36.異世界の裁判は人権とか尊重してくれるでしょうか
「少しだけ手伝わせてもらえませんか?」
ショーマがそう申し出ると、リーネは少し戸惑ったようだったが、すぐに試してみようという気になったみたいだ。
リーネは、ダメで元々、という表現が正しい心境だったに違いない。
ショーマは、スキル使用前にリーネに効能と副作用について説明して、リーネの手を握った。
「あれ?」
ショーマはスキルを使い始めたが、すぐに違和感を覚えた。
これまでだったらすんなり流れていたはずの魔力が、上手く流れていない。エルヴィの時にあった"引っかかり"のようなものが、入口からいきなりあるみたいだ。
ショーマは流れが出来るように、少しずつ流す魔力を強めていく。
だが、留まろうと抵抗してくる魔力量が余りに多く、なかなか上手くいかない。
「ガル、初めだけ少し手伝ってくれない?」
「うむ、よかろう」
ガルの魔力も少し借りて、もう1段魔力を強く流す。
止まっていた流れが、少しずつ動き出す。
ある所まで流れが出来てからは、それまで溜まっていた魔力が一気に流れ始めた。
「んぁっ!?」
リーネの体がビクッと反応して声が漏れる。
その声に驚いてショーマもビクッとなる。
しまった、魔力が強すぎたか、と思い、ショーマは魔力をゆっくり弱めていく。
一度流れ出した魔力は、ショーマからの魔力を弱めても、順調に流れ出している。
よしよし、適度な魔力量になってきたようだし、これならリーネが変な感じになることは…
「んんっ…ショーマさん…なんか変な感じがしますぅ…」
「あれ??」
おかしいな。まだ魔力が強いのか?
ショーマはそう思い、もう少し魔力を弱めていく。
「しょ、ショーマさん…そんなにじわじわされると…なんだか切ないです…」
おや、これは様子が違うぞ?普通に魔力循環(対人)自体に反応してるような気がする。
たまたま話しかけた少女と、また魔力相性が合致するなんて、こんな偶然あるだろうか……はぁぁっ!
さては現れたな、奇運招来(神)!!
しかし、それに気づいたからと言って、今さら中途半端な状態で終わらせられない。
ショーマは、目の前の少女の努力を無駄にしたくないのだ。
ショーマは覚悟を決めて、魔力循環(対人)スキルを再び強く流し始める。
力加減は、ヴァネッサに魔力循環(対モフ)を繰り返しているうちにかなり上達している。
「リーネさん、もう少しだけ我慢してください!」
「は、はひ…」
ショーマは、リーネの魔力が全身を巡るように魔力を慎重に流し続ける。
あれだけ滞っていた魔力が、淀みなく、むしろ整流となって流れている。
「ショーマさん、体が熱いです…」
「リーネさん、もう終わりましたよ」
ショーマは少しずつ、ショーマから流す魔力を弱めていく。
それでもリーネの中の魔力は、自ら流れを作り出している。
もう、大丈夫だろう。
ショーマがリーネから手を離すと、リーネはその場に座り込んで、意識が飛びそうになっていた。
ショーマは慌ててリーネの体を支える。
リーネを慎重に寝かせてから、ショーマも横に座り込んだ。
頭を抱えるショーマであったが、そんな暇はない。
幸い朝早い時間かつ、あまり人目につきにくい場所ではあるので、誰かに見られる、ということはないだろうが、念の為、結界魔法を使用しておこう。
この状況を誰かに見られたら、ショーマは間違いなくお代官様のお世話に……
「…ショーマ様?」
「あ、ヴァネッサさん。おはようございます」
結界魔法を使うのが遅かったみたいだ。
母さん、出会ったヴァネッサさんに笑顔で挨拶してみたけど、多分色々終わりました。異世界の裁判は人権とか尊重してくれるでしょうか。
自分の恩人が旅に出発すると聞いて見送りに来たら、恩人の横で息を荒くした少女が寝ていた。野外で。




