66.鼻の下伸び伸びですよ
ショーマは、逃げる女性とビッグアームの間に素早く入り込むと、そのまま進んでくるビッグアームの懐に飛び込んだ。
ビッグアームは、2年前に既に倒している魔物だ。今のショーマならガルの補助無しでも倒せるだろうと踏んで、ショーマは自分の力だけでビッグアームを斬りつけた。
が、そこで想定外のことが起きた。
難なく切り裂かれるはずのビッグアームの皮膚が、ショーマの一撃を弾いたのである。
「げっ!!嘘だろ!?」
剣を弾かれて態勢を崩したところに、ビッグアームの腕が飛ぶ。
見た目にわかる、2年前より遥かに強烈な一撃に、ショーマは戦慄した。
「ショーマくん、油断大敵ですよ」
ビッグアームのカウンターを、ルシルが受け止める。
危ないところだった。
「ありがとうございますルシルさん! ガル、頼む!」
「うむ、不可解ではあるが、とにかく今はさっさと倒すべきであるな!」
ーーーー
ガルの補助を受けた後のショーマは、ビッグアームを問題なく倒す事が出来た。
「ショーマさん!大丈夫ですか!?」
「はい、リーネさん。ルシルさんのお陰で怪我はありません」
ショーマとルシルが周囲の安全を確認したところで、他のメンバーがショーマたちに駆け寄ってきた。
「ビッグアームを無傷で瞬殺…有り得ない…」
「…アードルフのライバルは相当な強敵だね」
「さすがリーネの好きな人…!」
若干名、変な方向に感心している気がするが、ショーマからツッコまない。
それよりも気になる事がある。
「ガル、今のビッグアーム、なんかおかしくなかった?」
「うむ。魔物にも個体差があるとはいえ、ビッグアームがあそこまで強くなっているのは普通ではないの」
「だよね」
単純な攻撃力で言えば、2年前のガル補助有りショーマより、今のガル補助無しショーマの方が強い。2年前のショーマでもスパスパと攻撃が通っていたビッグアームだ。この現象は明らかに普通ではない。
こういうことが既に頻発しているようなら、もっと騒ぎになっているはずだから、ショーマが第1発見者、もしくはそれに近い人間なのだろう。
原因は分からないが、この件を近くのギルドに急ぎ伝えておくべきだ。
ショーマがビッグアームを見下ろしながらそんなことを思案していると、先程ビッグアームに追われていた女性がショーマの元に寄ってきた。
「危ない所を助けていただきありがとうございました」
いかにも田舎の町娘といった服装の女性ではあるが、銀色の髪は景色から浮いてしまうほどに美しく、顔立ちも非常に整っている。
服も綺麗な状態であるし、いい所のお嬢さんか何かだろうか。
「私はネイラと申します。街道の近くで薬草を採っていたところで魔物に襲われてしまって…」
「それがビッグアームなんて、それはまた運の悪いことでしたね」
エルヴィが気の毒そうにネイラに寄り添う。
「たまたまショーマくんがいたので運が良かったとも言えますね」
ルシルがいつも通りショーマに寄り添う。
近い近い!
「もうダメかと思っていたところで、ショーマさんが颯爽と現れ、ズバッと解決していただいたんです。本当にありがとうございました」
ネイラは、礼を言いながらショーマの手をぎゅっと握った。
同時に上目遣い、涙目の使用並びに胸部強調を行っており、非常にあざとい。
ただ、あざといとわかっていながらも、ショーマがドキドキしてしまう程には、ネイラは特別に綺麗だった。
「ショーマさん、鼻の下伸び伸びですよ」
「おっと、そんなことはありませんよ」
「嘘です。ここの所が5倍くらいに伸びてます」
エルヴィが、腕を伸ばしてショーマの鼻の下を指でつつく。
5倍は言い過ぎだろう。アリクイか。
ショーマは、これ以上エルヴィにつつかれない様、ネイラに離れてもらう。
それから、ネイラを近くの街まで送っていくことにしたのだが、異変があったのはショーマが馬車に乗り込む直前だった。
『…あーキミ、ショーマく……さま?聞こえるかな?』
いつぞやに聞いた声が、ショーマの耳に届いたのだ。
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