攻撃魔法をしのいだショーマの腕は、最早力を失ってきていた。
腰周り程もあろうか、という光魔法をショーマはガルで弾こうとするが、堪えきれず再び弾き飛ばされてしまう。
クルクルと宙を舞い、4回転アクセルを見事回り切った後、ショーマは五体没地で地面に落ちる。
起き上がろうと掴んだ地面の感触は、モフモフとは程遠く、固い。
「……あぁ、最後にもう一度モフモフしたかったなぁ……」
『話は聞かせてもらいました』
頭上から聞こえてきた声に反応してショーマが顔を上げると、そこにはルシルが立っていた。
「ルシル……さん……?」
「私達もいますよ!」
ルシルの後ろから、金属の塊が生えてきて、その中からリーネとエルヴィも現れた。それから、リーネの学友3人組も一緒のようだ。
人数が増えたことを警戒してか、はたまた何か面白いことが起きるのを期待してか、ネイラの攻撃は今は止んでいる。
「なんでみんなここに……?」
「必要な時が来れば、直ぐに連れてこられるように準備していました。皆さん、ショーマに協力したいと言っていましたので」
エフユーが地面からにゅっと生えて、ショーマの顔の前にで出てきた。
話の経緯も既に伝達済みだという。
なんとまぁ、エフユーというのは有能な奴だろうか。
「ネイラは私たちで抑えます。ショーマさんはその間に……」
エルヴィ達が振り返る先には、ショーマの目が潰れんばかりに見事なモフモフを携えた、ヴァネッサが立っていた。
いつもご閲覧いただきありがとうございます。
分離して、移動、情報伝達、戦闘を一手に担うエフユーは出来る奴。




