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5.ガルディン先生のご指導

 ショーマは初の依頼をクリアした後、1泊食事付き40ルビの格安宿を見つけたのでそこに泊まることにした。


「つ、疲れた⋯⋯」


 今日は色々ありすぎて流石に疲労を隠せない。食事をして部屋に入った直後にベッドに倒れると、ショーマはすぐに眠ってしまった。



──────



 気がつけば、ショーマはだだっ広い空間に立っていた。

 見たことのない場所。

 際限無く広がる空間は、なんだかショーマに不安を感じさせる。


 すると不意に、ショーマ様、と後ろから声をかけられる。


 振り返ると、そこには1人の女性が立っていた。

 そしてかなり美人さんだ。初めて見る人、でも声には聞き覚えがある。


 今の声は、自称女神(仮)さんの声だ。ということは、この人が自称女神(仮)さんなのか。


 そうですよ、と女性は頷く。

 思っていたよりショーマのイメージにある女神像に近い雰囲気がある。割と容赦なくいじめてしまったのが効いているのか、最初の軽い感じは鳴りを潜めている。


 そして、心なしか恥じらいの表情を見せている。なんだかちょっとモジモジしている。

 なんだか言いたいことがあり気な、でもちょっと気まずそうな、複雑な顔をしている。


 まぁ、大体何を言いたいか検討はつく。対女神精神攻撃(物理)でのイタズラについてだろう。


 女神(仮)さんは、うんうん、と頷く。あぁ、そう言えば心の声が聞こえるんだった。


 まぁ、いきなりあんなことやこんなことを遠距離からされたら、言いたいことの一つや二つはあるだろう、と、ショーマは思い返す。


 あ、思い返してしまった。

 しかも、今までは見えていなかった女神(仮)さんの姿が見えているので、想像がより具体的になる。

 一度頭に浮かんだことを考えない様にするというのは非常に難しい。対女神精神攻撃(物理)大人verがショーマの意志とは関係なく発動する。


『あぁ⋯⋯やっぱりこうなるのねぇ⋯⋯』




──────




 ショーマはベッドの上で目を覚ます。

 なんだか、とても扇情的な夢を見た気がする。自称女神(仮)さんが、あられもない姿になっていたような。

 うーん、とショーマは思い出そうとするが、ハッキリ思い出せない。


「おお、起きたか親友」


 ベッドの脇からガルの声がする。

 そう言えば、ベッドに倒れ込む時にポイッと投げてしまった気がする。ごめんね、親友。


「まぁ、まずは顔でも洗ってこい。これまでの事と、これからの事について色々話をしたい」

「そうだね。そういうことは早めに話し合った方がいいね」


 ショーマは、水場で顔を洗った後、ベッドに置かれた剣に向かい合う様に座る。

 まずはこれまでのことについて、お互い話をした。


 ショーマは、異世界からたまたまこの世界に飛ばされたこと。

 元の世界で、エンジニアとして、戦いとは無縁の生活をしていたこと。

 そして、異世界転移の原因と思われる自称女神(仮)の存在について。


「ふむ、異世界の者であったか。魔力循環に違和感があったのはそういうことか」

「違和感?」

「この世界の生物は、大なり小なり魔力を持っている。生きているうちに自然と魔力が滞りなく流れるようになっていく。血液の様にな。」


 ガル曰く、ショーマは魔力の保有量に対して、魔力の流れが悪いという。

 本来なら、もっと魔力がグルグルと身体を駆け巡っていないといけないらしいが、ショーマの魔力は殆ど循環していない。


 当然といえば当然だ。ショーマは生まれてこのかた、魔力なんて扱ったことが無い。

 動かなければ筋肉は凝り固まってしまう、血流も悪くなる、という様なものだろう。


「魔力を上手く循環させるにはどうすればいい?リンパマッサージでもすればいいのかな?」

「なんであるかリンパマッサージというのは」


 どうやら違うようだ。まぁ当然冗談で言っているのだけど。


「我がある程度強制的に魔力を循環させる。それで魔力循環の感覚を覚えるといいのではないかのう」

「ああ、昨日やった様な奴か」


 じわっと温かいものが身体を駆け巡る感覚。アレが魔力が流れている状態だったのか。

 なんだかお風呂に浸かった時に似ていたな。


「初めは我が魔力の流れを作る。ショーマはその流れを継続させるようにするのだ」


 分かった、とショーマはガルの柄を握る。

 昨日ラブラビットと戦っていた時と同じ感覚がすぐにやって来る。

 イメージ、イメージ、とショーマは呟く。

 心臓が、血液を全身に流す様に、ガルが送ってくれる魔力を身体中に流すイメージ。手先、足先、頭のてっぺんまで、余すところなく、魔力を流す様に。


 段々、ガルから送られてくる魔力が少なくなってくる。

 ショーマは、それでも自分の中の魔力循環を途切れさせない様に集中する。

 ガルの手助けがある時に比べると極々微量ではあるが、なにかが身体を巡っている感覚がある。


「うむ、その調子だ。これを繰り返していけば扱える魔力量も増えていくだろうよ」


 "スキル:魔力循環を習得"


 おお、スキルも習得したし、なんだかうまくできているようだ、とショーマはちょっと感動する。

 水をせき止めていたダムが解放されたように、一度流れ始めた魔力はショーマが意識をしなくても、僅かながら自然と流れているようだ。よりスムーズに、より強い魔力を扱えるように、この訓練は継続的にやっていくことにしよう。

 


「それから、この剣にも魔力を流す訓練もするのである」

「剣に?」

「うむ。剣に魔力を通すだけで何でもスパスパ切れるようになるぞ」


 なんだか通販番組の包丁みたいな触れ込みだな。

 ショーマの頭の中で、ハイトーンボイスのオッサンが、トマトとかを切りながら、『なんと今なら29,800円!!』とか言っている様子がうかぶ。


 魔力でスパスパ切れるようになる原理は想像がつかない。

 とりあえず異世界ってスゲー、と思うことにしてまずはやってみることにする。


「さっき身体の中を循環させるようにしていた魔力を、剣にも循環させる様な感じであるな。剣も身体の一部と思ってやってみよ」


 ショーマは言われた通り、まずは体内に循環する魔力に意識を向け、そこから剣に意識を集中させる。


 正直、かなり難しい。

 魔力を強く体内循環させるのも、まだかなり集中する必要がある。そこから剣の方に意識がいくと、体内の循環が弱まってしまう。


 格闘すること1時間程、ようやく、本当に極僅かではあるが、魔力が、剣に流れる感触が得られた。


 手から剣に伝わった魔力が、剣の内部を巡ったあと、手元に帰って来る。本当に剣が手の延長線になった様な、変な感覚だ。


 "スキル:魔力循環(対物)を習得"


 ただ、出来たのは一瞬。

 すぐに剣への魔力循環は途切れてしまう。

 これではまだ実戦で使えるレベルではないし、実際この作業でどれ位効果があるかもわからない。


 とりあえず、剣に魔力を循環させるスキル効果の程を確認する為、宿の外から石を拾ってきて、それに剣を押し当てた。

 その状態で、剣への魔力循環を行う。


 一瞬、剣に魔力が伝わる感触があった。

 と、ショーマが感じた瞬間、剣が"ヌルり"と石に入り込んだ。

 切ったという感触は殆ど無かった。豆腐に包丁を入れるくらい、簡単だった。


 スゲー、とショーマは素直に感動する。


 調子に乗って何度か試している内に、何となく原理がわかった気がする。

 魔力を剣に循環させると、剣が微小に振動する。

 その微小振動で、相手物を斬るというより、削る、溶かす感じか。

 いわゆる「振動剣」「高周波ブレード」の類だ。魔力が剣の表面に薄い皮膜を作って、剣側へのダメージを防いでいる。この魔力被膜自体も何か直接的な作用があるのかもしれないが、それはショーマにはわからない。


 ふむ、これなら剣じゃなくてもできるかもしれない。

 と思い立って、コインを手に取り、同じ様に魔力を流そうとする。


「あれ、全然ダメだ」


 手に持ったコインには、まったく魔力が伝わっている感じがしない。


「ははは、そいつに魔力を流すのはまだ無理であるな!」


 その様子を見てガルが笑う。


「この剣は特別に魔力を通しやすいのだ。だからショーマの様な初心者でも魔力循環が出来るのであるよ」

「へー、魔力にも伝導率があるのか」


 電気や熱の様に、魔力も物質によって伝わり易さがあるらしい。

 魔力伝導率とでもいえばいいのだろうか。


 ガルの剣には魔力伝導率が高い素材が使われており、その素材自体がかなり希少な金属らしい。

 普通の鋼で出来た剣に魔力を通そうとすると、抵抗が大きくて発熱、溶解してしまうとガルは言う。

 恐らく、ショーマが試したコインも、スキルを鍛えて鍛えていけば魔力を通せるようになるのだろうが、成功してもすぐに溶けてしまうだろう。


 そもそも、人間が魔力循環を使っているのをガルは見たことがないという。

 もしや、魔力循環(対物)という、この自動車保険みたいな名前のスキル、レアスキルでは?

 ガル先生、重要なスキル伝授イベントがさり気な過ぎです。


 とにかく、今回習得した二つのスキルは継続的にトレーニングして、実戦レベルに持っていく。

 ショーマは、異世界での生き残りの為に、決意を新たにした。

 いつもご閲覧いただきありがとうございます。

 来年もよろしくお願い致します。

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