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7.落し物は何ですか、見つけにくいものですか

「こちらが240ルビです」


 どうぞー、とギルドの受付嬢は笑顔で硬貨を差し出す。ショーマはそれを受け取り、よし、と頷く。

 異世界に来て6日目、所持金がようやく目標の1000ルビを超えた。

 途中、衣類などの生活用品を買ったので、少し時間がかかってしまった。

 だが、これでやっとギルドに登録できる準備が整った。


「ギルド登録をお願いします!」

「はい、では500ルビ頂きます」


 ショーマはサイフ代わりの巾着袋から500ルビを出して、受付嬢に手渡す。受付嬢は受け取った金額を確かめたあと、カードを取り出した。


「では、こちらのカードに手を当ててください。ギルドカードの作成をいたします。」


 ショーマがカードに手を当てると、受付嬢が何やら呪文を唱える。するとカードが一瞬光った。


「はい、カードの作成が完了しました。」


 ショーマがカードから手を離すと、カードに色々と印字されている。

 おお、異世界っぽい、とショーマは感動する。


 カードには、名前、性別、職業、レベル、あと10桁の番号が書かれている。

 ショーマが気になったのは職業とレべル欄。


『職業:召喚士 レベル:3』


 そう言えば、あのエロ女神(仮)さんが、確かレベルの概念について言及していた。

 ラブラビットと戦っている内に、レベルが2上がっていたようだ。


 ギルドカードの確認をしていた受付嬢が、あら、と声を出す。


「どうかしましたか?」

「ショーマさん、召喚士の方だったんですね。てっきり剣士職の方だとばかり思っていました」


 受付嬢の勘違いももっともだ。

 魔物を連れていないし、剣を背負っているし。


「実はこいつが召喚されたんですよ。リビングソードの類いらしいのですが、喋る以外は只の錆びた剣なんです。」


 ショーマはガルを受付嬢に見せながら説明する。

 正直、ガルのことはあまりおおっぴらにしたくない。

 ガルのことは伏せて、誤魔化すことも考えた。

 ただ、下手に隠すと後々動きが取りにくくなるし、嘘に矛盾が生まれた時、変に勘ぐられても困る。

 しかも、少なくとも召喚の場に同席した神官風の爺さんは、ショーマが剣を召喚したことを知っている。

 あの爺さんから情報が漏れたとしても、矛盾が生まれない程度の情報だけは公開することにした。

 だから、話すのはガルが『喋る錆びた剣だ』という情報だけだ。


「珍しいですね!そういったアンデット系の魔物が召喚されることは、余りないらしいですから」

「ええ。だから召喚士なのに自分で戦わないといけなくて、大変なんですよ」


 この世界だとリビングソードはアンデット系の魔物に分類される。剣に、死んだ剣士の怨念が宿った魔物と言われている。

 アンデット系の魔物は、召喚と相性が悪く、そうそう召喚されるものでは無いらしい。人間が、"生きた"魔物を召喚することを目的とした術であるからだ。


 何はともあれ、ショーマは自警ギルドに入ることが出来た。

 受付嬢の説明によると、紛失によるギルドカード悪用のリスクはあまり無いらしい。他者がカードを所持しても、名前しか表示されない上、カードに『使用不可』の文字が表示されるため、すぐに分かってしまう。ただ、再発行手数料に200ルビ取られてしまうらしい。

 うむ、絶対に落とすまい、とショーマは誓う。


「ショーマよ、宿に帰るにはまだ日が高い。折角ギルドに登録出来たのだから、何かもう一つ依頼を受けていかんか?」

「ん?そうだなー。またラブラビット狩りか?」

「消極的だの!もっと高ランクの魔物を相手にしても問題ない!我が居ればそこら辺の魔物なんぞには負けはせぬ!」

「じゃあ、このリトルウルフってのにしよう。受付のお姉さんも、ラブラビットの次に受けるならこいつの依頼が良いって言ってたし」


 リトルウルフは、ラブラビットより少し強い位の魔物らしい。こいつは、小さな家畜を襲う食害があるらしく、ラブラビットと並んで定番で討伐依頼があるそうだ。


「何じゃリトルウルフか。ラブラビットと余り変わらぬではないか。もっと高レベルの奴にしておかぬか?」

「嫌だよ、怖いし。」

「何じゃ、つまらんのう」


 ガルがブー垂れる。世界レベルで戦っていたガルからすれば、物足りない相手なのは当然だろう。

 だが、ショーマはまだ駆け出しだ。そんな急に強い相手と戦う自信はない。


 という訳で、ショーマはリトルウルフ討伐依頼を受けて森に向かった。


 リトルウルフは、ラブラビットより一回り大きな魔物だったが、対して苦戦はしなかった。ガルの補助があれば、楽々倒すことが出来た。ジオ・ガルディン様々だ。

 魔力循環(対物)のスキルも、一瞬だけだが実戦で使えるようになった。剣が当たるタイミングで上手く発動出来れば、攻撃力が格段に向上する。


「よーし、依頼数分の討伐は終わったな」

「うむ、楽勝過ぎて欠伸が出るわ!」


 ガルが、ガハハと笑う。何だかんだ楽しそうで何よりだ。

 ショーマはと言うと、相変わらず涙で目を赤く腫らしていた。そう、リトルウルフもかなりのモフモフだった。何ですか、何なんですか、この世界。ショーマは世界を呪う。


 ショーマが、ガルを鞘に収めて森から出ようとした時だった。


「ショーマよ、街道で何者かが魔物に襲われておるぞ」


 ガルが声を上げた。それに反応して、ショーマが周りを伺うと、確かに森のすぐに外が騒がしい。


 ショーマがガルに誘導されながら、騒動の起きている場所に向かうと、1台の馬車が魔物に襲われていた。


 人間側は5人。魔物は1体だけだ。数的有利は人間側にあるが、苦戦しているようだった。

 魔物は大きな蛇の様な姿をしている。戦うならばショーマにとってはこの世界で初めての非モフ魔物だ。


「ショーマよ、助けなくて良いのか?」


 ガルが、ショーマに声をかける。

 ショーマは、果たして自分があの場に加勢してどうにかなるものか、判断しかねていた。


「ガル、あの魔物の強さはどのくらいなんだ?」


 ということで、先生に判断を仰ぐ。困った時は上司に相談せよ。サラリーマンの鉄則だ。


「あいつか?あれはさっきのリトルウルフと大して変わらんぞ」

「んー、じゃあ何とかなるか」


 ガルの補助があれば、リトルウルフ相手に苦労はしなかった。それと同ランクの魔物ならショーマでも倒せるだろう。


「よし、行くぞ、ガル!」

「うむ、そうこなくてはな!」


 ショーマは、魔物の側面から、馬車の助太刀に入った。

 接近すると同時に斬りつける。魔物はショーマの一撃を辛うじて回避する。

 魔物がショーマを認識すると、ショーマ目掛けて襲いかかってくる。


 速い。


 ショーマは、ガルの補助を受けてその攻撃をいなす。逸れたその一撃で地面が抉れる。

 あれ?と、ショーマはそこで少し違和感を覚えるが、戦闘を継続する。


 ショーマとガルは、魔物が自分の攻撃で体勢を崩した一瞬の隙を突いて、剣を叩き込む。

 一瞬だけ魔力循環(対物)を使用したその攻撃は、魔物の身体を深く切り裂いた。魔物が苦痛の鳴き声を発する。


「ショーマよ、魔力循環量を上げるぞ。次で決める」

「分かった!」


 ショーマが返事をするのと同時に、ガルから流れてくる魔力の量が一気に増える。その状態で、魔物の頭部を目掛けて剣を振るう。

 最初の一撃とは比べ物にならない速さで、剣が魔物の頭部を捉える。魔物の頭蓋骨を砕く嫌な感触がする。


 魔物は、その場に崩れて動かなくなった。




──────




 一瞬のことだった。


 突然現れた剣士が、魔物をたった2撃で倒した。

 魔物はボーグボア。こんな街道まで出てくることはあまり無いが、この辺りでは特に強い魔物だ。

 中レベルの騎士なら、パーティを組んでいても苦戦する。実際に彼、中レベルの騎士であるアリスターを含めた5対1で戦って危ないところだった。


 それを、目の前の剣士は圧倒してみせた。間違いなく高レベルの騎士か、ギルドの剣士だ。


 今見えているのは後ろ姿だけで、顔は見えない。戦闘中も、素早く動いていた為、ハッキリと顔が確認出来なかった。


 ともあれ、まずは礼を言わねばなるまい。


「ありがとうございました。お陰様で助かりました」


 声をかけると、その剣士はビクッと驚いた後、こちらに背を向けたまま、小さな声で返答した。


「⋯⋯いえ、大したことではございません」

「それだけの腕であれば、名高い剣士殿とお見受けします。是非お名前をお聞かせ願います」

「な、名乗るほどのものではありません!」


 その剣士はそう言うと、サッと森の中に消えていった。

 仲間たちが彼を追いかけようとしたが、制止した。

 あの身のこなしだ。追っても無駄だろう。

 結局、恩人の顔も名前も分からず終いだった。


 と、そこでアリスターは魔物の傍に何かが落ちているのを見つけた。

 ギルドカードだ。


 アリスターはそれを拾うと、すぐに馬車へそれを持っていく。


「お嬢様! こちらを。先程の御仁が落とされた物かと」


 馬車の中に座る、お嬢様と呼ばれた女性は、ギルドカードを受け取り名前を確認する。


「ショーマ⋯⋯様」

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