34.え、そんなにするの?
ちょっと説明チックな休憩話です
ウルガン帝都に着いたショーマ達は、依頼完了報告の為、まずはギルドに向かった。
通商の開かれた国同士であれば、基本的に共通のカードで、ほぼ共通の手続きができる。
この便利なシステムは、自警ギルドの成り立ちが大きく関わっている。
自警ギルドは国の力を借りずに自己防衛や問題解決をはかる為に作られた団体であり、各地で沢山作られた。
初期は当然、各地で独自のシステムが作られたが、長い年月をかけて、同盟や統合が進んでいき、大きくなっていった。
その過程で、管理システムの統合、合理化も進められていき、各地で同じサービスが受けられるようになっていったという。
簡単に言うと、自警ギルドは吸収合併や業務提携で大きくなった国際企業で、各国に支店を持っているというイメージだろう。
規模の小さな街のギルド施設は、フランチャイズ店のようにシステムはレンタル契約で、メインの管理運営はそれぞれで行っていたりもするようだ。
話が逸れた。
ショーマとエドモンさんは、ギルドの受付で、依頼完了の報告を行い、報酬の受け渡し等の手続きを行った。
それらはスムーズに終わり、ショーマとエドモンさん合同の旅もこれで一先ず終わりだ。
それから、ショーマたちは事前に約束していたグランドイーターの鱗を、できるだけ高く売りつけるべく取引に赴いた。
なんでも、こういうレアなものには金に糸目をつけない貴族の知り合いがエドモンさんにいるということだった。
その人物の家には、"良く分からないけど高そうな物"や、"良く分からないけどマジで良く分からない物"など、たくさんの物が飾られていた。
本人は、それなりに身綺麗な格好をした小太りのおじさんで、多分貴族として恥ずかしくない程度の身なりをしている、という様子に見えた。
きっと自分を着飾るよりも、収集物に金を使っているのだろう。
ショーマがエドモンさんから紹介され、簡単な世間話をエドモンさんと貴族のおじさんがした後、応接室の椅子に座って本題に入った。
「今日お持ちしたのはこちらです。ショーマさん、お願いします。」
エドモンさんに促されて、ショーマは1枚の鱗を取り出して机の上に置いた。
「ほう、これは…。失礼ですが解析スキルを使わせて頂いても?」
エドモンさんが笑顔で頷くと、貴族のおじさんは自ら解析スキルを使用した。
収集癖をこじらせて、自分で解析スキルを習得したらしい。
スキルを使える人間を雇えるだけの余裕はあるだろうに、
「自分の目と技能で見極めた物を集めるのが1番楽しいのですよ」
と、いうこだわりがあるそうだ。
鑑定スキルを使いながら、貴族さんから収集癖について熱い想いを伝えられたが、あ、そうなんですか、とショーマは曖昧なリアクションしか返せなかった。
誤解を恐れずに言うと、変態の域に達しているのだろうな、とショーマは目の前の男性に対する印象を持ったのであった。
鑑定スキルを使い終えると、貴族の収集家は無言のまま鱗を手にしてしばし眺めていた。
鱗を机の上に静かに置いたあと、
「では、12万ルビで如何でしょうか」
と、真面目な顔で金額を提示してきた。
12万ルビ?えーっと、1ルビ当たり50円くらいだったから…
と、ショーマが計算していると、
「グランドイーターから直接削り取られた鱗、これから数十年は出ないでしょう」
と、エドモンさんが言葉を続けた。金額を釣り上げるつもりなのだろう
貴族のおじさんは、ふむ、と再び考えると、
「確かに、私も始めて見たものです。脱皮後の古い鱗は見たことがありますが…」
と、貴族さんは一度言葉を切った後、
「では、15万ルビ、でいかがですかな」
15万×50円だから、750万?
え?そんなにするの?
と、ショーマが戸惑っていると、
「いかがですか?ショーマさん」
と、エドモンさんがショーマに回答を促す。
事前の打ち合わせで、エドモンさんがこう言った時は、妥当な金額に持って行った合図だ、ということになっていた。
なので当然ショーマの回答は、YES。
ショーマはへんた…もとい、収集家の貴族さんと握手を交わした。
「お支払い方法は、現金がよろしいですか?」
「こちらに振込をお願いします。」
と、ショーマはギルドカードを提示した。
それからエドモンさんが事前に用意しておいてくれた契約書に、互いにサインをする。
貴族さんは、ショーマのIDを控えさせて、使用人らしき人をギルドに走らせた。
巨大な国際企業たる自警ギルドは、なんと銀行業務も行っている。
ギルドカードがキャッシュカード代わりになっていて、どこのギルド施設でもお金を出し入れできるという便利なものだ。
ギルドカードは本人以外には使用出来ないのでセキュリティはバッチリだ。
手広くやっているな、とショーマは感心したものだ。
あまりお世話になることもないかもしれないが、ある程度ギルドで収入の実績を出せば、融資も行ってくれるようになるらしい。
なんだか、魔法によって発展している世界ではあるものの、ショーマの世界にあった部分とあまり変わらないところも多く、ショーマとしてはありがたかく思う。
ちなみにグランドイーターの一件でギルドからでた報奨金が2万ルビぐらいあったので、ショーマは一気に850万円は稼いだことになる。
加工も何も施されていない素材の状態でこの金額は非常に美味しいと思う。
まぁ、命懸けな戦いになったので、それくらいは貰ってもバチは当たらないかな。
これで少なくとも2、3年くらいはお金に困らず過ごせそうである。
貴族さんは帰ってきた使用人さんから受け取った振込の証明をショーマに渡し、エドモンさんがそれを確認した後、グランドイーターの鱗を引き渡した。
「また何か珍しいものがあれば是非お持ちください」
結構な額を出した貴族さんだったが、非常に満足そうな表情であった。
今後はエドモンさんの仲介なしでも面会して貰えることになったので、また何か珍しそうなものがあれば持ってこようと思う。
さて、これでエドモンさんとの今回の契約はこれで全て完了したことになる。
そしてそれはヴァネッサとの旅も終わるということだ。
一足先に宿で待機していたヴァネッサさんの所に、エドモンさんと一緒にショーマも戻った。
「私たちはこれからもしばらく帝都で仕入れや取引きの為、10日程はここに滞在する予定ですが、ショーマさんはどうなさるおつもりですか?」
と。エドモンさんから尋ねられる。
ショーマは、当初の目的通り、
「私はこれからガルディアという所に行こうかと思っています」
と、答えた。
幸い、帝都からガルディアまではそれほど遠くない道のりなので、ショーマだけでも何とか移動出来るだろう。
ショーマが、そう言うと、ヴァネッサから予想外の言葉が出てきた。
「…ショーマ様、私もショーマ様の旅に同行させて貰えませんか?」
ご拝読ありがとうございます
動き出すヴァネッサ嬢




