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八月十五日

 今朝はすっきり目覚めた。夢は見ていた気がするけど、内容は全然覚えていない。ダイバーダウン。夢を見ることが退院の近道ってどういうことなんだ。

 朝食後、あまりにも暇なので昨日先生に借りた本に手を伸ばした。なんとなく『ザ・ワールドライン』を手に取った。

 ふぅん、先生は本も出しているんだ。パラパラめくってみると、三世先生へのインタビュー集のようだ。

 昨日、先生が言っていたことも詳しく書いてある。世界の入り口だとかなんとか。ここだけ読むとあやしい宗教みたいだ。

 ダイバーダウンについても書いてある。


「読んでますね」

 先生がニコニコしながら話しかけてきた。いつも唐突とうとつなんだよね。

「先生が書かれた本なんですね。先生は何の先生なんですか? 心理学?」

「それはまたいずれ。それよりダイバーダウンについて説明しましょう」

 先生は近くにあった丸椅子を引き寄せて腰掛けた。

「ダイバーダウンへの入り方は人それぞれですが、基本はダイバーダウンの世界を意識することです。あとは夢におぼれないための道具をたくさん持って行きましょう」

「ダイバーダウンって何ですか?」

 僕は昨日から気になっていたことを質問してみた。夢の中で目覚めるということが良くわからなかったからだ。

「ダイバーダウン――明晰夢が明確に実証されたのはスティーブン・ラバージという人の研究によってです。本もありますから読んでみると良いでしょう」

 といって、先生はどこからか本を取り出して時計の横に置いた。「夢見の技法」という本だ。

「ほかにはカルロス・カスタネダの著作とか、それ以前の古いものでは、サン・ドニ侯爵の本も参考になりますよ。さらに言うと、ダイバーダウン――明晰夢はチベット密教の秘儀でもあるようです」

「はぁ、今の僕に関係あるのでしょうか?」

 先生はその問いには答えず、

「まずは楽しんでみるのがいいかもしれませんね。ダイバーダウンはどんなエンターテインメントにも負けないすばらしい体験をもたらしてくれるはずです。出来ないことはありません。現実世界で出来ないことも出来てしまうのがダイバーダウンの世界なんです」

 僕は「楽しむ」ということにすごく興味を持った。なぜなら相当暇だから。

「ダイバーダウンとは夢の中で夢と自覚することです。そうすることで自分で夢をコントロールすることができるようになります。そうですね、『マトリックス』や『インセプション』という映画を見たことありますか? それと同じ世界なんです。空を飛んだり、冒険をしたり、アイドルと会ったり、なんでも出来るんです」

 『マトリックス』という映画は見たことがある。確かに頭にプラグを挿して行った先は精神世界、夢の世界だった。『マトリックス』の世界みたいになんでも出来るんだ。すごいな。

「でもそんなにすごいことが本当に出来るんですか? 世間では全然話題になっていないですが」

「退院したらインターネットで検索してごらん。かなりの数の先駆者たちがいますよ。それにダイバーダウン――明晰夢に関する本も最近たくさん出てきています。ただ、みんながみんなダイバーダウンの世界に行くことができないのは、適切な訓練と少しのコツと、強い意思が必要だからです」

「難しそうですけど、楽しそうですね」

「まずはそういう夢の世界が存在することを認識することです。そうすることで夢の中での意識が変わってきます」

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