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31.恥ずかしすぎます

ヴァネッサが目覚めてから、ショーマは謝り倒した。


幾ら触ってもいいと言われても、限度がある。

それこそ相手が気絶する程(気絶したのは魔力循環のせいではあるが)に、モフるのはやり過ぎだ。


ヴァネッサはそんなショーマをじっと見つめていたが、

さっと布団で顔を隠し、


「…恥ずかしすぎます…」


と、言葉通り恥ずかしそうに呟いた。


その様子を見て、ショーマにダメージが入る。


かわいい…いや、申し訳ない。


「ごめんなさい」

「えっと、謝らないでください。触っていいと言ったのは私ですから」


それに、とヴァネッサは続けた。


「い、嫌では…無かったので…」


そう言うと、また顔を隠してしまう。


なんだこの()、かわい過ぎか。

ショーマは、再び触れたい気持ちを抑え込んだ。


許してもらったのはいいが、

使ってしまった魔力循環(対人)の説明もしなくてはならない。


無意識に魔力循環(対人)を使ってしまっていたので、正直力加減がどうなっていたか分からない。

強く魔力を流していたなら、体に痛みが出るかもしれない。


「あの、触っていた時に、無意識でスキルをつかってしまったみたいなのですが、体におかしな所はありませんか?」

「スキル、ですか?」


ヴァネッサは、自分の体を確認する。


「そういえば、なんだか体が軽いような気がします」

「痛い所とかは?」


大丈夫です、とヴァネッサは言う。

すると、ガルから補足が入る。


「ショーマが流した魔力は、痛みが出ないレベルで的確に調整されておったから問題あるまい。まるで適正な魔力循環量が初めから分かっているかのようであったぞ」


過大な魔力を流せば、魔力循環量UPの効果があるが、しばらく痛みなどを伴う。

適度な魔力を流せば、魔力の淀みなどが解消され、痛みなどは起きない。ただし、大きな魔力循環量UPにはならない。


魔力操作が上手くなってきたとは言っても、ショーマは魔力循環(対物)の使用回数はかなり少ない。

適切な魔力循環量に調整するには、かなり神経を使うことになるはずだ。


それを無意識下でやっていたようだ。


もう、"スキル:魔力循環(対モフ)"として分類したい位だ。

多分、すぐにスキルレベルmaxになると思う。


「あの、ショーマ様が使ったスキルというのは何でしょうか?」

「はい、説明します」


ショーマは、魔力循環についてヴァネッサに説明した。


「なるほど、ショーマ様が剣で戦えるのはそういう事だったのですね」


ヴァネッサは色んなことに合点がいったようだった。


ヴァネッサも、召喚士のショーマがなぜ前衛で力を発揮出来るのか、不思議に思っていたようだ。これはエルヴィ達の時と同様だ。


「もしかしたら、魔法の効果が少し高まっているかも知れません」

「そんな効果もあるんですか」


凄いです、とヴァネッサは目を輝かせた。


「それから、魔力循環中に変な感じになってしまうことがあるのですが、あれは誰でもなる訳では無いみたいなんです」


変な感じ、と聞いてヴァネッサはその時のことを思い出したらしく、再び顔を赤くした。


実は、ショーマは魔力循環(対物)について調べるために、何人かにスキルを試していた。


宿屋のおっさんだったり、女将さんだったり、ギルドの受付だったり、老若男女問わず、握手などで体に触れる機会がある時はスキルを使ってみた。


エルヴィの時以外は、『気持ちよくなる症状』は出ず、特に違和感も持たれないことばかりだった。

多少、魔力循環の感触を感じ取った人もいたが、「手が暖かいですね」程度の認識しか持たれなかった。


そして、そういう時には、スキル習得は出来なかった。


「そういう症状が出る条件は正直よく分からないんですが、今の時点では魔力の相性としか言えませんね」

「魔力の相性、ですか」


ヴァネッサは、少しうーん、と考えた後で


「では私とショーマ様は相性が良かった、ということですか?」

「まあ、そうなりますね」


そうですか、と頷くと、ヴァネッサはまた顔を半分隠してしまった。

何とも言えない目でショーマを見ている。


エルヴィの時も微妙な反応をされていたけど、皆ちゃんと"魔力の相性"ってことを理解してくれているだろうか。

ショーマは、ヴァネッサの反応を見て甚だ不安を感じるのである。


それからヴァネッサは、気持ちが少し落ち着いた様で、ベッドから降りると、


「少し、後ろを向いて頂けますか?」


と、ショーマに頼んだ。

ショーマは、乱れた服装や髪を整えたいのだろうと気づき、すぐに後ろを向いた。

まるで事前のやり取りのようで、ショーマは1人でドキドキしていた。事前と言うよりは事後に近い状況ではあるのだが。


ヴァネッサは、程なく身嗜みを整え終わると、ショーマに声をかけた。


「ではショーマ様、前回のお礼はこれで」


ヴァネッサは、軽く礼をする。


ん?前回?


と、ショーマが疑問を持った時には、ヴァネッサはそそくさと扉の方へ移動し、再び一礼をしていた。


「今回の分は、また次の機会に」


ヴァネッサはそう言うと、すぐに部屋を出た。


照れを隠して、半分逃げるようにしている様子ではあったが、ショーマにはそんな機微に気づける余裕はなかった。


それよりも、次の機会に、と言ったヴァネッサの言葉の方が気になっていた。


「そっか、グランドイーターの件でか」


ヴァネッサは、グランドイーター撃退の件についてもお礼をしてくれようというのだろう。


つまり、再びヴァネッサのモフモフに触れる機会があるかもしれないということだ。


「ショーマよ、鼻血が出ておるぞ」


ガルに指摘されても気づかずに、ショーマは鼻血を垂れ流しているのであった。



────



ヴァネッサは、宿の自分の部屋に戻ると、直ぐにベッドに倒れ込んだ。


「こんなはずじゃなかったのに…」


ヴァネッサが、ショーマへの"お礼"を敢行しようと決めたのは、ショーマが街に帰ってくる少し前だった。


ショーマが死んでしまうかもしれない、そんな考えが頭をよぎった時、ヴァネッサは自然、決意していた。

ショーマにもしものことがあれば、ヴァネッサは一生後悔することになっただろう。


だから、ショーマが無事に帰ってきたその日のうちに、ヴァネッサは行動に移った。


家族以外に自分の尻尾を触らせたことはほとんどなかったが、ヴァネッサはあくまで冷静な態度でショーマへの"お礼"に臨むつもりだった。

変に恥ずかしがったり、妙な反応をしてしまっては、なおさら恥ずかしくなってしまうと思っていた。


ショーマが満足するまで尻尾や耳に触れる。

それだけのことで、何の問題もないはずだった。


しかし、ショーマの"触れる"(ショーマに言わせればモフる)は、尋常ではなかった。


最初は明らかにためらっていたショーマだったが、ヴァネッサが意を決して尻尾にショーマの手を触れさせると、ショーマの様子が変わった。


初めの方は、ただ少しくすぐったい感触があっただけだったが、ショーマが両手を使いだした辺りから、何か暖かいものがが全身を巡るような感覚がした。


尻尾を撫でられているだけなのに、体の奥に直接触れられているような、不思議な感覚だった。



そこからは、正直ヴァネッサもあまり覚えていない。


なんとなく、体験したことのない快感の波にのまれていたような気はする。


そして次に、自分の姿の乱れ具合にヴァネッサが気づいたとき、ヴァネッサは恥ずかしさで、そのままそこで蒸発してしまいたくなった。


そのあとショーマから、丁寧に特異スキルの説明をしてもらったが、そんなことはその時のヴァネッサにはどうでも良かった。


とにかく、自分が作ってしまったこの変にピンクな空気感から、早く逃げ出したかった。


そこからヴァネッサは、あくまでも冷静な様子を取り繕って、ベッドから抜け出し、ショーマの部屋からも抜け出すことはできた。


その時、二度助けてもらったことで、二回お礼をするつもりだったことを伝え忘れていたことに気が付いて、去り際に言ったが、あのタイミングで伝えるべきではなかったかもしれない。


まるで、もう一度触ってほしい、とおねだりしているみたいになってしまった気がするのだ。

それが、ヴァネッサの羞恥心をさらにつついてくるのだった。


ヴァネッサはそのあとショーマの顔を見ずに部屋を出てしまったので、ショーマがどんな反応をしていたかはわからない。


エロエロな娘だ、と思われてはいないだろうか。


今回ショーマはあくまでも紳士的(?)に、ヴァネッサと約束した通り、尻尾や耳に触れただけだったようだ。

だが、次はどうなるかわからない。


ショーマが、本能の突き動かすままに、気絶したヴァネッサに手を出してしまうかもしれない。


そんな"されるかもしれない"ことを想像してしまう自分に、ヴァネッサは再び恥ずかしさで悶えるのであった。


「明日どんな顔でショーマ様に会えばいいのよ~...」


ヴァネッサはそんなことばかり考えて、この日なかなか寝付けなかった。

ショーマはモフ紳士なので、モフっているときに妙な雑念など入らないのです。恐らく。多分。

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