46.せんせー!ショーマくんが
「みんなー!今日からみんなのおともだちになるショーマくんでーす!せーの」
「「「よろしくおねがいしまーす!」」」
「あ、よろしくお願いします…。」
ショーマは、幼稚園の先生に紹介されて、これから学友となる『おともだちたち』に挨拶をする。どういう状況だ。
ルシルさん、登園初日を見守るお母さんみたいなポジションで教室の後ろから見るのは止めてください。恥ずかしくてもう1回死にそうです。
「ガル、どういうことなの。」
「どういうことも何も、こういうことである。」
えへん、とガルは無駄に威張る。いや、だからどういうことなの。
状況について行けていないショーマをよそに、幼稚園の授業は進行していく。
「じゃあみんな、お外に出て運動をしましょう!」
「「「はーい!」」」
「あ、はーい…。」
ショーマの半分ちょっとしか身長の無い学友たちの後ろについて、園庭に出る。幼稚園までさかのぼると、最早懐かしいとかいう記憶も無い。
ショーマが外に出ると、そこにはやたら大きな園庭が広がっていた。そのくせ、遊具などは殆ど無く、所々凸凹とした地面が有るばかりだ。
「まずは軽く体操をしまーす!みんな、準備をして2人1組になってくださーい!」
「「「はーい!」」」
「ファビオくんはショーマくんと組んであげてねー!」
「はーい!」
ご指名を受けたファビオくんがショーマの所へやって来る。手には2振りの剣。1本をショーマに、はいっ、と渡してくれる。
ショーマはそれを勢いで受け取ってしまったが、こんな物で何が行われるのだろう。
「みんな準備出来たかなー?じゃあ、スタート!」
「「「はーい!」」」
元気な返事と共に、幼い学友たちが一斉に動き出した。
ショーマとペアになったファビオくんも、動きだした。ショーマがその動き出しを認識した次の瞬間には、
「えっ、速っ……。」
ファビオくんの剣先は、ショーマが避ける間もなく、ショーマの体を、サクッと貫いていた。
「せんせー!ショーマくんが死んだー!」
「あらあら、大変。ルシルさーん!」
――――――――
泉から蘇生して帰ってきたショーマは、園庭の端で『体操』をする幼き学友たちを眺めていた。
その誰もが、信じられない速さで動き、剣を交わし合っている。とても楽しそうに。
「ガル、どういうことなの。」
「どういうことも何も、こういうことである。」
さっきも同じ会話をした気がする。しかし、今度はショーマも少し状況が読めた。
「つまり、俺の強さはここの幼稚園児以下ってことか…。」
強すぎです、竜人幼児。
ガルの補助で戦い続けて、自然とショーマも多少は剣が振れるようになってきた、はずだった。
しかし、どうだろうこの状況。ショーマは、ガックリと肩を落とした。
「まあ、気にするでない。我ら竜人は、生まれた瞬間からその辺の人間よりも強いのであるからな。」
「マジですか。」
お母さんから出てきた瞬間に戦って負けるなんて、最高にシュールな光景だ。是非、ごめん被りたい。
「大丈夫、やれば出来る子ですよ、ショーマくん。」
「ルシルさん、保護者ポジションは恥ずかしいのでやめてもらえませんか。」
しかも、くん付けに格下げされている。くそぅ、でもさっき泉で介抱してもらったので文句も言えない。先程はありがとうございました。
「まずは我の補助なしで、10歳くらいの子供に勝てるようになるのである。」
「10歳か……。」
幼稚園児でこの強さなら、10歳はどのくらいの高みにいるのだろうか。ショーマの寿命の内に辿り着けるか、不安になるレベルだ。
「なあに、あっという間であるよ。」
ガル先生のあっという間は、どの位の年数でしょうか。ガル先生の物差しは、ショーマの物より桁が何個か大きいからなぁ。100年くらいかなぁ。
ということで、ショーマは幼稚園児に混じって訓練をやって行くことになった。
状況のシュールさと、先の見えなさに、思いやられるショーマだったが、ガルの訓練はこれで終わりではなかった。
ショーマの地獄はこれからだ。
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