41.あれよあれよという間に
「我々はあの剣を手放したくて仕方が無いのです!!」
町役場の一室に連行されたショーマは、椅子に座らされたと思ったら、町長からいきなりそんな告白をされた。
え、何?と、ショーマは急な展開に混乱した。
ガルは歴史的な観点で言ったら、超貴重な古代の剣だ。
悪の竜剣士が封印されているといういわくを差し引いても、町代々受け継いできた物であれば、相当に大切なものではなかろうか。
それを手放したいとはいったいどういうことだろう。
町長は、頭からクエスチョンマークが出ているショーマを置いて、話を続ける。
「あの剣を封じるべく成立したこの町は、常に苦しい生活を強いられてきたのです。」
このガルディアの町は、帝都の近くにありながら、特に大きな特産品や観光資源もなく、外部からの収入が極端に少ない。
作物の育ちもあまり良くなく、自給自足の生活でもかなり苦労が必要だ。
かつて何度か、神話の時代に描かれる歴史ある町、というところを観光資源として収入アップを画策したことはあったそうだが、その度に大小様々な不幸があったという。
観光客の間で感染症が流行り、『封剣の呪い』と風評被害を受けたり、町の生き帰りで滅多に出会わない強い魔物に遭遇したり。
観光地化計画の度に、そういった不幸が"偶然にも"重なり、人々の足は遠のいていったという。
しかも、帝都の近くとは言いつつも、大きな街道の途中にある町というわけでもないので、よっぽどの理由がない限りは、この町を通過することもない。
あまりに都合の悪い状況が続くために、過去に、町人たちが高名な魔術師様を呼んで、不作や不幸の原因を調べてもらったことがあった。
「魔術師様がおっしゃるには、『剣が封じられていることにより、この地に巡るべき"良い気"が断ち切られている』とのことだったそうです。」
それを聞いた町人たちは、歴史的な遺物であるということは、この際切り捨てて、剣をどこかにやってしまおうと思ったそうな。
ある時、酔狂な金持ちに「非常に貴重な品」として、譲り渡したことがあった。
しかし、剣はすぐに戻ってきた。
金持ちは、帰りの道中で"妙に強い魔物"に襲われ、命からがら町に逃げ戻ってきた。
「こんなものは要らぬ」と、突っ返されてしまったそうだ。
また、剣が盗賊に盗まれたことがあった。
その盗賊は、この界隈では非常に有名なグループで、厳重に管理された封剣を、易々と持ち去ってしまった。
しかし、剣はすぐに戻ってきた。
これまで、帝国がどれだけ労力を割いても壊滅できなかったその盗賊グループが、急に自壊してしまったのだ。原因は、内部分裂など、色々と言われているが、よくわかっていない。
結局剣は売り払われる前に"無事"押収され、町に戻ってきた。
そんなことが続き、剣を町から離すこともできない。
それができないから、町の不作も続く。
町人たちにとって、この『神話からの遺物』は、完全な厄介者でしかなかった。
「ですが、何をしても戻ってきていたその剣が!ここ数ヶ月、無くなったままなのです!!」
剣が無くなった、という噂は一気に町中に広がった。
初めは皆、「どうせすぐに戻ってくる」という考えだった為、大した騒ぎにはならなかった。
しかし、1日が経過し、1週間が経過し、1ヶ月が経過した。
この辺りになると、町人たちは徐々にざわつき始める。
3ヶ月が過ぎようという頃になると、町ではもう大騒ぎだ。
「今度こそ、この町は開放されたのではないか」
という考えが人々に過ぎり始めていた。
しかも、剣が無くなってからというもの、町には色んな変化が起きていた。
今年は、非常に稀に見る豊作の年となった。
さらに、町のある一角から温泉が湧き出て、町の近郊で貴重な鉱石の取れる場所が見つかった。
しかも、剣が無くなった、ということで帝都から人が派遣され、なんと皇帝まで視察に訪れた。
しかも、皇帝がガルディア訪問以来、なんとも調子が良いらしい。
持病の腰痛と痔が、急に良くなったというのだ。
その噂が広まると、ショーマの世界で言うところの『パワースポット』という扱いになりつつあり、観光客も増え始めている。
町人たちは今、人生のピークにあった。
「しかし、しかしです!我々はまだ安心できないのです!!」
町が好調だ、という話をしていた時はルンルンで話をしていた町長の目が、再び光った。
「我々の中には常に疑念が残っているのです。いつか、いつか!あの剣が帰ってくるのではないかと!」
そして、人々は、無くなった封剣と同じくらいのサイズの剣を見かける度に、戦慄しているという。
ただ、町人たちに、生気の無い目で見られたり、親の敵みたいな目で見られていたのには、そういう理由があったのかと、ショーマは納得していた。
あと、力説する町長の顔が滅茶苦茶近い。怖い。
ただ、そういう事情ならば話しても問題ないかもしれない。
そういう考えが、ショーマの中に生まれていた。
「ガル、いいかな?」
「うむ、我は問題ないと思うぞ」
「エフユーは?」
「今の話に詐称の様子は確認出来ません。問題ないと認識します」
エフユーが「問題Nothing」という文字を形作る。器用か。
よし、とショーマは腹を決めた。
「町長さん、大事な話があります。」
「ほう、何でしょうショーマさん。」
ショーマは、ガルを机の上に起き、エフユーのコーティングを外した。
室内が、一気にざわめいた。
いや、恐怖に陥ったと言っても過言ではないくらい、明らかに慌て始めた。
「町長さん、その剣をこの町から持ち出したのは私です。」
ショーマは、これまでの経緯を説明した。
召喚でたまたま呼ばれてしまっただけで、故意の窃盗では無いことは強調しておいた。
そして、重要な話に移る。
「私は、正式な召喚に則って、この剣と召喚契約をしました。出来れば、この剣の所有権を認めていただきたいのですが」
「勿論です。お持ちください。」
結論早っ。
「本当にいいんですね?」
「ええ、ええ!!もうちゃちゃっと持ってっちゃってください!正式な所有権移譲の書類もすぐに作ります!」
あれよあれよという間に、所有権移譲手続きも進み、ショーマは公式にガルの正当な所有者になってしまった。
拍子抜け。
あれだけ警戒していたのは何だったのか、という妙な脱力感がショーマを襲った。
「ちなみに、やっぱりこんな貴重な物、お返ししますと言ったら…」
ショーマがそれを口にした瞬間、室内が修羅の国になった。
冗談ですよ、とショーマが言うと、町長たちはすぐに笑顔に戻った。
グランドイーターの時よりも死を身近に感じた瞬間だった。
もうこの話題に触れるのはやめておこう。
それからショーマは、凱旋パレードに参加させられた。
図らずもガルディアの町を救った英雄として、町人たちから歓迎された。
1番いい宿に泊めさせてもらったし、食事も非常に豪華なものを用意してもらった。
そして、出発はいつですか、としつこく聞かれた。
ことある事に、「で、出発はいつですか?」と聞かれた。
常に笑顔で接してくれた町人たちだったが、その質問をしている時だけは目が死んでいた。
ショーマは、「旅の途中ですので、2、3日中には」とショーマが答えると、人々は露骨に笑顔になった。
少しは取り繕って欲しい。
何はともあれ、ショーマはガルの所有権を正式に認めてもらい、目的は無事に達成出来たので、良かった。
「さて、これからどうするのであるか?」
「ちょっと考えてたことがあるんだけど」
ショーマは、グランドイーターの一件以来、悩んでいたことがあった。
"もっと強くならなければ生きていけない。"
スキル奇運招来(神)のせいで、どんな事件や魔物との遭遇に巻き込まれるか、分かったものでは無い。
ショーマ自身が、生き残りを賭けて強くなる必要性を、ひしひしと感じていた。
「ほう、それならば──」
ガルはそれを聞いて、ある提案をしてきた。
「我の故郷に行ってみぬか?」
ガルは封印されて眠っていた状態だったので、実は特に何もしていません。
女神が封印のために色々土地を弄ったせいで、悪影響が出てしまいました。
つまりは女神のせいですね。
毎度毎度、ご閲覧頂きありがとうございます。




