表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/80

13.王都への旅路3 迫る脅威

 あれからエルヴィさんは、見張り交代の時間ギリギリで目を覚ました。

 ショーマが、「おはようございます。ごめんなさい、やり過ぎちゃいました」と言うと、エルヴィさんはしばらくぼーっとした後、急に顔を真っ赤にした。


「ショーマさん、さっきのあれは⋯」

「はい、あれが魔力循環です」


 いえ、そうではなくて⋯、とエルヴィさんは顔を赤くしたまま俯いてしまう。

 ああ、なるほど。


「大丈夫ですよ、流石に他の人にこんな話をしたりしませんよ」


 その代わり、エルヴィさんもこのことは内緒にして下さい、とショーマが言うと、エルヴィさんは大きく頷いた。


「こんな事、言える訳ないじゃないですか⋯⋯!」


 エルヴィさんは不満そうにショーマを見る。ショーマは苦笑いを返すことしか出来ない。


「あんなの、初対面の人にやるべきではないと思います!」

「すみません、僕もまさかあんな事になるとは思わなくて⋯⋯」


 よっぽど相性が良かったんでしょうか、とショーマがこぼすと、


「あ、相性って⋯⋯」


 エルヴィさんが再び顔を赤くしてしまう。しまった、相当語弊がある言い方になってしまった。


「あー、えーと。魔力の、ですよ?魔力の」

「わ、分かってます!」


 すっかりご機嫌ななめのエルヴィさんだ。これは尚更警戒されてしまいそうだな、とショーマは残念に思った。


「とにかく、ショーマさんが、レベルには見えない特殊な技能を持っていることは分かりました。」

「それだけでも分かっていただけて嬉しいです」


 『特殊な』というのが、『スケベな』という風に解釈されていないことを祈るショーマだった。


「では、後は私が見張りを続けます。引き留めてしまって申し訳ありませんでした」

「あ、もうバルトルトさんと交代の時間ですよ?」


 えっ、とエルヴィさんは時計で時間を確認する。因みに、この世界では時計も一般的に普及している。機械式ではなく、魔力式時計だが。


「もしかしてずっと代わりに見張りを・・・?」

「はい、そうですね」


 エルヴィさんの表情が、困ったような顔になる。昼間と違って表情がコロコロ変わるので見ていて面白い。


「ごめんなさい!」

「いえいえ、エルヴィさんが寝てしまったのは僕のせいみたいなものなので、お構いなく」


 謝るエルヴィさんを、ショーマは手で制する。

 色んなエルヴィさんを見ることが出来たので、個人的には良かったです、とは流石に言わなかった。


 さて、もう少しエルヴィさんと話しをしてみたいところだが、ショーマの眠気ももう限界だ。バルトルトさんを起こすのはエルヴィさんに任せて、ショーマは寝ることにした。


 休もうかと、馬車の方に行こうとした時、ショーマは寝ているレオナールさんとルイードを見かけた。

 丸くなっているルイードに包まれるように、レオナールさんが眠っている。

 圧倒的モフ(じゅう)を前に、ショーマは血の涙を流して羨ざるを得なかった。


 その晩ショーマは、寂しさを紛らわす為、ガルを抱きしめて寝た。ひんやりとして少し寒かった。そして、ちょっと泣いた。




────────




 ショーマたちの旅は5日目に突入していた。

 ショーマは、寝不足だった2日目をなんとか乗り切り、その日は街の宿屋でぐっすり眠れたので、3日目以降は好調だった。


 エルヴィさんも2日目は寝不足気味に見えた。あの後あまり眠れなかったみたいだ。ただ、いざ戦闘になった時、初日とは様子が違った。


 近接魔法の威力が目に見えて上がっていた。それに加えて、あまり得意ではないといっていた中距離魔法も、ある程度使えるようになっていた。


 恐らくは、魔力が滞っていた部分が、エルヴィさんの魔法発動に影響していたのだろう。


 その変化にショーマも驚いたが、魔法を使っている当のエルヴィさんはもっと驚いていた。


 最初に近接魔法を使った時は、ビックリして自分で可愛い悲鳴をあげていた。


 そういう変化もあったので、3日目に野宿をした時、見張りの交代際に、また少しだけエルヴィさんと話しをした。


 魔力循環についての話が中心だったが、エルヴィさんの身の上話も少し聞くことが出来た。


 エルヴィさんはカデリナ出身で、農家の生まれらしい。

 兄がいて、家はその兄が継ぐことになっているそうだ。

 エルヴィさんは、魔力が強いこともあって、王都で軍か、ギルドで生計を立てるつもりらしい。


「外に出ないと、どこぞの農家に嫁がされる所だったので、いっそ街の外に出ることにしました。」


 その相手というのも20以上歳上のおっさんだったという。相当嫌だった様で、エルヴィさんは王都への出る決心をしたそうだ。


 ショーマは何故召喚士になったのかと聞かれたので、素直に、モフモフしたかったからです、と答えたら笑われた。

 大真面目に答えたのに心外な!とショーマが抗議すると、尚更笑われた。くそーぅ。


 そんなこんなで、エルヴィさんの警戒心もかなり薄れてきている。バルトルトさん、レオナールさんとも、仲良くなれていると思う。

 ルイードにもモフモフさせて貰って、ちょっと鼻血がでた。それでまたエルヴィさんに笑われた。


 このメンバーでの旅が楽しくなってきたのだが、それもあと2日だ。

 無事王都にたどり着けば、皆それぞれの道に分かれていく。王都に着けば、ショーマはまた1人だ。それを思うとどうしても寂しい気持ちが出てしまう。


 皆、そのまま友達でいてくれるかなぁ。揺れる馬車の中でショーマがそんなことを考えていた時だった。


 馬車の外にいるルイードの鋭い鳴き声が聞こえた。今まで以上に緊迫感のある声色だ。


「皆さん、魔物です!恐らく強敵です!」


 レオナールさんが緊張した面持ちで、ルイードの声を読み取る。ショーマたちは走る馬車から顔を出して、周囲を確認する。


「こりゃあ、大分マズイぞ⋯」


 バルトルトさんが呟く。

 猛スピードで馬車の後方から迫ってきていたのは、巨大な腕をもったゴブリン型で上級の魔物、ビッグアームだった。


「逃げろ!あいつは俺らのレベルでどうにかなる相手じゃない!」


 商人が、馬車の速度を上げる。しかし、魔物の方が明らかに速い。どんどん馬車と魔物の距離が縮まり、ビッグアームはその長い腕を馬車に向けて伸ばしてきた。


 馬車にビッグアームの腕が届こうとした時だった。


 ガウッ!!


「ルイード!」


 ルイードがビッグアームの腕に飛びかかった。ビッグアームは、馬車に伸ばしていた手を引っ込めて、ルイードの攻撃を避ける。


 そして、今度はルイード目掛けてその腕を大きく振るった。でかい図体に似合わない、とんでもない攻撃スピード。


 ルイードは反応出来ずに直撃を喰らって吹っ飛んだ。


「ルイード!!」


 レオナールさんが馬車を飛び降りてルイードに駆け寄る。上級の魔物からの一撃で、ルイードは最早虫の息だ。


 ビッグアームは、駆け寄ってきたレオナールさんに次の狙いを定める。

 レオナールさんは、ルイードを庇うようにそこを動かない。いや、魔物の巨体を前にして動けないのかも知れない。


「レオナール!逃げろ!」


 バルトルトさんの叫び声が街道に響き渡る。


 その叫びも虚しくビッグアームの剛腕は、レオナールさん目掛けて振り下ろされる。


 爆発音とも言える激しい音が地面を揺らす。激しく土煙が舞い上がる。


「レオナールさん!」


 エルヴィさんの悲鳴があがる。誰もが、消えていく土煙の中に悲惨な光景を想像した。


 だが、視界が開けた後に現れたのは、皆が想像した光景とは異なる状況だった。


 ビッグアームの腕を、”錆び付いた剣”がギリギリの所で受け止めていた。


「⋯⋯テメェ、モフモフに何しやがる」

モフモフを守るためなら世界だって敵に回す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ