51.短期召喚契約→膝から崩れ落ちる
ショーマは、短期召喚契約の魔物を呼ぶために、召喚陣の前で立っていた。
「モフ、モフ、モフ……。」
頭の中で繰り返しイメージする。
思い出せ、通いつめたふれあい広場を。
思い出せ、モフり倒したヴァネッサの尾と耳を。
これまで出会った全てのモフモフたちよ、今ここに…。
「ダンタイサンゴライテンデース!!!!!!」
ショーマが召喚の呪文を叫んだ瞬間、召喚陣が光を放った。
来い、来い、来い…!
ショーマの熱い想いが頂点に達した時、光の中にうっすらと影か現れた。とそこで、夏の花火のように光が弾けた。
激しい光に思わず目を閉じたショーマが、激しく刻む心臓の音に押されて視界を回復させると、
仮面を被った水着の屈強なマッチョが、そこに立っていた。
「おや、ショーマが膝から崩れ落ちましたね。」
「流石に今回はダメージ大きそうであるなぁ。」
――――――――
ショーマは、ルシルさんに抱き起こされるまで、膝をついたまま失神していたようだ。
気がついたショーマは、さっき見たものが夢であることを切に願ったが、召喚陣の中央には相変わらず屈強なマッチョが筋肉キレキレで立っていた。
再び気を失いそうになるところを、ルシルさんに支えられて何とか踏みとどまる。
「ぎぎぎっ…何故だ…。」
よりによって、3mを越えようかというガッチリマッチョだなんて。しかも今回は短期召喚契約だ。群れとの契約だ。
マッチョの群れだ。
ショーマは、筋肉の海に呑み込まれる自分の姿を想像して、身震いした。
「それにしても、ショーマは相変わらず珍しい奴を引くものだの。」
「ガル、アレは何という魔物ですか?」
「アレは、プロテインゴーレムであるな。」
土や金属で構成されたゴーレムは、ゲーム等でも良く見るが、筋肉、タンパク質で構成されているからプロテインか。そのまままだ。
しかし、このプロテインゴーレム、異質な生態をしていた。
「プロテインゴーレムは、繁殖能力が異常に高い魔物での。人間が今ほど繁殖するより昔、増えすぎて生態系を崩壊させるところだったのであるよ。」
プロテインゴーレムの生態の中で、特筆すべきは繁殖方法。
なんと、成体のゴーレムが卵殻で自分の身を包み、分裂して再孵化するという。単為生殖の極みのような形だ。
しかも、卵殻化から孵化、成体に戻るまで、必要な期間はたった2日。エネルギー保存則?何それ?の増え方、育ち方に、ジュールもビックリだろう。
突然発生した1体から、持ち前の繁殖能力で爆発的に増え、たった5年で1億体、10年で10億体を超えた。
あと数十年で世界のキャパシティを完全に超える勢いだった。
一面に広がる筋肉。なんと恐ろしい光景か。
しかし、何故今、このマッチョに世界が埋め尽くされていないかと言うと、やはり女神の介入だった。
世界が1種族に支配されようかと言う時に、女神がプロテインゴーレムの個体数に制限をかけた。
それにより、個体数が減れば分裂し、上限に達すると分裂が止まる。また減れば分裂する、という性質の生物に書き換えられた。
その為、現在では一部地域にのみ、生息するに留まっているという。
女神、グッジョブだ。
ショーマの飛ばされた先が、マッスルワールドだったら、多分その場でショック死していたと思う。
「プロテインゴーレムって、意思の疎通はできるの?」
「確か、リーダー格の1体に自我が形成されるはずだったの。今そこにおるのが多分そうであるよ。」
リーダーだけ自我があるとは、またそれも随分特殊な生態だな。どうやったらこんな生き物が生まれるのだろうか。
兎にも角にも、ショーマは恐る恐る、眼前のマッスルに近づいてみた。勿論、ガルの魔力補助と、エフユーも横についてもらって、万全の警戒で。
「えーっと、プロテインゴーレム…さん?短期召喚契約出来たってことでいいんだよね?」
プロテインゴーレムは、その太い首を曲げて頷いた。
良かった、話しは通じるみたいだ。
何やらフゴフゴとプロテインゴーレムが喋り出したが、何を言っているのか、ショーマには一向に分からない。
「暇だったからいいよ、と言っています。」
ショーマが困っていたら、エフユーが通訳してくれた。何故解る。
取り敢えず、話しができるという事は分かったので、詳しい事はこれから聞いていくとして、今日の所は帰ってもらうことにした。何だかもう、疲れた。
「じゃあ、これからよろしく。」
フゴフゴ、と言って筋肉は召喚陣の中に帰って行った。
それを見届けた後、ショーマは再び崩れ落ちた。
母さん、異世界で魅惑のマッスルボディが仲間になりました。
しかも、いっぱい。
いつもご閲覧いただきありがとうございます。
まあ、こうなりますよね。




