62.無限マッチョ
「さあ、もう1人の男!エルヴィを賭けて俺と戦え!」
決戦の地は、サルディア王都の周辺の平地。
声を上げるのは、王都における若手最強魔法使いの双璧を担う、カスト。
対するは、双璧のもう一端を担うエルヴィの、もう1人の男ことショーマ。
何となくこうなる気はしていた。
この状況に至るまでの説明をする。
ショーマとエルヴィは、魔法使いギルドに行き、いつも通りそこにいたカストに、「エルヴィに近づくな」という旨を、かなりの低姿勢でお願いした。
カスト、断る。
結果、決闘で決めることになった。
自警ギルドは、如何せん血の気の多い人間が多く、こういったいざこざは儘あることらしい。
そんな時に適応されるのが、双方合意の元で行われる決闘システム。
どこぞの猫と鼠の如く、“仲良く喧嘩しろ“、その方が早い、ということらしい。
どうしても譲れない物があるなら、ルールは決めてやるし、立ち会い人も出す。だからギルドに迷惑をかけるな、というスタンスの元、ギルドが取り仕切ってくれる。
決闘システムの申請無しで喧嘩沙汰を起こせば、国家法及びギルド規則に違反することになる。
決闘は、あくまでギルド員同士の訓練及び、交流を目的としたものであり、スポーツの1種である、というのが、国家法に対する言い訳のようだ。
グレーゾーンだが、そういう言い訳の元、成り立っているものは往々にして存在するものだ。
ショーマの世界で言うと、泡屋さんとか。
話が逸れた。
決闘システムに則り、ショーマとカストの決闘の場は、スムーズに用意された。
ショーマはあまり乗り気ではなかったが、早く決着出来るなら仕方が無いか、という判断をした。
「ショーマさん、なんだか変な事になってしまってごめんなさい。」
「いえいえ、1度引き受けた事ですから。」
ショーマとしても、小さいけれどメリットが無くはない。
人間の中で強い、というレベルを体感する機会は中々ないので、そういう意味ではこの場は丁度いい。
ショーマに降り掛かってくるモノは、魔物ばかりとは限らないし、対人間戦も想定しておきたい。
というか、この状況が既に、奇運招来(神)によるものかもしれないし。
この場には、ショーマ達以外に、ギルドの立会人や、その他のギルド員などの観覧者もいる。
カストのファンと思わしき女性陣の応援も多い。そこはかとないアウェー感にちょっとしたやりづらさを感じる。
「ショーマさん、頑張ってください!」
「ショーマくん、姉は心配です。」
リーネとルシルも観覧している。
ショーマに対する黄色い声援に、エルヴィが反応する。
「ショーマさん、あの二人のこと、後でお伺いしても?」
「あ、はい。ちゃんと説明します…。」
「双方、準備はよろしいですか?」
エルヴィが離れたところで、立会人から声が掛かる。
ショーマとカストは、共に頷いた。
ショーマは、ガルを構えずに、背負ったままだ。
「では、始めてください!」
ショーマは、決闘開始の合図と共に、召喚陣を展開した。
そこから、1体のマッチョが現れる。
「行け!」
現れたプロテインゴーレムは、カストに向けて突撃していく。
「ふん、そんな鈍足では俺まで届かない!」
そう言ってカストは、強力な雷魔法を放った。
プロテインゴーレムは、その直撃を受けるが、1発は何とか持ち堪え、再び愚直に前進する。
カストは、慌てることなく2発目の雷魔法を放つ。
これも直撃。今度はプロテインゴーレムが膝をついて動けなくなる。
観覧者から歓声が上がる。
「どうした、その程度か?」
カストがショーマを挑発してくる。
「では、次を。」
ショーマは、再び召喚陣を展開。
今度は2体のプロテインゴーレムが現れる。
「ふっ、雑兵がいくら増えようとも俺の敵ではない!」
カストは再び雷魔法をプロテインゴーレムに向けて放った。
────
これは、決闘を見ていたあるギルド員の言葉である。
「始めは、召喚士の召喚した魔物が簡単に倒されていくもんだから、カストが圧倒的に勝つと思っていたよ。でも、途中から雰囲気が変わったんだ。
幾ら倒しても、召喚士は平気な顔して次々に魔物を召喚してくるんだ。しかも、毎回倍に数を増やして。
4回目当たりから、カストは大規模な魔法で一気に魔物を倒し始めたんだが、次の瞬間には、その倍の魔物が居るんだ。
カストは、召喚士を狙い始めたんだが、それはどうにも当たらない。
7回目の召喚当たりで、カストも大規模魔法1発でも対応しきれなくなって、9回目の召喚された時にはもう魔力切れに近い状態だったよ。
最後、マッチョの群れに囲まれたカストのことを思い出すと、今でも寒気がするよ。」
召喚士は、筋肉の波に飲み込まれるカストに向けて、静かに手を合わせていたという。
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『無限マッチョ』には、『タワーオブ無限マッチョ』、『無限マッチョマシンガン』、『インビジブル無限マッチョ』などのバリエーションがあります。




