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11.王都への旅路1

 ショーマは今、王都行きの馬車に乗っている。

 ショーマが乗った馬車は、「1500ルビで行く激安!王都護衛旅」という奴だった。もう名前が全てを物語っているが、王都行きの馬車に格安で相乗りさせてもらう代わりに、魔物や盗賊から馬車を守るというものだ。護衛の代わりに通常の3分の1の金額で王都に行けるという、LCCもビックリの超お得プランだ。


 馬車を運転するのは商人。それからショーマを含めた相乗りが4人。

 相乗り客のラインナップは、強そうな剣士風のダンディな男性と、若くて爽やかな20代くらいのイケメン、それから魔法使い風のハタチ前くらいの可愛らしい少女。馬車を運転する商人はよく肥えた口髭のおっさん。それにショーマを加えた5人旅だ。


 ダンディな男性はバルトルトさん。見た目のまま、剣士をやっているそうだ。王都で騎士をやっているらしく、今回は里帰りから王都に戻る所だそうだ。


「博打で給料を殆ど使ってしまってな。いやはや、何とか王都に戻れそうで助かった」


 ということで今回の格安旅にご参加とのことだった。


 爽やかイケメンはレオナールさん。何と、ショーマと同じ召喚士だった。使役しているのは狼の様な魔物だ。


「こいつはルイードといいます。人懐っこい奴なので仲良くしてやってください」


 レオナールさんは、白い歯を見せながらルイードと呼ばれた魔物を撫でる。深い体毛に手が埋もれて、とても気持ちよさそうだ。ルイードはレオナールさんにじゃれつくように身体をすり寄せる。


 そう、これだよ。これなんだよ!


 ショーマが考えていた理想の召喚士の姿がそこにあった。モフモフのモフモフによるモフモフの為の生活。モフに始まりモフに終わる夢の異世界生活。


 一方ショーマの方はと言えば、ガチガチのサビサビだ。


 神よ!何でですか!!


 ということで、エロ自称女神(仮)さんに対女神精神攻撃(物理)で八つ当たりしておく。


 それから最後の一人、魔法少女のエルヴィさん。ローブに大きな杖、いかにも魔法使いといった風貌だ。


「エルヴィといいます。宜しくお願いします。」


 可愛らしい見た目とは裏腹に表情や話し方から、気の強そうな雰囲気が伝わってくる。

 ショーマが、魔法使いですか?とか、カデリナの出身ですか?とか、エルヴィさんに話しかけてみても、ええ、とか、はい、とか素っ気ない返事だった。あからさまに警戒されている。


 女の子一人で、見ず知らずの男4人に囲まれて1週間旅をしなければならないのだ。まあ、警戒してしかるべき状況だろう。


 なんだか懐いていない猫みたいで、ショーマのモフモフ心が若干刺激される。


「なんであるか、ショーマよ。お主割りと何でもいいのであるな」

「う、いや、そう言うわけでもないんだけど・・・」


 猫に素っ気なくされた時の感覚は説明しにくいのだ。何ともむず痒い、Mっ気ともちょっと違う、切なさ。

 ガルに説明するのは難しいので、ショーマは苦笑いで誤魔化すことにした。


 因みにショーマが召喚士という話をしたら勿論みんなに驚かれた。どう見ても剣士の格好しかしていないし、その反応は正しかろう。


 さて、それぞれの自己紹介もそこそこに、相乗りメンバーは馬車に乗り込んだ。

 そこで直ぐに、馬車の守りについての話になった。話を切り出したのは剣士のバルトルトさんだ。


「いざ魔物に襲われてから戦い方を考えても遅いからな。今のうちに戦いの基本方針を決めておこう」


 現役騎士であるバルトルトさんの言葉に、皆頷く。


 バルトルトさんは各人のレベルを確認し、バルトルトさんとレオナールさん、ルイードを馬車の左側側に配置。ショーマとエルヴィさんを馬車の右側に配置した。


 バルトルトさんのレベルが25、レオナールさんが12、エルヴィさんが17。ショーマのレベルが19なので、まずは左右でレベルのバランスを取ってやって見る。


 出てくる魔物のランクが低いカデリナ周辺にいる内に、色々な組み合わせを試してみて、1番良いやり方を探る事になった。


「よろしくお願いしますね、エルヴィさん」

「はい、宜しくお願いします」


 相変わらず素っ気ないエルヴィさんだが、一週間で仲良くなれると良いなと、ショーマは思う。王都に着けばそれまでの関係だが、せっかくできた縁は大事にしたい。特に、知り合いのいないショーマにとって、人脈づくりは重要な項目だ。1人は寂しいし。


「なんだ、ショーマよ。我がおるではないか!」

「だってガルと一緒にいても、ちょっとひんやりしちゃうんだもん」


 人肌の暖かさって、やっぱり必要だと思う。もちろんガルがいてくれるのは、ありがたいんだけどね。


「仲、良いんですね」

「え?あ、はい!」


 ガルとやんややんやと話しをしていたら、急にエルヴィさんに声を掛けられたので、ちょっと驚いてしまった。


 そこから会話が進むことは無かったが、猫が近づいてきて、鼻先を近づけて来たみたいで、ちょっと嬉しい。


 そんなやり取りがあった直後の事だった。馬車に併走して周囲を警戒していた狼のルイードが、鳴き声をあげる。


「魔物です!」


 主人であるレオナールさんが、その声の意図を読み取る。

 バルトルトさんは、馬車を止めるように商人に指示を出す。


 各人、馬車から飛び出し魔物と対峙する。


 魔物はリトルリザードが7体。ショーマも依頼で倒したことがある低ランクの魔物だ。これなら1番レベルの低いレオナールさんでも問題ないだろう。


 ショーマはガルを構えて、1体のリトルリザードに切り掛る。ガルの補助有りなので、初撃で難なくリトルリザードを切り伏せる。


 ショーマと同じサイドで戦うエルヴィさんは魔法使いだ。恐らくは中・遠距離が得意と思われる。リトルリザードに接近されないように、ショーマが牽制する必要があるだろう。


 ショーマはリトルリザードをエルヴィさんから遠ざけるべく、エルヴィさんの方を確認した。

 そこではショーマが思っていたのとは、およそ違った状況が展開されていた。


 エルヴィさんは、リトルリザードに積極的に近づいていって、思いっきり杖で殴っていた。


 あれ?魔法は?


 ショーマの頭に?マークがいくつも飛ぶ。その間にもエルヴィさんは、自分の杖を何度もリトルリザードに叩きつけ、遂にはそのまま1体倒してしまった。


「え、エルヴィさん、魔法は?」

「⋯?」


 え、何?みたいな顔で返された。あれ?この世界だと魔法使いって前衛職なの?


 エルヴィさんは直ぐに目線を戻して、残りのリトルリザードに向かっていった。


「ショーマよ、我らも行くぞ!」

「あ、ああ!」


 そうだった、余計なことを考えている場合では無かった。ショーマは、ガルを握り直してリトルリザードに向かっていった。




──────




「エルヴィさんは近接魔法を使われるのですね」


 レオナールさんが訊くと、エルヴィさんは頷く。


 何でも、近接魔法という、その名の通り近接戦闘に使用する魔法があるらしい。エルヴィさんは魔法を遠くに飛ばすよりも、自分の身体近くで発動させる方が得意らしい。


 武器としては剣などの方が攻撃力があるが、魔法の威力は杖の方が高くなる。近接魔法で攻撃する場合、トータルで杖の方が威力が出るので、エルヴィさんは杖で近距離戦闘をしているそうだ。


 明らかに後衛装備に見える姿で殴り掛かっていたから、てっきりそういう猟奇的趣味でもあるのかと邪推してしまった。

 そうじゃなくて本当に良かった。

 そんな人と1週間一緒にいるのはちょっとつらい所だった。


 そんなこんなで、何度か魔物と戦い、いろんな組み合わせを試した結果、最初の組み合わせで落ち着く事になった。


 レオナールさんとエルヴィさんの組み合わせだとどうしてもレベル不安がある。

 ショーマとレオナールさんだと、ショーマがレオナールさん羨ましさに泣きそうになる。(他の人たちには内緒だが)


 結局、最初の組み合わせが1番安定して戦えるとの結論に至った。


 それから一行は、暗くなる前に野営の準備をして、1日目の旅を終えることにした。


 食事を終え、見張りの順番を決めた後、それぞれ休みをとる。

 ちなみに最初の見張りは、くじ引きでショーマになった。食事後で眠い時間帯なのでちょっとつらい。


 エルヴィさんは初め見張りから除外しようかという話になったが、本人が大丈夫だということで、くじに参加して2番目の見張りになった。


 ショーマが見張りをしている間は特に何も無かった。暇なので、ガルの昔話を聞いたりしていた。


 しばらくして交代の時間になったので、エルヴィさんを起こしに行く。馬車の中でスヤスヤと眠るエルヴィさんに近づいて声をかける。


 起きない。


 ショーマはもう少し近づいて声をかける。


 するとエルヴィさんの手がショーマに伸びてきて、ショーマの服の裾を掴んだ。そしてそのままスヤスヤと寝ている。

 うむ、警戒心の強い猫でも、寝ている時は無防備なのだな。


 ショーマは、気持ちよさそうに眠るエルヴィさんを、申し訳ないと思いながらもう1度起こす。


「エルヴィさん」

「ん⋯⋯はい⋯⋯」


 エルヴィさんがゆっくりと目を開ける。ショーマの裾は掴まれたままだ。状況に気づいたエルヴィさんは、慌てて手を離して起き上がった。


「ご、ごめんなさい」


 謝るエルヴィさん。あ、いえいえ、とショーマは軽く返す。

 エルヴィさんは少し恥ずかしそうにしていた。


 それからショーマがエルヴィさんに見張りを頼んで、自分も休もうかと思っていた時だった。


「ショーマさん、少しお話しをしませんか?」


 エルヴィさんから呼び止められた。

 おや、もしや奇運招来(神)スキルの出番かな?とショーマは内心思うのであった。

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