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1.プロローグ

 バナナの皮で滑って転ぶ。


 そんな奴現実にいる訳ない。

 まして、その勢いで異世界に飛ばされるなんて有り得ない。


 はずなのに、

何故俺はこんな見たことのない景色の中に倒れているのか、

 普通の会社員である貫地正真(カンジショーマ)は、自分の今置かれている状況を理解出来ずにいた。

 一般的な企業に勤め、一般的な生活をする、ちょっと動物好きな25歳の独身男。

 部屋がペット不可の賃貸マンションのため、たまにふれあい動物園に行くのが楽しみな、極々普通の小市民。


 そんなショーマこの日、会社に行くために、いつもの通勤路をいつもの様に、早足で歩いていただけだった。

 歩道のある片側1車線の、どこにでもある道。


 そんな通勤路にバナナの皮が、ポツリと1つ。


 まるで、赤い帽子のヒゲ親父が、カートから投げ捨てていったかのように落ちていた。

 正真は気にも留めずにその横を通過しようとした。


 その時、自転車が後ろから凄いスピードで通り過ぎていった。自転車に驚いてよろめき、1歩横に踏み出した足の下には…


 HERE WE GO!


 赤い帽子のヒゲ親父がグッと親指を立てる姿が脳裏を過よぎった。


 そして今自分はこの見知らぬ場所に倒れているというわけだ。

 どういうわけだ。


「にいちゃん、大丈夫か?」


 見知らぬおじさんに声をかけられ、反射的に身体を起こした。


「あ、大丈夫です。」


 返事を返すと同時に立ち上がる。


 おじさんは、変なところで寝てると轢かれちまうぞ、とだけ言って雑踏の中に消えていった。


 改めて周りを見渡す。

 倒れていたのはいつもの見知った道ではない。周りを歩く人達にも見覚えは無い。


 それだけなら、自分は何処かのテロリストか軍事国家に拉致でもされたのかとも思えた。


 しかし、その割に自分は拘束も何もされていない。さらに、そうではないと確信させるモノが周囲に多数存在している。


 明らかに地球には現存しないような小型の恐竜の様な生物、いつの時代だよというような甲冑を来た人、なにやら呪文を唱えて水を作り出す人までいる。


『異世界』


 そんなキーワードが、ショーマの頭に浮かんでは「いやいや無いだろ」と打ち消される。


 現状を受け止めきれずにいるショーマが困惑していると、


『あーキミ、ショーマくん?聞こえるかな?』


 どこからとも無くショーマに話しかける声がする。ショーマは周りを見渡して見るが、声はすれども姿は見えず。


『キミに私の姿は見えないよ。ちょっと話したいことがあるんだけど、長くなるからどこかに座ってもらえるかな?』


 ショーマは、言われた通りに近くのベンチに腰をかける。

 何処から聞こえてくるかも分からない声に従う事に抵抗はあったが、今は少しでも情報が欲しい。


『うん、素直で宜しい。因みに私にはキミの心の声が聴こえるから、私に話しかける時は心の中で思うだけでいいからね。』


 そう聞いて、ショーマは便利だと思いつつも、ちょっとまずいかも知れないと思った。

 ちょっとエッチなことを考えたりすれば筒抜けになってしまうということだ。あんなことやこんなことを考えてしまうと全部バレてしまう。


『ちょっと、キミ!なななに変なこと考えて…あっすごっ…ちょっ…あわわわわ。

 私女神なんだからキミ、それはセクハラだって!』


 ショーマは昨日観た大人なビデオのことを思い出してしまっていた。

 いかんいかん、と頭の中から映像を追い出したところで、謎の声の言葉に引っかかる。ん?女神?


『そう、女神。ちょっとだけ偉いんだよ。』


 自分は神だ、そんなことを言う人物は大概変な商売の勧誘か何かだった。正直、ショーマは胡散臭いと思ってしまう。


『まぁ、そりゃいきなり変なところに飛ばされた上に、いきなり女神ですなんて言われても信じられないとは思うけど、ひとまず信じてもらわないと話が進まないんだよね。(仮)でもいいから。』


 確かにそれはそうだ、とショーマは思い直し、女神(仮)様として一旦話を聞いてみることにした。

 とにかく今は何でもいいから情報だ。それがどんなに怪しい人物からの情報でも、何もないよりはマシだ。


 ちょっと引っかかる言い方するよね、キミ。とボヤキながら女神(仮)様は話を始めた。


 ここはショーマが考えたようにショーマがいた世界とは異なる、いわゆる『異世界』であること。

 ショーマが、うっかりバナナを踏んで転んだ拍子に、うっかりその異世界に飛んでしまったこと。

 こんなことはめったになく、よっぽどのことがないと起き得ないレアケースであること。

 そう簡単に異世界に戻る方法はなく、しばらくこの世界で生きていくしかないということ。


 あとは、簡単にこの世界自体について。

 この世界には、ショーマのいた世界には実在しない様々な物が存在する。

 魔法、スキル、職業、レベルというものがある。人々にはそれぞれの職業に伴った能力が与えられ、レベルが上がるごとにその能力も上がっていく。魔物が存在し、人々は魔物と戦うために国を作り、軍を作り、自警ギルドを作り、自分たちの生活を守っている。


 ショーマも何か職業に就いて生活していくことになる。

 職業は役所で選択できるらしく、適正はあるものの、基本何にでもなることができる。

 ちなみに、極まれにレア職業である、勇者や魔王、皇帝といった職業になれる人物もいるという。


 ふと、そこでショーマは閃いた。

 もしや、自分が異世界に飛ばされたのはそういうことではないか?

 自分には勇者や皇帝といった、この世界で重要な職業に就くため、この世界に呼ばれたと。


『ん?あー、いや、そういうことではないよ?』


 ということは、もしや魔王…。人々を恐怖に陥れるためにこの世界に呼ばれているというのか…。

 そんな風にショーマが悶々と妄想を繰り広げているところに、女神(仮)様が水を容赦なく差してくる。


『いや、魔王とかでもなくてね?』


 では一体何のために自分はこの異世界に呼ばれたというのか…。

 ショーマは自らの存在理由について、女神(仮)様に尋ねる。

 それに対して女神(仮)様はあっけらかんと告げる。


『有り体に言うと手違いだね!

 ついうっかり私が食べた転移バナナの皮をキミの世界に落としてしまってね!

 偶々それを君が踏んじゃったもんだから転移が発動しちゃってさ!あははは!

 勇者が呼ばれるべくして呼ばれる者だとすれば、キミは呼ばれるべきじゃないのに呼ばれちゃった者ってことだね!あははは!』


 ショーマの心の中では、女神(仮)様が自称女神(仮)?に格下げされていた。


『わー!ごめんなさいってば!どんどん痛い感じの呼び方にしないでよ!』


 いきなり自分の積み上げてきた人生を全部ひっくり返されて、訳のわからないところに飛ばされて、それが手違いでしたって、もうあんた、机の脚に足の小指ぶつけて爪割れてしまえ。


『あ、ちょっと、足の小指痛いんだけど!ちょっと、爪割れてるんだけど!女神に精神から直接攻撃してくるとかさりげなく凄いことしてこないでよ!なにその超用途限られた超レアスキル!』


"スキル:対女神精神攻撃(物理)を習得"


 ショーマの意識にスキル習得のアナウンスが流れる。

 これがスキルか。なんだかよくわからないけど祝・初スキルゲット。

 試しに、先ほどの大人なビデオの描写を思い浮かべる。


『…えっ!それはダメぇ!!!いやぁぁぁぁぁん!!』


 25年間練り上げた妄想力と何百と観てきた大人ビデオの知識を駆使して自称女神(仮)さんを攻撃してみる。

 こうかは ばつぐんだ!


 しばらくして、急にしおらしくなった自称女神(仮)さんが恥ずかしそうに声をかけてくる。


『…前代未聞だよ。め、女神にあんなことするなんて…。責任取ってください…』


 その前に、俺をこんなところに飛ばした責任を取ってください。どうしてくれるんですか。

 このままだと怒りが収まらなくて、もっとあんなことやこんなことしたくなっちゃいますけど。

 ショーマは何事もなかったかのように返答する。

 自称女神(仮)さんは、まだぎこちなさの残る声で、諦めたように言う。


『…わ、わかったよ。私が悪かったです。特別に女神からの加護をショーマ様に授けます、授けさせていただきます。この世界でショーマ様が少しでも楽に生きていけるよう致します。』


 呼び方が急にショーマ様に格上げされた。

 声もなんだか艶っぽい感じになっているし、少しやりすぎたか、とショーマはちょっと反省する。

 そんな中、ショーマの意識にスキル習得のアナウンスが流れる。


 "スキル:奇運招来(神)を習得"


『奇運招来(神)は神から授けられるレアスキル。普通の人じゃ起こり得ないような素敵でエキサイティングなことが起きるようになります』


 素敵はともかくエキサイティングって…、大丈夫だろうか。

 ショーマはこれから先の異世界生活に一抹の不安を覚えたのであった

 ご閲覧いただきありがとうございます。

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