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33.討伐隊の奇妙な探索

少し、話が逸れます。

ショーマ達がウルガン帝都に到着する少し前の話になる。


ショーマがビッグアームの群れに遭遇した森では、ビッグアームの討伐部隊が探索を行っていた。


街道に残っていた足跡から、複数体のビッグアームがいることは確実と判断されていたため、探索は非常に緊迫した空気の中、実施されていた。


100余名からなる探索部隊の部隊長である、上級騎士は、街道から続いていくビッグアーム足跡を追って森に入った。


足跡の周辺にある木々は、なぎ倒され、激しい進撃の様子を物語っていた。

恐らく、報告にあった、仲間の馬車を逃がすために1人残ったという自警ギルド員を追い立てて、森を進んだのだろう。


森の中の様子から、追い立てられたギルド員の恐怖は容易に想像できる。

その生存は絶望的といってもよかった。


しかし、森の奥へ進んでいくにつれて、様子が変わってきた。

およそ人のものではない血痕や、ビッグアームの死体などが、次々と見つかっていくのだ。


それに反して、人間のものと思われる「痕跡」は見つからない。

討伐隊員に困惑の色が見え始めていた。


隊長は、拾っていく情報に違和感を持ちつつも、隊員に気を緩めることのないよう、改めて注意を促しておく。


やがて、少し開けた場所に出た。

そこには、激しい戦闘の跡とともにビッグアームの死体が3体転がっていた。


「これは一体...」


隊長は言葉を続けられなかった。

他の隊員たちも、言葉が出ないようであった。


ここまで、発見されたのは、街道で倒されていたものも含めてビッグアームの死体が6体。


「...なにが起きているんだ?」


最終的に討伐隊は、少し離れた場所で発見された3体を合わせて、9体のビッグアームの死体を発見したのみで、生存したビッグアームと遭遇することは遂になかった。




「ということらしいぞ」


バルトルトは、戻ってきた討伐部隊からもたらされた情報を持って、王都の魔法使いギルドに来ていた。


「じゃあ、やっぱりショーマさんは…」


生きている。

エルヴィは、ぎゅっとその華奢な拳を握った。


「まだ、ショーマが見つかった訳では無い。だが、希望は見えたな」


バルトルトは力強く頷いた。

王都にいれば、いずれショーマと出会える機会が来るかもしれない。

自然と、二人は笑顔を合わせた。


「そういえば、王都での生活はどうだ?順調だと聞いているが」

「ええ、何とか王都のレベルの依頼もこなすことが出来ていますよ。」


エルヴィは、王都に着いてからすぐに魔法使いギルドに行き、受けられる依頼をひたすらに受けていた。


中レベルの魔法使いでありながら、強い中・近距離魔法を使うエルヴィは、すぐにギルドから一目置かれるようになった。


これもショーマのお陰だと、エルヴィは強く感じていた。


ショーマから受けた、"魔力循環(対人)スキル"の恩恵を、エルヴィは日を増す事に実感していた。


これまで発動に苦戦していた中距離魔法が、元々得意としていた近距離魔法と遜色ないレベルで使えるようになっていた。

更には、より距離を伸ばし、遠距離からの攻撃にもチャレンジし始めていた。


以前は、全く届く気配のなかった距離に、まだ少しではあるが、魔法を飛ばせるようになってきていた。


体の中をスムーズに魔力が流れる感覚、それがエルヴィの魔法の根本を変えてしまった。


「エルヴィは将来有望だな。どうだ、軍お抱えの魔法使いになる気は無いか?」

「元が農家の生まれなもので、キッチリした規律は苦手なんです」

「農家出身の奴も多いんだがなぁ」


エルヴィは軍に入るつもりは無かった。

軍に入れば、王都に拘束されることが多くなる。


いざ、待ち人を探しに行こうと言う時に、動けないという状態は避けたいと思っていた。


軍が持つ情報はバルトルトから、王都の外の情報はレオナールから定期的に連絡がある。

エルヴィは、ショーマに関する確信的な情報が得られた時に、すぐに動ける状態にしておきたかった。


そして、ショーマがもしその時に、困難に遭遇していた場合、今度は自分がショーマの助けになるつもりだった。


「随分高いところに目標を置いたもんだな。少なくともビッグアームを単騎撃破できるぐらいにはなっておかないといけないわけだぞ」


バルトルトは笑った。

馬鹿にした訳では無い。

バルトルトもまったく同じ気持ちだったからだ。


「まずは、2年で王都の魔法使いギルドでトップになります」

「大きく出たな」


じゃあ俺は、とバルトルトも乗っかる。


「1年で王都最強の騎士になる」

「1年、本気ですか?」

「もちろん大マジだ」


そういうバルトルトは笑ってはいたが、目は真剣そのものだった。


そういえば、レオナールからの手紙の中にも、

「まずは召喚士として3体の魔物を使役できるようになる。それからショーマのように自分でも戦えるようになりたい。ルイードが治るまでの間、剣士職に弟子入りしている」

とあった。


皆それぞれの道を駆け足で進み始めている。

だが、目的地は皆同じだ。


次に会った時、恩人(ショーマ)を、吃驚させるために。


「じゃ、俺もそろそろ行く。ウルガンへの遠征が近々あってな、その準備があるんだ」

「そうなんですか、お気をつけて」

「エルヴィもな。最近、変な男に絡まれているらしいじゃないか」


そう言われて思い出したエルヴィは、露骨に嫌そうな顔をした。


「若くしてギルドトップクラスの魔法使いで、イケメン。寄ってくる女は数しれず…。またすごいのに目をつけられたな」

「私はオラオラしたタイプは苦手なんです。優しく話を聞いてくれるようなタイプがいいです。」

「それでいざと言う時は頼れる奴がいいってか?」

「…何が言いたいんですか?」


いや、何も、とバルトルトは話を切り上げた。

バルトルトは気づいているし、エルヴィ自身も自覚はあるのだろう。

そりゃ、あんな劇的な助けられ方をすれば、運命を感じてしまうというのが乙女心というものだろう。


「さてさて、我らが待ち人さんは今どこで何してるのかねぇ…」






「ぶぅぇっくしょぉぉぉぉい!!」

「ショーマ様、大丈夫ですか?」

「あ、うん。たまにあるんですよね」


誰か噂でもしてるかな。


「検問ももうすぐ通過出来そうですし、いよいよウルガン帝都ですね」

「そうですね、なんだかあっという間だった気がしますね」


ウルガンに到着、ということは、ヴァネッサ達とは別れの時が近づいてきたということと同義だ。


ショーマはなんとも言えない寂しさを感じつつ、帝都の門をくぐるのであった。

いつもご覧頂き、ありがとうございます。

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