24.遊び人バルトルト/いざウルガンへ
王城に無事戻ったバルトルトは、ひたすら訓練に明け暮れていた。
僅かな期間であったが、共に戦ったショーマの太刀筋を思い出しながら剣を振るう。
今まで自分が見てきた流派とはまるで異なる動きだったが、その精錬された動きは、バルトルトの目指すものとなっていた。
「遊び人のバルトルトが真面目になったと言う噂は、本当だったのだな」
後ろから声をかけてきたのはバルトルトの上司、騎士長だった。
手を止めようとしたバルトルトに、騎士長はそのまま訓練を続けるよう促した。
「あれだけ周りに言われても変わらなかったお前が、一体どうしたんだ?」
「⋯色々と」
バルトルトは話しながらも手を休めない。
「そういえば、休暇から戻る時にビッグアームに襲われたと聞いたが、関係しているのか?」
騎士長の言葉にバルトルトの動きが止まる。
剣を下ろし、バルトルトは騎士長に向き直る。
「その時にある人物に助けられましてね。何も出来なかった自分があまりにも情けなくて」
「ビッグアーム相手に何も出来なくても、誰も文句は言わないだろう」
「実際対峙してしまえばそんなことも言ってられませんよ」
何も出来なければ死ぬだけだ。
「それで、その人物とやらは?」
「行方知れずです」
「⋯⋯まあ、そうだろうな」
ビッグアームは1人でなんとかなる相手ではない。
「で、そのビッグアームはどうしたんだ?」
「死んでいましたよ。討伐部隊が行く前に、首を落とされてね」
騎士長が怪訝そうな顔をするのを、バルトルトは静かに見ていた。
バルトルトの言葉が意味するところを考えれば、当然の反応だろう。
「⋯その人物、何者なんだ?」
「名前や職なんかの大雑把なこと以外は、わかりません」
バルトルトは、その人物が生きていると信じている。再開した時に、少しでもその強さに近づけるように、今までやってこなかった地道な努力をしている。
「なるほどな」
再び訓練を始めるバルトルトを見ながら、騎士長は考えていた。
天才と言われながら、極端な訓練嫌いで、遊んでばかりいたバルトルトが、遂に努力を始めた。
一体どれ程の高みまで登るのか、想像するだけで楽しみになってくる。
「どこの誰かは分からないが、感謝せねばなるまい。我らがサルディア騎士団に真のエースが生まれるかもしれん」
──────
「さあ、出発だ」
ショーマは、オルランド親子の乗る馬車に同乗していた。ウルガンに向かう馬車は2台。
新参者のショーマは、親子とは別の馬車に乗ろうとしたが、ヴァネッサ嬢に促されて同じ馬車に乗ることになった。
「これは、多分そういう事だよなぁ」
いきなり新参者を近くに置く様な事は、普通しないと思われる。
恐らくは、以前ヴァネッサ嬢達を助けたことに対して、何かしてくれようとしている。その為に、極力ショーマを近くに置いておきたいのだろう。
そのお陰で、上手いこと別馬車に乗ってモフモフに近づかない様にする作戦1は失敗だ。
「作戦2、頼むぞガル」
「うむ、合点である」
作戦2、ガル先生の身体操作でもしもの時は抑え込んでもらう。大抵の場合はこれでなんとかなる。
それでも抑えきれなかった場合は、エフユーの出番だ。
「任せてください」
エフユーがピースサインを形取る。
エフユーに拘束してもらうもよし、口と鼻に入って呼吸を制限してもよし。
とにかく、ショーマが豚箱入りにならないように止めてもらう。
それでもダメだった場合は、素直に豚箱入りだ。自分のモフへの執着心を呪うしかない。
何と戦うために護衛についたのか最早分からない。
「これがアスリートがよく言っている、敵は自分自身ってことなのか⋯⋯」
恐らく違う。
1人葛藤するショーマをよそに、馬車は順調に進んでいく。
ただ、道はあまり綺麗ではなく、ガタガタと馬車が跳ねながら走っている。
「街道の整備が進んでいない事もあって、サルディアとウルガンの通商はあまり盛んではないんです。それで、街道が整備されていている他の隣国に行く人が多いんです」
ヴァネッサ嬢が説明してくれる。
それでウルガン行きの依頼があまり無かったのかと、ショーマは納得する。
旅の初日は特に強い魔物や盗賊に遭遇することもなく、無事に終わった。
そして、状況が動いたのは夜の事だった。
事前の打ち合わせで、夜間の見張りは2人1組で行うことになっていた。
ショーマはアリスターという騎士と同じ組で見張りをする。この騎士は、ヴァネッサ嬢と一緒にギルドに来ていた人だ。色々と事情も知っている事だろうし、ショーマは1人で気まずく思っていた。
さて、いざ見張りを始めたショーマ達だったが、しばらくするとアリスターは、
「少し辺りを見回ってきます」
と言って、ショーマを残して行ってしまった。
ショーマは、ガルとエフユーと話をしながら、アリスターの帰りを待つことにした。
そしてショーマが、今日1日目の前にしていたヴァネッサ嬢のモフモフの破壊力は、想像以上だったな、などと考えていた時だった。
「あの、ショーマ様⋯⋯」
突然声をかけられて驚いてショーマが振り返ると、そこには見事なモフモ⋯⋯いや、ヴァネッサ嬢が立っていた。
おお、神よ。我にモフに抗う力を下さいませ。
ショーマは心の中で、信仰してもいない神に祈るのであった。
夜の密会再び




