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32.健全(?)な関係

ヴァネッサさんモフり過ぎ事件から、ショーマとヴァネッサは、モフりモフられの関係になっていた。


事件の次の日、少し気まずい様子のヴァネッサから、


「次の"お礼は"何がいいですか?」


と、尋ねられた。


ショーマは、グランドイーター撃退の件で、ギルドから結構な額の報奨金を貰っていたし、以前にも増して金銭は必要なくなっていた。


求めるものはモフモフとなるのは必然であり、ショーマがチラチラとヴァネッサの尻尾や耳を見るものだから、ヴァネッサはちょっと頬を赤らめながら、


「…分かりました」


と、答えた。


分かられてしまった。


「それはそうであろうよ」

「ですね」


ショーマの愉快な仲間たちからもツッコみが入る。

くそぅ、自覚があるだけに何も言い返せない。


こうして、お礼は再び"モフらせてもらう"事になったわけだが、

なぜだか、それは次の一回では終わらず、旅の道中で何度か機会が訪れた。


どちらから、というのは特に決まっていなかったが、何となく、毎回色んな理由(言い訳ともいう)がついて、その度にモフらせてもらうという、不思議な関係になっていた。


こういう関係は何というのだろう。

モフモフ友達?モフレ?


誤解のないように言っておきたいのだが、決してショーマから、恩人という立場を利用してヴァネッサにモフレ関係を迫っているわけではない。

あくまで、ヴァネッサからの提案、ショーマの承諾・お願いという流れで成り立っている。


そして、やることはモフるだけ。非常に健全(?)な関係である。

…何か異論でも?


ショーマも、ヴァネッサも、お互いこの状況を悪くは思っていなかった。

むしろ好意的に受け取っているといっていいと思う。


それは、もちろんショーマにとってはいいことばかりだし、ヴァネッサとしても、ショーマのモフテク+魔力循環(対モフ)(もう勝手に分類しているが)の攻勢を、躊躇いながらも多少求めているのだろう。


そんな雰囲気の中で、ヴァネッサがショーマの部屋にやってきたとしたら、ショーマは理性を抑えらるほどの鉄壁の心を持ち合わせない。

マッチ棒で組まれた矢倉のようにあっという間に瓦解していく。


実際触れ始めると、そこからは初めての時と変わらなかった。


ショーマ、理性飛ぶ。

ヴァネッサ、意識飛ぶ。


二人が気づいたときは、気まずい空気が流れる。

でも、その空気感は、初めの時とは違って、少しくすぐったいながらもなんだか心地よいような感覚だった。


青春(アオハル)というやつですね」

「青春よりは少し怪しい関係ではないかの」


愉快な仲間たちからちょこちょこヤジが入るが、気にしない。


こうした、表面的、内面的なふれあいの中で、ヴァネッサとショーマの距離は少し、というかかなり縮まった気がしていた。


露骨に急接近したものだから、周囲にも当然勘ぐられる訳で。

騎士のアリスターからは、度々、


「青春ですなぁ」


と、ニッコリされた。


他の護衛騎士たちからは、凄い目で見られている。

いやもう、何というか、殺意の波動に目覚めたのかっていうくらいの様子だ。


流石に、彼らもショーマに助けて貰ったということもあって、直接なにかしてくるということは無い。

ただ、ひたすらに死んだ魚のような目で見られるだけだ。

怖い。


それから、この状況に対してショーマが一番気にしていた人物、父エドモンさんの反応が、一番意外だった。


ある時、ショーマとヴァネッサの距離感の変化に気づいたエドモンさんは、ヴァネッサがいない時にショーマの所へ近づいてきて、


「ショーマさん、ショーマさん、ヴァネッサとはそういう仲なんですか?」


と、ド直球に聞いてきた。


流石に、父親相手に「娘さんの(モフモフ)は最高でしたよ、ぐへへへ」という訳にもいかないので、否定をしたのだが、


「そうですか、いや実はですね」


と、ショーマの話を聞いているのか聞いていないのか、構わず話を続けてきた。


「ヴァネッサもそろそろどこかに嫁に出さなくては、と思っていたところなんですよ」


嫁に、というキーワードが出て、ショーマは身構えた。

うちの娘をどうぞ宜しく、というありがちな流れになるのかと思いきや、


「嫁に出すならば、身元や生計のしっかりした人物がいいと思っていましてね。私が言うのもなんですが、幸いヴァネッサは器量もいいので、知り合いの商家の跡継ぎや、縁のある貴族のご子息から、どうかというお話しを頂いているのですよ。」


と、エドモンさんは微笑んだまま言う。


その話の流れから、ショーマはピンと来た。

ヴァネッサには、既に良縁の話が来ている。

身元不確かで、収入も不安定な一自警ギルド員が、それを壊すようなことをしてくれるな。そういうことだろう。


恩人ではあるが、別に礼はさせて貰うし、流石に娘をやることは出来ない。

エドモンさんは、暗にそういう事を伝えに来たのだろうと、ショーマは思った。


この世界の結婚事情はまだ良く分かっていないが、ショーマ自身も、エドモンさんの反応は正しいと思う。

ショーマ自身、その日暮らしの生活だ。

そんな奴よりは、生活の保証された人の所へ嫁にやりたいと思うのが、親心というものだろう。


ショーマが、すみません、そんなつもりはありません、と言おうと思った時、


「地方富豪の令嬢と無名ギルド員の許されぬ愛……素晴らしい!!」


話の結論が予想外の方向にすっ飛んだ。


エドモンさんは、吃驚しているショーマをよそに、1人で盛り上がり始めた。


「許されぬ愛、故に立ち塞がる様々な障害!周囲からの非難!親類からの圧力!婚約者を名乗る男の存在!決して理解を示そうとしない父親!」


他はまだしも最後の父親はあんた次第だろ、とショーマはツッコみたかったが、飲み込んだ。


「その様々な障害すら、2人の愛を強くする試練でしか無かった!それらを乗り越え遂に!」

「───お父様。」


何を仰っているのですか?と、ヴァネッサがエドモンさんの背後に立っていた。

笑顔だが、怖い。


「ヴァネッサ、丁度いいところにきた。随分立派になって!」

「何の話ですか!?」


エドモンさんは、目に涙を浮かべながらヴァネッサの肩をがっしり掴んだ。


なんだか、ショーマの中にあったエドモンさんの知的で落ち着いたナイスミドルな印象が、音を立てて崩れ始めている。


「ヴァネッサ。父は、2人の絆を深めるために、非情な父として役目を果たす覚悟だ」

「…ショーマ様、父が錯乱しているようなので少し失礼します」


ヴァネッサは、エドモンさんを引っ張ってショーマの前から去っていった。その間もエドモンさんはロマンスがどうとか言っていたようだが、ショーマは聞かなかったことにした。




そんなこんな、変化はありつつも、ショーマ達の旅は順調に進んでいった。


そして、ショーマ達はついにウルガンの帝都にたどり着いた。

エドモンさんは普段は落ち着いたナイスミドルですが、LOVEには情熱的。

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