19.街への帰還と2回目の召喚
「んー、全然馬車通らないな」
ショーマは、街道に上手く出られてから、ヒッチハイクをすべく馬車が通るのを待ったが、待てど暮らせど馬車は通らなかった。
「あまり人通りのない道なのかな」
「ふむ、これならば自分で移動した方が早いのではないか?」
うん、そうかもしれない。
幸い食料は森の中にいっぱい居る。
普通に人間の足で歩いても、数日中には次の街にたどり着くだろう。
いや、次の街にたどり着けるのか、前の街に戻れるのかは分からないけど。
自分が今、元の街道にいるのか、別の街道にいるのかは分からないので、街道に出てどっちに行けば王都に近づくのかはショーマは知らない。
何となく右に進んで見ることにする。
取り敢えず街に着けば、何とかなるだろうからどっちでも良いといえば良いのだ。
街について、モフモフ召喚をする。それが大事だ。
王都はその次だ。
「ちまちま歩いて行かんでも、跳んで行けばいいではないか」
「いや万が一、人に見られたら空飛ぶ変態と思われる」
「見られる人が一向に通らんから、歩いているのであろう?」
む、それもそうか。
そうだな、一気に跳ぶか。
「じゃあガル。行くぞー」
「うむ。発射、姿勢制御、着地。万事任せておけ」
「近接魔法(打撃)!」
ポーンと、ショーマの体が跳ぶ。
着地と同時にもう一度跳ぶ。
赤い帽子に髭の親父も驚きの跳躍だ。
一跳び100m近く進む。歩くよりは速いし、走り続けるよりは疲れない。
人に見られない様に気をつける必要があること以外は、長距離移動には向いているかもしれない。
何度かホップ、ステップ、ジャンプを繰り返していると、街道の様子に変化があった。
人だ。かなりの人数がいる。
しかも間の悪いことに、ショーマは空中にいる。
「やばっ」
ショーマは咄嗟に方向転換をして、森の中に飛び込んだ。
ガサガサッ、と音を鳴らしながらも木の枝に掴まる。
「なんだ!?」
突然の音に、街道の人々が警戒しているのが分かる。
ショーマは息を潜める。
「ショーマよ、見つかりたくないのなら魔力循環量を抑えると良いぞ」
「ん?こう?」
ショーマは体を流れる魔力量を絞って、殆ど流れないようにする。
その後すぐに街道の方から声がする。
「まさかこんなところにまでビッグアームが来ているのか?」
「すぐに魔力感知スキルを!」
「はい!」
それから10秒程して、再び声がした。
「強い魔力反応はありません。恐らく低ランクの魔物ではないかと」
「そうか、低ランクならばこの人数を見て逃げたのかもしれんな」
魔力感知とかいうスキルもあるのか、便利そうだな。
ショーマがそんなことを考えていると、街道の人々が再び移動を始めた。
こっそり様子を見ると、やはりかなりの人数だ。100人近いのではないか。
しかも皆が皆、強そうな雰囲気が漂っている。
「なんかただ事じゃない雰囲気だな」
「高ランク魔物の討伐かのぅ」
あんな強そうな人達が、あの人数で討伐に向かうなんて、相当強い魔物の討伐なのだろう。
うん、そんな魔物に遭遇しなくて良かった、とショーマは心底思う。
討伐部隊らしき人々が通り過ぎて見えなくなったところで、ショーマはこっそり街道に戻った。
跳んでるところを見つかってたら、魔物と間違われて最悪撃墜されてたかもしれない。危なかった。
「あ、しまった⋯」
「ん?どうした、ショーマよ」
「森から普通に出ていって、遭難者ですって言えば街まで連れていってくれたかもしれない」
せめて、街に近いのがどっち方向か聞けば良かった。
せっかく人がいたのに、自分が宙を跳んでいたせいで思わず隠れてしまったことを、ちょっと後悔した。
皆もう行ってしまったし、自力で街を目指すしかないか。
ショーマは気を取り直して街道を進むのであった。
―――
「ついたー!」
昼から街道を移動して、夕方ぐらいにようやく街に到着した。
なんと、ビッグアームに遭遇する前に寄った街だった。
道を戻る方向に進んでしまっていたようだ。
取り敢えずショーマはすぐに格安宿屋を探した。
部屋で一息したあと、すぐさま召喚用の神殿に向かった。
食事も、風呂も全部後だ。
「ようやくこの時が来たか⋯!」
「うむ。何となく、オチが見えておる気がしてならんのであるがの。まぁ、こればかりはやってみらんことには分かるまい。」
ショーマは神殿の中央にある召喚陣の前に立つ。
イメージはバッチリ。昼間に衝突したモフモフの鳥の感触も残っている。
イケる!
ショーマは確信を持って召喚の呪文を、全力で唱える。
「いらっしゃいませこんにちは!!」
カッ!
ショーマが呪文を唱えた瞬間魔法陣が光に包まれる。
ガルの時と同様、光の強さに目が開けられない。
その時、ショーマの体内で奇運招来(神)が疼いていたのだが、ショーマはワクワクでそれに気づいていなかった。
光の中で影が蠢いているのが微かに見えた。
召喚成功だ、ショーマは今度こそモフモフを!ショーマは強く願う。
やがて光がゆっくりと収束し、視界がはっきりとしてくる。
召喚陣の中央に何かがいるのが確認できる。
そしてそこに居たのは⋯
金属のような光沢のある、ゲル状の物体だった。
ショーマは膝から崩れ落ちた。
神よ、私が何をしたというのです。
ワクワクを返して欲しい。またエロ女神(自称)さんに八つ当たりしたくなってきた。
悲しみを堪えながら、現れた魔物?を確認する。
スライム?それにしては金属のような素材感がある。
しかし、金属にしてはかなり流動的な動きをしている。
メタルスライムの類だろうか、とショーマが思っていると、ガルが口を開いた。
「ショーマよ、こやつ、生物ではないぞ」
モフモフへの道は遠い。




