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12.王都への旅路2 夜の話

 エルヴィさんに呼び止められたショーマは、休む前に少しだけエルヴィさんと話しをすることにした。

 警戒を少しでも解いてもらうチャンスかもしれないと、ショーマは喜んで応じた。


 馬車を降りて、見張り用に焚いている火の周りに2人で座る。


「ショーマさん」

「はい、何でしょう」


 早速、エルヴィさんから話しかけられる。何となく、緊張感のある声色と表情だ。昼間より警戒されている様な気がする。


 何か変なことをしただろうか。

 もしや気付かぬうちにセクハラ発言をしてしまったとか。

 ショーマは色々と考えてみるが、思い当たる節はない。ショーマはとりあえずエルヴィさんの次の言葉を待つことにした。


「ショーマさん、あなたは何者ですか?」

「何者ですか⋯ですか?」


 何者、とはどういう意味だろうか。まさかショーマが異世界人ではと疑っての質問ではないだろう。


「召喚士という職業は、人間に大した能力アップ効果はありません。それなのにあれだけの動きが出来るなんて・・・」


 並の人間だとは思えません、とエルヴィさんは言い切った。どうやら、ショーマが職業やレベルに見合った強さではないことを訝しんでいるようだ。ショーマがガルの補助なしで普通に戦ったら、攻撃が掠りもしないのだから、エルヴィさんの認識の方がきっと正しいんだろう。


「それに低ランクとはいえ、リトルリザードは防御力の高い魔物です。それをたった1発で倒すなんて、バルトルトさんでも出来ませんよ」


 ショーマよりもレベルが6も高く、剣士職であるバルトルトさん。それより高い攻撃力を叩き出すショーマは、エルヴィさんには異様に映った事だろう。

 エルヴィさんの問いに対して、ショーマは少しだけ考えてから、口を開いた。


「エルヴィさんは、魔力循環というのはご存知ですか?」

「魔力循環?身体を自然と巡っている魔力の流れの事ですか?」


 ショーマは頷く。エルヴィさんはそれが何?という表情をしている。


「僕はその魔力の流れをコントロール出来るんです。」

「コントロール?」


 そんな馬鹿な、とエルヴィさんは納得いかない様子だ。

 この世界で魔力の流れというのは、血流と同じ不随意で生まれるものだという認識だ。それを自分の意思で制御することなど本来は出来ないはずだ。


 ショーマはエルヴィさんの様子を気にせず話しを続ける。


「魔力循環量をコントロールすることで、レベル以上の力を出すことができるんです」

「⋯信じられません。魔力循環量は持って生まれたもので、コントロール出来るなんて聞いたことがありません」


 エルヴィさんの警戒がさらに強くなる。それを見て、ショーマは1つ提案をする。


「エルヴィさん、魔力循環スキルを体感してみませんか?」


 そう言いながらショーマはエルヴィさんに手を差し出す。エルヴィさんは差し出されたショーマの手を見つめながら少し考えて、ちらりとショーマの顔を見た。ショーマはそれに笑顔を返すと、エルヴィさんは照れたように目線をショーマの手に戻した。

 結局、ちょっと恥ずかしがりながらその手を取った。


「いきますよ」


 ショーマは魔力循環(対物)と同じ様に、エルヴィさんに魔力を流し込む。

 ショーマの手から、エルヴィさんの手に魔力が流れる。まるでショーマとエルヴィさんの手が溶け合って、一つになってしまった様な、不思議な感覚をショーマは覚える。


”スキル:魔力循環(対人)を取得”


 新しいスキルを取得できた事で、ショーマは上手くいったと確信する。魔力循環(対人)は、魔力循環(対物)よりも簡単だった。物に魔力の流れはないが、人にはそもそも魔力が流れている。そこに合流するだけなので、(対物)よりも容易なのだろう。


 ショーマがスキルについて考察していると、


「⋯⋯あっ」


 エルヴィさんが熱を帯びた声と共に、ピクッと身体を震わせる。


「な⋯⋯なんですか⋯これ⋯⋯」


 エルヴィさんの呼吸が荒くなり、足をモジモジさせている。

 良く分からないが、魔力循環(対人)の影響ということは間違いないだろう。あまり良くない副作用があるのかも知れない。


 ショーマがスキルを止めようとした時だった。


「⋯⋯気持ち⋯⋯いい⋯⋯」


 エルヴィさんは、涙目でショーマを見ながら、艶っぽい声で小さく呟いた。その様子にショーマはドキッとする。


「ガル、魔力循環にこんな効果があるなんて聞いていないんだけど」

「我も知らん。我がやった時はこんな事にはならんかったぞ」

「えー、マジですか⋯⋯」


 確かに、ショーマがガルから魔力循環をされている時は、ぽかぽかする感じはあるが、ここまでではない。


「恐らくであるが、人間同士の方が魔力の親和性が良いのではないか?」


 なるほど、そういう可能性はあるかもしれない。それで効果が強めに出てしまっているのかも。

 などと考察していた時、ショーマはエルヴィさんの身体の中で、魔力循環に滞りがある部分を見つけた。

 ガルが前に言っていた話では、魔力が滞っているのは正常な状態ではないということだった。


 えいっ、とショーマはその部分目掛けて魔力を強めに流してみる。


「んぁっ⋯!!」


 ビクッと、エルヴィさんの反応が強くなる。


 これは施術、これは施術⋯、とショーマは自分に言い聞かせながら、雑念を振り払う。


 すると直ぐに、滞りがあった部分にも魔力が流れ出した。それと同時にエルヴィさんの身体から力が抜ける。


 ショーマがエルヴィさんの手を離すと、エルヴィさんはコロンと横になってしまった。


「え、エルヴィさん、大丈夫ですか?」

「⋯⋯は、はひ⋯⋯」


 息も絶え絶えといった状態だ。全然大丈夫そうじゃない。エルヴィさーん、とショーマが声をかけるも、エルヴィさんはそのままスヤスヤと眠り出してしまった。


「あちゃー、これは⋯」

「見張り継続であるな」


 次の日、ショーマの寝不足が確定した。少しやり過ぎてしまったかなと、ショーマが反省している時、脳内にあのアナウンスが()ぎる。


”スキル:近接魔法(打撃)を取得”


「ん?これは⋯⋯?」

「どうしたのであるか、ショーマよ?」


 ショーマが獲得したスキルをガルに説明すると、ガルは感心した様子を見せた。


「人間同士での魔力循環だとそんな効果が出るのであるな。なかなか興味深いのう」

「あ、やっぱり魔力循環(対人)のせい?」


 恐らくはな、とガルが笑う。

 魔力循環(対人)スキル使用者の中で魔力が交雑することで、スキル被使用者の所有するスキルを取得出来たのだろうと、ガルは考察する。ガルにそういう経験はないということなので、魔力の親和性というのが重要なのだろう。人間なら誰でも大丈夫という訳でも無いかもしれないけど、スキルが獲得出来る効果はかなり強いと思う。


 魔力循環スキルの有用性を改めて認識したショーマは、横で眠るエルヴィさんが起きるまで見張りを続けるのであった。

人が魔力を通そうとした時、魔力伝導率は、

人>>>他生物>魔物>物

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