43.拒絶の樹海
「よし、頼むぞニック」
デイノニクスっぽい動物、ショーマがニックと名付けた彼は、デイノランナーという種類の生き物だ。
強靭な足腰で、走りに関しては一級品。
家畜としては、比較的気性が荒いという難点があるものの、長距離の移動にも耐えうる為、重宝する人は多い。
ショーマの騎乗経験は、高原での乗馬体験くらいしかないので、鞍をつけて跨るスタイルは追々練習するとして、一先ずは馬車を付けることにした。
ニックは、ショーマたちの乗る馬車の重量を物ともせずに、軽快に進んでくれる。
非モフであるのは非常に、ひじょーに! 残念ではあるが、移動手段という点ではいい買い物が出来たのではないだろうか。
そうポジティブに捉えることが大事だ、何事も。泣いてない、泣いてないぞ。
しかし、馬車というのはなんとも乗り心地の悪い乗り物だ。
風魔法を応用したエアサス機能がついてる馬車もあったが、高くてちょっと買えなかった。
もっとメカ的な構造のサスペンションのものはないのだろうか。
リーフ式を自作するか、風魔法をもっと鍛えるかしたい所だ。
とりあえず、申し訳程度にクッションを買って急場はしのぐことにした。
ニックが順調に進んでくれているので、思っていたより早く目的地に着きそうだ。
休憩の度に、撫でることを求められるのだが、まあそれくらいは良い。
はぁ、これでモフモフだったら最高なのに。
大体、恐竜というのは羽毛があった説がある。
なぜこの世界ではその説を採用してくれなかったのか。しっかりしてくれよ、女神様。
ショーマはこの件に関して、対女神精神攻撃(物理)で、八つ当たりしておいた。
まぁ、この世界の生物創造にあのエロ女神(自称)が関わっているかどうかは知らないが。
「それにしてもガル、拒絶の樹海に行って何をするの?」
「まずは我の一族に会う。話はそれからであるな。」
ガルの一族か。頼りになりそうだが、一つ懸念が。
「ガルが封印されたのって相当昔だよね?知ってる人はいるの?」
というか、そもそもまだその樹海にいるんだろうか。
「我の一族は人間よりはちょっと長命だからの。我と同世代の奴らもまだまだ元気にやっておると思うぞ。」
ということらしい。ガル先生、それはちょっととかいうレベルではありません。
それから、ガルの一族は生活地を変えることは基本無いらしい。つまり、外に出ていたガルの方が例外ということだ。
そういうことなら、「ジオ・ガルディン?歴史では習ったけど。」みたいなリアクションはされずに済みそうだ。
ショーマは、愉快な仲間たちとの旅を続け、すんなりと『拒絶の樹海』の最寄り町まで辿り着いた。
ショーマはこれまでの道中、立ち寄った町で樹海に関しての情報を集めていたが、どの人の話も、ショーマを尻込みさせるものばかりだった。
「森の中は、上級の魔物がウロウロしてる」だの、「樹海の外に出られたらマシな方。出てきたやつより帰ってこなかった奴の方が多い」だの。
最寄り町につく頃には、すっかりショーマの気分は落ち込んでいた。
しかし、もう腹は括ってきたのだ。もう行くしかない。
ショーマは、馬車を宿に置いて、離れるのを嫌がるニックを何とか引き剥がして、樹海へ足を向けた。
『拒絶の樹海』。
地図では見たが、相当に規模が大きい。まさに海のように、飲み込まれそうな雰囲気に満ちている。
ショーマは、思わず緊張して足が止まってしまう。
すると、ショーマの体に暖かいものが流れ込んでくる。
「ガル?」
「なにをビビっておるのだ。我らがおるではないか。」
ガルの魔力が流れ込んできたことで、体の固さがほぐれた気がする。エフユーの方を見ると、相変わらず呑気にうにょうにょしている。そんな様子を見ていると、心の緊張も少し和らいでくる。
「よし、行こう!」
「うむ!」
ショーマは、意を決して樹海の中に入っていった。
木々の間を縫って進んでいく。時折、ボーグボアくらいの強さの魔物や、ビッグアームよりちょっと強いくらいの魔物と遭遇したが、問題なく対処出来た。上級の魔物といってもこのくらいの相手ならショーマでもなんとかなる。
ショーマは少し安心しながら"真っ直ぐ"進んでいく。すると、急に開けた場所に出た。
「あれ?ここって……」
ショーマが出てきたのは、ショーマが樹海に入った所とほぼ同じ場所だった。
真っ直ぐに進んできたはずなのだが、なぜこんな所に出てしまったのだろう。これが、ガル一族の結界か。不思議だ。
「うむ、普通に行けばこうなるであろうな。」
「どうするの?」
「こうするのである。」
ガルがショーマに魔力を流し込んでくる。
なんでも、一族の魔力を感知して結界が開くそうで、この状態のままで進めば、目的の村にたどり着けるという。
ガル先生、初めからそうしてください。
ということで、ガルの魔力補助を継続した状態で、樹海に再突入する。
初回と同じように魔物を倒しつつ、進んでいくと、ある所で妙な違和感があった。
「ん?今なにかあった?」
「気づいたかの。ちょうど結界を抜けたのであるよ」
おお、無事にガルの村に近づけているようだ。
結界を抜けてしまえば、一族の魔力を流しておく必要も無いようなので、ガルの補助は解除した。
結果的に、この判断は誤りだった。
「さあ、行ってみよ―――」
「ん、ショーマっ!!」
え? とショーマがガルを見た瞬間、ショーマの腹部を刃物が貫通していた。
直前でガルが魔力補助を再発動させたので、即死は回避出来た。
しかし、再発動までのタイムラグのせいで完全に避けることは出来なかった。
控えめに言っても、その一太刀は、致命傷だった。
毎度ご閲覧頂きありがとうございます。
主人公が死んだので、次回からヴァネッサのモフエロ恋模様になります。嘘です。




