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2.いざ召喚士に

 ショーマは、自称女神(仮)さんとの話が終わった後、役所に向かうことにした。

 自称女神に聞くより役所の人に聞いた方が話に信憑性がある。何より早いところ安定した生活を手に入れるために職を探さねばならない。そう簡単に元の戻る(すべ)があるとも限らない。この場で何とか生きていく方法を確保しておく必要があるのは間違いない。


「あの、職業登録は、どちらに行けばいいでしょうか?」


 その辺りにいた狼のような生き物に乗った人に道を訪ね、何とかたどり着いた役所で所員さんらしき人に話しかける。

 所員のお姉さんは笑顔で案内してくれた。さりげなく知的な美人さんだ。


「職業登録の方ですね。ご希望の職業はお決まりですか?」


 代わって受付のお姉さんが、優しい口調で対応してくれる。初めてのハローワークに少し緊張する。


 ショーマはまだ希望が決まっていないことを告げると、受付のお姉さんは職業一覧を見せてくれた。


 農家、商人といったショーマにも馴染みのある職業から、剣士、魔法使いといったいかにも異世界といった職業まで、沢山リストに載っている。

 ただ、そのリストに勇者や皇帝といった職業は載っていない。


「勇者などのレア職業は役所での登録によってなれるものではありません。神託や血統などによってでしか、なれないものになります」


 なるほど、とショーマは頷く。

 確かに、役所で簡単に登録出来てしまったらそこら中が、勇者や皇帝や魔王だらけになってしまう。

 家のお隣さんが魔王でしたとか嫌すぎる。


 はて、どんな職業にすべきか。

 元の世界でエンジニアとして働いていた経験を生かして鍛治師なんかになってみるのもありか。などと考えていたショーマだったが、ふとある職業が目に留まる。


「あら、"召喚士"が気になりますか?」


 "召喚士"

 何かを召喚して戦うゲームでもよくある職業だ。


「召喚士は、主に魔物を召喚して使役する職業ですね。運搬に適した魔物を召喚できれば運搬業や商業、戦闘に適した魔物を召喚できれば、自警団ギルドで活躍できます。ある意味運次第の職業ですね」


 運次第、の言葉でショーマは止まる。

 自称女神からもらった奇運招来(神)のスキル効果、"素敵でエキサイティングなことが起きる"というのは、良くも悪くも解釈できる。

 素敵かつエキサイティングならまあ良いことが起きるだろう。

 ただ、素敵orエキサイティングな効果だった場合、とんでもないことが起きる可能性を秘めているスキルということになる。効果が抽象的過ぎて信用ならない。


 しかし、それでもショーマはこの"召喚士"という職業に並々ならぬ興味を惹かれていた。


「召喚される魔物、というのはどういうものが多いんですか?たとえば、馬のように運搬に向いたフサフサした奴だったり、狼のように狩りに向いたモフモフした奴だったり…」


「そうですね。初心者召喚士が召喚できる魔物ならそういった魔物が多いですね。上級者になればドラゴンなどの大型の魔物を召喚できる人もいるようですが、そういった方はごく一部ですね」


「モフモフですか?」


「え?」


「モフモフですか?」


「え、えーっと、初めはそういう魔物が出る場合が殆どですね」


 決まった。

 満場一致だった。ショーマの心の中で。

 ショーマにとって"奇運招来(神)"などモフモフの前では些細な問題なのである。


「召喚士にします」


「あ、はい。では召喚士にチェックを入れてこちらに拇印をお願いいたします」


 召喚士の登録を進めるとともに、召喚士という職業の詳細について説明してもらう。

 召喚士のレベルが低いうちは、召喚できる魔物は1体のみ。レベルが上がるにつれて召喚できる魔物数が増える。皇帝に仕えていたり、勇者のパーティにいたりする上級者でも使役できるのは5体程度らしい。

 大抵が召喚士と同程度のレベルの魔物が召喚されるが、ごく稀にエキサイティングなことが起きたりすると、召喚士よりはるかに高レベルの魔物が召喚される場合があるようだ。

 ただその場合、召喚された魔物の力は、召喚士のレベル相応に制限されてしまうそうだ。

 結局、強い魔物を召喚できても召喚士自身が未熟では使いこなせないということみたいだ。


「まあ正直、魔物の強い弱いは全く関係ないんだけど」


 重要なのは3点。

①生活に役に立ってくれ、モフモフであること。

②戦闘系の魔物の場合、前で戦ってもらって自分は安全にレベル上げでき、モフモフであること。

③とにかくモフモフであること。


 モフモフは必須事項であるし、喧嘩すらしたことないショーマが前線で魔物と戦って勝てるわけがない。それらを満たす、フサフサの狼や虎のような魔物が召喚されるのがベストだ。

 運搬・農耕系の牛や馬でも問題ない。ふわふわ羽毛の鳥型魔物でも非常に良い。


 そんな妄想を膨らませながら、ショーマは役所の近くに設けられた神殿で、召喚の儀を行う場に立った。

 なにやら偉そうな神官さん風の人が儀式の説明をしてくれるようだ。


「とりあえず、召喚陣の前に立ち、『いらっしゃいませこんにちは!』と元気よく唱えるのじゃ。

 それで魔物が召喚されてくる」


 居酒屋かガソリンスタンドのバイトか。

 しかし、中途半端なことをして変な奴が出てきては困る。ショーマは、学生時代に飲食店でバイトしていた時のことを思い出しながら、声を張った。

 腹の底から、全力だ!


「いらっしゃいませこんにちは!!!!!!」


 カッ!


 ショーマが呪文(?)を唱えた瞬間魔方陣が光に包まれる。あまりの光の強さに目が開けられない程だ。


 光の中で影が蠢いているのが微かに見えた。召喚成功だ、ショーマは薄目のまま自分の勝利を確信する。


 やがて光がゆっくりと収束し、視界がはっきりとしてくる。召喚陣の中央に何かがいるのが確認できる。


 そこに()()()のは…


 一本の錆びた剣だった。

 ご閲覧いただきありがとうございます。

 ようやく召喚士としての一歩を踏み出したショーマです。

 素敵でエキサイティングなことが起きるのはこれからです。

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