74. 知らないことばかり
「ヴァネッサさん!」
ヴァネッサが、自分を呼ぶ声に目を開けると、目の前には久しぶりに見るリーネの顔があった。
「リーネさん…」
エフユーに包まれた後、どこかに移動していたのは感じられたが、外の景色が見えなかったため、どこに動いているかまでは分からなかった。リーネたちの他に、見知ったカデリナの住人たちも居る所を見るに、彼女達が作った避難所なのだろう。
ヴァネッサは知らないが、恐らくリーネたちの知り合いであろう人達が、怪我人の手当てなどに奔走している。
「話は後で!まずはこれを飲んでください!」
リーネは、竜神水こと小瓶に入った怪しげな水をヴァネッサに差し出した。
リーネから手渡され、ヴァネッサはそれを迷わずに飲んだ。程なくして、体の痛みがじわりと薄らいでいくのを感じる。
「これは…?」
「これは我が村に伝わる秘薬です。あらゆる怪我を治し、気力を回復させる力があります。その名も竜神水!」
「あのリーネさん、こちらのドヤ顔してらっしゃる方は?」
リーネは、ヴァネッサにルシルのことを説明する。ショーマから事前に先輩弟子が同行しているということを聞いていたので、この人がそうか、とヴァネッサは納得した。
リーネの顔を見てほっとし、傷が癒えたのも束の間、ヴァネッサはショーマの事を思い出し、勢いよく立ち上がった。
「リーネさん!ショーマ様が1人で残って!」
「ショーマさんは、自分が行けば、あの魔物の狙いはショーマさんに移るはずだから、と言ってあの場所に飛び込んでいきました」
「そんな…それじゃショーマさんだけ犠牲に!?」
焦りと悲愴感すら見える表情のヴァネッサに対して、リーネは柔らかな表情で返す。
「ショーマさんは言ってました。“最終兵器がある“って」
「“最終兵器“?」
「それが何なのかは分かりません。私達、ショーマさんについて知らないことばっかりなんです」
知らないことばかり、そう言いながらリーネは笑う。
本当に、分からないことがまだ沢山ある。ヴァネッサは、リーネ言葉に同意する。
でも、きっと大丈夫。楽観的かもしれないがそう思ってしまう。今までもそうだったのだから。
「私たちもただ待っているだけのつもりはありません」
私はショーマくんの飼い主ですからね、とルシルが少しだけ笑みを見せる。
飼い主。
ショーマに聞かなければならないことが1つ増えたな、とヴァネッサは思った。
いつもご閲覧いただきありがとうございます。
つい口を滑らせて本音が出てしまうルシルさん。
僕も飼ってください。




