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18.エルヴィ達の決意/森からの脱出

エルヴィ達は、逃げ延びた街道の先にある街に、数日滞在していた。


あの日、何とか街に逃げ延びた後、エルヴィ達はすぐさまギルドに助けを求めた。

残った仲間がいる、助けに行きたい。

だが、ギルドの受付にいた男性は首を横に振る。


「この街には、ビッグアームを相手に出来るようなパーティはいません。調査部隊はすぐに編成しますが、助けとなると⋯」


騎士バルトルトはその答えに歯噛みする。

上級パーティが1人組でもいれば、ショーマを助けに戻れると考えていたが、甘かった。


他の街から討伐部隊を招集してくるとなると、数日はかかる。

最悪、王都から軍が派遣されるまで待たなくてはならない可能性もある。

それではショーマの生存は絶望的だ。


「バルトルトさん、私たちだけでも⋯」

「俺たち2人では⋯無理だ」


レオナールは、ルイードを連れて治療施設に行っている。

致命傷では無いようだったが、しばらくは戦える状態にないだろう。


レベル25の騎士と、レベル20にも満たない魔法使いだけでは、戦いにすらならない。

無駄な犠牲が増えるだけだ。


「ショーマが何とか逃げられていることを祈るしかない」

「ショーマさん⋯」


それから調査部隊が編成され、調査が行われた。

バルトルトは案内役としてそれに同行した。


現場に残っていたビッグアームの死体、そして森に続く複数の足跡。


「これは、この死んでるビッグアームが呼んだんだろうな。」


群れの中にいるビッグアームは、危機に陥ると近くにいる仲間を呼ぶ習性がある。

単独行動をしているビッグアームであれば、一体倒して終わりだったのだろうが、運悪く群れを成している個体だったようだ。


「それにしても…」


バルトルトはビッグアームの死体に目を遣る。

右足と首、見事な切断面だ。

これを本当にショーマがやったとすれば、とんでもない剣技だ。


ビッグアームは巨体の為、的が大きく攻撃が当てやすいと思うかもしれないが、そう簡単ではない。

素早く、硬い皮膚を持つビッグアームには、まともに攻撃を通すことすら難しい。

それを、剛腕から繰り出される攻撃を掻い潜りながらやる必要がある。


ショーマと数日共に戦って、その技量の高さに驚いたが、まさかここまでとは思わなかった。

剣士でもここまで出来る者がこの国に何人いるか。

まして、ショーマは召喚士だ。


バルトルトは、足跡の続く森の中に目線を移した。

ビッグアームたちに薙ぎ倒されたのであろう木々に阻まれて、その奥は見えない。


「何とか生きていてくれよ、ショーマ」


そう呟いて、バルトルトは調査部隊と共に街へと戻った。


────


「・・・ショーマさんなら生きてます」


バルトルトが調査結果をエルヴィに伝えると、エルヴィは震えるような声でそう言った。

バルトルトに言っていると言うより、自分に言い聞かせているようだ。


「俺も、その可能性は残されていると思っている。」


それは慰めの言葉ではなかった。

ビッグアームの死体から見える、ショーマの隠れた実力を信じたいと、バルトルト自身も思っていた。

こんな所で失ってしまうには、余りに惜しい人物だ。


「だが、今の俺達がここに留まっていても、出来ることは無い。俺たちは、自分たちの目的を果たすしかない」


そう、エルヴィたちはそれぞれの目的の為、王都に向かっている。

元々この旅は、『安全は自己責任』だ。


商人は、もう既に空いた2つの空席を埋める為に、新しい旅の連れを探している。

ショーマと、レオナールの分だ。

手負いのルイードを連れた状態では、レオナールに旅は無理だ。


レオナールも、それには納得している様だった。


「ルイードが生きているだけで僕は運が良かったと思います。僕はしばらくこの街に滞在する事になるので、ショーマさんに関してなにか情報があれば、ご連絡しますよ」


バルトルトたちは、王都での連絡先をレオナールに伝えると、治療施設を後にした。

バルトルトが最後に見たレオナールの表情は、旅に出た時とは違う、覚悟を決めた人間のものだった。

そして、エルヴィも同じ顔をしている。

おそらく、バルトルト自身もそうだろう。


「バルトルトさん。私、強くなります。」

「そうだな、俺もだ」


同じことを繰り返さない為に、バルトルトたちは自分の心と、そしてショーマに、誓った。


────


「ぶえぇぇぇっくしょい!」

「何であるか、ショーマよ。風邪でもひいたか?」

「いや、そういう訳ではないんだけど」


誰か噂でもしてるかな、とショーマは冗談ながら考える。

おや?このくだり、この前もやったような・・・。


「それはそうとショーマよ!だいぶ体の痛みも無くなったようだの!」

「ん?ああ、そうだな!」


サバイバル生活6日目。

ショーマの体は殆ど痛みが無いくらいに回復していた。

ガルに思いっきり動かされると流石にまだ痛むが、ほぼ完治と言って差し支えないだろう。


「それにしても身体が軽い気がするな」


痛みで唸るほど身体が重かったのもあるが、それを差し引いても身体が動かしやすくなっている。

そして魔力循環量も大幅アップだ。


レベルアップと魔力器官の拡張効果が合わさって、大きな補強効果を生んだのだろう。

これならもう、動き出しても問題なさそうだ。


「よし、じゃあそろそろ街道を探しにいくか!」

「うむ、了解である」

「待ってろよ、俺のモフモフ!!」


ショーマは幾ばくかの食料と水を確保して、街道の捜索を始めた。

まず1番初めにやることは、目標の確認だ。

闇雲に森の中を移動していっても同じような景色ばかりで尚更迷うばかりだ。

そこでショーマは、


「近接魔法(打撃)!」


足で地面を蹴り、自分の足元に魔法を発動させる。

その勢いでショーマは上へ大きく跳び上がる。

上から地形を確認しようという作戦だ。


「ぶべらっ!!」


だがその作戦は1回失敗に終わる。

張り出した大きな木の枝が、顔面に直撃してショーマはすぐに落下した。


「コントかの」

「違うわ!」


ショーマは気を取り直して、もう一度近接魔法を発動した。

今度はガルで枝を切り開きながら跳び上がる。

周りの高い木々を追い抜いて、遂には突き抜ける。


「おおー!すごい眺め!」


追加で魔法を発動しつつ上昇していると、かなりの高さまで到達していた。

ショーマは上昇しながら周りを確認する。


かなりの広大な森だ。恐竜でも出てきそうな感じだ。

・・・龍はいるかもしれない。異世界だし。


ショーマがぐるっと1周確認したところ、街道らしきものが見えた。


「あったよ、ガル!」

「うむ、我も確認したぞ」


自分の体の向きを街道に向けてそのまま落ちるようにする。

こうすれば方向が分からなくなることはないだろう。

ガル先生の力を借りれば空中姿勢も何のそのだ。


ショーマの身体が上昇をやめて落下を始める。


「ひぇっ・・・!」


ショーマは下を見ててしまった。

当たり前だが、かなりの高さから落下している。

思わず股間がヒュッとなるショーマ。


体は強くなっても、感覚がまだそれについてきていない。

股間を抑えながら、何とかショーマは着地に成功する。


「どうしたショーマよ。トイレか?」

「あ、うん。何でもない」


ガル先生は股間がヒュッとなった経験はないのだろうか。

ないか。悪の竜剣士が高いところで股間がヒュッとなってたら情けなすぎる。


ショーマは立ち上がって前を向く。


「ガル、さっきのもう1回やるぞ」


さっき真上に跳んだのを少し斜めにすれば、一気に距離を稼げる。

もう一度ヒュッとなると思うけど、早く慣れた方がいい。


「近接魔法(打撃)!」


ショーマは勢いよく斜めに跳び出す。

今度は初めからガルを前に構えて抜かり無しだ。

すぐに木々を抜け出した。

視界が一気に広がる。


と、同時に目の前から巨大な鳥が飛んで来ていることに気づく。


「ぶべらっ!!」


本日2度目のぶつかり稽古。

しかし、痛くはない。勢いでぶべらっとか言ってしまったが、ほとんど衝撃は無かった。

巨大な鳥の羽毛が、あまりにモフモフ過ぎたのだ。


思わず勢いで羽毛を掴んでしまったが、鳥はぶつかった事も、ショーマがくっついている事も、全く意に介していない。

ショーマの全身をモフモフ感が包み込む。


「ガル。俺、桃源郷にたどり着いたのかもしれない。もう、ゴールしてもいいよね⋯」

「おーい、しっかりしろショーマ。鳥の餌になるぞー」


その後、何とか意識を取り戻したショーマは、苦しみながら掴んでいた羽毛を離した。

危ないところだった。

なんというハニートラップ⋯いや、モフートラップだ。

一瞬、このままこの鳥の家んちの子になってしまいたい衝動に駆られた。


「ありがとう、ガル。何とか自分を取り戻せたよ」

「いや、まあ、あの状態が一番ショーマらしい気がするがの」


しかし、鳥に掴まっていた間にかなり街道から離れてしまった気がする。


ショーマがもう一度跳び上がって、方向を確認した時だった。


「ショーマよ、囲まれておるぞ」

「え?」


周りを確認すると、確かに魔物だらけだ。

着地したところが魔物の群れの中だったみたいだ。


「どうしよう。跳んで脱出すべきかな」

「いや、せっかくであるから、戦ってみぬか?」


確かに、自分がどのくらい強くなったか確認してみたい。


「よし、やってみよう!」


全部倒さなくても、ある程度倒せたら脱出してしまえばいい。

ショーマはガルを構える。

いつものようにガルから魔力が流れてくる。

だが、その量はいつもより多い。

ビッグアームと戦った時より多いかもしれない。


でも、体に違和感はない。

痛みが出るほど魔力循環量を増やすと、身体が軋むような、嫌な感触がする。

今は、この魔力循環量でもそんな感触はない。


「ショーマもだいぶ魔力を流せるようになったの」

「うん、何か今ならビッグアーム10体でも負ける気がしないかも」


ショーマは飛びかかってきた中型の魔物を難なく切り伏せる。

魔力循環(対物)の発動もかなりスムーズだ。


後ろから来た魔物には、近接魔法で対応する。

こちらも威力、範囲共強化されている。


次々と掛かってくる魔物を倒していく。

調子よく魔物を20体程倒したところで、異変があった。

ショーマを囲んでいた、小型・中型の魔物達が急に逃げ始めた。


「ん?なんだ?」

「ショーマよ、奴らが来たみたいだの」


ガルの言葉で、ショーマも何が来たかを察する。


程なくして、ビッグアームが3体現れた。

それぞれが足に傷跡を残している。


恐らく、ショーマが追いかけられている時につけた傷だ。

足にダメージを追ってショーマを追えなくなったものの、生き残った奴らがいたのだろう。

あの時はショーマも必死だったので、何体仕留められたかは分からなかった。


「あいつら相手ならどれくらい強くなったか、判りやすいかな」

「であるな。」


ショーマはガル握り直す。


「折角であるから、防御力もどのくらい強くなったか確認しておこうかの」

「え?」


ガルはそう言うと、ショーマの体を1体のビッグアームの前にスっと移動させる。

完全に隙だらけだ。

ビッグアームはサッとその剛腕を持ち上げる。


「え、ちょっと、ガルせんせ―――」


トラックに衝突されたかのような衝撃がショーマの体を襲う。

ショーマの体は大きく吹っ飛ばされて、木に激突して止まった。


「痛い⋯」


幸い、怪我などは無いようだったが、痛いのは痛い。

地獄のループの痛みとは比べるまでもないが、痛いのは痛い。


「うむ、まあまあだの」

「ガル先生。いきなりこれは酷いんじゃない?」


もし防御力が思ったより低かったら死んでいたかもしれない。

ショーマの抗議に、ガルは笑って返す。


「魔法で何十メートルと吹っ飛んでも無傷なのだから、あれで怪我する訳が無いであろう」

「ん、言われてみればそう⋯か?」


なんだかあまり納得がいかないショーマだったが、取り敢えず1発で死ぬ、みたいな事にはならなくて済みそうだ。


そうやってショーマが木に刺さっていると、ビッグアーム達が追撃に来た。

ショーマはすぐさま木から降りて、構える。


「今度はちゃんと戦うよ」

「うむ、任せておけ」


地面を蹴ってショーマの体が跳ぶ。

ビッグアームはそれを叩き落とそうと腕を振るう。

ショーマはその腕ごとビッグアームの頭を斬る。


着地したところに、もう1体のビッグアームが腕を振り下ろしてくる。

ショーマはそれを躱すと、その腕に飛び乗り、一気に駆け登る。

そして横からビッグアームの頭部を一突き。


崩れるビッグアームの体からショーマが飛び降りると、残る最後の1体のビッグアームは、距離をとった。


ショーマの動きを見て警戒を強めている。


ショーマが距離を詰めようとすると、ビッグアームはその分の離れようとする。

そこでショーマは、一旦足を止めた。


と、次の瞬間、ショーマの体が弾け飛ぶようにビッグアームに向かう。

近接魔法を合わせた跳躍だ。


突然猛スピードで飛んできたショーマに対し、ビッグアームは冷静にサイドステップでそれを躱す。


近接魔法による跳躍は、どうしても直線的な軌道になる。

ビッグアームはそれを冷静に分析し、対処した。

だが、問題はその後だ。


ショーマの体が、物理法則を無視するかのごとく、横に軌道修正したのだ。

空中で近接魔法を再度発動し、無理矢理ではあるが、方向転換を成し遂げたのである。


虚をつかれたビッグアームは、その場でガードを固めることしか出来なかった。

だがその防御は、魔力循環(対物)の前には無意味だった。


「うん、ガル。強くなってるよね」

「なぁに、まだまだこれからであるよ」


だが、少しはマシになったかの。

ガルのツンデレ的な褒め言葉に、ショーマは笑う。


ショーマは、地面を蹴ってその場を跳んで離脱する。


ついに、幾多の魔物の屍を超えて、ショーマは魔物の森から脱出した。

次の召喚がやってくる!

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