27.大事なもの(モフ)を守るために
「気づかれておるの」
「ですよねー」
グランドイーターは明らかにこっちを見て止まっている。
完全に餌を見つけた爬虫類のそれだ。
まだかなり距離があるとはいえ、きっかけがあれば一気に襲いかかってくるだろう。
「ガル、アレは斬れる?」
「今のショーマでは恐らく無理だの」
「マジですか」
魔力循環使っても切れないものがあるのかと、
ショーマは世界の広さを感じる瞬間だった。
「外皮は硬いけど内部は弱い、とかいうことはないかな」
「それは食われたことが無いからわからんの」
エフユーの内臓ダイレクトアタックでどうにかならないかな、と考えてみたが果たして。
ショーマがそうこう考えているうちに、馬車の転回が終わったようだ。
さて、選択の時。
恐らく、馬車の速度でグランドイーターから逃げるのは難しいだろう。前にテレビで見たコモドオオトカゲは結構走るの速かったし。その何倍も大きな魔物ならもっと速く移動するだろう。
かといって、まともに戦っても、1口でパックンチョだ。
ベストは、ショーマ1人で馬車が逃げられるまで時間を稼いで、最後は跳躍で脱出か。
「ま、それしかないかの。回避に徹していれば多少は持つであろうよ」
ガル先生の同意も得られた。
正直、時間稼ぎとなると攻撃の通らないショーマより、エフユー頼みになりそうな気がする。
「ガッテン、任せてください」
エフユーがダブルピースを見せる。
うにょうにょなのに誠に頼もしい限りだ。
さて、皆が馬車に乗り込み出したところで、
「皆さん、気づかれているようです」
ショーマはグランドイーターを刺激しないように、抑えた声で皆に知らせる。
その一言で、皆の空気が一気に緊張感を増す。
「恐らく、馬車が動き出せばすぐに追って来るでしょう」
今はまだこちらの様子を動かずに伺っている状態だ。
ヴァネッサさんたちの表情に、恐怖が浮かび上がる。
この世界の人々にとってグランドイーターは悪魔みたいな存在なのだろう。
そこでショーマは先程ガルと相談した単純なプランを皆に提案する。
当然というか、ヴァネッサさんに止められるのだが。
「そんな、ショーマ様を1人置いて逃げられません!」
食い下がるヴァネッサさんを手で制し、ショーマは出来るだけ真面目な表情を作る。
「皆さんを庇いながら戦う余裕はありません、足でまといです。先に脱出してください。」
1度はこういう台詞を言ってみたかったんだよね、とショーマは心の中でドヤ顔をしていた。
ショーマの言葉に、ヴァネッサさんがシュンとなる。
ああ、そんな顔で見ないで欲しい。折角真面目な顔作っているのに崩れてしまいそうになる。
ヴァネッサさんは、パッとショーマの手を取って、
「必ず逃げ切ってください。無理だと思ったら、私たちのことは考えずに、すぐに逃げてください」
ショーマはドギマギしながらも、ヴァネッサさんの手を握り返して、
「大丈夫です。必ず、逃げ切ります。」
最後に、"全員で"と付け加える。
ヴァネッサさんは、泣きそうな表情ながらも笑顔を作ってくれた。
ホントに素敵なお嬢さんだ。
ショーマの顔も遂に釣られて、にへらっと崩れているのだが、本人は気づいていない。
「さあ、エドモンさん、早く馬車に!」
「…分かりました。ショーマさん、くれぐれもお気を付けて」
エドモンさんの判断の早さは正直助かる。
こうしている間にも、グランドイーターが近づいてくるかもしれない。
ショーマと愉快な仲間たち以外は馬車に乗り込んだ。
その間、グランドイーターがじわじわと寄ってきてる。
ショーマは、スっと息を吸い込んだ。
「走れ!!」
馬車とショーマが、それぞれの方向へ一斉に飛び出す。
と同時に、グランドイーターも一気に動き出した。
ショーマにとっては背水の陣、いや、背モフの陣だ。
ヴァネッサさん(とそのモフモフ)を守るため、決して負けられない戦いが始まる。
ワンパターンな展開になってるけど気にしないことに。




