38.出発、ウルガン帝都
ショーマとヴァネッサが張った結界魔法は、リーネの放った火魔法によって丸ごと吹っ飛ばされはしたが、何とか減衰することには成功し、周辺への被害は防ぐことが出来た。
ヴァネッサの結界魔法は、度重なる魔力循環(対モフ)で大幅に強化されていたにも関わらず、耐えきれなかった。
ただ、幸いにも指向性のある魔法だったので、魔法は正面にしか飛ばず、ショーマたちも巻き込まれずに済んだ。
「な、何ですか、今の…」
リーネは自分で使った火魔法の威力に、ひどく驚いていた。
それはそうだろう。
さっきまでライターのレベルでしかなかった火の勢いが、大爆発か、というものに変わったのだから。
「危ないところであったな」
「ありがとう親友。助かったよ」
ガルの咄嗟の指示がなければ、周辺が焦土と化していただろう。
しかし、リーネの変貌ぶりには流石にショーマも驚いていた。
ショーマ自身や、エルヴィ、ヴァネッサの時とは比べ物にならないレベルアップだ。
ガル曰く、
「潜在的な魔力量の高さに加えて、魔力循環不良という負荷がかかった状態で魔法の練習をし続けた結果であろうよ」
ということらしい。
酸素の薄い高山トレーニングで心肺機能が上がるようなものか?
「しばらくは魔力制御に苦労するであろうが、これまで散々練習してきたのであるから、すぐに慣れるであろうよ」
と、ガル先生は仰る。
そういうことなら、慣れるまでは魔力の力加減調整に努力して貰った方がいいだろう。
「調整、ですか。いきなりこんなことになって正直戸惑っていますが、頑張ります!」
「それは今までリーネさんが努力してきた結果です。もう少しですから頑張ってくださいね」
はい、と頷くリーネはとても嬉しそうだった。
ところが、リーネは急にポロポロと涙を零し始めた。
「リーネさん、どうしました!?どこか痛みますか!?」
「いえ…ただ……嬉しくて……」
涙を拭いながら、途切れ途切れに、気持ちを語ってくれる。
これまでたくさん頑張って、結果に繋がらなくても、それでも頑張ってきたのだ。色んな思いが溢れてしまったのだろう。
ショーマはさりげなくハンカチをリーネに差し出す。
リーネはそれを「ありがとう…ございます」と、受け取った。
うむ、さりげない。
ただ、ショーマも完全にもらい泣きしていた。
というかリーネよりも涙が出まくっている。
ショーマのハンカチは渡してしまったので、ヴァネッサがハンカチを貸してくれた。
全くもって締まらないショーマであった。
「それじゃあ、ここで」
ショーマは、ヴァネッサとリーネ、それから後から来たエドモンさんたちに別れの挨拶をした。
ヴァネッサには、改めて「連絡してください」と念を押された。
ついでにリーネにも連絡先を渡された。
落ち着いたら、連絡をとってみようと思う。
エドモンさんは相変わらず「会えない時間が愛育くむ…くぅ、立派になって…」とよくわからないことを言っていた。
ショーマは、そんな人達に背中を見送られながらウルガン帝都を出発した。
目指すはガルディア。
そこではショーマにとって、想定外の事が起きるのであった。
リーネが史上最高成績で高等学校に入学を果たし、帝都中に衝撃を与えるのは、また後の話。




